第13話 楽しい給食と大いなる敗北
リメイク前より先生が変態になっております。
あとポンコツにも。
どれだけ絶望していたとしても時間は止まることなく進んでいく。そして一過性のショックは徐々に収まり、真っ白に燃え尽きていた私は色を取り戻す。
「はっ! ここは!?」
「あっ……千佳ちゃんが戻ってきた」
「もうお昼やで〜。ほら、給食当番やから準備せんと」
気付けば授業は終わっていて、給食の時間となっていました。おかしい、どんな勉強をしたか覚えていない……字の汚さでここまで精神に支障をきたすとは、心の弱さを感じる!
「——絶対に綺麗な字を書けるようになってやる」
ポツリと呟いた言葉にありったけの熱意を込めて。むむむと口をへの字に曲げた私は、未だ机の上へと広げられていたノートに描かれたみみずたちを恨みがましく見詰めていました。
いつかは愛ちゃんたちに字の書き方すらも教えてほしいと乞われるような、そんな出来る女になってやる……! そんな人生の課題を定めながら、荷物を片付けます。
そうしていると調理員の皆さん——いわゆる給食のおばちゃんたちが複数の鍋を運んで来てくださいました。まだ小学1年生ということもあって、教室までの運搬はしてくれるそうです。高学年になったら調理室から自分たちで手分けして運ぶらしい。
「それでは給食当番の皆はマスクと帽子を着けてくださいね。1班から順番に取りに行きましょう」
九重先生の号令を受けたクラスメイトたちはお盆を持って並び、当番の子たちが一人前ずつ皿に入れて手渡す。そんなよくある小学校の給食風景に、私もスープ係として参加しております。
隣には私の相棒である愛ちゃん! 彼女にはお椀を受け渡しする役目を担ってもらっています。初めての共同作業……は入学式の時にやっているので、今ではすっかり息ピッタリだ!
「はい、千佳ちゃん」
「あいよー」
「はい、千佳ちゃん。大盛りだって」
「あいよー、じゃあ具材ちょっと多めにしとくねー」
「あい、千佳ちゃん。野菜はいらないって」
「好き嫌いは駄目だよ、湖月ちゃん」
「うちにだけ辛辣やない!?」
いや、当たり前でしょ。クラスの中でも身体や胃の大きさといった違いは結構あるんだから、量くらいは調整するよ。でも調理員さんが栄養バランスを考えて作ってくれてるんだから、それを無為にすることはしない!
「湖月ちゃんの為を思っての、野菜マシマシ!」
「鬼や! 千佳ちゃんが鬼になった〜っ」
涙目になっている湖月ちゃんのお盆へとニッコリ笑顔を浮かべた愛ちゃんがお椀を差し出す。お椀を置いた時のコツーンという音は妙に重々しく聞こえた。
「千佳ちゃんが入れてくれたスープ、残しちゃ駄目だよ?」
おおう、有無を言わさぬ笑みと行動。その迫力に私もちょっと怖くてビクッとしちゃったよ。それを真正面から受けた湖月ちゃんは絶望しつつも力なく頷いていた。強く生きて……
「うち、大きくなったら野菜食わんくても生活出来るもの発明する……」
お願いだから、努力の方向性を間違えないでね……?
