表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男だけど乙女ゲームの世界に転生した。  作者: 鴉野 兄貴
この世界はクソゲーだ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

逆覇麗武(ギャクはーれむ)乙女狼怒(オトメろーど)

「俺は」


 姉貴。女の子がオレオレ言うのはどうかと思うぞ。色々あってなんとか帰宅した俺たちはまたも朝飯を食っていた。


「オレオレ。今すぐ100万円くれ弟よ」

「ちげ~よッ」


 調子にのっておどける姉の頭をくしゃくしゃ。

「こら、セットが乱れる」

 乱れて困るほど洒落気があるのか。貴様は。

「やめろというに」

「どうせセットやお洒落に気を使う女じゃないだろ。姉は」


「なら。我が本気を見せようではないか。弟よ」

 姉は尊大に胸を張ると、俺の手を引き、某高級デパートへ。

 ちなみに、デートコースでは『高級デパート』となっている。

 正直制作者のセンスを疑う選択肢と言えるのだが。

 長々と買い物に付き合わされ、試着室に入った姉をイライラしながら待つ。男なら一度は経験する。いやしない人もいるかもしれない。ごめんなさい。

 そこから出てきた女に一瞬目を疑った。


「どうだ」

「……」


 姉はおとなしめでありながらはっきりと『美少女』と言える服装に化けていた。


「誰。あんた」

「お前の姉だ」


 胸パットの位置がおかしくなければ姉と解らなかったな。マジで。


「いや、びびった。マジ美人に見える」

「そうか。ふはは。もっと褒めて良いぞ」


 ん?! 支払いはまさか。


「頼んだ。弟よ!」


 俺にしゅたっと人差し指と中指を立ててポーズを決めた姉。

 しかし彼女は初めてはいたパンプスで豪快に滑り、服を一着台無しにしていた。


 姉はやっぱり姉である。



次の日は日曜なので寝る。

「弟。起きろ。起きるのだ」

 寝るんだって。

もう少し寝かせてくれよ。姉ちゃん。

 日曜なんだぜ。

 ゆっさゆっさ。身体を揺らす姉。

 子供じゃないんだからニチアサなんて見ないって。

「今日は○○君が敵の○○にヤラれるらしいぞ」


 おい。まさか特撮のBLとか考えていないだろうな。高度すぎる。アンタは何処の腐女子主婦だ。


「プリキュアの時間になったら起きるがプリキュアは見ない」

「大きくなったらプリキュアになるとか言っていたのに」


 苦笑する彼女は俺の掛布をかけなおそうとする。


「……」

「むにゅ……」


 悲鳴が上がった。


「やばい。やばい。もうムケているとか。しかも剛毛」


 頬を染めて妄言を放つ姉。


 部活帰りでロクに着替えなかった俺はほとんど全裸で寝ていた。

 ちなみに男は寝起きにでかくなる。ナニとか聞くな。

 だからって殴らなくていいだろう。

 俺はちょっと『美人』と言われるようになってきた姉に苦情を放った。


 逆を言えば、『男』を意識しだしたってことなのだろうか。まさかね。



 社会人が布団で暴れる月曜日がやってきた。

 月曜日といえばゴミ出し日。ごみを出した俺と姉貴はノンビリ登校。


 姉貴は珍しく俺より早起きして朝風呂に化粧と洒落混んでいたらしい。

 目が覚めたらメシが出来ていた。コメ炊き忘れたとか味噌汁作ってないとかそういう問題じゃねえ。もっと恐ろしいあり得ないものを見た。……ポルポルさんじゃねぇ。


 遅刻しそうだ。時よ止まれ世界。でもない。

 朝起きたらエプロン着けた女が料理作っていた。

 しかも「おはよう。ねぼすけだな。弟よ」とか言われた。


 これは悪夢だ。姉貴が早起き出来るわけがない。


 そうは思うもの先生方に目をつけられない程度にめかしこんで、年相応の大根足をニーソックスでごまかし、ウエストは学校指定の白いサマーセーター(姉貴は一回も着たことがない)をラフめに着て恐らくパット入りの胸を強調。ウエストへの視線を全力回避し、傍目にはわからん程度に繰り上げたスカートをつけた姿はまさに。


