表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の剣  作者: 0343
454/461

竜眼のシン

沢山の感想、評価、ブックマークありがとうございます!


すいません、風邪をひきました。

感想の返信が滞っておりますが、体調が回復次第、必ず返信致しますので、今しばらくお待ちくださいませ。


 

「何だあれは? なぜ黒竜がラ・ロシュエルを襲っているのか?」


 ケンブデン城の城壁の上から敵が黒竜に襲われ、甚大なる被害を被る様を見ていた帝国軍は、再び大地を蹴り、大空へと飛び上がった黒竜が、城の方へと向かって来るのを見て怖れ慄いた。


「こ、攻撃用意!」


 弓兵たちは命令通り矢を番え、弦を引き絞るが、炎に呑まれ一瞬にして消し炭となった敵兵の姿が頭にこびりつき、身体の震えは止まらず、狙いを定める事すら出来ずにいた。

 それは何も、弓兵だけではない。

 命を下した指揮官たちも、否、このケンブデン城におり、目前で起きた惨劇を目にした全員が同じであった。

 誰かが一人背を見せて逃げ出しでもしようものならば、おそらくは全員が同じように逃げ出すだろうことは明白であった。

 だが、黒竜は城へと近付きはするものの、城壁の外を大きくゆっくりと旋回するのみで、一向に攻撃を仕掛ける素振りを見せない。


「あれは何だ?」


 そう言って兵たちが指差すのは、黒竜の背で振られる大きな旗。

 ただ、その旗は傷付き、ボロボロであり、容易に判別がつかない。

 それでもゆっくりと旋回しつつ、段々と黒竜が近付いて来ると、その旗が敵の晒しものとされていた、シンの旗、八咫烏の旗であることがわかった。


「おーい!」


 黒竜が近付いて来てやっと、その背に人が乗っていることに多くの者が気付き始める。

 何せ、シンの髪の色は黒竜と同じく黒。その上、着ている鎧も黒いのだから、気付かれ難いのも仕方が無いだろう。


「おい、まさかあれは…………」


「あの旗といい、まさか、まさか」


 将兵たちにどよめきが巻き起こる。

 その後、黒竜はやはり攻撃をする素振りを微塵も見せないまま、ゆっくりと旋回した後、城壁の内側へと飛んで来た。


「こ、攻撃用意! ただし、命令あるまで攻撃するな!」


 相手は地上最強の生物の一角を成す黒竜である。

 警戒と攻撃の準備はしつつも、その怒りを買えば、城ごと灰燼に帰す可能性がある以上、迂闊に手出しは出来ない。


 シンは帝国軍が攻撃をしてこないのを見て、サクラに城の中庭に降り立つように命じた。

 降り立った黒竜サクラを取り囲むようにして、槍や剣を構えた騎士や兵たちが集まって来る。

 シンはそれを横目に見ながら颯爽と、サクラの背から飛び降りた。


「攻撃無用! 俺だ、シンだ! この黒竜は味方だ。繰り返す、攻撃無用!」


 八咫烏の旗を右手に持ち、左手でアロイスの首を抱え持つシンがサクラの前に出て叫ぶ。


「シン将軍? おお、その御姿は紛れも無く将軍閣下!」


「おお、生きておられたのですね…………しかしながら、その後ろにいる黒竜はいったいどういうことなのでしょう?」


 騎士たちはシンの姿を確認すると、剣を納めた。

 シンは騎士や兵たちをこれ以上怖がらせないようにと、竜の目を移植された左目をピッタリと閉ざしていた。


「ああ、心配を掛けて済まない。この通り、俺は無事だ。あと、後ろの竜は味方だ。決して攻撃しないように頼むぞ。陛下に会って、色々と報告せねばならない。陛下は何処におわすか?」


