どうしてこうなった
私たち、ギルド【敵の箱舟】は今日ダームスタチスが掲げる初心者狩り撲滅運動の第一歩目として魔族のホームタウンであるケイオールの周りに出没するPK狩りに来ていたはずだった………のだが、どうしてこうなった。
私は幾重にも降り注ぐ魔法の雨を回避しながら、切り落としながら何が悪かったのかと考える。
えっと確か――――――――私はちらりと後ろを見る。
そこには身を縮こまらせて魔法が当たらないようにと祈りながらも私を見ているひとりの女性。霊体で半透明だから魔族のプレイヤーなのだろう。
そして私たちの前に立ちはだかり魔法の雨を降らせているのもまた魔族のプレイヤー。
そのラインナップは様々で、悪魔や吸血鬼、竜人に黒鬼、人狼に不死者など様々で、それらは私の記憶にある限りゲーム開始時に選択できなかった種族であるため何らかの種族が進化をして出来上がった存在、つまりはそれなりにこのゲームをやっているプレイヤーのアバターというのは見て取れた。
そんな推定上級者のプレイヤーが今、私の前に次々と現れて攻撃してくる。
もう一度言おう。
「どうしてこうなったのでしょう?」
「あ、あの。私なら大丈夫ですので、あの、逃げてもらっても………」
ため息をつきながら後ろに流れる魔法を切り払いそうこぼすと、結果的に私に守られる位置にいる幽霊少女が私のことを慮ってそんなことを言ってくれる。
でもね、勘違いしないでほしいんだけど、この人たち、みんなあなたじゃなくて私を狙っているの。
確かに初めはこの私の後ろに控える幽霊少女という名の初心者を狙ったPKを相手にしていた。私はピンチになっているこの子のもとに颯爽と駆けつけてPKKをしたわけなのだが―――――――――――なぜかその後わらわらとほかのプレイヤーが湧いてきて私に攻撃を仕掛けてきたのだ。
そしてそのプレイヤーたちは倒してもすぐそこの街からリスポーンするから供給が絶えない状態。
途中から下手に接近すると斬られるだけと悟ったのか不用意に近づくプレイヤーは少数派になっていた。
「ごめんなさいね。私のせいでこんなことになってしまって」
「そんなことないです!! わ、私が弱いのが悪いんですから!」
………ごめんなさい、多分私が強いのがこの状況を生み出してしまっているのです。
この人たちはあなたを襲っていたPKとはおそらく無関係です。
PKを倒した後、帰り道でまた襲われてはいけないと思い少しおせっかいを焼く気持ちでこの幽霊さんを街まで送り届けてあげようとしたのだが、その帰り道に街の方から大量のプレイヤーが出てきて攻撃してきたのだ。
彼らの狙いはあくまで私なのだろう。
後ろで座り込んで動けないでいる幽霊さんは一切狙われていない。私を狙った魔法の流れ弾が向かいそうになる時はあるが、それはきっちり私がカットしているので彼女は未だ無事だ。
だが、このままではゾンビアタックによる終わりのない戦いを強いられる可能性がある。それは避けたいと思った。
私は次々と魔法を放ってくる敵たちに声をかける。
だから私はこの戦いが起こった原因の一つ、自身のレイドボス化によって手に入った新たな力を一つ使うことにした。
「今からあなたたちを殲滅しますが、デスペナルティを受けても恨まないでくださいね!!」
そう言って私はとあるスキルを発動させた。
それと同時に私の頭上に巨大な鐘が出現する。その鐘は私の上空20mくらいのところに出現したかと思うと独りでに動き出してその音を奏で始める。
ゴォン、シャラン、ギギギ、ギシギシ、カラン……
凡そ、同じ物体から出ているとは思えないほどの種類の音が私の頭上の鐘から発せられた。
『キャハ、アハハ………キャハハ、アハハ………』
それと同時にどこからともなく子供の笑い声のようなものがかすかにだが聞こえてくる。こちらは鐘の音によってほとんど聞こえないのだが、意識すると聞こえてくるその声はどこか狂気を孕んでおり聞くものの心を不安にさせる。
「こ、これはいったい………?」
それを発動させたとき、一番近くにいた観客がおびえたような声でそう呟いた。それが理解できないから、どこかに答えを求めたのだろう。
