3人の神級
神様たちは皆少しずつずれてる
「割と最近、有名な、3人の神級が〜、でかい、でかい、龍を狩っていた〜♪」
「おいテル、歌ってないで真面目に戦え」
黒い鬼を狩りまくっていたら俺たちのレベルは40を超えた。
そのあたりからレベルの上昇が遅くなってきたのでライスが再び狩場の情報を集めて来てくれた。
今度は鬼がいた場所から大きく東に向かった場所にある火山地帯に出没するドラゴンを倒せばレベルが上がりやすいことが判明した。
しかし、流石にドラゴンは楽に倒れてくれる相手ではない。
高い耐久力に高い攻撃力………まぁ、攻撃力の方はどうせあたらんから無視していいのだが、耐久の高さが俺たちを苦しめる。
なにせ3人がかりで殴り続けて倒し終わるのに20分かかるのだ。
そのためまだ俺たちは4体しかドラゴンを倒せていない。
今のところ3体倒せばレベルは2上がるほどの経験値をもらえる。
だがそもそもドラゴンがあまりいない。
一度倒すと次に出てくるまでに1時間近くかかる。
それまでは周りにいる素早いトカゲやらなんやらを倒して少しでも経験値を稼いでいるのが現状だ。
そして今、俺たちが叩いているのは5体目のドラゴン。
「1人は〜槍を持ち〜、1人は〜剣を振り〜、1人は〜〜〜〜〜道化師♪」
「だから真面目にやれと………おい、テル、お前あと何本だ?」
「21本だね!!」
「アスタリスクは?」
「………6本だ」
「そっか、俺は8本、ほら見ろテル、お前が1番仕事してねえぞ」
「いやいや、俺っち斧だから攻撃回数少ない分減りが遅いのさ」
今ライスに問われたのはあと何本武器が残っているかということだ。
黒い鬼を倒している時の反省を活かした俺たちは鬼の素材の売却などで発生した資金でそれぞれ36本ずつ武器を購入してアイテム欄いっぱいにしてから街を出た。
俺は現時点までで30本の剣を叩き折っている。
剣が折れて空白になっていたアイテム欄には今はドラゴンの素材や周りに出てくる魔物の素材なんかで埋まっていた。
「おっと、ブレスくるぞ」
ライスの注意喚起で俺たちは一度距離を取る。
このドラゴンという生き物、物理攻撃をしてくる分には何ら問題がないが稀に炎を吐く。
ドラゴン狩りにおいてそれが一番危ない瞬間だ。
なにせ、近づきすぎると炎自体に触れなくても熱でやられるからな。
俺たちは一度それで死にかけている。
加えて炎が着弾した地面にも気をつけないといけなかった。
炎に焼かれた地面は一定時間ではあるがものすごい熱を持ちその上に立つとダメージを受けるのだ。
一度それでピエロが燃えた。
大丈夫だろうとその場に着地したやつは「余熱うううううぅぅぅぅぅ!!」という断末魔とともに炎上を始めたのだ。
「……むっ、もう折れたか」
「でもドラっちも倒れたみたいだよ」
31本目の剣とともにドラゴンは倒れた。
そしてその場に幾つかのアイテムを残して消え失せる。
「肉と牙と爪と皮と鱗と………だいたい前回と一緒だな」
「…………黒い鬼の素材は高く売れたが、ドラゴンの素材はどうだ? 高いのか?」
「アスっちドラっちの素材使わずに売るってマジ?」
「これに関しては俺もピエロと同意見だな。通常のRPGならドラゴン=素材だぞ?」
「まさかと思うけどアスっち、素材=換金アイテムと勘違いしてないよね?」
「…………違うのか?」
これを売ってまた新しい武器を持って狩りにいってレベルを上げる。
これを繰り返すゲームだろうこれは?
それとも俺は何か間違っているのか?
「ちげえよ!! お前はもっと普通のゲームもやるべきだって!」
「だね。アスっち、今までどんなゲームやったことある?」
「………剣豪と刺客と、後は猫を育てる携帯アプリはやったことがある………」
「それはゲームをやったことがあるにはいらない」
「だね」
ライスとテルは俺の方を見て笑う。
何かおかしかったのだろうか?全て同じゲームだろう?