「姉貴がラスボスを()ろうとしている」

「阿呆」


 寝る前ニベア&ベビーパウダーコンボは姉貴の歳では早いし、洗顔と保湿からの丁寧なナチュラルメイクだな。


 つ ま り 厚 化 粧 。


「目が覚めたら厚化粧オバケがいた」

「男子憧れのシュチュエーションを再現してやった親切な姉に感謝の言葉もないのか」


 制服エプロンに萌えるヤツって裸エプロンよりも変態だと思う。だって女子学生に萌えるわけだからロリコン確定だ。


「お前の彼女は小学生だろ」


 がぶっ。


「その年から厚化粧していたら肌老化すっぞ」

「余計なお世話だくそ爺」


 あれ? 姉にあの夢の記憶はないはずだが。


「さっさと起きろ。味噌汁が不味くなる」


 へいへい。



 そしていつもと違い、ノンビリ歩きながら登校することとなったのだが。


 チリンチリン。


 イケメンの花の香り。

 このゲーム。攻略対象は花で覆われる嫌な演出がある。


「一ノ宮先輩チーッス」


 おれは彼に挨拶する。


「ふッ」


 きらきらきら。効果音と花が画面全開演出。

 唇にそっと人差し指と中指を添えて投げキス気味に挨拶する花を背負ったイケメンがチャリにのって輝く姿はゲーム内ならかっこいいのだろうが、恐ろしくシュールな光景だ。


 しかし。


 テーマソング『初恋』が急に流れ出す。


 姉貴の両手両脚がすらりと伸び、胴が極端に短くなり、ウエストが極細の少女漫画体型に。

 キラキラキラキラと輝きだす姉貴。

 白いユリを大量に背中に搭載し、楽器を鳴らす天使軍団に囲まれ、瞳にも星をキラキラキラキラ。


「おはよう。一之宮くん」


「がぶっ!」


 俺は唾を吐きだした。

 一之宮先輩はバナナを踏んでいないのに転んだ。



「一之宮くんっ?!」


 盛大に転んだ一之宮先輩を助けるために駆け寄る姉貴。

 その周囲では星が煌めく、効果音がなる。おそらく姉貴と一之宮先輩の目にはキラキラの星がって。


「まてぇ! 姉貴!」

「む?」


 俺は全力で突っ込んだ。今の怪奇現象ナニ?

 いや、よくよく考えたらゲーム開始時期になったらそうなるのは知っているが。現在はゲーム開始時期じゃないし、姉は姉で残念なままだ。


「今、姉貴が縮んで伸びたぞ」

「ワケが解らん」


「今、一瞬天使が現れてテーマソング流して、姉貴の周りに花が咲いたぞ」

「阿呆」


 うむ。やはり話が通じない。それより一之宮先輩だ。


「先輩。しっかりしてください」

「うむ。『弟』か」


 って。俺がフラグ立ててどうする。


「姉貴。任せた」


 ぽいと抱き起すのを放棄したので一之宮先輩の後頭部は激しくアスファルトとキスすることになった。すいません。


「一之宮くん。しっかりして!」


 いあ……その。なんというか。すいません先輩。俺この空気耐えられないかも。

 姉貴が清純な正当派美少女に変身しているのですが気のせいでしょうか。

 少女漫画言うところの『平凡でなんの特徴もない女の子』ってお前スゲー美人やん! な世界の人になっているのですが。


 とりあえず一之宮先輩を救急車に乗せた俺たちはそのまま病院に向かうことと相成った。先輩の怪我も大したことなくて一安心。



「結婚してください」


 姉はいい年のおじさんにプロポーズされた。

 デブでハゲ、歳は四〇前か。悪臭を放つTシャツにジーンズ姿のおっさんである。

 オッサンには罪はない。罪はないが普通に通報しておいた。


 こうして。

 姉の逆ハーレム乙女ロードが始まったのである。


 なんか俺。精神的に耐えられんわ。

 ダメな姉から変態な姉にジョブチェンジとか。



 ぴーぽーぴーぽー。


 残念な姉は警察に事情聴取されるオッサンを尻目につぶやいた。


「ちょっとかわいそうだったね」


 そうは言うものの普通にアレだしなぁ。と言うか姉貴と俺が通ると視線を受けまくる。どうなっている。ゲームスタート時期ではない筈なのだが。


 姉貴を見て「あの子、ちょっとかわいくない」とか、俺に「もげろ! 糞がッ」とか。姉弟である。間違ってもカレカノではない。


 電車に乗って学校を目指す俺たち。


 そういえば痴漢イベントとかランダムイベントにあったなぁ。

 確か痴漢されて恐怖に震えているところを新伍先輩が乱入してフラグが立つ話が……。


 なんか、姉の表情がオカシイ。怖がっているような戸惑っているような。

 俺のほうに助けを求めているような。……って?!


 カッと俺の頭に血が上り、震える手を振り上げる。


「何してるんじゃオッサンッ 表に出やがれッ」


 『五葉流五車星』のパンチを受けたおっさんは走行中の車両から吹っ飛んでいった。死んではいないはずだ。


 不幸なのはオッサンの手を取って姉貴救出イベント中だった新伍先輩である。


 彼はおっさんと一緒に夜空の星(※ まだ朝です)になった。

 申し訳ない。先輩。今度お墓参りに向かいます。



 新伍先輩の生死はさておき、学校の校門が見えてきた。


イズルウゥっ!!」


 三笠先生の声がする。おかしい。

 そう思いながら俺と姉貴が歩を進めていると、校門の前で先生と四谷君が揉めていた。


「お前、そんな服装が許されると思うのかっ」

「兄さんはウチの中学校と関係ないだろっ?!」


「やかましい外では兄と言うなっ」

「兄でもなんでもないなら俺の服装にケチつけるなっ?!」


 どうも抜き打ちの持ち物検査中に弟の改造制服を見かけてこーなったらしいのだが。


「三笠先生って弟さんいらしたのね」

「うわ。三笠が男の娘襲っているぞ」

「(*´Д`)」

「三笠先生! 弟さん紹介してっ?!」

「先生、そこです。もっと引っ張って!」

 いいのか。この学校。この生徒ども。


 確か、コレも本来姉貴が遭遇するイベントだよな。

 三笠先生が姉貴もしくは五葉先輩にからんで、お互いかばい合うことで生意気な生徒たちだと印象付けるイベントだったような。でも、三笠先生。俺らと知り合いだしなぁ。

 取り敢えず、無視して通ろう。

 そうおもっていたことがありました。ええ。


「ばこっ」


 ……ん?