発動者である私は当然、何が起こっているのかを理解できる。
だが、残念ながら懇切丁寧にそれを解説してあげるつもりはない。知りたかったら、自分の体で検証するといいよ。
心の中だけで後ろに座る幽霊にそう告げると、私はスカートの中からヒメカを取り出して後ろにおろした。
「ヒメカ、流れ弾から彼女を守ってくださいますか?」
私がそう頼むとヒメカは「任せろ!」という風に「くぅ!!」と鳴き、幽霊の前に立ちふさがった。
ヒメカは攻撃は苦手だが、防御ならほかのだれよりも優れている。以前、初めてこの子を堅護に見せたときに彼はヒメカのことを最強の盾という風に言っていたが、まさにその通りなのだ。
どんな攻撃もあの子には届かない。例外はあるのだろうけど、今のところは見たことはない。
だから私は安心して目の前の敵に集中することができる。
私が攻勢に出ることを察知したのか、向こうもこちらの動きに対応できるように身構えている。
現在、私たちの位置関係は私の目の前に扇状に展開した遠距離攻撃部隊を肉体派が守っている感じだ。
正面から突破しようとするならば私に降り注ぐ魔法を捌きながら前衛を相手にしないといけなくなってしまうだろう。
それでもいいのだが、今回はもっとスマートな解決方法がある。
私はストレージから『捕食の牙』を取りだして左手に逆手で持った。ちなみに右手には『女王の権威』を握っている。
つまりは二刀流スタイル。これから先、私は攻撃重視の戦闘スタイルになりますよというお知らせでもあるのだが、相手方はそれを知らないかと思われる。
新たな武器を握りしめた私は自分だけに聞こえる声で宣言する。
「【神出鬼没の殺戮者】、発動します」
スキル【神出鬼没の殺戮者】は【慈悲なき宣告】によって付与された【慈悲なき紋章】ありきのスキルだ。
本来ならば前提となる【慈悲なき宣告】を使用していないのでこのスキルは発動できないはずなのだが――――――――
私がスキルを発動すると私から一番離れた場所にいた骨の魔法使いの後ろに転移する。
急に視界が切り替わるこの感覚は少しだけ慣れないものだが、こういうことが起こるのはわかり切っていたので私に驚きはない。
だが、それをされた魔法使いはそうとはいかない。
「うわぁっ! みんな、ここn————————」
骨系の魔族には斬撃耐性があるらしい。だからこそ、そこまで言葉を紡ぐことができた。
骨の魔法使いは私の所在を伝えると同時にHPがゼロになって倒れる。
「いつの間に!!?」
「うろたえるな! 夏祭りの時の映像で分かっていたことだ! 対応早くしろ!!」
「とりあえず俺が当たるから援護を頼む!」
おや? もう少し混乱すると思っていたのだけど、思っていたより立て直しが早い。
映像がどうのこうのと言っていたから、私がこういうことをするのは一応用心してたのかもしれない。
見てみると後衛2人にたいして最低でもひとりは前衛がくっついている。
私の前に立ちふさがったのは槍を持った二足歩行のトカゲ。リザードマンというやつだった。
リザードマンの彼は牽制のつもりで槍を繰り出してきたのだが、私からしたらぬる過ぎる突きだ。対槍がさほど得意というわけではないが、このくらいなら体をそらすだけでよけられる。
私はその攻撃を避けながら反撃として右の剣をその頭部に突き立てた。このゲームのシステム上、人体の弱点は確定でCRI判定だ。
そして私にはスキル【明鏡止水】がある。
レイドボス化してステータスが上がった状態での私からのCRI攻撃はそれなりにレベルの高いプレイヤーでも即死するレベルの威力があるみたいだった。
もしかして二回くらい斬らないといけないかもしれないと思っていたのだが、これは僥倖。
もっと攻められる。
「一人で当たるな! 固まって当たらないとごみ同然に殺されるだけだぞ!!」
「おい、リビングの奴、お前前に行け!!」
「わかってらぁ! 夢魔、防御バフ頼む!」
「もう終わってるわよ! 回復も構えているから遠慮なく前に出て!!」
やっぱり、想像以上に連携がしっかりしている。防御力の高いやつを前に出してそこに防御力アップを加えて回復を構えることで前線を維持しようしてくる。
