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帝国の剣  作者: 0343
435/461

いよいよ聖戦へ

ブックマークありがとうございます! 感謝です!

更新遅くなり申し訳ありません。

いや~、言い訳させて貰いますと、職場で人が急に二人も辞めてしまい、てんやわんやの状態でして……連日の深残業で書く時間が削られまくっております。

 

 出陣の時が日に日に迫っていた。

 皆不安をかき消すかのように、毎日の訓練は欠かさない。

 今もシンはグイードとユリオの二人を交互に相手している。


「グイードは前とは見違えてタフになったな。持ち前の怪力で得物を振り回せば、それだけで誰も近づけないな。ユリオは全身がまるでバネみたいだ。関節の使い方が上手だし、それを支える足腰もかなり鍛えこんであるな」


 褒められた二人はハァハァと息を荒げており、返事を返す余裕も無く地面に大の字に転がっている。

 交互に二人を相手にしていたシン自身も、肩で息をしているところを見ると、二人の実力は決してお世辞だけのものではないことがわかる。


「そういや、ジュリアはまだゾルターンのところか?」


「ハァハァ、はい、まだ…………」


 苦しそうに喘ぎながら返事をするのはユリオ。だが、精根尽きた身体はピクリとも動かせずに、大地に背を預けたままである。

 エックハルト三人組の紅一点であるジュリアは、賢者として名高いゾルターンに魔法の才を見込まれて、ゾルターンの息子夫婦の家に連れて行かれ、そこで魔法の特訓を受けているという。

 これは、グイードとユリオも魔法が使えるが、この二人はシンとゾルターンの見立てでは、剣士よりの魔法使いであり、ジュリアはどちらかというと魔法使いよりの剣士といった感じである。

 シンも自分はやはり剣士よりの魔法使いであり、グイードとユリオはそのまま自分の経験と理論で教えればよいのだが、ジュリアに関してはどうもしっくりとこない点が多い。

 そこでゾルターンに相談したところゾルターン曰く、ジュリアは一度魔法学の基礎からきちんと学ばせた方が、将来的には才覚を伸ばすのではないかとのことで、ゾルターン預かりの身となったのであった。


「おい、二人ともいつまで寝てるんだ? そんなことじゃ、ゾルターンに鍛えられているジュリアに差を付けられてしまうぞ!」


 二人にもプライドはある。特にグイードは年上である。

 二人は懸命に歯を食いしばって立ち上がると、もう一勝負と木剣を構える。

 その意気や良し! とシンは二人を褒めた後、もう一度二人をコテンパンにのして裏庭の訓練場を後にした。




 ーーー



 出陣の日が来た。

 修行に、息抜きにと、それぞれが思い残す事の無いようにこの一月を過ごした。

 そして誰も口には出さないが、これが冒険者パーティ碧き焔の、おそらくは最後の仕事になるだろうことを予感してもいた。

 帝都の宮殿では、出陣式の前夜に戦勝前祝いのパーティが行われ、シンもそれに軽く参加した後、自宅で同じように仲間内で景気づけのパーティを開いた。

 そして翌日、冒険者パーティ碧き焔は、ガラント帝国とラ・ロシュエル王国との間に起きた聖戦に身を投じるべく出発する。


「エルザ、すまないがお前を連れて行くことは出来ない。が、家長として……まだ式を挙げてないから偉そうなことは言えないんだが、お願いする。この家を俺が帰ってくるまで守ってくれ」


