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帝国の剣  作者: 0343
452/461

耐えるケンブデン城

感想、評価、ブックマークありがとうございます!

更新遅くなり、申し訳ありません。

中々時間が思うように取れず、感想の返信も遅れており、本当に申し訳ありません。

返信は出来ておりませんが、しっかりと読ませて頂いております。

ご意見、ご感想を真摯に受け止め、より良い作品を生み出せるよう精進いたしますので、これからもどうかよろしくお願いします。

 


 漆黒のドラゴンと、その背に跨る黒い鎧を身に纏った黒髪の青年。

 黒という色そのものを体現したかのような一人と一頭が、夜の闇に完全に溶け込みそうになるのを、頭上で蒼く輝く月がそうはさせじと照らす中を、ただひたすらに北へ向かって飛んでいた。

 シンとサクラは、細かく休憩を繰り返しつつ、帝国軍と皇帝が立て籠もるケンブデン城を目指す。

 まだサクラが飛行に慣れていないのと、シン自身がブーストの魔法を掛けつづけていないと、サクラの背にしがみ付いていられず、消耗した魔力の回復に休憩を必要としたのである。

 鞍も無く、手綱も無く、鐙も無いうえに、風防もなく直接風の抵抗をその身に受けつつ、とっかかりの無いツルツルとした竜の背にしがみ付くのは、想像を絶する体力を消耗する。

 シンでなければ、サクラが軽く体を捻っただけで振り落とされてしまうだろう。

 それにサクラはシンを背に乗せて空を駆けるのが、大層気に入ったらしく、逸る気持ちを抑えられず、どうしても速度を上げがちとなってしまう。

 その度にシンが速度を落とすようにと窘めるのだが、浮かれるサクラに対しては、効果は薄い。


「取り敢えず落ち着いたら、何はともあれ、鞍だけは最優先で作らないとな。そうすれば、サクラももっと自由に飛べるだろうし」


 度々スピードを上げてしまったことを反省しているのか、サクラは御免と謝るように目を伏せながら、シンに鼻先を寄せた。

 シンがそんなサクラの鼻面を手で撫でると、サクラは龍馬であった頃と同じように、目を伏せながらゴロゴロと喉を鳴らした。


「交代で睡眠を取ろう。はは、昔も二人で交代でこうやって夜を過ごしたな…………」


 サクラとであった頃、帝都を発ち迷宮都市を目指して旅をしていた頃は、こうして交代で見張りをしたものである。

 たったの数年前の出来事にもかかわらず、どこか遠い昔のことのように感じてしまうのは、何故だろうか?

 短い年月の中での濃密な経験や体験のせいなのか、それとも互いにその容姿が、以前とは大きく変わってしまったせいなのか。

 シンとサクラは交互に軽く睡眠を取ると、まだ夜が明けてない空を再び駆け巡る。


「この分だと、昼にはケンブデン城に着くな。恐らくケンブデン城は、敵に包囲されているはずだ。急ごう」


 段々と飛行に慣れてきたサクラは、シンの負担を軽くするために一定の速度を保ちつつ、休憩の回数を減らして先を急いだ。




 ーーー



 一方その頃、敵の包囲下にあるケンブデン城では、激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 ケンブデン城は、シン自ら再設計した堅城である。