私と近接戦闘をやっても勝てないと踏んでいるのか近接タイプは場を整える仕事以外しようとしなかった。
その判断は正しいのだろうと私は戦いながら分析をする。
【神出鬼没の殺戮者】を発動する前、立ち振る舞いやそれまでの行動から相手がどれだけの技量を持っているか大まかに予想を立ててみたが、私の尺度で測った場合どれも騎士級程度の技量しか持たないだろうと感じた。
一部騎士団長級、聖級以上は見られない。
そして残念だがその程度の戦力ならいくら集めても私には届かないだろう。
私は両腕を振りあげながら襲い掛かってくるリビング(ゾンビの進化系)のプレイヤーに向けて吹き飛ばし重視の前蹴りをしながら右からの竜人の剣を切り払う。
そしてすぐさま左足を軸に反転しながら体を沈めて超低空の蹴りを放つ。
すると後ろから忍び寄っていた人狼がバランスを崩して後ろ向きに倒れる。とどめを刺しに行きたかったのだが、吸血鬼が上から降ってきたのでやむなく前に飛んで人狼を踏み台にして一度その場を離脱する。
その後改めて足元に転がって今起き上がりかけているところに踏まれて混乱している人狼の首元に右の剣を突き立てた。
即座に吸血鬼のほうを向き前進、左の剣を殴るように振る。
吸血鬼は伸びた爪で何とか防御を試みるが、私の攻撃のほうが速かった。一瞬防御が間に合わずにその胸元を大きく切り裂かれる結果になる。しかし彼は絶命までには至らなかった。
即座に後衛から回復魔法を唱えられる。
だが、立て続けに人狼の介錯から解放された右の剣が吸血鬼を襲う。その結果を確認するより早く私は身をひるがえしながら左の剣を再び切りかかってくる竜人のほうへ。
竜人は私の気が吸血鬼に向かっていると思っていたのか油断していたらしい、防御を考えていない大ぶりな攻撃をしていたため私の剣が簡単にその身に突き立った。
しかし左の剣である『捕食の牙』はドレイン効果の代償として大した攻撃力を持っていない。
スキルの効果込みでも削り切れなかったらしい。
すぐに回復がなされる。ちっ、想像以上にやりにくいわね。
「おっと」
危険をあらかじめ察知していた私は竜人を深追いせずに一歩下がり先ほどまで自分がいた場所に向けて右の剣を振りぬいた―――――と、同時に吸い込まれるようにハーピィがそこに現れて私の剣に首を切り裂かれる。
ハーピィは地面に落ちて動かなくなった。
さすがにこれには相手方にも動揺が走る。
「何っ!? アイシャの【神速】が初見で破られただと!!?」
「馬鹿な、ありえん!!」
「神速……ですか……」
確かに今私に襲い掛かってきた先ほどのアイシャというハーピィは視認すら困難な速度で私に突っ込んできた。
それは何らかのスキルの効果を得た動きだったのだろう。おおよそ人に制御ができる速さではなかった。
だが、しかし、
「たとえ神速でも私のほうが絶対に速いですよ。なぜなら私は、『最速』、最も速いと呼ばれていますからね」
私が尊敬する一人の剣士からつけられた『最速』の名前を有する私がそれに負けるわけにはいかない。
例えどれだけ速い相手でも、間合いに入ったら切り伏せるだけだ。
驚きもそこそこに、私に寄って来る前衛ども。そこに加えて魔法の攻撃もどんどん飛んでくるので相手しにくいことこの上ない。
まあ、魔法のほうは敵の前衛を盾にすればある程度無視できるから割と余裕はあるんだけどね。
「それにしても、はぁ……一人に対して寄ってたかって、私は魔王か何かと間違われているんじゃないでしょうか?」
小さく愚痴をこぼしながら私は見もせずに後ろに左の剣を振りぬいた。
直後、私の頭の横を槍が通り抜ける。
「やっぱ否定されてたけどあいつ後ろ見えてるんじゃねえのか!!?」
「いや、【神速】による上空からの奇襲も通用しなかったところを見ると全方向見えている可能性があるぞあれ!」
「間違いでもなんでもなくあいつが魔王じゃねえか!」
魔王と揶揄されるほど派手な技は使えないけどね、と心の中で返しつつ私は敵の処理を続ける。
しかしそうだね。ここは相手さんの期待に応えて少しだけ派手な技でも見せてあげちゃおうかな?
