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帝国の剣  作者: 0343
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白骨街道の戦い 其の一

春眠暁を覚えず……眠いよ、いくら寝ても寝たりない


 昼間だと言うのに薄暗く、足元にミルク色の靄が掛かる街道で、三騎の騎兵同士が交差する。

 片方は若者の瑞々しい生気にあふれ、もう片方は地獄から蘇りし骸に禍々しい瘴気を纏っている。

 先頭を行くグイードは手綱を腕に巻き付けると、片手半剣を両手で握り直し、一気に上段から骸骨騎士目掛けて打ち下ろす。

 骸骨騎士は剣を下から掬い上げるようにしてそれを防ごうと試みるが、馬上ゆえ踏ん張りが利かずにグイードの剣に屈し、肩口から一気に切り下げられてしまう。

 それだけなら未だしも、グイードの剣圧はそのまま骸骨騎士を背に乗せている骸骨馬の背骨まで叩き折ってしまったのだ。

 骸骨騎士は落馬しながら骨という骨を四散させ、背骨を砕かれた骸骨馬は転びながらバラバラになっていく。

 グイードが馬足を緩めて振り向くと、二人の僚友たちもそれぞれ頭蓋を叩き割り、背骨を打ち砕きして骸骨騎士を葬り去っていた。


「なろほど、師の仰られる通りだ。得心がいった」


 グイードの言葉にユリオとジュリアも頷く。


「乾いた骨は硬度は上がるが、強度は落ちる……か……最初は何の謎掛けかと思っけどな……」


 ユリオとジュリアが倒したのは骸骨馬に騎乗していた騎士だけであったが、騎手を失った骸骨馬は元々交戦する気が無かったかのように、そのまま街道をそれて走り去って行った。


「エリーさんも言っていたわ……新鮮な骨は弾力があるのよって…………最初に言われた時には、一体何の話かと思ったけどね」


「こいつら、カラっからに乾燥しているせいか、師の言う通り硬いが脆いな」


「ええ、シン師匠は迷宮で、散々スケルトンなどのアンデッドモンスターと戦ったと言っていたわ。やっぱり何だかんだ言っても、経験に勝るものはないわね」


「俺たちだって今日、貴重な経験を得たのだ。これからだよ……」


 自分たちは国から見捨てられたのではない、腕を磨くために自ら国を出たのだと、以前グイードが言っていたことを二人は思い出す。 


「取り敢えず騎兵は片付けたし、急いで馬車まで戻ろう」


「待って! どうもそうは行かないみたいよ……」


 ジュリアの剣先が街道の先を指示す方向を、グイードとユリオは見た。

 靄を蹴り分けて進んで来るそれは、先程と同じ騎兵ではあったが、近付いて来るにつれその異形の姿が目に映る。


「何だあれは! 人か馬か?」


「上半分が人で、下半分が馬みたい」


「邪悪な魔導士が戯れに作った死霊か何かか?」


 半人半馬、その姿をもしシンが見ていればピンと来たかもしれない。

 近付いて来る新たな魔物、それは亜人の一種であるケンタウロスのスケルトンだったのだ。

 三人は、亜人種の一種であるケンタウロスを知らなかった。何故なら、ケンタウロスはこの中央大陸には、過去現在に至るまで一人たりとも生息していなかったからである。

 そのため、敵はただの亜人種のスケルトンなのだが、見た事の無い異形に驚いてしまったのも無理のない話であった。


「強敵かもしれん、気を抜くなよ!」


「ええ、恐らくは騎兵と同じような動きでしょうけど……」


「敵の武装はさっきと違って槍、リーチ差があるな……ジュリア、魔剣の力で奴等の足を止めてくれないか? その隙を突いて俺とグイードが懐に飛び込んで、一気に片を付ける」


 わかったわ、とジュリアが魔剣、水竜の涙に魔力を込める。

 水竜の涙に魔力を込めるのが相当キツイのだろう。ジュリアの整った鼻梁を伝って汗が滴り落ちている。

 敵との距離が二十メートルを切ったその時、ジュリアは雄叫びと共に水竜の涙の力を解き放った。

 それに合わせ、一歩遅れでグイードとユリオが馬腹を蹴って敵目掛けて駈け出して行く。

 水竜の涙から放たれた高圧水流が、ケンタウロス・スケルトンたちの前足を真一文字に薙いでいく。

 その水流の力によって、バランスを崩したケンタウロス・スケルトンたちは、そのまま前転してバラバラに砕け散ってしまった。

 それを見てグイードとユリオは、慌てて手綱を引いて馬足を緩め、馬を竿立たせて急停止する。


「た、倒したのか? たったあれだけの攻撃で?」


「見かけ倒しにも程があるな……」


 バラバラに散らばった骨片を見て呆れる二人。

 