「まぁアスっちが無知なのはいいとして、一回帰る?」
「だな。このままだとこいつ、次のドラゴン討伐まで武器が持たないぞ」
「……わかった。帰ろう」
後5本もあればドラゴンくらい倒しきれそうだし、最悪武器がなくなっても素手、もしくはまだ大量に残っているテルの斧を借りればいいと思うのだが、2人がそれがいいと言うのだからそれがいいのだろう。
よくわからないが俺はこの手の世界に疎いらしいからここは素直に指示に従うべきだと判断した。
こうして俺たちはドラゴンの住まう火山地帯を後にして始めの街の『コスモール』に帰ることにした。
その最中の出来事だった。
「………なぁ、あれは何だ?」
「アレ?」
「どれのことかな?」
「………人が人を襲っているように見えるのだが、これは魔物を倒すゲームではないのか?」
「あー、アレはPKだね。ま、プレイスタイルの1つさ」
「………そうか」
「というかアスっち、あんさんの目標もアレじゃないの?」
「………それもそうか」
前方に人族が人族を襲っている光景があった。
10対1という微妙に卑怯とも取れる数の差があった。
しかしおかしいな。人族と魔族が対立しているのは聞いていたが人族と人族で殺し合うのはどうしてだろう?
テルのやつはプレイスタイルの1つだといっていたが、アレの目的は何だ?
刺客の人間と同じく自己研鑽か?それなら納得がいく。
自分より強い敵と戦えば自分に足りないものが見えてくるからな。
それにしても1人のやつはよく頑張っている。
10人に囲まれながらもそのまま勝ってしまいそうな雰囲気だ。
真ん中に立つ男は剣を使っていた。
その剣筋は少なくとも素人のものではなかった。
だが特に興味が湧かなかったので俺たちは街に戻るために歩き続けた。
その際、その戦いの横を通り抜けることになってしまう。これは仕方ない。
道の真ん中で戦っていたのだ。
「おらアーク! そろそろ観念して諦めろ!!」
「へっ、誰が諦めるかよ素人どもが、俺を倒したきゃ後90人は持ってくるんだな!!」
「魔法班、デバフかけまくってやれ!!」
「残念、俺の装備はアンチコントロール特化だ。そう簡単にデバフがかかると思うなよ」
………少しだけだが、刺客の世界の人間の戦いと放つ雰囲気が違うな。
なんというか、この集まっている奴らは真ん中の男1人を倒すことを目的としているみたいだ。
別に自分が強くなろうとか、そんなことを考えているやつの雰囲気ではないな。
だからといって俺がどうこう言うつもりもないがな。
俺がそう思いながら視線を外すと聞き慣れた声が少し後ろから聞こえてくる。
「あはははははは、お祭りかな? 俺っちも混ぜてくれよ」
「………テル、何をやっている?」
「おっ? 久しぶりにこう言う光景みたねぇ。最近では俺たちに向けて討伐隊を組まれるのも珍しかったからな」
「………ライスまで」
何故か連れの2人はこの戦いに参加したそうにしている。
どうしてだ?
それはメーフラではないのだぞ?
戦う理由がない。
俺は立ち止まり振り返って2人を見はしたがそれ以上は何もしない。
参加するつもりはないからな。
「ちょっとあんたたちいきなり入ってきて何よ。獲物を横取りするつもりなの?」
何やら動きにくそうなローブを着た女がうちのピエロに話しかける。
その顔は微妙に迷惑だと言いたげだった。
2人もその心のうちは読み取れているはずだ。だが空気を読まないのが特技のあの2人のことだ。
どうせいつものごとく我が道を行くのノリで首を突っ込むのだろう。
「まぁまぁまほっち、俺っちたちも混ぜてくれよ」
「はぁ?嫌よ。ここまで追い詰めたトッププレイヤーをみすみす部外者に奪われてたまるもんですか」
「あ、勘違いしないで欲しいんだけど………」
「俺たちが倒すのはお前らも含めてだから」
「はっ?」
………最近、強敵との戦いとかしてなくて溜まってるんだろうな。
あいつらはそれぞれ武器を構えてローブの女性に突きつける。
そのまま不意打ちで仕留めれば楽だろうに………
あんな格好をしているがテルのやつは正々堂々がモットーな人間だ。
不意をついてはいおしまいなんてことはしない。
それはライスのやつだって同じだった。
だから彼らは準備する時間を与えると言わんばかりに構えるだけに留めた。
「ちょっ、みんな!後ろにも敵がいるわ!!」
「何、アークの仲間か?」
誰だよアーク………
あ、もしかして真ん中の剣士か?
