採掘場を独占したけどそもそも誰もこないから問題ないよね?
ボスアリは配下に移動を完全に任せて自分は砲台としての役目を果たすことに決めたようだ。
そしてそのはじめの行動としてとったのは私の想像を超えるものだった。
アリはその形態になった後すぐに2発の酸を打ち出してきた。
だがそれは私を大きく外れて後ろの地面に着弾した。
「移動しながらだから命中精度が低い……いいえ、これは違います」
念のために着弾点を見てみるとそこにはドロドロに溶けた物体が放置されている。
私がとっさに辺りを見渡してもそこにあるべきものがない。ということはあれが私が予備として地面に落としておいた武器の成れの果てなのだろう。
一応鉄製の剣だったのだが、見事にドロドロだ。ギリギリで原型を保ってはいるがあれを触りたくはない。
自分の手が溶けてしまいそうだ。
ボスアリはやってやったと言わんばかりに私に頭を向けてキチキチと音を立てる。
そして下のアリたちを使って私との距離をとった。
勝ち誇ってはいるが勝ちきるまで油断はしないということなのだろう。
私は攻撃に備えながらインベントリの中を確認する。
そこに残っていた武器は残り4本。
内訳は鉄の大剣が2本と鉄の剣が1、鉄の細剣が1だ。
細剣はあのデカブツを叩くのには向いていない。ということは今手に持っている2本とインベントリの中の3本でどうにかあれを倒しきるしかないだろう。
武器のストックが少ない。そうなれば持久戦は不利だと思われた。
私は度々飛んでくる酸を反復横跳びで避けながらそう結論づけた。
となるとこれから私が取る方法はあれに一直線で近づいて足となっているアリを潰すことだ。
機動力が削がれて逃げることができなくなればあとは殴り合い。
そうなれば自分に分があるのは今までの戦いでもわかっている。
「ではどうやって近づくかですが……」
私はとりあえず最短距離で近づこうとした。だがその最中に迎え撃つように放たれた酸が私を襲う。
そしてそれを避けるために横に跳ぶとその間にもう既に距離が離される。
ボス部屋とあって相手が逃げ回れるだけの広さがあるのが問題だ。
おそらくだが私の速度では最短最速以外の行動をとれば追いつくことは難しい。
「【信念】が速度を上げてくれるのを待ちますか? いいえ、それでは時間がかかりすぎますね」
トライアンドエラーを繰り返せばそのうち【信念】のスキル効果によって相手にたどり着けるだろう。
だがそれにはどれだけ時間がかかるかはわからない。先の見えない戦いは苦手というわけではないが嫌いだ。
できることなら手早くこの状況を進展させたい。
「ところで、先ほどまでは戦士として戦ってくれていましたがそれがあなたのボスとしての姿ということですか?」
私は世間話でもするかのようにボスアリに問いかける。当然言葉なんてものは返ってこない。
別にいい。こういうのは気分だ。
今から何をするかを宣言して勝つと最高に気持ちいいからやっているだけだ。
「そうですか。では私も1つ、戦い方を変えましょう。今までの私は「人間」として戦っていましたが、ここから先は「人形」として戦わせていただきますね」
私は再びインベントリ内を確認する。
ストックは………よし!どこぞの悪い人たちのおかげで大量にある。
私は腹をくくる。
先ほど口に出したように私は今まで「人間」としての戦い方をしていた。
ダメージを受けないように避けて、合間を縫うように攻撃して、そんな戦い方だ。
この戦い方も悪くはない。なにせ人形というものは人間を模して作られるものだ。
人形が人間の動きをしていてもおかしなことはないだろう。
でも、違う。
ここはゲームで、人間と人形は全く別の種族だ。
それぞれにできることとできないこと、はっきり分かれているはずだ。
私は今から、人間にはできない戦い方をするつもりであった。
私は両手の鉄の剣を2つとも前方にいるアリたちに投擲する。
1つはボスの酸に撃ち落とされ、もう1つは土台の黄色いアリに叩き落とされた。
だがその隙を使って私はインベントリから鉄の大剣を取り出して右手だけで持った。
「さて、準備完了です。行きますよ」
宣言とともに私はまっすぐ前進。それに応えるようにボスアリはまっすぐ向かってくる私に向かって酸を吐き出した。
今までの私ならこれを横飛びで避けていただろう。そしてその間に部屋の中を走り回られて距離を取られる。
それが今までの流れ。
だが、今回はそうはならない。
私は左腕を盾にしてその酸を正面から受けた。
シューッという音を鳴らしながら私の左腕が煙を上げて溶けていく。
だが私はそんなことは気にしない。
