第10話 入学式の終わり、もう一人の友達
この物語はフィクションです。
千佳ちゃんたちは実に小学生らしくないですが、小学生です。
『以上をもちまして、桜望学園小等部の入学式を閉式いたします。新入生、退場』
私が飛び入り参加を果たした挨拶も無事にやり遂げ、数十分にも及ぶ式典は終わりを迎えました。
ステージに立った時に気付いたのですが、メグちゃんも花ちゃんも来てました! 目に入った瞬間、手を振ってくれていたので思わず瞬間移動して抱き締めたくなるくらいテンションが上がちゃったよ。まあ瞬間移動なんて出来ないんだけど。
本当は両手を上げて大きく振り返したかったのですが、新入生代表として愛ちゃんに迷惑を掛ける訳にもいかないので、その時は優等生っぽく優雅に小さく手を振りました。
そして何とかアドリブで皆への想いを伝え、愛ちゃんも無事に勇気を出すことが出来ました。その背中を私が押せたのなら嬉しい限りです。
すっかり緊張も解れて笑顔になった彼女と並びながら、クラスの移動に合わせて体育館の出口へと歩いていくのですが——
「お姉ちゃん!」
「ねぇねっ」
はい、通路近くの天使たちからの声援をいただきました。私の満面の笑みが満々面の笑みへとパワーアップして、壇上よりも激しく手を振り返します。見てください、あれ私の天使なんですよ。あの子たちは私が育てた。(ドヤ顔)
「あれ、千佳ちゃんの妹さん? すごく可愛いね」
「でしょ? もうあれだから、天使だから。見ているだけで幸せで、もう幸せすぎてあれなんだよ」
「千佳ちゃん、さっきまでの語彙力はどこに行ったの」
おっと、あまりのテンションに脳が壊れちまったぜ。妹たちの隣に座ってるお母さんを見て落ち着きましょう。
「千佳がこっち見てる! いいわよ、いいわよ〜!! ほらポーズ取って、シャッターチャンスは一度だけなのよっ」
「うわあ……親馬鹿ここに極まれりだな」
うん、平常運転。お母さんと花ちゃんママの寒暖差が凄いですが、何だか落ち着きました。
「ち、千佳ちゃん……あれって」
「愛ちゃんは何も見てない。いいね?」
せめて式が終わるまで頑張って欲しかった、テンションを上げないように。私が言えることではないけれど。
「愛ちゃ〜ん! こっちにも視線くださいな〜!」
「……愛ちゃん」
「千佳ちゃんも、何も見てないよ……」
【悲報】親馬鹿、増える。【本気の長距離レンズ一眼レフ】
「お互い、すごい親を持ったね」
「ふふっ……そうかも。千佳ちゃんと更に仲良くなれた気分だよ」
似た者同士のお母さんを見て、私たちはちょっと苦味を込めて笑い合います。私たちだけでなく親も仲良くなれそうだ。折角出会えたんだし、家族ぐるみで遊べたりしたら面白いかもしれない。花ちゃんファミリーとは家が隣ということもあって、よくバーベキューなんかもしますからね。
そんなこんなで最後は賑やかな様子で、私たちの新たな門出は幕を下ろし、そして——
「——さっき振りやな! 千佳ちゃん!」
教室へと辿り着いた私へと真っ先に話しかけてきたのは、茶髪の少女でした。
「……誰?」
「誰ってそんなん言わんといてや〜。校門で会おたやろ?」
ふわりとやや内巻きに肩へと掛かったセミロングの髪。背は私と愛ちゃんが同じくらいなのですが、彼女は少し差が開いて小さいです。とはいえ小学1年生なのでそこまで差はないけれど。
しかしニヤリと不敵に笑う表情がとても似合っていて、動物で例えるなら……可愛い子狐という感じでしょうか。
「校門……あ、そういえば」
確かお母さんと一緒に写真を撮る為に、後ろの人にカメラをお願いした。その時の母親らしき人が関西弁だったはず。
「写真を撮ってくれた人の、娘さん?」
「そうやで! うちの名前は梅田湖月。関西から引っ越してきたばかりやねんけど、よろしゅうな〜」
方言女子、ああ誠に美しきかな。
その地方から違う場所に来ると、その言葉遣いだけで何倍も魅力的に見えるのは不思議なものです。誰かと違うことは時に長所となり、時に排他される対象にもなってしまう。
引っ越してきたばかり、という言葉から察するに彼女はまだ友達が少ないのかもしれません。笑顔ではありますが、その心の内に不安はあるはず。
私は新入生代表の挨拶として、皆に手を差し伸べると約束した。ならその存在するか分からない不安、この手で拭い去ってあげましょう。
……むしろこんなに可愛い子、握ったらもう離さないからね!
「さっき聞いたかもだけど、私は諸弓千佳だよ。よろしくね、湖月ちゃん!」
「わ、私は……室崎、愛です……よろしく、お願いします」
「千佳ちゃんに愛ちゃんやな。友達になってくれて嬉しいわ〜」
初対面だからか、また愛ちゃんは人見知りを発動しています。でも湖月ちゃんは人懐っこそうですし、きっとすぐに身内判定が出て、仲良くなれることでしょう。
愛ちゃんの小動物感に母性をくすぐられていると、湖月ちゃんが少し目線を伏せて、もじもじとしながら口を開きました。
「友達になってくれたついでにな、ちょっとお願いがあるんやけど……」
「ん? 何か言いづらいことなの?」
「いや、そういう訳やないんやけど……あのな?」
とんっと一歩、私たちに近付いて、こちらへと破壊力抜群の上目遣いを向けて。
「うちのママな、今日来れんかってん。それでめっちゃ心配しとるから友達出来たでって写真送りたいんよ……」
どうやら、たったそれだけの事だったようです。しかし出来たばかりの友達にいきなりお願いする、というのもまた勇気が必要なのかもしれません。全く私が出会う女の子たちは精神が幼いのに、どこか大人びてるんだから。
そんな不安、ぶっ飛ばしてやる!
「もちろん、いいに決まってるよ。帰る前に校門で一緒に撮ろうっ」
「うん……私も、千佳ちゃんと湖月ちゃんと、一緒に撮りたいな」
私の言葉に追随してくれた愛ちゃんと微笑みながら、湖月ちゃんの願いを受け入れる。すると彼女はホッとしたように吐息を零し、照れたように頬を掻きました。
上目遣いはもうきゅんきゅんして永久保存したくなっちゃいますが、美少女にはやはり笑顔が似合う。こっちも脳内メモリーに永久保存だ!
「ありがとな千佳ちゃん、愛ちゃん。うち、嬉しいわ〜!」
小学校初日。朝から天使たちを説得して、お母さんが泣き、新入生代表のお手伝いをして、大切な友達が2人も出来た。とっても騒がしいけれど、その分幸せに満ちていて。これ以上など求めなくていいくらい笑顔が咲き誇る。
「——小学校生活、思っていたより何倍も楽しくなりそうだっ」
私の小学生生活は、こうして始まりを迎えるのでした。
【ひとこと説明】
梅田湖月 現在:6歳
関西圏から母親と共に引っ越してきた少女。
粉もんが大好き。ソースはおたふく派。
リメイク前同様、物語におけるツッコミ役の両翼を担う。
(片翼は千佳)
毎話、大体2500〜5000文字の辺りでバラバラな文量になるかと思います。
量よりも面白さを、1話の中でしっかりとオチがつくことを意識して書いていきますので、よろしくお願いします。