創華流剣技【百華】
そう呼ばれる(私にだけ)技は私の持っている技の中である意味一番雑に作られた技で、ある意味一番練られた技だ。
「【百華】、行きます」
私はいつの間にか戻ってきたリビングに切りかかる――――――と、認識した瞬間には隣の吸血鬼を切っており、それに気づいたときには竜人は斬られた後だった。
私ですらもその過程は追いきれないだろう。なぜならこの技は技を放つ前にあらかじめ決めておいた動きをするだけの技なのだから。
文字にしてしまえばなんて事のない技だが、この技は技の使用中の思考の一切を排することで自分の体にできる最速の動きで動くことができるのだ。
この技も例にもれずに中学生時代に思いついて形にしたものなのだが、研究の結果人間の体を最速で動かすときにできる動きとできない動きがあることが分かった。
それを超えて動きを予約してしまうと技の発動中に動きが乱れて技が止まるということがある。
また、技が始まってしまえば終わるまで決まった動きになるという点からこの技は技術というよりかはこの世界にあるスキルに似たようなものだと考えている。
「なんだ!? あいつ急に動きが速く!」
「守りを固めろぉ!!」
驚愕の声は、私には届かない。たてられた予想に基づいて決められた動きを完遂するまで、私は自分の意思で動くことはない。
先ほどの動きに慣れていた前衛陣は度肝を抜かれたみたいだ。
私の【百華】という名の予約行動が一通り終わった時、前衛陣の最前列の顔ぶれは総入れ替えになっていた。
それに加えてもうすでに数がそれなりに少なく、両手の指で数えられるほどになっていた。
「しかしまぁ、やっぱり【百華】は欠陥技でしたね。派手なのと速いだけが取り柄なので仕方ありませんが」
私の予想では敵前衛を全滅させるつもりで放ったのだが、相手の動きすら予測して動きを予約しないといけないこの技は相手をしとめきれないことなんてざらだ。
しかし行動と行動の間に隙間がなくなり動きが速くなることは事実なのでそれなりの成果は得られたし良しとしよう。
「くっ、魔法使いたち! 何とかならないのか!? もう俺たち持たねえぞ!!」
「当たるとは思えないけど、これでもくらえ! 【雷神豪雨】!!」
ふわふわ浮かんでいるローブの魔物が天に手をかざすと暗雲が空に出現して雷が私たちがいる場所めがけて降ってくる。
フレンドリーファイア覚悟の範囲攻撃だろう。
雷を捌けないことはないとは思うが、確実ではないので私は落雷地帯となったその場所を離脱することにする。
「【神出鬼没の殺戮者】、発動してください」
私の体はヒメカが守る幽霊少女の後ろに転移する。
結果、私を抑えていた前衛陣だけが落雷の餌食になる。範囲攻撃だったので見た目ほどダメージは入っていないかもしれないが、それでも先ほどの【雷神豪雨】はかなり強い魔法だったのだろう。
素早く回復魔法が飛ぶ。
それを確認するより早く私は再突撃していた。
あの場所にいては幽霊少女を巻き込む羽目になると思ったからだ。ヒメカが守ってくれるだろうけど、できることなら攻撃が来ないのが一番いいのだ。
【神出鬼没の殺戮者】は使用後3秒以内にキルをとれない場合は10分以上のリキャストタイムを要求される。
もう3秒経ってしまった。だから次は同じような緊急回避は使えない。つまり次の範囲攻撃は避けにくい。
「スライムぅ、普通に前からくるからぁ、守ってぇ」
「多分30秒持たねえぞ、それまでに決めろよ」
スライム系は物理攻撃全般に高い耐性を持っているため非常に厄介だ。スライムの物理軽減率は80%だ。
これは言い方を変えたら物理攻撃しか攻撃手段を持たない相手に対してHPが5倍になっているといってもいい。
加えて、スライムの弱点部位は体内にある核らしいのだがそれが何なのか私にはいまいちわからないため狙いが付けられない。【明鏡止水】はCRI時のダメージは増加してくれるが逆に非CRI時の威力は半減させてしまう。
私にとってスライムは非常に面倒な相手に違いない。
