第9話 恵、入学式に行く
妹の恵視点ですが、かなり大人びています。(5歳)
千佳ちゃんとずっと一緒にいるので仕方ない、ということでご理解ください。
(あと純粋に読みづらくなってしまうので)
——私たちのお姉ちゃんは、すごいのです!
私と花ちゃんは花ちゃんママの両側から手を繋いで歩きながら、そんなお話を沢山聞かせてあげています。お姉ちゃんはいつも私たちと遊んでくれるし、嫌なことがあったらすぐに気付いて楽しい気持ちにさせてくれるし、いつも笑顔ですごく綺麗なのです!
「……お前ら、本当に千佳のこと大好きだよな」
「ママだってそうでしょ〜?」
「花ちゃんママだっていつも抱き着いてる!」
二人でそう反論すると、頬をぽりぽりと掻きながら笑っています。ふっふっふっ、何だかんだ言って花ちゃんママだってお姉ちゃんのことが大好きだからね。きっと世界中の皆がそう思うのですから!
「私自身も大概だと思ってるけど、やっぱお前らが一番ぶっ飛んでるよ。まだ幼稚園児だってのにそこまで力説するもんかね」
お姉ちゃんのことですから! これくらい妹として当然なのですよっ。
「……そうかい。それじゃあちゃんとお姉ちゃんの晴れ舞台を応援してやらないとな」
「入学式、楽しみです!」
「見つけたら、ねぇね〜! って呼んであげるのっ」
おお! それはお姉ちゃんも喜んでくれるはず、花ちゃんと一緒に頑張らないとですね。
「お前ら……やるなら美佳のところ座ってやれよ? 私は遠くで見てるからな」
「え〜、ママも一緒にやろ〜よ〜」
「絶対嫌だからな!」
花ちゃんは抱き着いて抗議していますが、ガシガシと頭を撫でるようにして宥められています。お姉ちゃんが喜んでくれることなのに、どうしてやりたがらないんだろう……?
大人って難しいね。
「ほら、もうすぐ着くぞ。ここが桜望学園だ。お前たちも来年通うことになるからな」
「桜餅? 美味しそ〜!」
「花、望はもちでも餅じゃないぞ」
「んん? ど〜ゆ〜こと?」
私にもよく分かりませんが、花ちゃんママは今は気にしなくていいと私たちの頭を撫でてくれました。お姉ちゃんのは優しく包み込むような撫で方、お母さんはぽんぽんと軽く叩くような撫で方、そして花ちゃんママはちょっと乱暴ですが……どれも好きなのです!
……まあ、一番はお姉ちゃんですが!!
「ほら、立ち止まってると引きずって行くぞ〜」
「ダメ〜! なら離して〜」
「もっと学校を見たいです!」
「それこそ駄目〜だ。お前たちの面倒を任されてるんだからな、大人としての責任を果たさせてくれよ。あとメグちゃん、学校を見るのは帰り道にな。もうあんまり時間ないからさ」
「分かりましたっ。遅れないように急がなきゃ!」
花ちゃんと顔を見合わせ、頷いた私たちは腕を引っ張るように走り出した。早くお姉ちゃんに会いたいから!
「ちょっ、いきなり走り出すなって! あぶなっ、危ないからっ。歩いて行かせてくれ……!」
そんな声も聞こえないくらい、私たちの頭にはお姉ちゃんの笑顔だけが思い浮かんでいるのでした。そして花ちゃんママに受付をしてもらった後、体育館の前へと到着するとそこにいたのは。
「あの、千佳ちゃんのお母様。そろそろ会場に入っていただけると……」
「うわ〜ん、千佳に振られた〜! 成長が見れて嬉しい〜! ふええええん!!」
「泣くか喜ぶかどちらかにしてください!?」
お母さん、どうして地面に座って泣いてるんだろう。傍ではスーツ姿の女性があわあわしてるし……何が起こってるのか全く分かりません。
「花ちゃんママ。お母さんどうしたの?」
「……いいか、メグちゃん。あれは他人だ、私たちには何の関係もない馬鹿だ」
「花ちゃんママっ!?」
お母さんが見捨てられてしまいました、流石の判断速度です。でも見捨てないであげて欲しいのです。ぐいっと腕を引っ張ってそう伝えるとまた花ちゃんママは自身の頭を掻き、溜め息を吐きながら私の頭を撫でました。
「あー……美佳、こんなところで何してるんだ?」
「ぢか、おどなになっぢゃっだああああ」
膝を着いたままこちらに振り返ったお母さんは、涙と鼻水だらけで何だか汚いです。私はポッケに入れていたティッシュを取り出して、お母さんの顔を拭き始めました。きっとお姉ちゃんならこうしているはずなのです。
