表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の剣  作者: 0343
456/461

一撃強襲作戦始動

感想、評価、ブックマークありがとうございます!

長くお待たせして申し訳ありませんでした。

年末年始あたりに、もう一作と共に、数話投稿しようと思っております。

 

 シンとサクラは、そのままケンブデン城で丸一日体を休めた。

 その間、ラ・ロシュエル王国軍の攻撃は無かった。

 実はラ・ロシュエル王国軍では、突然の黒竜の攻撃に驚き、急遽本陣を守るために陣形を変更。

 本陣で指揮を執る国王ロベール二世を守るため、前線に配置しようと試みていた攻城弩弓であるバリスタと、弓兵隊を本陣周りに厚く配置し直していたのだった。

 また、空を自由自在に飛び回る黒竜に、投石という行為が有効かどうかはわからないが、一部の投石機であるカタパルトなども本陣の周辺に急ぎ配置された。

 空に向かって攻撃出来るものは全て、黒竜撃退のために用いられる事となった。

 そのため、弾となる矢や石を確保するために、攻城は一時中断となった。

 これほどまでに黒竜の襲撃を恐れたのは、目の前でその攻撃力を見せつけられたというのもあるが、帝国史にもある、伝説にまでなっている黒竜の存在が大きかった。

 その黒竜は討伐されたが、その時の損害は国が傾きかねないほどの甚大なものであったという。

 ちなみに、シンが皇帝より賜った鎧兜は、その時討伐された黒竜の鱗や皮などの一部が用いられている。


 シンとサクラは、城に到着した翌々日の深夜、月に雲が掛かり暗夜となった時を見計らって、城を発った。

 シンは皇帝はもとより、兵たちに、必ず援軍を率いて戻って来ると約束した。


「サクラ、もう少し高度を上げつつ、一度大きく旋回してくれ。敵陣の様子を空から見たい」


 わかった、とサクラは真っ暗な空の中、体を傾け大きく、ゆっくりと旋回した。

 シンの失った左目に移植された竜の目は、完全な暗闇の中でも昼のように物を見る事が出来る。

 その左目に映ったのは、本陣周りに厚く配された攻城弩弓の数々だった。


「ちっ、敵もどうして打つ手が早い。あれじゃまるでハリネズミだ。迂闊には近寄れないな」


 サクラの、黒竜の鱗をバリスタの矢が貫くことが出来るのかは不明だが、まさか実際に喰らって試すわけにもいかない。

 それにサクラではなく、自分に当たった場合を考えると、それだけで背筋が凍る思いである。


「よし、まぁ鉄条網と塹壕を越えるのにも苦労しているようだし、いましばらくの間は城はもつだろう。サクラ、帝都の方へ…………北に進路を変更。侯爵の軍を追うぞ!」


 了解、とサクラが身を大きく翻し、北へと進路を変えた。

 この数日で、サクラは空を自由自在に飛び回る術を身につけていた。

 本来ならば、竜という生物の身体的構造上、あの程度の小さな翼では、その巨体を浮かせることすら難しい。

 ならばどうしてサクラは、自由自在に空を飛びまわる事が出来るのか?

 それは魔法に秘密があった。

 この世界の、おおよそ航空力学的にあり得ない構造の生物が空を飛ぶことが出来るのは、それらの生物が本能的に魔法を使っているからであった。

 まず一つは、シンが良く使う身体強化の魔法。

 これで飛ぶことが出来る生物は、この魔法をごく自然に使いこなすことで空を飛ぶことが出来るようになる。

 それでも無理な場合は、飛行の魔法を使う。

 この場合、翼や羽は加速や舵取りに用いられるようになるため、体に比べて多少サイズがちぐはぐでも問題が無い。

 サクラのような竜種は、後者の飛行の魔法を日常的にかつ、ごく自然に使いこなしているのである。 


 サクラとシンは暗夜の中、北上を続ける。

 途中、大規模な野営の跡を見つけると着陸し、その形跡からおおよその足取りと距離を測った。


「近いな。侯爵の軍は三万近い。そうそう身軽には動けないはず。サクラ、もし侯爵の軍を見つけても、迂闊に近寄るなよ。仕掛けるのは夜だ。お前の身体が闇に溶ける夜に、上空から一気に侯爵の本陣に仕掛ける」