「なるべく無視して他を叩きたいのですが………」
「さすがにそれは許さねえよ?」
「おしっ、ここが見せ場だ。俺たちも頑張るぜ」
動く鎧と霊体がスライムとともに私の前に立ちはだかる。
霊体は当然のごとく物理無効を備えているだろう。そんな奴をタンク役に使うのは卑怯だと思いながら私は左の剣を真上に向けて放り投げた。
そしてストレージから素早く新たな武器『星剣アルシャイン』を取り出して左手に持った。
「おう、そっちの幽霊、お前はメーフラから見て右側に回れ! 多分左の攻撃を受けると即死するぞ!」
「わかってる」
状況からアルシャインが強力な光属性を持った武器だということはバレていた。だが、そんなことは問題ない。
いくら左からの攻撃を警戒して私の右手側に回ってこようとも捕まえればいいだけだ。
それに、最後に切れていればいい。初めは一番与しやすい動く鎧からだ。動く鎧はステータスによって鎧の強度が変わるみたいで、そこら辺の地下墓地なんかにいる奴よりは堅かった。
だが、あいにく私は攻撃特化型のレイドボスなんでね。
完璧なあたりをさせればそれだけで鎧を崩すことはできた。
鎧は数値的な防御力は高いのだが、その反面軽減効果はついていないみたいで思ったよりダメージが入った。
動く鎧からは反撃の斧が繰り出されるが遅い。潜るように回避してとどめの一撃を放つ。
これで鎧の処理は終わった。次はスライムだ。
私と鎧が戦っている間にもスライムはそのぶよぶよの体を伸ばして攻撃してきていたが、まっすぐ伸ばしてくるだけなので回避は簡単だ。
だが、やっぱりこいつは時間がかかる。ちょいちょい後ろから幽霊が攻撃してくるのも煩わしい。
問題があるわけではないが攻撃に専念できないのはなぁ。
物理耐久特化のスライムは仲間の支援を受けて耐えた。耐えて、耐えて、耐えまくった。
しかし最後にはほかの奴らと同じくHPが全損して倒れてしまう。
そしてスライムがやれたなら幽霊、こちらはアルシャインで即死だ。軽く切りつけるだけで消滅する。
だが、
「もう時間稼ぎは十分だろお前ら!! やっちまええええ!!」
儚くも散ってしまった前衛たちが稼いだ時間は無駄にはならなかったみたいだ。
もう巻き込むものがなくなった魔法使いたちは範囲の広い魔法を惜しみなく放ってきた。
「あぁ、流石にこれは避けられませんね」
私は少しでも魔法が薄い場所に走った。
降り注ぐ雷が、野を焼く炎が、吹き荒れる風が、あふれ出る水が私に襲い掛かる。
範囲が広いそれらの魔法は例に漏れず見た目ほどの威力はない。だが、確実に私のHPを削る。私は確かにレイドボス化してステータスが大幅に上がった。
だが、その特性上耐久面があまり高くないのだ。
身に纏っている星外套によってこの中の炎は半減になるので私は炎は受けてもいいものとして動いてほかの魔法から逃げた。
そしてその魔法を受け切った時には私のHPは1割以上は削られていた。
これだけやってたった1割、と思うかもしれないが私がレイドボスであることを忘れないでほしいものだ。
魔法がたった一斉射されただけで1割、まったく自分の耐久のなさが笑えてくる。
私はその耐久がない原因の一つである、今なお奇怪な音を奏でている鐘を見上げて苦笑した。
しかし相手が必死に時間を稼いで放った魔法も受け切った。あとはほとんど残っていない前衛と後衛を処理するだけ――――――――だったらよかったんだけど。
「おっしゃあ! 俺たちが戻ってきたぜ!!」
ゾンビアタック、リターンズだ。
時間切れだ。倒した敵が戻ってき始めた。閉鎖したエリアでもなんでもない、街の隣でレイド戦があるとこういうことが起こるのかと嫌になってくる。
「よしっ、これを後10回繰り返すだけでまだ誰も成し遂げていないメーフラ討伐の偉業を成し遂げられるぞ!」
魔族のデスペナルティのステータス減少があるだろうから10回繰り返されたところで感はあるが、延々と供給される戦力は面倒極まっている。
本当にいつかは討伐されてしまうかもしれない。
本当に?
