それ、本当にお祭りの日に売っていいのか?
『夏祭り』
それが私たちの夏休みの間にやる最後のイベントみたいだ。
内容は概ね現実のものと同じ、説明文を読んで要約してみると「みんなで楽しく騒ぎましょう」ということだ。
別陣営でパーティを組んで戦ったり屋台を借りて物を売ったりできるらしい。
そして今回は前2回とは違い特別なイベントエリアというものは存在しないみたいだ。
お互いのホームタウンとなっている街にイベント時特有の装飾がなされたり、お祭り用のシステムがUIに追加されたり、イベント限定の魔物がでるくらいで特に普段と変わりないようだ。
詳しい詳細が知りたい人はUIのイベントの項目から概要を見てくれという説明が公式ホームページに載っていた。
それを部屋で確認した私はいつものようにMOHの世界にログインを果たす。
ログインしてすぐに目に入ってきた光景は岩岩岩。
そういえば鉱石を掘りにきた帰りだった。
私はセーフティエリアから出て真っ暗闇を歩きながらイベントでは何をしようかと考えた。
今までのイベントは攻城戦、トレジャーハントなどそれなりに向こうが準備したものをなぞるものが多かったが今回のイベントはある程度こちらでやりたいことを決める必要があった。
「オーソドックスなのは戦うことですけど、あまり戦いばっかりというのもゲームを楽しんでいるという感じはしませんよね」
「く?」
「ということは、今回はお店を開く方向性で行くのもありかもしれません」
「くうん」
「しかしそれだとあの二人の挑戦を受けることができませんね。困りました。やっぱり私には戦うという選択肢しかないのでしょうか?」
私は半ば独り言のように続けながら出口目指して歩き続ける。
正直道なんて覚えてなかったから適当に歩き回っているだけだ。
しかし運が良かったのかある程度歩き続けたところで上に向かう通路を見つけた。
いつもの赤蟻は出てくる様子はない。おそらくだが、ここのボスは上から下に向かう敵には厳しいけど下から上に向かう敵には優しいんだろう。
そんな推測を立てながら私は中層へ、そしてそこからは流石に覚えているのでそのまま一気に外まで出た。
私はすぐにでも採掘したもので武器を作ってもらおうと思ったのでまっすぐ街の外へ。
ちょうどそのタイミングだった。
りんりん、という高い音とともにフレンドからの通話申請がきた。
送り主はグラロさんだった。
はて?何か用事でしょうか?
私は目の前に出た「応答しますか?」というメッセージに「はい」と答える。
『あ、繋がった。ちょっと今いいかい?』
「はい、何か御用でしょうか?」
『実はな、俺今日急な仕事が入ったから今から出なくちゃいけねえんだけどさ、レーナを一人にするのは心配なんだ。だから今日だけでいいからレーナと遊んでやってくれねえか?』
「それは構いませんが………私はどこへいけばいいのですか?あと私でいいのですか?」
『あんたでいい。場所はケイオールにいるが……そっちは?』
「私はガザリアという街の前ですね。なるべく早く駆けつけますがそれなりに時間がかかるかもしれませんよ?」
『多分大丈夫だ。こっちの時間と現実の時間じゃ流れがだいぶ違うからこっちでそれなりの時間でもあっちではそうでもないしな』
「わかりました。では少しお待ちください」
私はフレンドチャットを閉じて急いでケイオールに向かう。
途中の魔物は相手しているだけ時間の無駄なため全て無視した。
AGIのステータスが上がっているおかげか前回走った時よりも行軍スピードが速い。
それに気づいた私は【ピーキーチューン】のスキルを使用した。
体がかなり軽くなった気がしたが思っていたより速度は速くならなかった。
多分だけどAGIという数値は単純な体の動きの速さというものではなく軽やかさ的な数値を表している可能性がある。
そんなこんなで私はゲーム内で一時間かからずにケイオールまで辿りつく。
これなら現実でも15分とかかっていない計算だ。
私がその速度のまま街に突っ込もうとすると街の西門の前に見慣れた二人組が見えたので慌てて足を止めた。
「あー!おねえちゃんなの!!」
「ふぅ、お待たせしました」
「そんなに待ってない。急いでくれて本当に助かる」
「お久しぶりですレーナちゃん、グラロさん」
「じゃあ俺は急いでいるからレーナを頼んでいいか?」
「本当に私でいいのですか?」
「ああ、あんたなら安心だ。報酬は後で払うからレーナのことをよろしく頼んだ」
「あー!ぱぱがおねえちゃんにおかねで言うこと聞かせようとしているの!!」
グラロさんが私にレーナちゃんを預けてログアウトしようとした瞬間、レーナちゃんが鬼の首とったりといった様子でグラロさんを指差しそういった。
グラロさんは微妙な顔をする。
「こらレーナ、人聞きの悪いことを言うんじゃない!」
「これはママにほうこくするべきことなの!パパが、おんなのひとにおかねで言うこと聞かせようとしてること、言わなきゃなの!」
「人様が聞いたら誤解を受けるようなことを言うんじゃない!と言うかそう言うことどこで覚えてくるんだ」
「ママが言ってたの!パパがそう言うことしてたらおしえてくれって」
「くっ、とにかく俺はもう行かなきゃいけないからレーナのことを頼んだぞ!」
グラロさんはそう言い残してその場から姿を消した。
彼はいつも軍服のような衣装を着ている。
いつもはかっこいいと思っていたその服であったが、今だけは敗残兵のような悲愁を感じられた。
私は消えていった一人の軍人に黙祷を捧げて残された可愛い女の子の手を握った。
「さて、今日はお姉ちゃんと遊びましょう。何かしたいことはありますか?」
「うんとね……そろそろおまつりなの!だからおまつりのじゅんびをしなきゃダメなの!!」
あー、次のイベントの準備か。
そういえば私考えながら走ってたけど結局何も決まっていなかったな。
そう思いながら私がレーナちゃんは何をするのかと聞くと彼女は迷いなくハキハキした声で「くすり屋さん!!」とこたえた。
レーナちゃんはお店をやりたいみたいだった。
ただ、少し不安なのがレーナちゃんの作る薬ってそう誰彼構わず売っていいものなんだろうか?