「はぁはぁ、あ、あんなに、よ、わいとわかって、いたら、つかわなかった、のに…………」


 馬上で天を仰ぎつつ、苦しげに喘ぎながらジュリアは不甲斐ない敵に激怒する。


「な、何にせよ良かったということで……馬車に戻ろう」


 苦しげに喘いでいるジュリアを見て、作戦の発案者であるユリオはバツの悪い顔を浮かべる。

 よくない、とジュリアはやり場のない怒りをその美しい瞳に宿しながらも、馬首を翻して馬車へと駈け出して行く。

 それを見たグイードとユリオは、互いに視線を交わし、肩を竦めてからいきり立つ僚友の後を追った。



ーーー



 一方、馬車の方はというと、後から後から次々と湧いて出て来るスケルトンの数にやや押され気味であった。

 

「おっ、こいついい剣もってやがるな! よっと、剣を合わせて刃こぼれさせちゃ勿体無いなっと!」


 数に押されているとはいえ、ハーベイはスケルトンの手に持つ剣を、戦いながら品定めするくらいの余裕はある。

 そのハーベイと長年共に戦ってきたハンクもまた、スケルトンが被っている品の良い兜を傷つけないようにと、頭蓋を砕かずにわざわざ手足の骨を砕いている。


「後で、回収、したい、ところだなっと!」


「ちょっと、二人とも真面目に戦いなさいよ!」


 それを見たエリーが、二人に檄を飛ばす。


「へいへい、でもよ……こいつら数が多いだけでなっと、迷宮の骨どもよりも質が落ちるっていうか……」


「確かにハーベイの言う通りだ。思うんだが、骨が古すぎるんじゃないか? 下手すりゃ俺たちでも素手で砕けると思えるほどに、脆いんだよな」


 ハンクとハーベイは、迷宮で数えるのもうんざりするほど、スケルトンと戦ってきた経験がある。

 そんな二人が口をそろえて言うのだから、恐らくここのスケルトンが迷宮のスケルトンよりも弱いというのは真実なのだろう。


「じゃが、数は多いぞ! 油断は禁物じゃ! それにさっさと片付けねばシンたちの援護が出来ぬ!」


 ミスリル銀製の杖を振り回し、スケルトンの頭蓋骨を砕きながらゾルターンが叫ぶ。

 一体一体が弱いといっても、魔導士であるゾルターン自らが、杖を以ってスケルトンを打ち払わねばならないほど、敵の数は多い。

 馬の護衛にまわされた龍馬のサクラとシュヴァルツシャッテンも、倒しても倒しても湧いて出て来るスケルトンを見て、鬱陶し気に低く唸る。

 

「伏せて!」


 ロラの澄んだ鈴のような声が響き、全員が咄嗟に身を屈める。

 バラバラと頭上から降り注いでくる矢の軌道を、ロラがシルフの力を借りて風を起こしてあらぬ方向へと変えていく。


「クソ! 奴等味方ごと撃って来やがる!」


「味方といっても骨だからな、矢はあまり効かないしって……流石に不味いぞこれは!」


 いくら弱いといえども、スケルトンと戦いつつ頭上から降り注ぐ矢を躱すのは不可能である。

 このままでは、そのうち誰かがスケルトンの剣か、矢に倒れかねない。

 マーヤは馬車の幌に突き刺さる矢を見ると、エルザ一人にその場を任せ、単身骨の海へとその身を躍らせていく。

 殴り、蹴り、文字通りその身をフルに使って、群がるスケルトンを掻き分け、骸骨弓兵を目指して進む。

 シャア、とマーヤの口から声にならぬ雄叫びが吐き、両の拳と足にブーストの魔法を掛けたマーヤは、次々とスケルトンを爆砕するが、次から次へと目の前に現れる新手に阻まれ、その脚が止まってしまう。


「はっ!」


 その時である、マーヤを取り囲もうとするスケルトンたちを、エルザの棒が薙ぎ払う。

 マーヤは振り向き、馬車の護衛はどうしたのかと目で問うと、


「三人が戻って来ましてよ! さぁ、あの鬱陶しい弓兵たちを片付けてしまいなさいな!」


 とエルザが叫ぶ。

 あれ? 何で私がエルザに命令されているのだろう、とマーヤは腑に落ちずキョトンとした表情を浮かべてしまう。

 だが、何はともあれこの機を逃すわけにはいかず、マーヤは自分に向かって来たスケルトンをエルザに全て押し付けると、再び弓兵を倒すべく前へ、前へとスケルトンたちを打ち倒しながら進んで行った。



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