明日はデート
薬草採取、もとい毒草採取がおわってケイオールに戻ってきた私たち、レーナちゃんが私に言い放った言葉は
「おねえちゃん、きょうはありがとうなの!」
だった。
肝心の薬作りは明日以降行うということでレーナちゃんはもうログアウトするらしかった。
私は再びお一人様になった。
もう誰にも縛られることがなくなったので私はいつもの武器屋に向かう。
武器屋の中にはいった私はゴブリンさんを探す。
この店には他にも色々な種族の職人と思しき人たちがいるが、私はなんとなく彼に作ってもらいたかったので辺りをキョロキョロして探してみた。
それに気づいたのか、はたまた偶然かはわからないがしばらくすると店の奥からゴブリンさんが出てきてくれた。
私は彼に近づいて話しかける。
「こんにちは、お久しぶりですね」
「おっ、いつぞやの、今日はどうしたんだ?」
「実は武器を新調しようと思いまして」
「ん?少し前に聖銀で色々作ってやったろ?それはどうした?」
「壊れました」
「そうか、壊れたか………ってはぁ!!?壊れた!!?あんなにいっぱいあったのに、全部?」
「はい、ですので今回はもっと強そうな素材を持ってきたのでそれで作ってもらいたいのですが」
「ううん……」
武器製作の依頼、前回は快く引き受けてもらえたが今回は微妙な顔をしていた。
ゴブリンさんは少し考えてからゆっくりと私に問いかけてくる。
「一つ質問いいか?」
「はい」
「あの武器たちはなんで壊れたんだ?どんなひどい使い方をすればこんな短期間で全部折れるんだ?」
その顔は誰がどうみても職人のものであった。
自分の作った武器がどういう扱いをされたのかを知りたがる男の顔であった。
彼はせっかく作った剣がすぐに壊れるような使い方をした私が許せなかったのかもしれない。
私は正直に答えた。
「あなたに作ってもらった剣は全て人族との戦いで壊れました」
「たかだが人間を切った程度で俺の剣が簡単に壊れるとは思えないんだが」
「数だけはいましたので鎧ごと切り続けました。少しずつ金属に疲労が溜まっていってバラバラですよ」
「つまり俺の剣はちゃんと役割をやり遂げたのか?」
その声は今までのどの言葉よりも真剣なものだった。
その真っ直ぐな言葉は彼の心の内を正確に読み取るには十分すぎるほど真摯な言葉だった。
彼はーーーーー自分の作ったものが役に立っているのかが知りたかっただけなのだ。
武器職人は直接的な戦いはできない。戦いにおいてできることは戦う者に道具を与えてやること。
その道具が役に立っていなければいよいよ自分たちに居場所はない。
ただの役立たずと言われても文句は言えない。
武器に長生きしてほしいという思いも確かにある、しかしそれ以上に大切なことは自分たちの仕事が持ち手に認められているのか、彼はそれが気になっていたのだ。
それを読み取った私は淀むことなく言い切った。
「ええ、あなたの武器がなければ負けていました」
「……そっか、なら次の戦いでも生きていけるように新しい武器がいるなぁ」
ゴブリンさんは少し気恥ずかしそうに頭をぽりぽり掻いた後付いて来いといって店の奥、工房の方に案内してくれた。
前回はここまで入らせてもらえなかった。
しかし今回ここに立ち入らせてもらっているのは彼が少しだけでも私のことを認めてくれたからだったのかもしれない。
単純に仕事の可能性も否定できないが……
「それで?あんたのことだ。素材はもう用意しているんだろう?」
「はい、とりあえずこんなものを拾ってきました」
私は奈落で採取したウーツ鉱石を取り出してゴブリンさんに手渡した。
ゴブリンさんはそれを数秒ほどまじまじみた後に目を見開く。
「こ、こりゃあウーツ……こんなものをどこで?」
「ガザリアの鉱山の上から4階層目、奈落ですね」
「奈落だって!!?あんたそんな危ないところまで行ってきてたのかよ」
「それを取りに行く前は聖銀鉱石しか持っていませんでしたからね」
「いや、普通は聖銀鉱石で十分すぎる程なんだがな………でもまぁ、最近は聖銀の流通量も増えているらしいからな」
