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帝国の剣  作者: 0343
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白骨街道の戦い 其の三

評価、ブックマークありがとうございます! 今週はちょっと忙しくて、更新が遅くなってしまいました。



「長期戦だ、体力と魔力の配分に注意しろ! 俺とレオナ、カイルの三人で交互に仕掛けて、足を一本ずつ切り落とすぞ。ゾルターンは魔力を温存。酸のブレスに気をつけろ、まともに喰らえば即死だからな! 常に頭の位置と向いている方向に気を配って戦え!」


 シンとしては大変に不本意な命令である。個人ないし、少人数での戦いとは、出来る限り短時間で済ませなければならないというのが、シンのこの世界で得た信条である。

 なぜならば、体力、魔力だけではなく、人の精神力、集中力には限りがあるからだ。

 地獄百足のように、一撃で命を奪うような相手との戦いは、短時間でも心身の消耗を強いられる。

 そのような敵と長時間相対すれば、必ず何処かで誰かしらがヘマをするのは目に見えている。

 だが、硬い装甲のような骨格をそのまま打ち破る術がない以上、時間を掛けてでも相手の動きを封じてしまう他は無いのであった。

 

 パーティリーダーであるシンの声に従って、最初に地獄百足に仕掛けたのは、三人の中で一番年下で血気盛んなカイルであった。


「ええい、鬱陶しい!」


 カイルは右腕に持つ愛刀、岩切を振り、自身にまとわりついて来る亡霊たちを薙ぎ払う。

 切り払われた亡霊たちは、苦悶の表情を浮かべながら、二度目の断末魔を上げながら宙へと霧散していく。

 それら亡霊の妨害を振り切って、地獄百足に接近。今度は見事に、歩肢の関節と関節との間に刃を入れ、一息に斬り飛ばす。

 このままもう一本と行きたがる、自分の逸る心を鎮めながら、カイルは大きく後ろに跳び退る。

 その間シンは、地獄百足の前方に出て注意を引き付け、カイルを援護している。

 今度はカイルが退いたのを目で確認したレオナが、反対側から助走もなしに一気に地獄百足に肉薄する。

 シンの剣技を剛とするならば、レオナの剣は柔。身体全体を柔らかく使い、正確に急所に刃を立てる、そんな剣技である。

 そしてそのレオナの剣技は、カイル同様見事地獄百足の関節の隙間を捉え、歩肢の切断に成功する。

 相次ぐ歩肢の切断に、流石の地獄百足もシンにばかりに構ってはいられない。

 大きく上体を持ち上げ、その鎌首を翻して後ろ側面から仕掛けて来る、小癪な敵を酸のブレスで牽制しようと試みる。

 レオナが風の精霊シルフの力を借りて素早く後ろに下がったのと、鎌首をもたげた地獄百足が自ら作った大きな隙を、シンは見逃すはずも無い。

 大きく息を吸うと地獄百足の腹元へと一気に飛び込み、宙に浮かせている歩肢の一つを切り飛ばす。

 その際、シンは自分の刀が微かではあるのだが、歩肢の外皮の硬い部分に当たった手応えをその手に感じた。

 そして自分は、あの二人よりも剣技が雑であることを痛感する。

 思い返せば今まで、力押しの戦いが多かった。そのせいか、いつしか剣技の冴えは失われてしまったのかもしれないと。

 この戦いが無事終わったならば、弟子であるカイルに頭を下げ、剣技の妙の教えを乞おうと考えていた。

 三人に次々と歩肢を斬り飛ばされた地獄百足は、再びとぐろを巻いて体勢を整えようとするが、今度はシンが丁度、全長の中心部分の背板と背板の間に突き立てた大剣が邪魔をして、その動きを阻害する。

 またしても好機到来である。三人は声を掛けあいながら、ヒットアンドアウェイを繰り返し、次々と地獄百足の歩肢を刈り取っていく。

 時間にしておよそ三十分あまり………巧みな連携攻撃により、次々と歩肢を失った地獄百足は、最早素早く動くことも敵わず、地に伏しその場で身悶えるのみ。

 だが油断は出来ない。時折吐き出す酸のブレス攻撃は健在、しかも暴れながら吐くため、迂闊には近づけない。


「問題はどうやって仕留めるかだが………やはり首を落とすのが一番だろうな……」


 バタンバタンと大きな音を立てて暴れる地獄百足をながら、シンが呟く。

 すでに大勢は決してはいるのだが、ここに来てシンたちは地獄百足を攻めあぐねている。

 

