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帝国の剣  作者: 0343
418/461

地獄百足


「わたくしも着いて行きますわ!」


 白骨街道を駆け抜けて、いざ帝国へと旅装を整える一行の前に、これまた旅装を整えたエルザが現れた。

 シンは危険だから連れてはいけないと、同行を拒んだがエルザは納得せずに、子供のように駄々をこねる。


「わたくしはこれでも戦士の試練を受け、獅子族の戦士として認められてますのよ! 骸骨スケルトンの十や二十、わたくしの相手にもなりませんわ!」


 こりゃ駄目だと、父親であるガンフーに説得して貰おうとするが、ガンフーは腹を揺すりながら笑い、取り合わないどころか、娘を応援し出す始末である。


「がはははは、危険を知りつつも臆すどころか、逆に自ら率先して赴くか! それでこそ我が娘よ。義息子シン、エルザは確かにレオナよりは弱っちいが、それでも本人の言う通り、獅子族の戦士としての一定の技量は有しておる。まぁ、足手纏いにはならんだろう」


「だが白骨街道ってのは、危険な場所なんだろう?」


 シンとしては、一刻も早く帝国へと帰還せねばならず、たとえ味方であり、それなりの技量を有していても、碌な連携訓練もしていない者を危険な場所へと連れて行きたくはないのだ。


「まぁ白骨街道は、近付いただけで良くない場所だという気配は感じる。だが、儂も通った事は無いのだ。もしかしたら、数々の恐ろしい伝承や噂話などは、与太話の類かも知れぬ。たとえ噂話や言い伝えが事実であったとしても、奥へ奥へと深入りせずに戻ってくれば良いだけのこと。その見極めも、お主ならば出来よう」


 確かにガンフーの言う通り、白骨街道まで赴いき、自身の直感が警鐘を鳴らしたのならば、無理をせずに引き返すつもりではあった。

 この緊迫した事態において、近道の誘惑には逆らうことは出来ない。

 これ以上話して時間を使うよりかはと、エルザの同行を認めることにした。




ーーー



「ここから先が、例の白骨街道か……確かに、薄気味悪い感じがするぜ……」


「真っ昼間だというのに薄暗いのぅ。目を凝らすと、薄っすらと瘴気が漂っておるのが見えるわい」


 エルザの案内もあり、シンたちは白骨街道にすんなりと着くことが出来た。

 問題はここからである。見た感じで、既に禍々しい雰囲気がプンプンと鼻につくのだ。


「ここまで来て今更迷っていても仕方が無い。みんな、覚悟はいいか?」


 問題無い、行こう、行きましょうと仲間たちが頷く。


「無理だと感じた時点で、引き返すからその積りでいてくれ」


「きっとただの古戦場跡だろうぜ、噂話が大きく成長しちまっただけのことよ」


 ハーベイが悪ガキのように、鼻を指で擦る。


「師匠、問題ありませんよ。悪霊の類が現れても、ここにいる全員が魔法武器を所持していますし、いくらでも対処可能ですから」


 カイルも自信満々の顔で、腰の岩切の柄に手を掛ける。


「そうですわ! ここで臆したとあれば、父上からこれを借りて来た意味がありませんもの!」


 そう言ってエルザが自慢げに、ブンブンと風切音を鳴らしながら振り回すのは、シンとガンフーが戦った試しの儀で使われた、獅子族の宝ともいえる天長地久の一対の片割れである、地久であった。

 なんだかんだ勇ましいことを言っていながらも、ガンフーも娘を心配してはいるのだろう。

 でなければ、このような武器を貸し与えたりはしないはずである。


「頼りにしてるぞ。エルザは馬車の護衛を頼む」


 馬車の護衛といえば、素人は足手纏い扱いされていると考えるのだろうが、それは違う。

 パーティ唯一の馬車には、何よりも大切な食料と水が積んであるのだ。

 長旅でこれを失うことは、絶対に許されない事なのだ。

 第一、足手纏いならば、自分の傍の目の届くところに配しなければ意味が無いのである。

 シンはエルザの、くだらない発端から始まりはしたものの、その戦闘能力自体は疑ってはいなかった。

 それはあの戦いを見ていた誰もが感じており、それ自体に異論を唱える者はいなかったのである。

 唯一の心配事は、他者との連携。これは一朝一夕で身に着くものではなく、それこそ互いの癖などまでもを考慮しなければならないため、今回はエルザをパーティの基幹から外さざるを得なかったのである。

 ならばいっその事、馬車を護衛するという一点に特化させたほうが、本人も、リーダーであるシンもやりやすいという考えもあった。


「では出発するぞ。警戒態勢は厳、先頭は俺とレオナ、馬車の右をカイルとハーベイ、左をハンクとロラ、ゾルターンはエリーと御者台の上から見張ってくれ。マーヤとエルザは馬車のすぐ後ろ、グイード、ユリオ、ジュリアの三騎は最後尾を頼む。三人は騎馬だから、場合によっては俺やレオナと共に前を駆けて貰うかも知れないのでその積りで」