ゴブリンさんは「こっちにきてくれ」と私を誘導する。
そこには誰も使用していない炉と鍛治をするための道具が一通り揃えられていた。
ゴブリンさんはその中から一つ、金槌を取り出して私が渡したウーツ鉱石をコンコンと叩く。
「純度もそれなりにたかそうだな。……しかしこれを加工するとなると骨が折れそうだぜ。あ、あんたこれが落ちていた場所に何か燃料になりそうなものとか落ちてなかったか?」
少し首を唸った後思い至ったかのように私に話を持ちかけるゴブリンさん。
私は自分のインベントリ内のアイテムを確認する。
燃料になりそうなものかつウーツ鉱石があった場所といえば………
「これとかどうですかね?」
私は奈落で拾った石を取り出してみた。
「ビンゴだ。これがあれば加工が幾分か楽になる。それであんた、今回は何を作るんだ?」
「やっぱり剣………と裁縫道具ですかね?」
「かー!!贅沢だねえ。そういえばウーツ鉱石だけか?奈落まで行ったってんなら多少なりとも魔物の素材とかあんじゃねえのか?」
そう言われれば魔物の素材は大量に持っている。
何せ使い道がわからないのだ。
みんなの言葉の端々から防具に使っているというのは理解できるが私は武器は用意しても防具を用意しないというのが結構ある。
私たちには防具をつけるという文化がなかったからいつも頭からすっぽり抜けていくのだ。
「魔物の素材が武器に使えるのですか?」
「普通は鉱石よりそっちを持ち込むやつのが多いんだけどな。それで、あるのか?」
「とりあえず今はこのくらいですかね?」
私は奈落で出会った魔物が落としていったアイテムたちを一つ一つ並べてみた。
ゴブリンさんはその一つ一つが出てくるたびにびっくりした顔を見せてくれるから少しだけ楽しくなっていって全部出してしまった。
「これと倉庫に色々ですね」
「これだけありゃあかなりのものが作れるが……」
「せっかくなんで持ってきてみましょうか?」
「あ、あぁ、頼んだ。ここまでは勝手に入ってきてもらって大丈夫だ」
私は一度その工房を後にしてガザリアに行く前に預けていたアイテムで素材っぽいものを次々とインベントリに放り込んだ。
先ほどまでインベントリの枠を埋めていたアイテムたちは今は工房の中にあるので手元にはない。
だからいっぱい持っていくことができた。
武器屋に戻ってきた私は迷わず店の奥にある工房に足を運ぶ。
そこでは私が取り出した素材を一つ一つ確認するゴブリンさんの姿があった。
「ゴブリンさん、持ってきましたよ」
「おう、早かったな。それにしてもこいつぁ、やべえぜ。俺たちゴブリンが一生かかっても倒せない魔物の素材がたんまり……もしかしてあんた、結構すげえやつだったりするのか?」
「普通ですよ。まずはこれですね」
私はゴブリンさんの言葉を受け流して彼の隣に素材を配置していく。
私が今まで行ってきた場所で一番危険と言える場所は奈落だったと思う。
倉庫に入れていたのはそこにいく前の素材。
だから先に奈落産の魔物の素材を見せた後だと見劣りしてしまうだろうなと思いながら一つ一つ並べていった。
しかし、それを取り出した時にゴブリンさんの顔色が変わる。
「そ、それは?」
「これですか?………えーっと、なんでしょうこれ?ご存知ですか?」
「いいや、知らねえ。俺はこんなもの、知らねえ。だが、ヤバイものだとはわかる」
私が持っていたアイテムはあまり見覚えのあるものではなかった。
見た目はただの石ころのようなものだった。しかしなぜ私のインベントリにこんなものが入っていたのかと疑問に思い記憶を辿ると、これは雪姫ちゃんの神殿で唯一戦った三体の魔物のどれかが落としたであろうアイテムであることが思い出された。
その石は無機物であるにもかかわらずどこか、「命」というものを感じさせるものであった。
心なしか少しだけ熱を帯びているようにも思える。
ゴブリンさんは初めて見るといったが同時にこれをヤバイものだと言い切った。
長年武器を作るために素材を見ている職人の勘というやつだろうか?