そうしてそれぞれが配膳を終えたら、班ごとに机を引っ付き合わせた席へと座る。プロの料理人が監修しているともっぱら噂の給食だ、匂いだけでもうお腹がぎゅるぎゅる鳴っちゃいそう。皆も涎を垂らしながら先生の号令を今か今かと待っている。
「はぁ……いじらしく野菜を睨んでる湖月ちゃん可愛いぃ……」
何か言ってるんだけど、大丈夫かこの人。九重先生がすごい幸せそうなんだけど……やっぱり小学校の教師になるくらいだから子供が好きなのかな? それにしては何というか、妙に艷やかな恍惚とした表情なんだけど。
「先生? 大丈夫ですか?」
「はぅっ! わ、私は大丈夫ですよ!? 決して変なことは考えておりませんっ」
「はうって……」
絶対変なこと考えてたじゃん……というか反応可愛いな。まだ20代前半な九重先生は、まだ高校生って言っても通じるくらい童顔だ。真面目な人だと思ってたけど、こりゃ一筋縄じゃいかないぞ。
「せんせー! お腹空いたー!」
「す、すいません。それでは昼食にいたしましょうか。皆さん手を合わせて——」
「「「「——いただきます!」」」」
少々フライング気味なのはご愛嬌。先ほどまで静かに号令を待っていた皆は賑やかに話しながら食事を進めていく。かくいう私も同じ班である愛ちゃんとご飯の感想を言い合ったり、家での出来事を伝えたりと会話に花を咲かせていた。
「ねぇ、千佳ちゃん。今度家に遊びに行っても……いい?」
「もちろんだよ! メグちゃんも花ちゃんも会いたがってたから、むしろ沢山来て欲しいな」
「良かった。えっと、それじゃあ明日の放課後とかでも、大丈夫かな?」
「いいよー。放課後なら二人とも家にいると思うし、家事も終わってお母さんたちもまったりしてるだろうから……愛ちゃんのママも連れてきたらいいよ!」
「うんっ。帰ったら聞いてみるね」
幼馴染の花ちゃんも彼女のママも、隣の家に住んでるはずなのにほとんどこっちにいるんだよね。花ちゃんはよく一緒に寝るからまだ分かるんだけど、花ちゃんママは掃除や洗濯といった家事してる時以外はずっとうちのリビングに入り浸っています。
一応インターネットのサイトを作る、Webデザイナーという仕事をしているそうなのですが、フリーランスなのでいつでもどこでも作業出来るらしい。だからと言って私の家で仕事するのは……いやまあ嬉しいけど。もう一人のお母さんみたいな人だからね。
「いいなぁ。わたしの家はそんなに家族ぐるみの付き合いとかないから」
「いや、普通はそこまでないものだからね。私の所が特別ぶっ飛んでるだけだからね」
3食ほぼ毎日一緒にご飯食べてるからね、花ちゃん家族。夜とか休日とか、お父さんと花ちゃんパパも合流して毎日パーティーみたいになってるからね。
「ま、そんな感じの緩い家族だから、愛ちゃんの家族も気軽に遊びにおいでよ」
「うん、説得してみるよ」
入学式の時にちらっと見た感じ、愛ちゃんのお母さんも親馬鹿っぽかったからなあ。可愛い娘のお願いならすぐに頷いてくれるでしょう。
こうして食べたり話したりしながらお昼の時間は過ぎていく。食事中の談笑は行儀が悪いと思われるかもしれないけど、口に食べ物が入っていない状況で喋るくらいならいいよね。楽しく昼食をとるのは大事だし、何より皆の笑顔を見ているだけでご飯は何倍も美味しくなるんだから。
「このスープ美味しいね、千佳ちゃん」
「そうだね。野菜の味も沢山出てて……あ、ほっぺにご飯粒ついてるよ」
「えっ……? ど、どこ?」
ぐへへ、もう愛ちゃんったら仕方ないなあ。不肖、天使のお姉ちゃんこと諸弓千佳がそのご飯粒を取ってあげよう。
「こっちについとるで〜?」
「あっ、本当だ。ありがとう湖月ちゃん」
「…………」
どういたしまして〜と返事をした湖月ちゃんがこちらへと視線を向けて、そして額に汗を垂らし始めました。
「な、なんでそんな怒っとるん? ほら、や、野菜はちゃんと食べたで!?」
「許すまじ……!!」
「何があかんかったんや!?」
湖月ちゃんに負けた……せっかくの合法いちゃいちゃタイムだったのにぃ!
愛ちゃんのほっぺに触れて、最後にはそのご飯粒を私が食べちゃえたかもしれない。いや、逆に指につけたまま彼女に食べさせ——ごほんごほん。くぅ、こんな近くに敵が存在したとはっ。
「湖月ちゃん、明日は野菜二倍ね」
「ほんまに理不尽や〜!?」
頭を抱えて叫ぶ湖月ちゃんを尻目に、私はまた精神年齢を忘れハムスターのように大きく頬を膨らませるのでした。因みにこの後めちゃくちゃ謝った。
【ひとこと説明】
諸弓美佳 現在:29歳
千佳と恵の母親。
家事は得意だが、超のつく機械音痴。
今でも家電の使い方を、千佳や親友の咲(花ちゃんママ)に聞くことがある。
次回は九重先生回。
登場人物が多いので出来る限り1話に出る人数を減らして書く予定です。
その方が分かりやすいし、魅力を出しやすいですからね。
でも皆でワイワイする話も書きたい所存!




