ライバルという名の厄災。
逃げました。本気で・・・浴衣でなくて本当に良かったと心底思ったのは、自分の部屋に戻ってから。
「どうする・・・・」
自宅へ戻って携帯を見れば、メールボックスには6件という表示。全部あの幼馴染たちからだ。
メールの内容は、大体が同じもの。
返信はまとめて。≪しばらく、保留でよろしく。≫
そうだ、保留で。 いいじゃないか、保留・・・そのまま有耶無耶にしてしまえっ!
そして今日の事は、全てお風呂で流して忘れてしまおう。
そうだ、お風呂に入ろう!(京都でなく・・・)
そして流れなかった。
だってお風呂から上がってみたら携帯に着信とメールが1件ずつ。
誰からって好敵手様からです。
留守電には一言『逃げんなバカ・・・』メールには≪sub:次いつ会える?≫
返信・・・・しましたともっ!もちろん。
≪sub:保留。以上≫
私が悪いんじゃないっ、あいつは、ライバル・・・そうじゃなきゃいけない。
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小学校に通う期間は6年間。
この6年という間に、私が呼び出された回数は、片手の指では足らない。
誤解がないように言っておくと先生に呼び出された事は1度もない。全て女生徒・・・同級生だけでなく上級生の女子にも呼び出された事がある。
そしていつも同じ事を言われた。
『ねぇ、高西くんと付き合ってるの?』『あなたが居るから私たちがしゃべれないのよ』『どっか行ってよ!邪魔なのあなた』
いつも数人の女の子達から呼び出されて、呼び出しに応じなければ持ち物を隠され、捨てられた。
毎回相手にする私がどれだけ面倒だったか、孝之は知らないだろう。
『幼馴染です。』『仲は悪いです。』そう何度も説明して、6年生になって同じクラスになった時、私は意識して孝之を無視した。
そんな努力は、あのバカのたった一言で崩れ去った。
あれは小学校の卒業式だった。
地域によって通う中学が変わる私たちは、別れを惜しんで式が終わっても帰ろうとする人間が少なかった。
いつの間にかいなくなっていた孝之に大体の予想がついた私は、担任と話しがはずんでいる両親を置いて裏門へと向かった。
私の仲のいい友人は、幸いにも皆同じ中学に通う事になっていたから、別に帰っても問題ないと思っていたのだ。
歩き出した私・・・だれもがそれぞれの別れを惜しんで、そして6年の思い出に思いをはせている人々の間を抜けて行く。もう少しで人ごみを抜けれると思ったその時、遠くから声が響いた。
『りーーーおーー、帰るのかーーーー?』
『えっ・・・うん』
突然の事にそう返せば、あいつは、私のところまで走り寄って来た。
『じゃあ、俺も帰る!』
そう言って歩き出してしまった。そう、この行動がいけなかった。孝之の遙か後方には、数人の女の子たちがこちらを伺っていたからだ。
『えっ・・・』
『帰るだろう?』
『うん・・・』
私の中学生活がこの瞬間に波乱に満ちたものに変化した事を私は、まだ知らなかった。