「メグちゃんに世話されて……お前が子供になったの間違いじゃないのか。ほら人様に迷惑掛けてないで立ち上がれよ、手を貸すから」
「ざあああぐううううううううう!!」
「私の名前はザグじゃないぞ、美佳」
お母さんはぐすんと鼻を鳴らしながら立ち上がり、そのまま私を抱き上げました。お姉ちゃんの抱っこも好きですが、お母さんのも安心できて幸せです。
「恵はまだお母さんと一緒がいいわよねっ」
「うん!」
私もお母さんを元気つけたかったので、本心から力強く頷きました。すると涙目だった表情がぱあっと花開くように笑顔になって、更にぎゅーっと抱きしめてくれます。ちょっと苦しい。
「……千佳と比べたら?」
「お姉ちゃんです!!」
「恵が千佳に取られたああああ!」
あっ、ごめんなさいお母さん。花ちゃんママの意地悪な質問が悪いのです。
さっきよりもキツく抱き締められながら、花ちゃんママにむーっと目線を向けると苦笑いで手を合わせてきました。反応しちゃった私も悪いし、許しましょう。
また泣き出したお母さんをよしよしとしていると、ずっと傍にいてくれた女性が話し掛けてきました。
「お知り合いの方ですね、助かりました。なかなか泣き止んでいただけず、ここで10分くらい説得していたのですが……」
「何やってるんだこいつは……」
10分も泣いちゃうなんてお母さんに一体何が……。お姉ちゃんの名前も言っていましたし、あまりにも構い過ぎて素っ気ない態度を取られてしまったのでしょうか。家でもよく見る光景なので、何となく想像しやすいです。
「どうしようもない時は叩いてください。直りますから」
「昔のテレビか何かですか……あ、そろそろ時間なので会場に入ってもよろしいでしょうか? 入学式が始まってしまいますので」
「ああ、すいませんね。うちの美佳が迷惑をお掛けしました。ほら泣いてないで行くぞ」
花ちゃんママはそう言った後、先に体育館へと向かいました。手を繋いだ花ちゃんもこちらをチラチラと見ながら一緒に歩いて行くのですが……私も行きたいけど、お母さんに抱き上げられたままなので難しいです。
「お母さん、おかーさん! 早く行かないと始まっちゃうよー!」
「ぶええええんっ」
ティッシュで顔を拭いてあげながら伝えますが、駄々っ子のように聞いてくれません。幼稚園にもこういう子が沢山いますし、今や私も年長さんなのでお世話には慣れています。元々はお姉ちゃんの真似をしていただけなのですが。
……本当に泣き止まないや。仕方ありません、ここはお姉ちゃん直伝の必殺技を使いましょう!
「お母さん、泣き止んだら後でお姉ちゃんとぎゅーってしてあげる!」
「行きましょう、恵。千佳の入学式を見守らないとね!」
「うん!」
なんて変わり身の速さ。これが大人になるということなのでしょうか。
お母さんに抱っこされたまま体育館へと入り、花ちゃんの隣の席へと座った頃、丁度入学式が始まって——
『——続きまして、新入生代表の挨拶です』
そのアナウンスと共に私たちの視界へと入ってきたのは。
「お姉ちゃんだ!」
「ねぇね!」
前髪の長い女の子と手を繋ぎながらステージへと上がってきた、白い制服を着たお姉ちゃんの姿でした。私と花ちゃんは思わず立ち上がり、手を振ってしまいます。するとお姉ちゃんも気付いたのか、柔らかい笑みを浮かべたまま小さく手を振り返してくれました!
「咲っ、千佳が私に手を振ってくれたわ!」
「……いや、子供たちにだろ。ってお前も調子に乗って手を振るな! 周りの保護者さんたちに迷惑だろうが。ほらお前たちも座って大人しくしてな、千佳の挨拶聞き逃したくないだろ?」
花ちゃんママに言われて、私たちも座り直します。お姉ちゃんからこんなことをするなんて聞いてませんでしたが、サプライズでしょうか!……私たちも今日行くなんて知らなかったけど。多分、お母さんたちが秘密にしてたんだと思います。
ともあれ、お姉ちゃんの晴れ舞台です! 嬉しそうにスマホをステージへと向けているお母さんの隣で、私もしっかりと聞きましょう。
「——えー、ごほんごほん。マイク入って……るね。失礼しました」
「ち、千佳ちゃん、私はどうすれば……?」
「大丈夫、まずは私から話すから任せてよ」
普通にお話の声も聞こえちゃってますが、そういう所も魅力的です!