「へ、陛下は城内におりまする。ご、ご案内致します…………」


 シンがいくら味方だとは言っても、やはり竜が恐ろしいのだろう。

 案内を買って出た騎士の目は、シンと後ろにいるサクラの間を行ったり来たりを繰り返している。


「将軍!」


 その間に、息を切らせて駆けつけて来たのは、シンの率いた先鋒軍の副将の一人であるヨハンであった。

 ほどなくして、跛行のため、兵の肩を借りたフェリスが現れた。


「二人とも無事だったか!」


「将軍こそよくぞ御無事で…………」


「ああ、だが…………アロイスが…………アロイスは俺の身代わりとなって死んだ…………」


 シンは右手に持った旗を地面に突き刺すと、左手で抱えていたアロイスの首に視線を落とした。

 すでに死後数日経っているその首は、血が抜け落ちて乾いて萎び、腐敗臭が漂い始めている。

 アロイスの首には、討ち取ったときそのままに、黒竜兜が被されている。

 ヨハンはシンに近付き、アロイスの首から兜を外すと、己の纏っていたマントを引き千切って優しく首を包み込んだ。


「落ち込みなされますな将軍。某も、フェリスも、その場に居れば同じことをしたでしょう」


 ヨハンの言葉にフェリスが続く。


「将軍、アロイスの想いを無駄にはしないで頂きたい。アロイスは将軍さえ無事ならば、必ずや最後には帝国が勝利すると信じていたはず」


「ああ、わかっている…………アロイスに…………皆に救って貰った命だ。決して無駄にはしないと誓おう」


 シンは死臭こびりついた兜をそのまま被ろうとするが、ヨハンの手に止められた。


「これより陛下の御前に向かわれるで御座いましょう? それにアロイスは無口で無骨でありながらも、その実は几帳面な男で御座いまして。兜は香を焚き清めてからお返し致しますので、一先ずは預からせて頂きます」


 ヨハンはそのまま、ひょいとシンの手から兜を取り上げた。

 確かに、いくら戦場とはいえ、死臭を漂わせながら皇帝に会うのは不敬かも知れない。

 それに、そのような真似をしては、死んだアロイスに対しても礼を欠いているとも言えなくはない。

 シンは無言でヨハンに会釈しつつ、その配慮に感謝した。


「それでは、陛下の元へとご案内致します」


「その必要は無い!」


 シンの耳に慣れ親しんだ親友の声が響き渡る。

 シンの帰還の報は瞬く間に場内を駆け巡り、皇帝の耳へと届いた。

 皇帝はシンが無事に帰って来たと知り、その場に居ても立っても居られずに、急ぎ中庭へと駆けつけたのだった。


「陛下、危のう御座います!」


「陛下! お下がりくださいませ! 陛下!」


 盾を構え、剣を抜き、皇帝の盾となる近臣たちを押しのけ、ガラント帝国皇帝、ヴィルヘルム七世がシンの前へと進み出る。


「やはり生きておったか…………要らぬ心配をさせおってからに」


「すまない。今回は…………今回も危なかった。また、()()()()()救われたよ」


 そう言ってシンはこれまで閉ざしていた左目を開けた。


「シン! その目はいったい…………」


 皇帝を始め、その場に居る全て者がシンの左目に釘付けとなった。

 シンが瞼を上げたその下には、いつものアイスブルーの瞳ではなく、金色に輝く竜の目があったのだ。


「左目を失った俺に、神様がこの目をくれたのさ」


 シンは御茶目を装い、竜の目でウインクをして見せるが、周りの反応は薄い。


「信じられぬ。いや、信じる他ないであろうな…………人の目に竜の目を宿すなどという御業は、まさに神にしか出来ぬであろうからな」


 シンは自分の予想とは違って、素直にこの竜の目を受け入れた皇帝に、戸惑いながらも第二の爆弾を放った。


「ちなみに、後ろにいる黒竜ブラックドラゴンは、俺の愛馬だったサクラだ。サクラも俺のせいで肉体を失ってな…………神が新しい身体を用意してくれた」


「………………………………」


 皇帝は黙って後ろにいるサクラを見た。

 それに釣られるようにして、周囲の者たちも一斉にサクラに視線を注ぐ。

 サクラは、それを受けて不思議そうにパチクリ、パチクリと瞳を瞬かせた。


「………………神の寵児か……………………」


 神の寵児…………いつぞやの聖戦士騒動の際に、各宗派の神官たちがシンをそう呼んでいたことがあった。


「最早、お主に関して、一々驚くのも馬鹿馬鹿しくなってきたわ。取り敢えず、中に入れ。詳しい話はそれからだ」


 背を向けて城の中へと歩き出す皇帝の後を、シンは追う。


「わかった。サクラ、そういうわけだから、大人しく昼寝でもしててくれ」


「わかった~」


 サクラは頷くと、その場にそっと蹲り、羽根を畳み尻尾を丸めて目を閉じた。


「竜を従え、竜の目を持つ男か…………シン、お主はこれより竜眼のシンと名乗るが良いぞ」


「竜眼のシンねぇ…………二つ名ってのはさ、いざ名乗るとなると、それはそれで結構こっぱずかしいもんなんだぜ」


 皇帝より直々に、新たな二つ名を授かったシンは、照れくさそうに左目を閉じ、指で頬を掻いた。





跛行なら差別用語として引っかからないよね? 多分


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