少し疑問に思ったが私が気にしていても仕方ない。
そう思い今日は一日この子と遊ぶ約束をしてしまった私はその準備を手伝わされるのだった。
「まずはおくすりにひつようなざいりょうをちょうたつするの!!」
「何が必要なのですか?」
「おくすりはお水からなの!!だからお水をよぶの!!」
なるほど、お水は大切と言うことだね。
……それはわかったけど、呼ぶ?汲むとかじゃなくて呼ぶ?
私が頭にはてなマークを浮かべている間レーナちゃんは慣れた手つきでUIを操作してどこかに連絡を入れていた。
そしてある程度やりとりがあった後、
「これですぐにおくすりにひつようなお水がくるの!」
と言った。
結局その意味は私には分からなかったがレーナちゃんは「お水をまつの!」と言ってその場にしゃがみこみ地面を木の枝で削ってお絵かきを始めた。
私もやることがないので隣で絵を描く。
特に描くものが思い浮かばなかったので子供が喜びそうな動物の絵をいくつか書いた。
「それはライオンさんなの?」
いいえ、これはただの猫です。
「あ!!パンダなの!!」
たぬきです
「キリンさんなの!!」
シマウマです
「うになの?」
くりです
「パパなのーーーーー!!」
ごめんなさい、お猿さんのつもりです
私の芸術的センスは小さな子供には受け入れられなかったらしい。
その後いくつも書いたがどれ一つとして正解がなかった。
しかしそうやって時間を潰しているととある人物が私たちの前に姿を現した。
「よう、来たぜ」
禍々しい色をした不定形の生物ーーーーーードゲザさんだった。
しゃがんで下を向いていた私は首だけ上を向けてそのスライムを見る。
また進化したのか見た目に凶悪さが増しているーーーーような気がする。
色合いが変わっても見た目はほとんど変化がないから気分の問題だろう。
それにしても進化いいなぁ、私の進化は次はいつになるのだろうか?
ワンチャン、今ステータスを見たら進化可能とか書いてないかな?
そう思ったけど結局私はステータスを開かずにドゲザさんと会話を始める。
ドゲザさんからは最近のエターシャさんのバカ話を聞かされた。
そしてひと段落ついた頃、レーナちゃんが動いた。
「スライムさん、いいお水ちょうだい?」
「おっ、いいぜ。それだけのために呼び出されたのかと思うところもあるけど、小さい子供の頼みなら断れねえしな」
レーナちゃんが何やらガラス製の容器を取り出すとそれをドゲザさんの方に向けた。
ドゲザさんはその瓶の口に体を近づけると直後、瓶の中に向かって液体を噴出した。
「このお水はね、おくすりを作るのにつかうの!」
「そっかそっか、いいことだ」
「できたらスライムさんにもあげるの!」
「おっ、俺のことを気にかけてくれるのか?嬉しいねぇ」
ドゲザさんはレーナちゃんの持っている3個分を満タンにしたところで「うっ、悪いけど品切れだ」と言って放出をストップした。
その行為に違和感を覚えた私はレーナちゃんの持っている瓶の中身をこっそり鑑定してみる。
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禍毒ドルザーギア
レア度:遺物級
特級すら霞む災厄の毒物
その製法は失われており現存するものは全て遺跡から発掘されたものである
体の中に入ると体内のマナを全て破壊される
MP−2%/秒
当然のように無色透明である
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それを見た私は無言でドゲザさんの方を見た。
彼は私の視線に気づいたらしく目をそらす。
どこが目なのかはいまいち分からないが、スライムの体が半分だけ回転したのできっと目をそらしたのだろう。
私はゆっくり歩いて逆側に回り込んだ。
「……子供になんてもの与えているのですか?」
「……毒耐性を中までしか貫通しねえから許してくれ」
「だからってあんなに危ないものを与えるのは」
「仮に食らってもMPが吹っ飛ぶだけだから」
ドゲザさんはバツが悪そうに弁明をした。
折れたのは私だった。
結局それを望んだのは本人だしやりたいようにやらせてあげようということになったのだ。
「これでお水はひとまずかんぺきなの!!つぎはやく草をとりにいくの!!」
「あ、俺はMPすっからかんだしボスの嬢ちゃんいれば戦力的には申し分なさそうだし帰るわ」
「スライムさんありがとうなの!またよろしくなの!!」
やっぱり、瓶三つ分作り出すためにMP全て使い切ってたかドゲザさん。
ドゲザさんのMPが今どれくらいかは知らないが彼はそれなりにレベルが高いはずだ。
そのMPをあの短時間で使い切るほどというのはどれほどの毒を精製した時なのだろうか?
