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帝国の剣  作者: 0343
425/461

二つの髑髏

お待たせ! 相変わらず腰が痛いよ! まぁ、それでも立って歩けるようになったので、ボチボチ更新再開していこうと思います。

ブックマーク、評価、感謝です! もうね、気分が落ち込んでいる時だから、尚更嬉しいですよ!

 

 夕暮れ前に白骨街道を抜けることに成功し、そのまま一番近い村に立ち寄ったシンたちは、そこで一晩の宿を求めると共に馬車と馬を購入した。

 相場の倍以上の値段を吹っかけられたが、シンは値切る事も無くそれを受け入れる。

 シンとしては、何としても馬車を手に入れなければならない理由があるからだ。

 その理由とは、ずばり白骨街道での戦いで得た戦利品の数々。

 シンが持ち帰る事を望んだ地獄百足の頭骨もそうだが、それ以外にも過去の犠牲者が所有していた魔法武具の数々の量が尋常ならざるものであった。

 当然、パーティが所有している一台の馬車には載せきれないので、地獄百足の頭骨は龍馬に牽かせ、その他の魔法武具の類は騎兵であるジュリアたちの馬に積載した。

 機動力に優れた竜騎兵や騎兵の護衛の無いこの状態で帝都までというのは、あまりにも危険すぎると判断したシンは、近くの村に立ち寄り、たとえ常識外れの高値こうじきを吹っ掛けられようとも、必ずや馬車を手に入れなければならないと考えていた。


「かなり吹っ掛けられたが、無事に手に入れられて何よりだ」


「護る対象が一台から二台になっちまったけどな」


 お宝を諦めずに持ち帰る事の出来る喜びが、ハンクとハーベイの言葉の節々から見て取れる。


「まぁ、賊が襲う可能性が高いのは購入した方の馬車だろうよ。布の包んでいるとはいえ、ドデカい地獄百足の頭は注意を引くこと間違いなしだろうからな」


「シン、やっぱりこれ捨てて行かねぇか?」


「馬鹿言え、ハーベイ! こいつにはちゃんとした利用価値があるんだぞ。それに、ここで捨てたりしたらここまでこれを牽いて来たサクラとクロちゃんが怒るだろ」


 それを捨てるなんてとんでもない! と言わんばかりにシンはハーベイに食って掛かる。

 シンの本気さに驚いたハーベイは、慌てて話題を変えた。


「それにしても、あの時のサクラの顔といったら見ものだったよな」


 ハーベイはその時のことを思い出して腹を揺すって笑い出す。

 それに釣られて他の仲間たちも一様に笑い声を上げた。


 話は数時間ほど前まで遡る。

 強敵との戦いに疲れ果てた身体で、見張りを続けるシンが見たのは自身の相棒である龍馬のサクラと、レオナの相棒であるシュヴァルツシャッテンことクロちゃんが、戯れている姿であった。

 この二頭の龍馬もスケルトンとの戦闘に参加し、暴れ回っていたはずなのだが、それでもなお元気が有り余っているのか、二頭は気ままにじゃれ合っていた。

 そのタフネス加減に呆れつつも、シンはボーっとその姿を目で追い続ける。

 考えてみれば、完全武装の人間を乗せて駆けまわるだけの体力を有しているのだから、あの程度の戦闘では物足りないのかも知れない。

 それに警戒心の強い龍馬が、このように気ままに振る舞っているということは、身近に脅威が迫っていない証拠でもある。

 ならば、ここは疲れ切って感覚の鈍った自分よりも、いっその事あの二頭の動きに注意を払っていた方がマシだと考えたのである。

 身体をぶつけ合うようにして、じゃれていた二頭はそれに飽きたのか、別の遊びを始める。

 それは、シンたちの見よう見まねで覚えたと思われるサッカーであった。

 大きく力強い足で、ボールに見立てた何かを蹴り、二頭はそれを奪い合っている。

 だが当然のことだが、ここにはボールは無い。二頭がボールに見立てて蹴っているのは、其処彼処に散らばっているスケルトンの頭骨であった。

 流石のシンも、それを見てあんぐりと大口を開けてしまう。

 流石に不謹慎だから止めさせるか? いやしかし、スケルトンは魔物だし問題無いか? いやでも、元は人間だしやっぱり拙いか? などとシンが考えている内に、足に入れる力が強すぎたのか、サクラが蹴った頭骨が乾いた音を立てて粉々に砕け散ってしまった。