「チッ、こんな時に…… おい、こっちは5人で抑えとくからそいつらを早くやっちまえ!」
「はぁ?5人で俺を抑える? 10人でも辛そうだったのに馬鹿言うなよ!」
戦う人数が半分になったことによって真ん中の剣士が勢いづく。
あっという間に一番近くにいた剣士を切り刻み敵の数を1人減らした。
そしてその男は次の獲物に手をつけ始める。
逆に外側では戦いは起こらなかった。
いや、正確に言うなら戦いというものは発生しなかった。
「邪魔者は消えて【パラライ・・・】」
「魔法はよくわからん、が、発動までの隙が大きすぎてこの距離で発動するもんじゃないってことだけはわかる」
「チッ、それなりにレベルが高いみたいだな。俺が行くしか……」
「おぉっと! 君、運がなかったね。まさか走り出した瞬間頭の上に斧が落ちてくるなんてね」
行動を起こそうとしたものは次の瞬間には倒されている。
ピエロ野郎なんか半分遊びだろあれ。
ここから見ている限り俺たちと周りの奴らにはそれなりに能力値に差があるようには見える。
だが技量面で言えば比較するのも馬鹿らしいレベルでこちらの方が上だった。
向こうもライスとテルに対抗するべく次々とこの世界特有のスキルというものを発動しようとする。
が、それは悉く発動する前に2人に咎められるのだ。
「………やっぱり、スキルとやらのある意味はよくわからんな」
パッシブスキルというのはわかる。
それを持っているだけで攻撃が強くなったり防御が上がったりするやつのことだ。
それらはステータス制のこの世界ではかなり有用なものに思えた。
だが、アクティブスキルはどうだろうか?
魔法は、まぁ後ろの方で放てば現実にはない遠距離攻撃手段として用いれるからいいとして、俺が気になっているのは【剣術】やら、【棒術】やらの体が勝手に動く系のやつだ。
ゲーム開始時に選ばされた俺の初期メインクラスが剣士だった関係上、俺は一応【剣術】というスキルは持っている。
そして確認のために使ったこともある。
だが、何だあれは?
馬鹿にしているのかと言いたくなるような動きを無理やり体に強要されたのだ。
確かに派手かもしれない。
だが、戦いの場において派手さという無駄な部分は必要ないのだ。
「っと、レベルは相手の方が高いだろうから挑んだけど、拍子抜けだったな」
「だねぇ、まだ戦い足りないよ」
そんなことを考えている間に終わったみたいだ。
お前ら、戦い足りないっていうがドラゴンとあれだけ戦っただろう?
弱かったが………
「あんたらありがとうな。ま、俺1人でも大丈夫だったけどよ」
真ん中にいた男が俺たちに話しかけてくる。
それを見たテルの返答は斧だった。
「えっ……うわっ何すんだ!」
「およ? さっきの敵ならこれでも当たったと思うんだけど……ならこれなら」
「あぶねえ。ってかやべえ」
テルは男に向かって剣を振り回す。
男はなんとか必死になって逃げ回ることで一命をとりとめていた。
通常、あんなに素早く動き回れる人間はいない。
ということは素早さのステータスが高いが故、この世界だけでの動きだろうと思い俺の興味はそいつには向かない。
テルは遅い動きながらも一手一手誘導するような攻撃をしている。
そのため速さでは向こうの方が速いのに有利なのはテルということになっていた。
「くそっ、ふざけた格好してる割には強え」
「逃げ回るだけじゃなくてさ〜、攻撃を返してくれるとうれしいな」
「無理だって………ちくしょう、むざむざやられるくらいなら1人だけでも……」
男は自分が勝つことは諦めたみたいだが、急に乱入して場を掻き乱した俺たちに対して一矢報いようとした。
そしてその標的として狙われたのは俺だった。
俺は先の戦いで見ているだけだったから弱いと判断されたのだろうか?
「あっ、君そっちは」
「………まぁいい、襲われたなら斬るだけだ」
「とりゃああああああ!!」
俺は剣を抜き切りかかってくる男に向けて振った。
たった一刀だけだった。
男の首を俺の剣が前から後ろまで通り抜ける。
本当、これで首が飛ばないのが不思議でならない。
あれか?全年齢対象のゲームだからか?
ステータス差があるのかその一撃で男は死ななかった。
だから俺はそのまま攻めてくるだろうと思い次の一撃の準備をした。
しかし男は切りかかってこなかった。
その場にへたり込み何かを思い出したかのようにつぶやく
「い、今の技………まさかあなたは………」
なんだ?