 城外には、馬防柵は勿論のこと、迷路のように堀り巡らされた堀、さらには歩兵の侵入を防ぐ鉄条網が張り巡らされている。

 このような防備を持つ城を初めて見るラ・ロシュエル軍は、シンの予想通りケンブデン城を攻めあぐねていた。

 だが、ラ・ロシュエル軍はケンブデン城を攻めている内に、その防備に幾つかの穴がある事に気付いた。

 何カ所か、堀や鉄条網の薄い所があったのだ。

 彼らは、見つけた弱点を見て狂喜した。これでこの忌々しい城を落とすことが出来ると。

 だがこれは、シンが仕組んだ狡猾な罠であった。

 一見弱点のように見えるそれは、敵を誘い込む罠であったのだ。

 弱点だと思い込んだ敵は、当然そこに戦力を集中させる。

 だがそこは、城から弓矢や投石が最も行いやすい場所でもあったのだ。

 弱点を突き、一気に城を落とさんとして、猛然と攻撃を仕掛けて来るラ・ロシュエル軍を待ち受けていたのは、無慈悲なる矢と岩の嵐であった。

 その狭い突破口に兵力を集中させていたラ・ロシュエル軍は、その矢と岩の雨に晒され、大損害を被ってしまいその日は兵を退いた。

 翌日、ラ・ロシュエル軍は再びその弱点と見せかけた箇所に、攻撃を仕掛けて来た。

 結果は前日と同じ。

 多大なる損害を被って、兵を退く羽目となる。

 ここで、これが罠であると気が付きそうなものではあるが、そうはならなかった。

 寧ろ、これだけ攻撃が激しいのは、ここが弱点であり、それを補うためであると思い込んでしまったのである。

 殺気立ち、気が高ぶる戦場では、かえってこういった単純な罠の方が引っかかり易く、気付かれにくい。

 ラ・ロシュエル軍はその後も、しつこく弱点であると信じた箇所を無謀にも攻めたて、死体の山を築くのであった。

 それでも、全体的には数に於いて勝るラ・ロシュエル軍が優勢であった。

 兵力差にものをいわせた飽和攻撃により、度々防御陣は崩され、城壁へと取り付かれることが次第に多くなる。

 総司令官であった老ハーゼ亡き後、その代理を務めているザンドロックは、自ら剣を振り、麾下の魔法騎士団を率いて、城壁上を駆け巡り、必死の防戦を繰り広げている。

 今は皇帝自ら死守を宣言している城内の士気は高い。

 だが、援軍の当ても無く、昼夜問わずの敵の攻撃により溜まった疲労は、その士気をじわりじわりと下げていく。

 敵の攻勢の合間を縫って、城内では今後の方針について、議論が交わされていた。


「このままでは、城を枕に討ち死にあるのみで御座います。某らが、活路を開きますので、陛下におかれましては、一旦この城を後にし、帝都にお戻りになり再起を、」


「ならぬ! このケンブデン城を抜かれれば、帝国は南部どころか中部までも失う事となろう。そうなってしまっては、帝都にて決戦を行っても勝てるはずも無し。ここで、このケンブデン城で何としても敵を防がねば、帝国は終わりだと思え!」


「しかしながら陛下、このままでは如何ともしがたく……」


「堪えよ。今はひたすらに耐えるしかない。必ずや、何らかの形を以って事態は好転しよう」


「確かに敵の兵力は多く、その兵站に多大なる負担が掛かってはおりますが、それでも数ヶ月はもつと思われまする。その間、臣が懸念しますのは、先の戦いで戦闘を放棄して離脱したルードシュタット侯爵の事で御座います」


「あの不可解な行動は一体…………」


 ルードシュタット侯爵の一見不可解とも思える行動には、この場に居る臣下たちにも、おおよその予想はついていた。

 ただルードシュタット侯爵は皇帝の義理の父親であるがために、表立っての非難や、その野心からの策謀による行動であるということを、口に出すことが出来なかったのである。


「簡単なことだ。あの男は自らの手を汚さずに、余をラ・ロシュエルによって殺させ、余亡き後、孫であるアルベルトを帝位に就かせ、自ら摂政となり帝国を手に入れる腹積もりよ」


 ざわ、と会議場が揺れた。


「ならばなおのこと、陛下はこの地を脱し、急ぎ帝都へとお戻りにならねばなりますまい」


「無理だな、帝都へ先に着くのは向こうだ。それにあの男が率いている兵力は凡そ三万。この城を脱したとして、傷ついた兵を率いて、ほぼ無傷の三万の兵を討ち破るのは、まず不可能だ。さらに、背後にはラ・ロシュエル軍が迫っているとなれば、迂闊に動けば挟撃される恐れも生じてしまう」


 皇帝は力なく首を振る。

 臣下たちはそれを見て項垂れる他なかった。


「ではこのまま指をくわえ、見ている事しか出来ぬのか!」


「とにかくだ! 目先の敵をどうにかせねば、身動きすら取れぬ」


「ならばいっその事、こちらから打って出て、敵の王を討ち取るというのは? まさか敵もこちらから打って出てくるとはおもってはおりますまい?」


「危険だ。そのようなイチかバチかの策とも言えぬ様な策に、陛下の御命と、帝国の運命を軽々しく賭けるべきではない。ここはまず慎重に守ってだなぁ…………」


「だがこのままでは、帝国が二つに割れかねぬぞ!」


 議論は段々と熱を帯びてはいくが、まとまりは無くなっていく。

 その時誰かが呟いた。

 この場にシン将軍が居れば、と。

 その言葉を聞いた者たちは皆、先程までの白熱した議論はどこへいったのか、しゅんとして口を噤んだ。

 城を取り囲むラ・ロシュエル軍の陣頭には、城兵の士気を下げるために、ボロボロになったシンの旗である八咫烏の旗と、シンの愛剣である巨剣、死の旋風、そして皇帝が自ら与えた黒竜兜が晒されていた。

 ただ一つ、不可解なのは、その黒竜兜を被っている首が、シンではないということだった。

 シンは生きているのか、それとも死んでしまったのか。

 それは、現時点では、城内の誰にもわからぬことであった。



よし、今寝れば三時間半寝れる。

では、また来週~

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