まっすぐ、ただまっすぐに進み続け距離を詰める。
ボスアリは止まらない私に焦ったかのようにもう一射酸を放つ。
私はそれも溶けかけの左腕で受けた。
その時の飛沫が私の本体部分にかかりこの世界に来て初めて私のHPバーが黒い部分を作り出した。
しかしそれはほんの微々たるものだ。
2発目の酸を受けきった頃には私の左腕は溶けてなくなりその残骸が私の後ろに落ちていた。
しかしそれを代償として私たちの距離があと数歩で剣の届く位置まで接近していた。
そして迎え撃つ第三射目。
ここまでくるとかなりの角度をつけて打ち出さなければいけない。だが、黄色のアリの存在がそれを難しくしている。
もう少しで到達する私を迎撃するために酸を吐き出そうとすると自分の足になっている仲間に当たる位置どりだ。
これが後ろの2匹と前の1匹の並びが逆なら話は別だろうが、黄色のアリはそれなりに大きくうまく私のための壁になってくれた。
「さて、ようやく捕まえましたよ!!」
私は左腕を失いかつ右手に重いものを持っているためバランスの悪くなった体を大きく振り回し黄色いアリの足を切り裂いた。
全体重を乗せた威力重視の一撃だ。
黄色いアリは耐久が他のやつより高いらしい。それだけでは足を壊すまでには至らない。
だが、上のボスアリはこうして懐に入ることができてしまえば役立たず。
下のアリたちも上に重いものを乗っけているうえにでかい体で密集を余儀なくされているため動きづらそうだ。
ぎこちない動きで黄色いアリが私を攻撃してくるが、無駄。
大剣を振り抜いた後の勢いはそのまま体を低くするだけ低くしてそれを回避、そしてそのまま一回転して追撃を加えた。
2発目、黄色いアリの左足が飛ぶ。
それを機に一気にバランスが崩れる。
上に乗っている重いものを落とさないように黄色いアリは必死に踏ん張る。
後ろの2匹も少しでも負担を肩代わりするべく体勢を変えようとした。
だがそれは大きな隙だ。
私は黄色いアリの横をすり抜けて後ろに回る。
狙いは当然クォーツアントだ。
こいつは耐久が低くて鉄の剣の攻撃を首に2発食らえば確定で絶命することがわかっている。
隣にいるソルジャーも同じようなものだがこっちの方が柔らかい。
「まずは1匹」
車輪のように体を前方に回転させてクォーツアントの首に大剣での一撃を振り下ろす。
クォーツアントは大ダメージを受けたがギリギリのところで踏みとどまる。なんとしてでも耐え抜いてやろうという気概の下命をつなぎとめた。
だが、そんなクォーツアントの頑張りは次の瞬間時間差で降ってきた私の無慈悲なかかと落としによって無為なものとなる。
その大きな体は体の大きさに似合わないほど軽い音を立てて崩れ落ちた。
バランスが悪くなってしまったせいで上に乗っていた赤いボスアリが落ちてくる。
なんとか奇襲をしようとしたのだろう。大口を開いて私を食いちぎろうとしている。
私は刺さったままの大剣は放置して素早く戦線を離脱した。
そしてある程度距離を取ってインベントリから「人形の腕」を取り出して左腕に使用する。
失われた私の腕はみるみるうちに回復していく。
そうだ。これが私が考えた人形族の戦い方の1つだ。
私は人形の特性である部位破損、これはデメリットなのかと思っていた。
だがそれは正解でもあり不正解でもあった。
そもそも、私はスタート地点で手足が足りない状態でスタートした。
足りなかったのはチュートリアルで直してもらったのを除くと左腕と右脚の二箇所。
しかも付け根からだ。
人間ならこの時点で何も処置をされていなければ死んでいるほどの欠損だ。
だが、そんな状況にあっても常に私のHPバーは満タンを維持し続けた。
ここから導き出される仮説は『人形の部位はHPと関係ないのではないか?』ということだった。
その答えは………まぁ、先ほど見てもらった通りだ。
左腕と両足はどんなダメージを受けてもHPには干渉しない。
ただ部位の耐久力がなくなると壊れるだけだ。そしてそれだけなら即座に人形の手足シリーズで修理できる。
これが私の人形戦術、名付けて「あ、それうちの島じゃノーカンだから」だ!
………ネーミングがどうとかはこの際置いておいてください。
まとめるとインベントリにある人形の体の分だけ特定部位で攻撃を受けても大丈夫ですよという戦法だ。
「さて、左腕も戻りましたし再開しましょうか。おや? もう騎乗するのはやめたのですか? 最後は総力戦というやつですか」
私の左腕が回復している間にアリたちはボスを一歩引かせて他2匹が前に構える陣形を取っていた。
足が1つ失われたことと先のままではダメだと考えたのだろうか?