俺のことを知っているのか?しかし俺はこいつのことをしらない。
知り合いというわけではないと思うからおそらく一方的にしられているだけなんだろうな。
俺は刺客の世界ではそれなりに名が通っていたと記憶している。
それに対して不満はないがどうして俺なんかの方がメーフラより認知度が高いんだろうな?
「う〜む、なんか戦意喪失しちゃったみたいなんだけど?どうするの?消化不良もいいところだよ?」
「そりゃあこうなった時、俺たちがやることといえば決まってるだろ?」
「確かにそうだね」
なぜか動かなくなった男を放置してライスとテルが武器を構える。
やれやれ、こいつらはいつもそうだ。
戦いに満足いっていない時に集まってすぐに殺し合いを始めるのだ。
いちいちそれに巻き込まれる俺の身にもなって欲しい。
そう思いながら俺は剣を構えた。
「…………開始の合図は?」
「確か決闘システムなるものがあったはずだからそれでやろう」
「じゃあルールはHP全損で負けね。勝者はアイテムを持って街まで歩いて帰ってくること」
「それは負けたら早く街につけるということでは?」
「………だからといってわざと負けるのか?」
「いやぁ?」
「ありえないよ」
こうして道の真ん中で俺たちは戦い始めた。
俺としてはテルとは相性の問題で勝てるだろうが、ライスとは五分だからなんとか先にライスを仕留めて一対一に持っていきたいところだ。
俺は呼吸を整え開始の合図を待つ。
すると数秒後、ゲームシステムによって試合開始の合図が成された。
それと同時に俺は動く。
狙うはライス。
だが向こうもこちらの思惑くらい読んでいるだろう。
テルなんかは絶対にライス狙いを許さない。
俺と一対一をやればあいつはだいたい負けるからだ。逆にあいつとしては俺をはじめに倒したいはず。
だからテルはその場所からライスと戦っている最中の俺に一撃加えてやろうと狙っている。
テルは迂闊には動かない。
ここでこちらに近づいてくれば手痛い反撃を食らわせてやったのだが、わかっているのだろうな。
ならばと俺はライスを攻撃する。
これで大きめの隙を作らせることができればテルが乱入してくるかもしれない。
俺は自分の隙が最小になるようにライスに向かい攻撃する。
対して向こうはリーチの差を存分に使い俺の攻撃範囲に入る前から攻撃を仕掛けてくる。
尋常ではない速度の突き、それも一瞬で3回だ。
その突きはまるで槍が3本あるかのように錯覚する連撃。
ほぼ同時に繰り出された槍は頭、胸、腹と体の正中線上を狙ってくる。
どれか1つでも当たれば致命傷だ。
だが、それは当たらない。
直線で結べるような3つの点の攻撃はその線から体を出してやれば簡単に全て外れてくれる。
俺は返しざまに小さな一撃を与えようと剣を振るう。
ライスのやつはそれを神速の突きで迎撃しようとするが、先ほどの男同様、ライスの槍も俺の剣に触れることができない。
その迎撃をすり抜けた俺の剣はライスの肩に小さくだが傷を作った。
そして俺は一度離脱する。
本来、剣と槍の戦いは剣側が懐に入れば大きく有利を取れる。
だからあの場面では普通なら前に出るところなのだろう。
だがライスのやつも懐に俺を入れるとダメなのは理解してる。
だから奴はそれだけは阻止しようと攻撃をおいてやがった。
仮にそれをすり抜けて入れたとしても次が続かない体勢を取らされることになるような攻撃だったため、俺は引かざるを得なかったのだ。
「アスタリスク、お前また腕を上げたか?」
「………お前らと違って俺にはまだ上の存在があるからな」
「それは羨ましいな」
おれたちは常に上を見て成長してきた。
だが、今のライスとテルには上を見上げても見えるものはいない。
だが、俺にだけはまだ1人の神が上に残っている。
それがあるからこそ、俺は神級になった後も成長し続けることができる。
「………今回は俺が勝たせてもらうぞ」
1人の男はおれたちの戦いが終わるまでその場で座り込んで見続けていた。
3人はイベントまでこれでレベル上げしてますな話。
前回の赤いコウモリはどうなったの?な質問の答えは特に語ることがなかったのでカットしました。
Q、罠師はダームさん?
A、そうです。メーフラさんにいくつも罠を仕掛けて大した成果が得られないことを悟りその世界を去りました
Q、弟の例のスキルが発動したら?
A、地面とフセンにサンドイッチにされていた。流石に結城◯トレベルのことは起こらない
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次回はもうイベントに入ります。(予定)