私もその予想は当たっていると確信していた。
何せこれは神様が住んでいた場所で採れたものだ。
石ころに見えても普通のものであるはずがない。
「とりあえず武器に使えそうな素材はこのくらいですかね。何か使えそうなものはありましたか?」
「あ、あぁ……大体のものは使えなくないが……その石は無理だ。俺には扱える気がしねえ。しまってくれ」
「そうですか。それで料金なんですが………また素材払いとかでいいですかね?ウーツ鉱石とそれらの魔物の素材で何本か作ってもらってそれ以外の素材で代金を代用するとか大丈夫ですか?」
「俺はそれでもいいが、いいのか?それだとこっちがかなり得になる……いや、お前さんがかなり損するかもしれねえぞ?俺が素材を持ち逃げするかもしれねえしな」
「出来上がったものがいいものなら私も損したとは思わないでしょう。素材をくすねられてもまた取りに行けばいいでしょう」
「……あんた、大物だな」
「そうでもありませんよ。それでは頼みました。残りのウーツと奈落の石はここに置いていきますね」
私はアイテム欄を大きく占領しているアイテムたちをばらばらとその場において工房から立ち去った。
私が武器屋を出る時、後ろから
「最高のものを作るから2週間したらまたきてくれ!!」
と大きな声が後ろから聞こえた。
私は振り返らずにそのまま店を出た。
そうしてやることもなくなったため私は次のイベントのことを考えることにした。
「ふ〜む、やっぱり戦うのもいいですがいつもやらないお店っていうのも捨てがたいですよね」
お金を出せば屋台を使えるようになるし……でもそうなるといつもの格好じゃ不自然か。
店をやるには店をやるのに相応しい格好というものがあるのだ。
そう考えた私はとりあえず生産施設を借りることにした。
実は私、接客業に憧れていたのでこの時にはもう店を出す側になることを決めていた。
そして何事も形から入りたい私はそのための服を作ろうとしたのだ。
なお、この時点ではまだ何を販売するかなんて決まっていない。
そういうことでやってきた生産場。
少しでもいいものを作るためにここでひたすら練習をして【裁縫】レベルをあげまくろうと思う。
そして2週間経って最高の裁縫道具ができたらそれと最高の素材を使って最高の1着を作ろうと考えた。
それから私はその考え通りに動いた。
チクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチク
チクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチク………
まぁ、いつぞやもずっとやっていたチクチクタイムだ。
本当はチクチクだけでなくてチョキチョキやらもやっていたりするのだが圧倒的に針を布に通している時間が長い。
私はこの日から生産に打ち込んだ。
そして2日、ゲーム内での1週間が経過した。
それまで色々な服を作ってみた。ジャンルは問わなかった。
とりあえず店頭に立つものにふさわしくないものであっても作り続けた。
たまにネットで何かいい案がないか調べたりもした。
そうやって作り上げた服は10や20じゃきかない。
それこそ、アイテム欄を圧迫しまくるから何度も生産場と倉庫を行き来したレベルだ。
作ったものの中から本番に作る1着を決めないといけないから売り払うこともできないからね。
そうやって大量の服を作った私は頭を唸らせていた。
「う〜ん、決まりません」
「くぅ〜ん?」
「ヒメカ、この中のうちどれが一番可愛いと思いますか?」
「くぅ〜」
そう、かなりの種類を作ってしまったからどれにすればいいか、どれが自分ににあっているのかがわからないのだ。
ダメ元でヒメカに聞いたがヒメカは取り合ってくれない。
まぁ、ヒメカに感想をもらえても「くぅ〜」とか「きゅー」とかぐーとかしかもらえないだろうけど。
そんな、微妙にどうでもいいピンチに陥った私は
「あ、何も自分で決める必要性なんてないじゃないですか」
ということに思い当たりフレンドリストを開いた。
「えーっと、誰に頼みましょうか?今日はもう遅いですし明日ですね。で、ガトとフセンちゃんはまだ宿題が終わっていないからパス……となるとリンさんですか?あ、でもリンさんは最近忙しいって聞いた気がしますね。ダームさんとかドゲザさんとかエターシャさんとかはこれだけのために呼び出すのはちょっと気が引けますし………あっ、明日休日……よしっ、決めました!!」
私はフレンドリストの中にある彼の名前をタップしてメールを送信した。
今はログインしていないからすぐに返事をもらうことはできないが、きっと彼ならきてくれるだろうと思った。
「えーっとメールの文面はどうしましょうか?」
相手は私に好意を向けてくれているからと言って男性に向けて「ファッションショーをやるので明日来てください」と送っても来てくれるか怪しい。
男性の方は女性の服選びにさほど積極的に関わってこないからだ。
ここは少し騙すような文面でもいいから来てもらいたかった。
そんな時、私の中にちょっとしたいたずら心が生まれた。
普段の私なら言ってしまえば他人に当たる人にこんなことはしない。
しかし何故だかそうしたいような気分になった。
「えっと必要なのは日時と場所と、『明日、デートしませんか?』……これで完璧ですね!ふふっ、我ながら小悪魔系女子です」
その時、何やらテンションの高かった私はやりきったような気でいたが、ログアウトして寝る時、ベッドの中で自分のやらかしたことを思い出して悶絶した。
我ながら恥ずかしいことをしてしまったと少し後悔した。
やっと花粉症から解放されたー!!
まぁ、だからといって更新ペースが上がるかと言えば微妙ですけどね。
Q、発狂モードのメーフラさんの動きをするNPCを作れと会社に送っとく
A、確か、没になったけどアスタリスクさんたちとの戦いを見た運営がその動きを模倣したスキルを作るーーーーーみたいな展開案はあったんですよね。
Q、白い神様いる?
A、これから必要になる時がある。尚、いつその話が来るかは未定
ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします。
感想も待ってます。