 シンが今からやろうとしているのは、ピンポイント攻撃による要人暗殺である。

 これのヒントは、現代の誘導爆弾や巡航ミサイルから得ている。

 夜間、上空より一気に急降下しつつサクラのブレス攻撃を用いての一撃強襲。

 これがシンの狙いであった。

 そのためには、こちらの存在が知られてしまうのが一番拙いのである。


「ここからは、速度を落としてでも慎重に行こう。この作戦の肝は、こちらの存在を相手に察知されずに、如何にしてこちらが先に相手を見つけられるかにある。真正面から三万の軍を相手にしたら、いくら俺とお前でも勝ち目は無いからな。あとは、出たとこ勝負だ。サクラ、すまんがお前の命を、今一度、俺に預けてくれ」


 サクラは瞳をゆっくりと閉じながら頷いた。

 サクラにとっては、それは当たり前のことであった。

 大好きな、大切な存在であるシンが行くのならば、自分も行く。

 その先に、どのような苦痛や地獄が待ち受けていようともである。

 竜の身体を得て、急速に知能が発達したサクラは、最初こそ今までと違う様々な思考や感情を持て余していたが、すぐにそれはシンプルなものへと収束していった。

 サクラの抱く想いはただ一つ。

 それは、シンと常に共にあることである。


 シンとサクラは城を出て四日目に、ついに侯爵の軍の影を捉えた。

 シンとサクラは急ぎ進路を変え距離を取ると、サクラの巨体を隠せる場所を探し出して着陸し、夜になるのを静かに待った。

 シンはサクラの巨体に背を預けて瞳を閉じ、夜に備えて身体を休める。

 その間、サクラは首をもたげて周囲を警戒し続ける。


「こうしてお前と二人きりでいると、最初に帝都を出た時のことを思い出す。あの時は本当にお前に会えて良かったと心から思ったもんだ。お前はあの頃から賢く、勇敢で、俺の言う事をよく理解してくれた。交代で寝ずの番をしたときなんか、お前の存在のありがたみが身に染みたもんだ。それまでの野宿といったら酷いもんだ。敵に襲われないように基本的に木の上で、落ちないようにウトウトすることすら許されなかったからな」


 この世界に投げ出され、最初に向かった森の中。

 古都アンティルから逃げ出した後の逃避行。

 今思い出しただけでも、身震いするような過酷で、孤独の夜であった。


「四時間ごとに交代しよう。夏なので、火を焚いて暖を取らずとも良いのが助かるな。食事は硬い携帯食で我慢するしかないが、煙で見つかるよりはマシだ」


 シンは人間なので毎日の食事は欠かせない。

 サクラのような竜種は、食いだめが出来るので一度満腹まで食べれば、しばらくの間は食事を必要とはしない。

 サクラはこの身体になってからまだ一度も食事を摂ってはいなかったが、まだまだ空腹には程遠かった。


 交代で見張りを続けたが何事も無く、夜になった。

 雲一つない晴天。蒼月が煌々と闇を照らし、帯状の星の河が夜空に流れ、色とりどりの星たちが煌めき、漆黒の夜空を賑やかしている。


「ちっ、月が明るいな。雲も無い。どうするか? このまま追尾を続けて、日を改めるか?」


 シンは迷った。

 だが、日数的な余裕は左程ない。

 侯爵を暗殺し、そこからさらに援軍を集めてケンブデン城の救援に向かうにはそれなりの日数が掛かる。


「ええい、ままよ! 行くぞ、サクラ!」


 おー、とサクラのまるでピクニックに行くかのような声に、シンは肩透かしを喰らった。

 だが、それまでの張りつめたような緊張感、上手く行かなかった場合の悲壮感は、それで消し飛んでしまった。


「そうだな、気楽に行くか。上空からの一撃強襲。そこからはハッタリかまして、侯爵の軍をそっくりそのまま頂いちまうとするか」


 侯爵を暗殺すれば、侯爵の軍はその目的を失う。

 そうなった侯爵の軍をシンは如何にして、麾下におさめるのか?

 シンはこの作戦を実行するにあたって、幾つかの小細工を用意していた。

 それが、シンのいうハッタリであった。

 覚悟を決めた一人と一頭は、丸い蒼月と星々が煌めく夜空へと飛び立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