「いいえ、時間切れはあなたたちの方です」
私は駆けた。敵の前衛を飛び越えて敵の後衛たちのど真ん中に着地する。そしてそれと同時に、まだ知られていない私のスキルが発動した。
【オーバードライブ】
【ギアアップ】のステータス上昇に応じた爆発を起こすスキル。
自分にもダメージが入ってしまう欠陥スキルだし、爆発が届く距離が半径8メートルと短いがそれでも、後衛たちは全員巻き込める!!
そしてこれは物魔混合ダメージだ。物理だけ、魔法だけに強くても大ダメージが入る。
私を中心に発せられた爆発は魔法使いたちを容赦なく呑み込んでそしてそのHPを一気に削り取った。
私のHPがもう1割削れたが、すでにそんなことは関係なくなっていた。
ダメージソースである魔法使いが全滅したのだ。守るための前衛だけ残っていても私を倒すことはできない。
「どうします? 魔法使いさんたちが戻ってくるまで粘ってみますか?」
「………あー、わかったよ。俺たちの負けだ。勘弁してくれ」
粘っても【ギアアップ】のせいで不利になるだけ、ゾンビアタックで少しずつ削ろうにも【白の祝福】によるHP自動回復効果のせいで遅々として進まない。
流石に私を倒したときに得られるものよりデスペナルティのほうが大きいと判断したのだろう。
戻ってきた前衛たちが両手をあげてぞろぞろと街に戻っていく。
彼らの背中を見送った後、私は一人で今の戦いを見守っていた幽霊少女のもとへ向かう。
「ごめんなさいね。怖い人たちに襲われないように街まで送ろうとしたら私のせいで怖い人たちに絡まれてしまって………」
「い、いえ! あ、あの!! とっても、とってもすごかったです! それでかっこよかったです!」
「あら、ありがとうございます」
「それで、あの……………」
「お話はとりあえず街に戻ってからにしましょうか」
「は、はい! ついていきます!!」
私は幽霊少女を後ろに引き連れて敗残兵と化した魔族プレイヤーたちの背中を見ながらケイオールの街に戻ることにした。
「あ、『捕食の牙』の回収を忘れていました!!」
街の入り口でそのことに気づいた私は全力ダッシュで戦場に戻って落っこちていた短く黒い剣を拾って再びダッシュで街に戻った。
カッコいいと言ってくれた幽霊少女だったが、最後はカッコ悪いところを見せてしまったなと私は苦笑した。
今回のサブタイは作者の想いそのままです。PKKの話を書く予定だったのにどうしてこうなった?
Q,メーフラさんは何歳から刺客やってるの……?
年齢制限ありそうですけど、刺客って
A,THE剣豪を5歳から、THE刺客を11歳からですね。与えたのは父親です
Q,雪姫さんがギルド入りたいっておしかけてきそう
メーフラさんはどんなひとが相手だったのかな?
A,倒したPKは蟷螂の魔族グループ。彼らが死亡後メーフラがいるという情報をばらまいたから今回の話になった。
雪姫はおそらく来るだろう
Q,ドゲザさんとエターシャさんはどこへ?
A,普通にケイオール周りをぶらぶら。ギルドに所属することを検討中
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