「つぅ……」


 うずくまる三笠先生。


 はだけた胸元を押さえる四谷君。

 状況だけ見ると別のシーンだが場所は校門前である。

 当然、目撃者多数である。


「先生! 中学生を襲うとは何事ですかっ!?」


 姉貴が抗議する。


「誰が襲うかっ?! ……な?!」


 キラキラキラ。


 またもや姉貴の手足がすらりと伸び、胴が短くなってウエストがくびれる。瞳が怒りと共に潤んでキラキラキラキラ。


「ふっ。今日の処は許してやろう。弟よ」

「兄貴。洒落なって無い。人の胸のボタン飛ばすな」


 さらりと髪をかき上げて誤魔化す先生は姉貴に軽く手をかける。


「鞄でヒトを殴ってはいけない」


 そして姉貴の顎をかるく指でつまむ。黄色い声が上がる中。


「てぇい」


 姉貴はジャンピング頭突きを先生にかました。


 停学は免れたが、姉貴はやっぱり残念な子のままである。



 校内では傲慢な態度をあえて取っているが逆に生徒受けの良い三笠先生。

 学校の外では愛想のいい教師である。

 そんな三笠先生に「調子のんな」と頭突きパッチギかました娘は。


「三笠先生、ちょっとモテるからって調子に乗りやがって。イデデデ」

 どうも頭突きをかました時に当て処を間違えたらしい。頭をさすっている。

「姉貴ィ。三笠先生だから停学はないだろうけど、他の生徒みんなが見ている前でアレはないぜ」


「だからって中学生を襲う成人男子はマズイ。児童ポルノに引っかかる」

「男同士だから大丈夫じゃね?」


 ぴたっ。姉貴が立ち止まる。

「そう。だな。確かにそうだ。まさに正義。そう。BLは合法」

「待て」


「三笠の意外と細く繊細な指が伸び、腹違いの弟の身を纏う布地を強引に引きはがす。三笠の指先が四谷の肌を弾き赤い蚯蚓腫れが」

「やめんかッ?!」


 顔赤らめるな。というか、ちょっと興奮しているだろ。姉貴よ。


「トイレ行って来い」

「私は男かっ」


 どうでもいいじゃん。


「というか、お前がトイレットペーパー消費する時なんて仕損じているかアレの時くらいだろう」

「お前、本当に乙女ゲーのヒロインか。姉貴よ。下品すぎるぞ」


 仲良くバカを言い合う俺たちに手を振りながら近づく影。


「おーい! おーい! 聞いたぞ。校門前の立ち回り」


 五葉先輩である。と言っても伊丹さんじゃないほうの五葉先輩だ。ややこしい。


「なんか三笠先生にミサイルヘッドをかまして、湖面で絡み合う三笠とその弟にムラムラした挙句、ついついマッスルスパークを決めてベッドに持ち込んでカウントスリー。既成事実で来年結婚とかって本当か」


「しない」

「するわけない」

 というか、今その話作って広めるつもりでしょう。五葉先輩。


「うんっ」


 楽しそうに首を縦に振る五葉先輩。胸も少し動く。

 ちなみに、乙女ゲーなので本来彼女の胸は動かない筈なのだが何故か動く。


「死ね。親友」

「先輩。さすがにそんなマニアックな噂は広がりませんよ。俺たち高校生なのですから漫画喫茶いかないと解らないネタは辞めてください」


「俺とマッスルドッキングをしないか。とか言わないのか」


「いうか」

「言われていません」


 マニアックすぎて普通に姉には通じていない。


「というかマッスルとかホモネタなの?」


 わかるとしたら爺確定だ。俺はループ繰り返しているから当然理解できるが。


「うむ。今年はコレで行こうと思う」


 先輩。頼むから姉をもじょの道に引きずり込まないで。


「まるで私が結婚できないかのような言い草だな」


「うん」

「さすがにBL大好きはヤバいっす」


 そう続けると彼女はガックリ肩を落とした。


「そりゃ私だって可愛い彼氏とか欲しいさ」

「なんか二咲君に告白されていなかったか」


 そういえば。色々遭って忘れかけていたがそうだった。


「ああ。あれか」


 憂鬱そうな表情で五葉先輩はつぶやく。


「パンツ」


 俺たちは解り合った。


「ですよね」

「だねぇ」

「うん」


 二咲先輩は泣いていい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