勝利のための単独行動
感想、評価、ブックマークありがとうございます!
残念なお知らせです。不摂生が祟り、また腰痛のため服用していた鎮痛剤の多用により、胃潰瘍になってしまいました。
幸い、胃に穴が開く程では無かったので、薬を飲み、食事制限をすればすぐ治るとのことですが、この食事制限が辛いです。
アルコール、カフェイン、炭酸飲料が駄目。さらには香辛料の効いたような、胃に負担を掛ける料理も駄目。脂っこいのも駄目と、かなり食べられるものが減ってしまいました。
あと、私は吸いませんが、煙草も駄目みたいです。
まぁ、更新には左程影響は無いかと思いますが、もし間隔が空いたら、あいつ今頃みぞおち抑えて悶えてるなと、笑ってください。
無事、二国が派遣した援軍と合流を果たしたシンは、早速澄み渡る青空の下で、作戦会議を行った。
シンは、ルードシュタット侯爵の軍を掌握、いや、サクラという黒竜の力を手に入れてから、既に今後の作戦を考案していた。
「えっ? シン殿は指揮を執らないのですか?」
シンは、掌握した帝国軍の全ての指揮権を、エックハルト王国の援軍の将であるオルレンス伯爵に委ねた。
これにはオルレンス伯爵は勿論のこと、もう一人の援軍の将であるムベーベ国のギギも驚く。
援軍の将に、自軍の全軍の指揮を委ねるというのは、前代未聞の事であった。
が、ギギはシンの説明を受けると、納得し、頷いた。
「先程御覧になられた黒竜…………名はサクラと言うが、あれは俺の命令しか聞かない。それに、竜が近付けば、それだけで馬や象が怯え、使い物にならなくなってしまう。さらにはあの黒竜の力を、存分に発揮させるには、足の遅い軍に帯同させない方が良いと考えている」
「…………確カニ…………象ガ怯エ、暴レデモシタラ、馬鹿ニナラナイ被害ガ出ルダロウ。ソレニシテモ、アノ黒竜ガ、アノ、サクラダトハ…………神ノ御業トハ、ソラ恐ロシキモノデアル」
かつてギギはシンと行動を共にしていた頃に、よくサクラの世話もしていた。
サクラもまた、ギギを群れの仲間として認めており、その仲は良好であった。
先程そのギギに、新たに生まれ変わったサクラを会わせたところ、久しぶりの再会にサクラは浮かれ、ギギを見つけると傍に駆け寄り、嬉しそうに唸り声を上げたが、今は黒竜の身である。
ギギは、近付いて来る黒竜の唸り声に肝を冷やし、咄嗟に冷や汗を流しながら身構えた。
即座に背を見せ、逃げ出さなかったのは、ゴブリン族の将軍としての、戦士としてのプライドがあったからに他ならない。
嬉しそうにするサクラを見て、死を覚悟したギギの顔を、その傍らにいたシンは見て思わず吹き出してしまう。
サクラがテレパスの魔法を使い、ギギの頭に直接話しかける。
最初は驚き、途惑うギギだが、やがてこの黒竜がかつて共に戦った戦友でもある龍馬のサクラであると確信すると、もうサクラがいくら唸り声を上げようとも、怯えることは無かった。
「作戦は既に考えてある」
シンは急遽用意した机の上に、地図を広げた。
「これから俺とサクラは、全力でケンブデン城へと戻り、援軍の到着を皇帝陛下に伝える。それと共に、この作戦の仕掛けに入るつもりだ」
シンは自軍をオルレンス伯爵に任せた。
親友であり血の盟約を結んだギギに任せなかったのは、ギギが率いてきた部隊である戦象と狼騎兵が、これまた黒竜と同じくらい癖の強い部隊であり、下手に帝国軍を任せてしまうと、戦象、狼騎兵の持ち味を、消してしまうことにもなりかねない為であった。
これにはギギも承知していた。
「作戦は至って単純。御二方には、今日この日より十一日後の早朝に、ケンブデン城を取り囲むラ・ロシュエル王国軍の西側から突撃して貰う。これに呼応し、城からも出撃し、出撃した城兵らは正面に総攻撃を加える。おそらく、これで勝てるだろう」
「シン殿は如何いたす?」
「俺は、今より急ぎケンブデン城へと戻り、御二方が来るまでサクラと二人で、ラ・ロシュエル王国軍を叩く。勿論これは、本作戦を成功させるための仕掛けだ」
シンは二人に、自分の考えを余すところなく伝えた。
「なるほど…………つまり黒竜は囮。本命はギギ殿の戦象というわけですな」
「任セロ。我ラ、ムベーベノ戦士ハ、シンノ期待ヲ裏切ラヌ」