「ああも暴れられてしまってはのぅ…………首根っこを押さえつけることは出来るのじゃが、それも数秒ではの」


「ゾルターン、そんなことが可能なのか? 数秒と言えどアイツの動きを、首を押さえつけることが」


 出来るが、本当に数秒じゃぞとゾルターンは念を押す。


「よし、決めた! カイル、二人の魔法剣で仕留めるぞ。使う技は裂空斬。左右からフルパワーで尚且つ狙いを絞って二人同時に放つ。狙うは首筋の関節の隙間だ、いいな?」


 シンの声にカイルは頷き、それと共に地獄百足の反対側へと駈け出して行く。


「爺さん、頼むぜ! それぞれの準備が出来次第、仕掛ける! レオナ、その間すまんがアイツの注意を引き付けておいてくれ!」


 了解! とレオナは地獄百足の前へと躍り出て、弱いウインドカッターの魔法などを放って注意を引こうと試みる。

 その間、シンとカイルは位置取りを終えて刀に魔力を込めている。


「シン、儂の方はいつでも良いぞ!」


「師匠、こっちもです!」


 カイルに遅れること数秒、シンの方も準備が整う。


「よし! 爺さん、頼む!」


 シンの声と共にゾルターンは魔法の詠唱を始める。シンから魔法の理の一部を聞かされてから、ゾルターンも無詠唱、短詠唱を心掛けており、このような長々とした詠唱は久しぶりである。

 何の魔法かと、シンは地獄百足から目を離さずに耳を立て、その詠唱を聞き取ろうとするが、直ぐに軽く被りを振ってそれらの雑念を振り払い、目の前の自分が成すべきことだけに集中する。

 

「アースバインド!」


 詠唱が終わり、ゾルターンの魔法が放たれる。

 その魔法は、地獄百足の足元や周辺の地面を盛り上げ、その身体を覆うというものであった。

 頭と首筋以外を、突如身体を土砂に埋もれさせられた地獄百足は、身動きも取れなく動きを止める。


「今だ、行くぞ、カイル! 烈風斬!」


 二人がほぼ同時に放った魔法剣、烈風斬は真空の刃となり、身動きせずに身悶える地獄百足の首筋へと吸い込まれていく。

 着弾から一秒、二秒と時間が過ぎてていく。


「だ、駄目なのか?」


 首筋の関節を上手く捉えることが出来なかったのかとシンが、吹き出した汗まみれの顔に苦渋の表情を浮かべたその時である。

 ゴロリと地獄百足の首が胴と切り離され、そのままゴロゴロと街道の上を転がる。

 転がる地獄百足の窪んだ双眸には、見た者を震え上がらせる青白い炎は影も形もなく、首を失った胴体もピクリとも動かないでいる。


「やったのか、はぁ~」


 全精力を使い果たしたシンは、膝を折りその場に崩れ落ちそうになるも、天国丸を地に突き刺して杖代わりにして、もたれ掛かる。

 反対側にいるカイルもまた、尻もちをついてへたり込んでいる。

 大魔法を使ったゾルターンはというと、杖を手に持ったままうつ伏せに倒れ込んでいる。


「ゾルターン、爺さん、大丈夫か!」


 シンはよろよろと立ち上がりながら、ゾルターンへ声を掛ける。


「おお、何とかまだ生きとるわい。それで、あやつはどうした? 仕留めたか?」


「ああ、首を落とされてから全く動かなくなった。一度馬車まで引くぞ、立てるか?」


「しんどいのぅ……じゃがこのままここで寝るわけにはいかん。よっこら、せい!」


 ゾルターンも大分無理をしたのだろう。突き立てた杖に体を預けながら、これまたヨロヨロと、まるで生まれたての小鹿のような覚束ない足腰で立ち上がる。

 そんなゾルターンの元へ、シンがゆっくりとした足取りで近づくと、反対側から近付いて来る、レオナに肩を借りているカイルと目があった。


「やったな!」


 シンが手を前に出して親指を突き立てると、カイルは声を出すのもきついのか、そのまま笑顔で頷いた。

 体力的にも、魔力的にも限界近い四人が集まり、勝利の余韻に浸っていたその時、街道の先……帝国へと帰還するために向かう方向である北から、コツリ、コツリと街道の石畳を突くような音が聞こえて来る。

 その音は規則正しく、そしてシンたち四人の耳の中へ、無理やり入り込むように聞こえて来るのである。

 得も言われぬ不安と恐怖が四人の心を占め、思わず身震いをする中、シンは小声で新たな指示を出した。


「あの音の正体が何なのかはわからないが、消耗しきった今の俺たちが、このままそれを確かめるのは危険だ。一旦馬車の近くまで退く。後ろも気になるしな……その上で、余力のある者を前にして再編成して、有事に備えるぞ」


 レオナ、カイル、ゾルターンの三人は頷き、それを受けてシンもまた頷くと、最後尾をレオナが務めながらゆっくりと後ろへ、馬車の方へと下がっていった。



 

 

 

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