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2章-21話 最強対天使

 シンヤの戦闘技術は素人に毛が生えたレベル。


 達人同士の戦いにおける隙など見抜くことは難しいのだが、セラが飛び出すタイミング、それを見て遅れずに飛び出すことが出来た。


 強化した身体は、ほんの数メートルの距離など一瞬で詰めることが出来る。


 目の前のセラはシンヤのよりもさらに速く、グライストの元へとたどり着き拳を振るう。


 一秒にも満たない刹那の間に、セラは何発もの打撃を打ち込む。しかし、その拳は鎧に阻まれ、唯一防護されていない顔への攻撃も躱されてしまった。


 それでも衝撃はグライストの身体に伝わり、態勢をさらに崩すことが出来た。


 シンヤが狙うべきは顔、強化された拳は岩を砕く。


 いかな強者であろうと人間なのだから、守りの無い箇所に当てる事さえできれば、倒す事は可能なはずなのだ。


「だぁぁぁぁぁっ!」


 セラが離脱した隙間に身体を滑り込ませ、全力を籠めた拳をグライストの顔面に向け振るう。


 人を殴る手ごたえを感じると同時に、その身体を床へと叩きつけた。 


「はぁ、はぁ。やったか?」


 強化時間は二秒程度、身体にかかる負担は立っていられない程では無い。床は抉れ、巻き上げた土煙で視界が見えない中、シンヤはその場で自身の拳を見つめる。

 

 手ごたえはあった。


 普通の人間であれば殺してしまうほどの威力で殴りつけたが、相手は最強と言われた異世界の人間、そう上手くいくものではないと、シンヤは距離を取るために足を動かそうとする。


「たしか、セラだったかな? アリオンの娘だったね。素晴らしい攻撃だったよ。正直油断していた……」


「なっ……!?」


 不意に土煙の中から声が聞こえた。人影が身体を起こし、剣を握る右手を一振りすると、周囲を覆っていた煙が一瞬で晴れる。


 そこには傷一つ無いグライストが、何事も無かったように立っていた。


「それに、シンヤ君も戦えたのだね……戦士ではないと思っていたのだが……。まだまだ見抜く力が足りないようだ……」


「シンヤっ。離れてっ!」


「……っつ!?」


「『ライオス=ダ=ノイテ』」


 クロエの声で後方へと飛ぶ。


 シンヤ達の攻撃の後も、詠唱を続けていたクロエの口から呪文が発せられ、両手から放たれた眩いばかりの光は帯となってグライストへと迸る。


 稲妻がシンヤの真横を通り過ぎ、放電音を残してグライストへと襲い掛かり、彼の周囲の床を焦がす。


「ぐっ……」


 直撃した雷の魔法は、グライストの身体で放電し続ける。


 ダメージが通ったのか、彼の口から初めて苦悶の声が漏れるが、あまりの光にシンヤは眼を空けていることが出来ずにいた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 魔力を絞り出したクロエは、その場で息を荒くして膝を着く。


 放電が収まると、広間を覆っていた光も収まり、シンヤはようやく目を開くことが出来た。


「……さすがに、クロエ様の魔力は膨大ですね。この鎧の障壁を越えてくるとは……ですが、それでも足りない」


 そこには、先ほどと同じように立つ白い鎧の男。


 クロエの大魔法でさえも威力が足りない。


 猛烈な稲妻、巨大な魔物でさえも屠ることが出来る一撃は、その顔に火傷を負わせた程度にしかならなかったのだ。


「そんな……」


「良い連携でした。……私とてこの鎧が無ければ無事ではすまなかったでしょう」

 

「まだだっ!」


 最後に飛び出したのはノエルだ。


 状況を見て動く隙を伺っていた彼は、走り出し自身の胸に手をあてる。そこに光が集まり、その胸から光輝く物を抜き出す。


 光が徐々に形をなし、白い槍へと姿を変える。


 白く光続ける棒状の柄を両手で握り、グライストに向ける刃先はまるで十字架のように中程で左右にも刃が伸びていた。


 ノエルは輝く槍を構え、グライストへと肉薄する。


 下段から振り上げた槍は鎧を掠めるとそこに深い傷を刻む。


「なっ……?!」


「不思議そうだな。……その鎧は神聖な気を纏っている。おそらく、神具の一種なのだろう?」


 リュートの剣戟、セラとシンヤの打撃、そしてクロエの大魔法。その攻撃のどれもがグライストの実力と鎧に阻まれていたのだが、ノエルの光の槍はその鎧に初めて通じる一撃となったのだ。

 

「何者だ? この鎧に傷を付けるとは……。簡単に傷を付けれる代物ではないはずだが……」


「……私は天使ノエル、同じ神気を纏った武器であれば神具を切り裂けるのも道理だろう?」


「……天使? ……天使だとっ? 今更っ! 今更、神の使いがっ、この聖都に何をしに来たっ!」


 ノエルの正体を聞いたグライストは激昂し声を荒げる。先程迄の冷静さを無くした彼は憎しみに満ちた目でノエルを睨みつけた。


「貴様等神の使いが、肝心な時に何の役にも立たなかったからこそ、世界は崩壊したっ! 私が、どれほど祈ろうが貴様等は何もしてはくれなかったっ」


 その眼に映るのは怒りだ。


 グライストが経験したこの五年間は、想像する事の出来ない程に絶望に満ちていたのだろう。自身に向けられたわけでは無い怒気が身をすくませ、シンヤの背筋に冷や汗が伝った。


「……私はこことは違う世界の神に仕える者。一月ほど前にここに迷い込んだのだ」


「……っ!? 違う世界?! いや……そうか、そうだった。五年もたっているんだ。封じられていない天使がいるのであれば、とっくに出てきている……。この世界に神はもういない。その使いである天使も……」


 ノエルの言葉で我に返るグライストは、両手で顔を覆うと自分に言い聞かせるように言葉を出し落ち着かせる。痺れるような場の空気も幾分収まり、シンヤは深呼吸をして向かい合う二人を見つめた。


「……もう遊びはここまでだ。全員捉えさせてもらう」


 今まで攻勢に出なかったグライストは半身に構え、剣を一直線に突き出す。その動きに合わせるかのようにノエルも、槍を突き出した。


 刃の先端は寸分の狂いも無くお互いの切っ先に合わさり弾かれる。


「おおおおおおっ!」


「……っ!」


 気合の声を上げるグライストは幾重もの刺突を放つが、その全てをノエルの槍が弾き返す。


 見ているだけのシンヤにもその技の凄まじさが伝わってくる。


 天使のノエルが武器の扱いにここまで精通していたのかとシンヤは驚くが、先ほどよりも激しい攻防に目が追い付いて行かず、見守ることしか出来ない。


 それはリュートでさえも同じことのようで、ぶつかり合う刃の衝撃に目を細めながら、彼も手を出す事すら忘れ、見守っていることしか出来ないようだった。。


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