「敵、ラ・ロシュエルの将兵らは、おそらく象というものを知らない。もし、知っていたとしても、急には対応出来ないだろう。それに、俺とサクラが必ずや、敵軍に隙を作って見せる」
シンの左右の色の違う目を見て、二人は勝利を確信した。
シンには神の御加護がある。それが、自身の信奉する力信教の神でなく、主神ハルであることが少々オルレンスには残念であったが…………
時は待ってはくれない。こうしている間にも、ケンブデン城では激戦が繰り広げられているだろう。
シンは会議を終えると、自軍の指揮官らに、オルレンス伯爵の指揮に従うよう命じると、サクラの背に乗り、一路ケンブデン城へと向かった。
サクラが、シンの負担を掛けないように配慮しつつ急ぐと、この地よりケンブデン城へは凡そ三日で着くことが出来るだろう。
作戦決行の日まで八日もあれば、仕込には十分であった。
オルレンス、ギギの両将は、飛び去るシンとサクラを見送りつつ、行動を開始した。
ーーー
三日後の夜半、シンは無事ケンブデン城と戻ることが出来た。
実は三日目の日中には到着していたのだが、城を取り囲むラ・ロシュエル王国軍の目に留まらぬよう、夜半まで時間を潰してから帰還したのであった。
シンの黒い装備と、サクラの黒い身体は、闇に溶け込むには最適であった。
それでも、羽音や攻城のために掲げられている篝火が、薄らぼんやりと二人の身体を闇から浮彫りにし、それに極少数の兵が気付くも、攻撃にまでは至らなかった。
シンとサクラは、ケンブデン城の中庭へと降り立った。
直ぐに総司令官代理であるザンドロックが持ち場を部下に任せて、飛んで来た。
「やぁ、空から見ても随分と押し込まれているようだな」
「ああ、卿の拵えた防御網は今や殆どが破壊され、既に機能を失っている。後はこの城壁のみが頼りといったところだ。無事に戻って来たということは…………上手く行ったようだな」
シンの顔を見たザンドロックは、その表情から作戦の成功を悟った。
「ルードシュタット侯爵は討ち取った。そしてその軍を無事掌握し、さらにはムベーベ国、エックハルト王国の二国の援軍とも合流することが出来た」
それを聞いてザンドロックは白い歯を見せ破顔し、それを聞いた周囲の将兵らから歓声が上がった。
そんな将兵らの輪を割って、皇帝が近臣たちを伴って現れた。
一斉に跪こうとする将兵らを、危急の時であると皇帝は手で制した。
「シン! 戻ったか!」
皇帝もまた、シンの顔を見て作戦の成功を知る。
「ああ、すでに援軍との作戦は発動している。さっそく、作戦会議といきたいがいいか?」
皇帝陛下にタメ口を聞けるのは、帝国広しといえどもシンのみである。
これは多くの人々は、シンが異国人であり、大陸共用語や帝国語に堪能ではないからだと思っているが、そうではない。
「余は構わぬが、身体を休めた方が良いのではないか? それぐらいの間、このケンブデン城ももつであろう」
「いや、今言ったようにもう既に新たな作戦は発動している。それに世が明ける前に、またこの城を出なければならん」
「わかった。では、急ぎ作戦会議を始めよう。着いて参れ」
皇帝は颯爽と身を翻した。
ばさりと音を立てて翻る豪奢なマントを見送りつつシンは、自分はここまで優雅に動くことは、一生無理だろうなと苦笑した。
夜半であるが、将たちが急遽呼び集められ、緊急の作戦会議が行われた。
シンのみ、食事を摂りながらの作戦会議である。
片手で白パンをむさぼりつつ、もう片手で指揮棒を用いて卓上の地図を指し示す。
行儀はすこぶる悪いが、ここは戦場。誰も咎める事はない。
第一、その姿を見て、帝国の頂点である皇帝が笑っているのだから仕方が無いのである。
「なるほど、卿らは囮というわけか」
「勿論、総攻撃には俺たちふたりも加わる。後、仕込の間はそちらも普通にしていてくれ」
「了解した。聞いてみれば単純な作戦だが、敵はおそらくは引っかかるであろうな。それにしても竜か…………」
皇帝は顎に手を添え、しばし一人物思いに耽る。
そしてこう考える。自分は軍事には疎いが、それでもわかることが一つあると。
それは、このシンの存在、そして黒竜サクラの存在こそは、これまでの軍事的概念を覆すものに違いないだろうと。
シンと黒竜サクラの登場により、今まで平面上だったのが立体的へと戦争そのものが変貌します。




