演劇クラブのワクチン接種
「――あぁ、貴女はとても美しい。私の心はその瞳に縛られたようだ」
「はぅっ!!」
「――綺麗な手だね。ねぇ、もっと近づいて……よく見せてよ」
「うひゃんっ!!」
「――えっと……あぁ私の麗しきお姫様よ! どうして貴女はお姫様なの! ってなんかこれはおかしくない!?」
「あぁ……ごちそうさ……がくっ」
「先輩!?」
あー、えっと。諸弓千佳です。
今週も演劇クラブの練習に来ているのですが、何故か女の子たちが椅子に座らされた私の前にプリントを持って並んでいます。
そして渡されたプリントに書かれた台詞を一文読んで、気絶や足腰のくだけた女の子が先生によって遠くへと隔離されていく……。
なんだこれ?
「どうしてこうなった」
「それはね、会議の結果こうなったのよ」
明らかに演劇部員を超えた人数が並んでいて、私の傍には祐里香ちゃんが立っています。
というか会議ってなんなのさ。
「私の演技で一人ひとり倒れていく……あれ? 私ってウイルスか何かじゃないよね?」
「似たようなものじゃない?」
「ひどいよ祐里香ちゃん!?」
「まぁ、このせいで会議が開かれたのよ。千佳の演技で皆が倒れてしまうから、早く慣れてもらわないといけないってね」
「わ、私が悪いわけじゃないよね?」
「……そうだといいわね」
「私が悪いのかな!?」
私の演技ひとつで倒れるって……私にはどうしようも出来ないじゃないか。
祐里香ちゃんとの話を挟みつつも――。
「諸弓さん! これお願いします!」
「はいはい――お嬢様。私が傍にいます」
「うひょっ!!」
なんか女の子が出しちゃいけないような声が聞こえた気がするんだけど……。
「お姉ちゃん! 私はこれで!」
「はいはい、ってメグちゃん!?」
「早くー!」
「え、えっと……ねぇ、私と一緒に遊ぼう? お、お……」
「ほら! 言って!」
そ、そんなこと言われても!
こんなの読めないよ!
「わくわく! わくわく!」
「……ねぇ、私と一緒に遊ぼう? お、お姉ちゃん」
じ、実の妹に『お姉ちゃん』なんて……恥ずかしいよ。
もしかしてメグちゃん、妹が欲しいのかな?
「キター!」
「ちょっと待って、その言葉はどこで覚えたの!?」
ちょっと家のパソコンの履歴を検閲しないといけないかな!?
「千佳ちゃんー。私はこれねー?」
「はいはい、ってリンファ先輩! なんだかお久しぶりですね!」
「えー? よく会ってるけどー?」
その……なんだか出番が無かったから……?
――私たちの一つ上、中国と日本の血をひくハーフの物部リンファ先輩。
語尾を伸ばすおっとりとした性格で、聖母のような包み込む母性をお持ちの方です!
「えっと、それじゃあ読みますね……あの、これ本当に?」
「やっぱりダメだよねー……ごめんねー、やっぱりいいからー」
しょんぼりして私の手からプリントを取ろうとするリンファ先輩。
「いえいえ! やります! やらせてください!」
リンファ先輩の手を避けるように、私はプリントを読み始めました。
「――リンファ……おいで、甘えさせてあげるから」
「うん、ありがとー」
柔らかい笑みを浮かべて、リンファ先輩は去っていきました。
「……破壊力すごすぎるよー!!!」
うん、廊下から聞こえるあの声は、きっと先輩ではないはずだ。
声は似てるけど、きっと違う。うん、違うはず。
「あ、あの……千佳先輩」
「桃ちゃん。何だか桃ちゃんも久しぶりだね?」
「え? 昨日も家にお邪魔しましたけど……?」
「そうだよねー、あはは」
お次にやってきたのは桃ちゃん。
「これ、お願いします!」
「はいはい――ほら、もっと近づいて? じゃないと……キスできないよ?」
「……きゅー」
「桃ちゃん!? め、救急!! メディーック!!」
桃ちゃんは目がクルクルと回ったかのように、その場に倒れてしまいました。
ねぇ、本当にこれでいいのかな!?
犠牲者が増えてるだけのように思えるんだけど!!
「知らないわよ」
「冷たい! 祐里香ちゃんが冷たいよ!!」
やんわりと心を読まれながら、あと数十人はいる犠牲者が増えていく様を、私は演技をしながら眺めていくことしか出来ませんでした……。