考えても答えは出なかったので考えないことにした。
「薬草は森に取りに行くのですか?」
「それはシロウトの考えなの!れーなくらいのプロになればぬまちがいちばんいいってしってるの!!」
………沼地?
私の困惑もよそにレーナちゃんは三つの瓶をインベントリにしまい歩き始める。
私は置いていかれないようにすぐに後を追いかけた。
もしかしてなんだけど、私とんでもないことに協力しているのでは?
沼地になんかすごい薬草があるイメージがわかないなんだけど。
逆にすごい毒草ならありそうなんだけど。
私の心の声はレーナちゃんに届くことはなくレーナちゃんは我が道を行くを徹底していた。
私はこれからできる薬が怖くて怖くて仕方がなかった。
だが頼まれた身としては途中で投げ出せない。
私はレーナちゃんについて沼地まで行った。
その途中で魔物が出た。
アリクイのような魔物だった。
「むーっ、れーなとくせいおくすりをくらうの!!」
本来、グラロさんの考えでは私がレーナちゃんを守る役目をするはずだったのだろう。
だがレーナちゃんは護衛の私より先に現れた魔物に攻撃を加える。
攻撃方法は薬が入った瓶を投げつけるという極めてシンプルなものだった。
だが、その効果は絶大だ。
レーナちゃんの投げた瓶はアリクイ型の魔物の膝あたりに直撃した。
するとアリクイはビクビクして動きが鈍くなる。
あれは麻痺毒?
「おつぎはこれなの!」
そして動きが鈍くなったところに次の薬だ。今度は見た目完璧に毒ですよって感じのものが投げられた。
動きが鈍くなった敵にそれを避けるすべはなかった。
レーナちゃんの投げた瓶は綺麗な弧を描いてアリクイの腹に着弾した。
青紫色の液体がアリクイの魔物にふりかかったと思えばそのHPをみるみるうちに削っていく。
「うわっ、動けなくして毒殺って可愛い顔してえげつないことをしますね」
「大しょうりなの!!はやくいくの!」
「はいはい、わかりました」
レーナちゃんの快進撃はそれこそ沼地まで止まらなかった。
沼地についたレーナちゃんは目についた良さそうな草を片っ端から引っこ抜いてインベントリに入れている。
私は何か使えるものはないかな、と初めにそこらへんの草に鑑定をかけた時に
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毒霧草
レア度:非普遍
繊維を傷つけると毒を拡散させる草
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悪魔の爪痕
レア度:希少
食べると胸部を悪魔に引っかかれたかのような痛みと熱さが走る草
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毒草
レア度:普遍
薬草と間違えて食べないように注意
食べると腹を下す
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こんな感じの鑑定結果ばかりだったので見ているだけにした。
レーナちゃんも鑑定を使っているのか的確にレア度の高いものを優先して採取している。
そして一通り採取が終わった後私の方に近寄ってきて
「とりあえずこれでいいの!つぎはまちでちょうごうするの!!」
と帰還を促した。
私は言われた通りにレーナちゃんの隣に立ち一緒に歩き始める。
沼地を出るとすぐに魔物に出くわした。
いかにも人を食べますよって行った形の植物の魔物だ。
私はこれもレーナちゃんがサクッとやっつけてくれると思い一応準備だけはしておいたものの動かずじっと見ていた。
「またわるい人なの!やっつけちゃうの!!」
レーナちゃんは高速でインベントリを開きそしてーーーーーーー
「………おねえちゃん、おくすりきれちゃったの………たすけてなの」
「任せてください!!」
泣きそうな顔でこちらを見たレーナちゃんに従い私は食人植物に突っ込んだ。
私を包み込むように蔓が迫ってくる。しかしこの程度の攻撃は切り落とすまでもない。
私は相手の攻撃の隙間を縫って接近して地面の少し上、茎の部分を大きく切り裂いた。
レベルが低いのか食人植物の魔物はそれだけでHPが0になる。
「帰りは私が守ってあげますので、安心してくださいね」
「わー!おねえちゃんすごいの!!パパよりかっこいいの!!」
グラロさん、哀れ……
Q、そろそろスキルが増えてきて覚えてられなくなったからまとめを
A、わかりました。レーナと夏祭りが終わる時がちょうどきりがいいのでそのあたりで投稿します。
その時はデータ公開ということで他のキャラの分も一緒にね。
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