 応、という返事と共にそれぞれが配置につく。

 普段はお茶らけているハーベイも、事あるごとにワインをがぶ飲みするゾルターンも、こういった時にはきちんとメリハリをつけられる超一流の冒険者である。

 配置に就いたことを確認すると、シンは武器を手に持ちながらゆっくりと愛馬サクラの馬腹を蹴って、前へと進み出す。

 街道に一歩踏み込んだ瞬間から、空気の質がねっとりと全身に絡みつくような感覚にとらわれる。

 シンがその両目に魔力を送り込んで道の先を見ると、紫掛かったもやのようなものが、薄っすらと漂っているのが見える。

 これがゾルターンが先程言った、瘴気というものなのだろう。

 だが、その厳重極まりない警戒とは裏腹に、一行は実に何事も無くどんどんと先へと進んでいくことが出来てしまう。

 皆が白骨街道に関する話は、単なる噂話、与太話かと思い始める中でただ一人、ハーベイだけが注意を喚起する。


「おい、みんな気をつけろ! ここはやっぱり普通じゃないぞ。さっきから、空には鳥の一羽すら飛んでは無いし、動物などの鳴き声や気配もしない」


 それを聞いてシンは振り返り、マーヤとエルザに問いかける。


「マーヤ、エルザ、何か臭うか?」


 問い掛けられたマーヤは指で鼻を摘まんで顔を顰めて見せる。


「先程から、マーヤさんもわたくしも、なにかそう……古びた物が朽ちたような……そんな匂いが……」


 その時である。二人の耳が、何かの微かな音を捉えてピクリと跳ねた。

 シンはそれを見て、全員に敵襲を告げる。


「やられたぞ! 誘い込まれたんだ。丁度半分を過ぎたあたりじゃないか? ここまで何事も無ければ、そりゃ少しぐらいは油断するわな……来るぞ、全員戦闘用意!」


 後方からパカラッ、パカラッと軽快な馬の駆け足の音が近付いて来る。

 後ろを守る三騎は馬首を翻し、マーヤとエルザもそれぞれ武器を構える。

 後方から近付いてきたのは騎兵、それが三騎。だが普通と違っているのは、その馬も跨っている騎士も白骨化しているのである。


「迎撃せよ!」


 グイードが吠え、剣を天に掲げる。

 それに呼応するように、ユリオとジュリアも剣を天高く掲げて応えると、我先にと馬を駆る。


「一人、一体よ!」


「馬車には近づけさせん!」


現世うつしよを彷徨う亡者よ、二度と彷徨い出る事の無いよう、くびきから解き放たってくれよう!」


 三人が骸骨騎兵スケルトンナイトを迎え撃つために馬車を離れた瞬間、街道の脇に生い茂る草むらの中から、次々と骸骨兵スケルトンソルジャーが立ち上がる。

 その手には赤錆びの浮いた剣や槍、身体には解れ、腐った衣服や錆びて穴の開いた鎧などを身に纏い、虚ろな眼窩には青白い火を灯している。


「囲まれているわ!」


 御者台から周りを見渡したエリーの声が響く。


「畜生! この瘴気のせいで、感覚が狂わされちまったんだ。それにこいつらは生き物じゃねぇからな、気配も何も感じさせないってわけだ!」


 ハーベイが悪態をつきながら、短槍を地に突き刺す。相手はスケルトンであるため、刺突武器は効果が薄い。

 腰から長剣を抜き放つと、手にぺっ、と唾を吐いてから力強く柄を握り締めた。


「待ち伏せのプロだな! 確かに古戦場跡程度と思っていたせいで、そこいらに骨が転がっていても気にも留めなかったぜ。シン、どうする? 走って振り切るか?」


 ハンクに返事をしようと口を開きかけたシンが目にしたのは、街道の先からうねるようにして近付いて来る白い大きな怪物の姿であった。


「あれは、地獄百足ヘルセンチピード!」


 ゾルターンが驚愕の表情で御者台から叫ぶ。


「知ってるのか、ゾルターン!」


「帝都の書庫で見た魔物図鑑に載っておっての。その姿を見て生き残った者はいないと書かれておった」


 それを聞いたシンは、そいつは出来の悪い冗談だなと笑う。


「生き残った者がいないなら、図鑑になんか載ってるわけがねぇ。それになんとなくわかるんだが、あいつはマラクよりもずっと弱い。そう…………キマイラと同じぐらいの強さしか感じない。決して勝てない相手では無いぞ! 全員、総力戦だ! ロラ、弓は駄目だから魔法で戦え! ゾルターン、あれいけるか?」


「時間をくれい、後はタイミング次第じゃ!」


 ゾルターンは御者台から飛び降りてミスリル銀製の美しい杖を構えると、周囲を窺いながらも精神を研ぎ澄ませていく。


「了解、魔法で援護します!」


 肉を持たず、血の吹き出ない骸骨兵に弓による攻撃は殆ど意味を成さない。

 ロラは弓を馬車の中へと放り込むと、ショートソードを抜いて身構え、ゾルターンを援護する。



 シンはレオナにも下馬するように言う。左右の草むらから出て来た骸骨兵の数が多いので、馬車の護衛に龍馬をまわそうというのである。

 龍馬の戦闘力は並みの兵を遥かに凌ぐ。その強靭な脚力による蹴りならば、骸骨兵を一撃で粉砕するのも容易いだろう。


「サクラ、身動きできないカエデとモミジを守ってやってくれ」


「シュヴァルツ、あなたもお願い!」


 二人に頼まれた二頭の龍馬は、ぐぇぇと鳴くと言われた通り馬車を牽いている二頭の馬を守るように近付いて行く。


「カイルは右から、レオナは左から、俺は正面から攻める。どんな攻撃を仕掛けて来るかわからんから十分に気をつけろよ。行くぞ!」


 シンとカイルはブーストの魔法を唱えながら、レオナは精霊を憑依させながら地獄百足へと突喊した。

 

ブックマークありがとうございます! 感謝です!

各地で桜が満開とのこと。皆さんはもうお花見に行かれましたでしょうか?

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