「新入生の仲間たち、在校生の先輩方、そして私たちを育ててくれてる保護者の皆さん、おはようございます。私は新入生代表の一人、諸弓千佳です」
「あ、えっと……同じく新入生代表の室崎愛、です」
「今日はお日柄もよく、満開の桜もこの目出度い時間を祝福してくれています……っと、こんな固い言葉は似合わないかな。しっかりとした挨拶は愛ちゃんがしてくれるので、私はちょっとした前座みたいなお話をさせてもらうね」
しっかりとしたお姉ちゃんはカッコいいのですが、こうしてお茶目な感じになると可愛く感じちゃいます。こういうのをぎゃっぷ? と言うのだと、お母さんが力説していました。確かに惚れちゃいそうな程に魅力たっぷりです!
「私たちは色んな人がいるよね。友達と話すのが好きだったり、本を読むのが好きだったり、一人でいるとどうしても寂しくなっちゃう子だっている。あとは家族が好きで、学校に来るのが嫌に感じてる子もいると思う。そんな自分がいて、そんな周りの子たちがいて、その違いにムッとしたり、自分が誰かと違うことが怖く感じているかもしれない」
マイク越しでも分かる、その澄んだ綺麗な声。聞いていると眠くなっちゃいそうな優しい声音。今もそれは変わらないのに、不思議と意識はお姉ちゃんの言葉に夢中なっていって。
「でも、それでいいんだよ。怖くて前に進めなくたって別にいいんだよ。私たちは一人じゃない。隣には友達になれる人がいる、後ろには導いてくれる先輩や家族がいる。例え孤独に感じても、顔を上げれば必ず誰かがいるんだよ」
一呼吸。言葉を止めたお姉ちゃんは、ニッコリと微笑んだ。
「だからね、一人で悩まないで。自分は駄目だなんて諦めないでほしい。もしも寂しくなったり、泣きたくなったらいつでも私に話しかけてきて! 私は……いや、私も先生たちも皆の味方だからねっ。とはいえ難しいことだけど……今日言った言葉を忘れないでいてくれると嬉しいな」
そこまで告げて、お姉ちゃんは一礼してマイクの傍を離れた。私たちはいっぱい拍手をしたい気持ちでいっぱいだったけど、お姉ちゃんの言葉は私たち全員に向けたものでもあり、何より傍にいるたった一人の為に伝えたものだって本能的に分かったから。
「あ、暖かな春の訪れとともに、私たちな入学式を、迎えました。今日から私たちは——」
お姉ちゃんと違って、彼女は封筒から取り出した紙を広げ、たどたどしく読んでいる。だけど不思議と皆聞き入ってしまうのは……その人が一生懸命読もうとしているのがその姿勢から、声から伝わってくるからでしょうか。いつの間にか、お姉ちゃんと同じくらいその言葉に聞き入っていて。
「——よろしくお願いします。新入生代表、室崎愛」
「諸弓千佳。以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」
気付けば、お姉ちゃんたちのスピーチは終わっていました。二人が頭を下げてから数秒経った所で、ガバっと立ち上がって拍手を始めた花ちゃんを見て私も我に返ります。
そして負けじと立ち上がって手を叩きながら、花ちゃんと顔を見合わせてから。
「お姉ちゃん——」
「ねぇね——」
「「——カッコいい!」」
その叫びは体育館を包む今日一番の大きな拍手に掻き消えますが、それでもいいのです。お姉ちゃんを、そしてお姉ちゃんが背中を押した人を皆が評価してくれるのを見るだけで、私たちは誇らしくなっちゃうのですから!
「メグちゃん〜。入学式が終わったら、ねぇねに会いに行こ!」
「いいね! 行こう!」
「行きましょう! 今すぐにでも抱き締めて褒めてあげたいわ!!」
「美佳〜、お前はちょっと黙ってような? また幼児化してるぞ」
こうしてお姉ちゃんの晴れ舞台、入学式は終わりました。
小学生になったお姉ちゃんはとってもカッコ可愛いのですが、今日から一緒にいられる時間が少なくなるのはちょっと寂しくて、誇らしくて……複雑です。
でも家に帰ってきてからは、私たちと毎日遊んでくれるって約束してるから……花ちゃんと一緒に我慢します! お姉ちゃんは私たちだけのものじゃなくて、皆を助けるヒーロー……いやヒロインなのですから!
だから……頑張ってね、お姉ちゃん!
リメイク前のキャラクターを伏線として出したいと思いつつ、上手く出せていない今日この頃。
莉理ちゃんと理事長を軽く出したかったのですが……難しいものです。
次回は教室編になります。
同じクラスのメンバーとの出会い、よろしくお願いします。