 遊び道具を壊したサクラを責めるように、シュヴァルツシャッテンが唸る。

 バツの悪そうに首をしょげさせるサクラ。そして自分たちをシンが見ていたことに気付いて、一緒に遊ぼうと言わんばかりに嬉しそうに二頭の龍馬が駆けて来る。


「丁度良かった。お前たち二人に頼みたいことがあるんだ。アレなんだが……」


 そう言ってシンは、少し離れた場所に見える地獄百足の頭骨を指差す。

 シンの指先に釣られてその頭骨を見る二頭。


「あのデカい頭骨を、近くの村まで引っ張って行って貰いたいんだが…………」


「ファ?」


 空気の抜けるような鳴き声を上げながら、二頭は首を傾げる。そして振り向き、シンの顔を見て再び首を傾げた。

 その仕草は実に人間臭さに溢れており、何言ってんだコイツといった表情を浮かべている。


「いや、だからよ……お前たち二人で、あの骨を引っ張って持ち帰ろうって話だよ」


 二頭はシンの目をまじまじと見つめる。そしてシンが本気で言っていると知り、あんぐりと口を開け、しばし放心した。

 龍馬は賢い生き物である。人の言葉を、かなりの深さまで理解する事が出来る。

 次の瞬間、二頭は不満を言いたてるように、ギャアギャアと鳴きだした。

 そんな二頭を、シンは必死で宥めに掛かる。

 結局二頭に頭骨を牽かせるかわりに、シンはいくつかの約束をするハメとなってしまった。

 その約束とは、もっと自分たちと一杯遊べとか、もっと食事を豪勢にしろとかの類である。

 こうして何とか地獄百足の頭骨を村まで運ぶことに成功したシンは、村で馬車と馬の他に、頭骨を包む大きな布を、これまた吹っ掛けられた値段で購入したのであった。



 ーーー



 宿を取ったシンたちは、疲れた身体を休めようと試みるが、数時間前の激闘の余韻は色濃く、一度覚醒した言わば戦闘モードの精神は、醒めるまでにまだ幾分かの時間を必要としていた。

 簡単に言えば、体は疲れているが頭は起きてしまっていて寝れないのである。

 なので、自然と皆は集まって談話が始まる。

 そんな中の話題の一つが、ロラが戦利品として貰ったリッチが所有していた杖である。

 ゾルターン曰く、エルダートレントの枯れ枝を用いて作られたその杖は、時価にしてざっとではあるが、金貨数百枚から桁が上がって数千枚はするのではないかという。

 だが、その価値を聞いても、その杖を自ら率先して欲しがる者はパーティの中には一人もいない。

 何せ、その杖の見た目があまりにも禍々しいものであるからだ。

 ゾルターンの鑑定の結果、呪いの類は掛かっていない事は判明しているのだが、エルダートレントの枯れ枝に、何らかの魔物の血を浸み込ませた赤黒い杖は、不気味そのものであった。

 さらには、止せばいいのに杖の上端には髑髏が彫られており、その左の目にはサファイア、右の目にはルビーが埋め込まれている。

 おそらくはその二つの宝石に魔法回路が組み込まれているのだろう。鑑定の結果、どのくらいの効率なのかは不明だが、この杖には大気から魔力を吸引し、持ち手に還元する効果があるのだという。

 魔導士から見れば、破格の性能。誰もが涎を出さんばかりに欲しがる一品ではある。

 だが、この杖を手に入れたロラの顔色は暗い。


「…………可愛くない…………」


 ぼそりとロラが呟く。

 長命種であるエルフのロラの年齢は八十六歳。普人種に換算すれば、二十歳そこそこである。

 花盛りの年頃でもあるし、何よりロラ自身の趣味にこの杖は全くを以って合わないのだ。


「そう言うなよ。今回のお宝の中で、その杖は間違いなく一番の物だし、戦いに於いても無類の強さを発揮する代物なんだろ?」


 見かねたハーベイの励ますような言葉も、ロラの長い耳には届かない。

 でも……と、不気味な髑髏とにらめっこをしているロラを見て、エリーが何かを思いついたのか、ポンと手を叩いた。


「いい考えがあるわ、ほら、これをこうすれば…………あれ? 可愛くならないわ……どうしよう」


 エリーはそう言いながらその杖の、しかもよりによって髑髏の額の部分に鮮やかな桃色のリボンを結びつけた。蝋燭の灯を受けてキラリと光る両目の宝石。そのすぐ上に巻かれた桃色のリボン。

 どこの誰が、リボンを付けた髑髏をかわいいと思うのだろうか?

 それを見たシンたちは唖然とし言葉も出ない。そして無言のまま、全員の非難の視線がエリーを貫く。

 親友であるレオナにエリーは救いを求めるが、レオナは呆れたように首を振った。

 恋人であるカイルの方も見るも、カイルはエリーに対して、憐れんだ目を向けるのみである。


「エリー、お前なぁ…………それじゃ不気味さの方向性が変わっただけじゃねぇか! アホか! ロラ、そいつは普段、それを入れる袋か何かを作ってしまっとけ。そうだなぁ……それを入れる袋には、華やかに刺繍なんか施してな…………で、いざという時にそいつをその袋から取り出して見ろよ。敵さんはそのあまりのギャップに、肝を冷やすだろうぜ。それともう一つ、前に言ってただろ…………ギルドに一人で行くと、声を掛けられまくって迷惑だと」


「なに! それは本当か! シン!」


 そういきり立つハンクを無視してシンは話を続ける。 


「だからギルドに一人で行くときは、その杖を持って行け。そうすれば、いい虫除けになるだろうぜ。不気味ってのも、使いようによっては役に立つものさ」


 なるほど、とロラは思った。杖は価値もあり、実用的であるため手放す気はない。

 だがこの不気味な杖をそのまま持ち歩くことに抵抗があっただけで、ならば普段は布に包むなり、袋にしまうなりしておけばいいだけのことである。

 ロラは決めた。袋にしようと。そしてその袋には、自分の好きな花の刺繍をたくさん入れようと。

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