花のねぇね布教大作戦!
夏の日差しに目を細め、自室のベッドの上でねぇねの妹たる千草花は思いました。
「ねぇねが小学生になるまでのお話を、ファンクラブの皆にも教えたい!」
しかし花は知っている、自身の力だけではその事を成し遂げるのは難しいと。
ファンクラブのメンバーは学校内だけで四百人ほど、更に商店街の人達を含めれば五百人にも及びます。
ならばどうするか、と首をコテンと傾げた花の頭には、大好きな魔法少女の名言が浮かび上がりました。
『困ったときは、友達を頼るんだ』
よしっと拳を握り、意気揚々とベッドを降りた花はねぇねに選んでもらったパジャマを脱ぎ捨てて、小学校の制服に腕を通します。
――とりあえずメグちゃんと桃ちゃんに相談しよう。
そう結論付けた花は出来立ての朝食を食べるために、母が待つダイニングへと向かいました。
「お姉ちゃんが小学生になるまでのお話?」
「それをファンクラブの皆さんに伝えたい、ですか」
朝一番の授業が始まるまでの間、いつも花は恵と桃とお話をして過ごしています。
そこで今朝考えたことを伝え、三人で作戦を練ることになりました。
「どうしたら皆に伝えられるかなー?」
「とは言っても、千佳先輩の小学生以前のことは恵と花しか知りませんよ? 二人でファンクラブ全員となると、体育館に集めでもしないと」
「それいいんじゃない? 私と花ちゃんで、集まってもらったファンクラブの子たちにお話するの!」
「いいねー! 早速柚梨ちゃん先生に話しに行こう!」
椅子を倒さんとばかりに立ち上がった二人に対し、桃は冷静に物事を見極めます。
「待ってください恵、花」
「どうしたの桃ちゃん?」
「早く行かないと授業始まっちゃうよー!」
比較的落ち着いて聞き返す恵と、捲くし立てるように言い返す花。
そんな二人に諭すように桃は語ります。
「考えてもみてください。千佳先輩は確かに目立つことが好きです」
「お姉ちゃんだからね!」
「ねぇねだもん!」
「……はい。しかし思わぬ事態や知らない内に目立つことに対しては、とても恥ずかしがる傾向にあります」
「確かにそうかも!」
「ファンクラブができたときとかそうだったよねー! 恥ずかしがるねぇねも可愛いけど!」
「まぁ、それは同意ですけどね。ではもしも、私たちが千佳先輩の幼少期を話す会を開いたとします。それを知った千佳先輩はどうすると思いますか?」
「……」
「……」
そう。もしも千佳がこのことを知れば、即刻中止に追い込まれる可能性が高いのです。
普通に幼少期のことを話されること自体、普通の人でも恥ずかしいことなのですから。
「じゃあ、こうしようよー!」
「花、何か案が?」
「花ちゃん、どうすればいいの?」
「簡単だよ!」
花は腕を組んで仁王立ちをして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてふっふっふと笑います。
これは花のねぇね物真似の一つである、悪役なねぇねポーズ。
一頻り笑ったあと二人に指をさして、花は自らの策を口に出すのです。
「ねぇねの本を、作るのだ!」
そして花は恵と桃と共に、協力者を募りました。
ねぇねにはバレないようにね! と秘密裏に進んだ計画には、様々な仲間たちが参加していきます。
思い出を語る役目は花と恵、そして二人の両親。
それを文章として書き起こすのは、普段から原稿を書いている放送部の円と、本が大好きな桃の姉である莉里。
その文章の添削には柚梨と、商店街に書店を構える元出版社の編集者だったベテラン女店長と店員たち。
そしてそれを書籍化するのは、この街に会社を構えている印刷所の方々。
尚、印刷所の社長さんがファンクラブ会員である奥さんと、同じく会員である中学生の娘さんに諭されて参加となりました。
ここで問題になるのが資金です。
しかし校長先生経由で、とある人物から書籍の制作費用は提供されることになりました。
それこそがファンクラブナンバー十一番、実業家でありこの学校の理事長様です。
未だに会ったことの無い理事長には、お礼として家での千佳ちゃん私服スタイルのプロマイドが十枚贈られることになりました。
理事長も女性なので、何も問題はありません。
例えその写真を高級そうな額に飾って、彼女の自室が写真ばかりになっていても何も問題はないのです。
「いよいよ完成だー!」
「わー! 表紙のイラスト、お姉ちゃんのデフォルメで可愛い!」
「ふぅ、何とか完成しましたね。良かったです」
遂に花たちはやり遂げました。
体育館に敷かれた綺麗な布の上、山積みになった四百冊ほどの本、タイトルは『千佳ちゃんファンクラブ公認! 千佳ちゃんの足跡』。
本を抱きかかえて喜ぶ花は、恵と桃と共に本を持って振り返ります。
「それじゃあねぇね、サイン会をお願いねー!」
「な、な、ななな」
花の目線の先には、愛する姉の姿が。
「なんじゃこりゃあああああああああ!?」
自分の思い出が書籍化するなどと思いもしなかった千佳は、頭を抱えて本の山を眺めていました。
背後に笑いを堪える湖月や愛、莉里の姿、そして千佳の横では頭をよしよしと撫でてリンファがいます。
当の本人が絶望と自身の恥ずかしい歴史の流出に呆然としていても、本が完成したという達成感に打ち震えている花にはそれが見えません。
「これで皆にもっと、ねぇねを知ってもらえるよ!」
こうして花主催の書籍化計画は、第二弾へと続いていくでした。
めでたし、めでたし。
「何にもめでたくないよー!!」