ここからは力と力のぶつかり合いみたいだ。
「こうなってしまえばこちらのものですね」
私は新しく鉄の剣を取り出してからゆっくりと歩き出した。
ズカズカと無遠慮に進んだ私はそのままアリたちの攻撃範囲に入る。
その瞬間、3匹のアリが同時に飛びかかってきた。
人間より大きなアリが同時に飛びかかってくる光景は少し恐怖ものだが、それだけだ。
近接戦闘になった時点でもう私の勝利は揺るがなかった。
鎌という最大の攻撃手段を失ったボスアリは万全の状態こそ剣帝級と戦えるスペックを持っていたが今では精々剣聖級が足止めできればいい程度だ。
他の2匹は大きく見積もっても騎士級の剣士と戦って勝てるかどうかといったところだろう。
それなりに多い黄色とボスのHPを削るのに十数分ほど時間はかけたが最後の最後は危なげなく勝利した。
ボスを倒すと閉じていた扉が開く。
そしてガラガラと先へ続く道も現れた。
「さて、戦利品の確認といきましょう」
今回の戦闘では結構大量の物資を持っていかれたからその分いいものが手に入っていることを期待して私はインベントリを開いた。
まず、クォーツアントからは「ミスリルナゲット」というアイテムがドロップしていた。
ということは下層ではミスリルが採掘できるということだ。
なんか素敵な響きだし今回はこれを採取して帰ることにしよう。
そしてアントソルジャーからのドロップはなし
そういうこともあるよね。
「で、黄色いアリさんからは……ふむ、「アントパラディンの大顎」ですか。彼はアントパラディンと言うのですね」
立場的には近衛騎士だ。ということは?さっきのボスアリは?
ボスアリからは「フェイタルアントクィーンの大鎌」が2つと「蟻の甲殻」、「アントクィーンの甲殻」が8、それと「致命の蟻酸」というアイテムがドロップしていた。
どうやらあのアリは女王蟻らしい。
「さ〜ってと、確認も済みましたし採掘しまくりますよ〜」
空いているインベントリ全て埋めるくらいいっぱい採掘していこう。
あ、一応深層ものぞいてみようかな?
採掘と同時進行で深層の入り口も探してみよう。
私はできた道をずんずん進んで採掘ポイントらしき場所を見つけたのでツルハシを取り出して壁をぶっ叩いた。
現実ならここで崩れた石を拾って〜なんてことをしないといけないのだろうがここはゲームの世界。
そういうまどろっこしいことは無しで直接採掘結果をインベントリに叩き込んでくれる。
ここの階層の壁は叩くと「聖銀鉱石」というアイテムとなって次々とインベントリに入れられていった。
1つの採掘ポイントは何度も叩いていると石以外産出しなくなるのでそうなったら移動。
これを何度か繰り返しているうちについに私のアイテムインベントリが結構潤ってきたので終わることにした。
途中採掘の振動と音に惹かれてやってきたアントパラディンとクォーツアントにはびっくりしたりもしたけど採掘はちゃんと終わった。
それと、レアドロップなのかは知らないが採掘を続けていると5つだけ「金鉱石」が手に入った。
――――――――――――――――――
今回の戦果
鉄のナゲット26
銀のナゲット11
ミスリルナゲット8
蟻の甲殻 39
蟻の大顎 3
蟻兵士の足 6
アントパラディンの大顎2
アントパラディンの足12
フェイタルアントクィーンの大鎌2
アントクィーンの甲殻 8
致命の蟻酸 1
金鉱石 5
聖銀鉱石 64
聖銀鉱石 64
聖銀鉱石 64
聖銀鉱石 64
聖銀鉱石 16
石ころ 21
ボス:フェイタルクィーンアント(LV45)の討伐
レベル上昇:3→26(進化可能)
――――――――――――――――――
「そして帰ってきました地上です!!」
そんなに何日も潜っていないはずなのにこんなにも陽の光が眩しく思えたのはあの激闘を制してきたからだろう。
後になって考えたら相手の体力が多くて面倒だっただけでほとんどダメージを受けていなかったから激闘と言っていいのかわからないけどね。
あれから一度中層のセーフティエリアでログアウトして1日を過ごしてから地上に帰ってきた。
暗視効果のある人形だから暗いところでも平気だったし中層までは光もあったからそこまで大きな変化はないのだが、やっぱり陽の光は暖かく感じる。
完全に気分の問題だろうけど。
私は持ち帰った金属をすぐにでも加工してもらおうとその日のうちに街を後にした。
そして荒野を越え、野を越え、草原を越え、無事にケイオールに戻って来たのだった。