「おまかせくださいまし。このエルザ、旦那様がお帰りになるまで、留守をお預かりいたしますわ!」


 エルザの手には、父親であるガンフーより渡された地久と呼ばれる棍が握られている。

 その地久をクルクルと回し、石突きで地面を叩いて胸を張る。


「ああ、それと大分レオナに仕込まれたようだが、料理の方はもう少しだな…………留守中はハイデマリーに教わっておくように」


 頭頂にピンと二つ立つエルザの耳が、レオナの名を聞いた途端にビクリと震える。

 それを見たシンがレオナの方を振り返ると、レオナがエルザを見てニヤリと口角を上げるのが見えた。

 こりゃ相当絞ったなと思いながら、シンは自分の足にひしとしがみ付いて離さないローザの頭を撫でる。


「ローザ、手を離しておくれ」


 シンが頭を撫でながら優しく声を掛けると、ローザはいやいやと首を振り、より力強くしがみ付いて来る。

 ローザの母親であるハイデマリーが、見かねて娘を引き離そうと近寄るのを手で止め、シンはローザの両脇の下に手を入れると、こちょこちょとくすぐり始めた。

 それでもローザは身を捩りながら堪えようとするが、耐え切れずに手を離した所でシンに抱き上げられてしまう。


「ローザ、いい子でお留守番していたら、いっぱいお土産を買ってきてあげるぞ」


「やー!」


 離れたくないと、ローザは大泣きしながらシンの顔に小さな手を伸ばす。


「ローザを連れて行くと、置いて行かれるアトロポスが寂しいだろう?」


 アトロポスは泣いているローザが心配なのか、後ろ足で立ち上がりシンへともたれ掛かり、ローザの涙を大きな桃色の舌ですくいあげている。

 くすぐったそうに首を竦めるローザの身体を、そのままアトロポスの背に預ける。

 アトロポスは背に跨るローザを落とさないようにと、静かに地に足を付けると、シンに向かって鼻を鳴らしながら尻尾を大きく左右に振った。

 頼んだぞとシンがアトロポスの頭を、わしゃわしゃと撫でると、ローザもまたシンを真似して後ろからアトロポスの頭を撫でた。


「行って来るよ。オイゲン、後の事はよろしく頼む。」


「行ってらっしゃいませお館様。ご武運を……」


 シンは頷くと、振り返って仲間たちを見る。

 レオナ、カイル、エリー、ハンク、ハーベイ、ゾルターン、マーヤ、ロラ、ジュリア、グイード、ユリオ。

 誰一人欠けていない。


「よし、出発だ! 後世の歴史書に記されるほどの大仕事だ。必ずや成功させるぞ!」


 おう、と皆が頷く。

 それを受けたシンも頷く。

 こうして冒険者パーティ碧き焔は、サン・アルン城塞攻略という大任を果たすため、帝都を後にした。



 ーーー



 帝都を発って八日後、一行は後方補給基地であるバルガスタン城に到着する。

 ここでシンと他のメンバーは別れることになる。

 というのも、シンは中央軍を指揮する将軍として前線へと赴かねばならず、また他のメンバーはサン・アルン城塞攻略の時まで、その戦力を温存すべく待機せねばならないからである。


「俺が居ない間のリーダーはレオナ。副リーダーはハンクとゾルターン。もうすでにここには魔導熱気球などのサン・アルン城塞攻略用の装備が運び込まれている。帝都でも散々熱気球の操縦の訓練はしただろうが、ここで今一度最終訓練をしておいてほしい」


「任せて下さい。シン様はこちらのことは心配なさらずに、戦の指揮に専念くださいませ。それと……どうか、御無事で……」


 シンを見上げるレオナの目には多少の潤みがある。

 自身の身を案じてくれるレオナをシンは抱き寄せると、その頬に優しく口づけした。

 あっ、というレオナの小さな驚きの声。そのままうっとりとシンの胸に体を預けようとしたその時、強引にその間に体を割り込ませて来た者がいた。


「マーヤも俺の身を案じてくれるのか?」


 喋ることの出来ないマーヤは、コクコクと頷く。

 ありがとな、とシンはマーヤのレオナにしたのとは反対側の頬にそっと口づけをする。

 そのまま三人は、多少歪ながらも良い雰囲気。だがその空気をぶち壊したのは、一番弟子であるカイルであった。


「師匠、ご武運を!」


 カイルに悪気があったわけではない。その証拠に、カイルの後ろからエリーがレオナとマーヤの二人に、目で詫びている。


「おう、カイル、後でお前には暴れて貰うからな。その時まで力を温存しといてくれよ」


「はい!」


「シン、気を付けろよ。死ぬんじゃないぞ」


「ハンク、縁起でもねぇこと言うなよ。シンなら大丈夫さ」


「じゃが油断は禁物じゃぞ」


 わかっているとシンは笑う。

 そんなシンにロラは実家に古くから伝わるまじないの言葉を掛ける。

 そんなロラの背には、あの禍々しい杖がある。そのことをシンがからかうと、ロラは戦場ですから御似合いでしょう? と笑った。


「シンさん、本当に私が付いて行かなくても大丈夫?」


「俺も怪我をしないように気をつけるから平気さ。エリーは作戦に備えていてくれ」


 わかったとエリーは頷くが、その顔はどこか心配顔である。


「師匠、手柄首を期待していますよ」


「馬鹿ね、ユリオ。師は中央の前線の指揮を一手に引き受けるのよ? 個人的な手柄を立てに行くんじゃないのよ?」


「はっはっは、それでもわが師ならば、大将首の一つや二つ取りそうだがな」


 グイードの大笑に周りの者たちも釣られて笑う。

 手柄は兎も角、勝って無事に戻って来るさとシンも笑う。


 では、またなとシンはレオナとマーヤから離れ、サクラの背に跨るとバルガスタン城の城門を潜り、場外で待機している中央軍の元へと駆けて行った。


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