というか行き道はちょいちょい寄り道をしていたからそんなことなかったんだけど【信念】のスキルが移動でも大活躍だった。
長く走れば走るほど速くなる。
私は他のスキル【人形の体】のおかげで疲労無効も付いているので最後の方は割とやばいスピード出てた気がしないでもない。
さて、それはさておき戻ってまいりました武器屋さん。
「すみませ〜ん。店員さんいますか〜?」
私がそれなりに大きな声で呼ぶとあの筋肉質なゴブリンが私に気づいて来てくれた。
「おう、戻ったか。で、何かいい金属でも手に入ったのか?」
「はい、と言っても鉱石のままなんですけど、大丈夫でしょうか? 一応ナゲット状のものも数個ありますが」
「? とりあえず見せてくれ」
「はい、これですね。聖銀、ミスリルらしいですよ」
私はインベントリから聖銀鉱石を2つほど取り出して見せた。
「なぁっ!!? ミスリルだってぇ!!? あんたっ、どこでこれを?」
「えっと、普通にガザリアでですけど……それはともかくこれで大丈夫そうですか?」
「あ、あぁ。問題ねえ。というか最高の素材だぜ。でもこれじゃあ少し数が足りねえか」
「あ、まだたくさんあるので必要な分だけ言ってください。それと言い忘れていましたが、蛇腹剣、2つは欲しいです。できれば予備を含めて4つお願いします」
「そ、そんなにいっぱいあるのか?」
ゴクリ、と生唾を飲み込む音がゴブリンから聞こえてくる。
見た目は恐ろしくとも動作は人間のものそっくりだ。
「そうですね。全部出したらここの床が抜けちゃうかもしれません」
「そんなに………」
「とりあえずこの鉱石ならいくつあれば作っていただけますか? あ、代金の分も合わせてこれで払ったりできませんかね?」
「えぇっと、4つだっけか? ちょっと待ってくれ」
ゴブリンは何かを計算するように黙り込んだ。
そして少しした後結論が出たみたいでその数字を告げてくる。
「蛇腹剣4つ分の素材で鉱石20、そして代金合わせて28でどうだ?」
「それでお願いします」
「おいおい、ふっかけられているとか思わねえのかよ」
「大丈夫ですよ。きっとそんなことしないと信じていますしそれにまだいっぱい持ってますからね」
「そうかい。それは嬉しいねぇ。で? 作るのは蛇腹剣だけでいいのか?」
「あ、それなんですけどまだ作ってほしいものがあるんですよ」
私はかねてよりの約束であった蛇腹剣の他に今までずっとスキルの肥やしになっていたあのスキルを使うためのアイテムの製作も依頼しておいた。
ゴブリンさんに代金も兼ねた聖銀鉱石を渡すとホクホク顔で製作に入ると言って店の奥に引っ込んでしまった。
完成は一週間もあれば十分だそうだ。つまり実時間で2日もかからない。
次の土曜日には出来上がっているそうなのでその日が来たら取りにこようと思う。
今日はそれだけやってログアウトした。
Q 最初のルーレット普通の人は3000以上でないって言うけど、そもそもそんな数字入れるなよ。
A いや、それやるとそもそもこのルーレットの存在意義が……
Q 誤字報告って作者側からどう見えるの?
A ホームに戻ると誤字報告がありますって通知がまず来ます。そしてそこからそれをクリックして飛ぶと修正箇所が1ページに20個まで表示されます。作者的にそれがオッケーならそこにある適用ボタンをポチれば修正がなされます。
Q場所的に中間地点にいるアリさんが剣帝級って強すぎない?
Aこのボスは重装備のタンクがバフと回復をもらいながら後方から遠距離火力が削るというパーティ戦術を想定しています。そもそも1人で戦う相手じゃねえよ。
それに、このダンジョンは最後まで遊べるタイプのアレだから。
Q〜級って何を基準に判断してるの?技量とステータス?
A基本的に主人公の主観。『THE・剣豪』の世界に放り込んだ時にこのくらいだろうなと主人公が思った感覚です。
QアリさんボスってNPC?
Aはい。あれは運営に設置されたボスです。
Qオンライン前提ならダウンロードでもよくない?
Aアクセス最大数を予想しやすいようにと運営がパッケージ版しか出していない……とかどうでしょう?
Q未だにダルマ状態でリスキルされます。助けて!
A右腕だけは本体と連動していて壊れないはずなのでそれでなんとか頑張って!!
自分で決めたルールのせいでコメントを返すのには投稿しないといけない………
まぁ、それはそれでいいんだけどさ。
ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします。
次回!ついに裁縫さんの出番!!?





