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帝国の剣  作者: 0343
416/461

未来の正妻決定戦!

もう一方の作品共々、更新遅れましたことをお詫びいたします。

風邪引きました。言い訳させて貰うと、気温変わり過ぎなんだよ! 身体がついていかねぇよ! と、いうわけで、治るまで更新はボチボチとさせて頂きますことをご了承くださいませ。

感想の返信も遅れましたことを、お詫び申し上げます。

感想、評価、ブックマーク、本当にありがとうございます。もう本当に、皆さまには励まされてばかりで、感謝の言葉もありません。

これからもどうか、もう一作共々、応援よろしくお願いします。


 夜空に輝く満点の星空の瞬きと、ロラが呼び出した光の精霊の放つ明かりの元、レオナとエルザの正妻の座を賭けた、互いに引くことのできない一戦が繰り広げられていた。

 それを見守るのはエルザの父親であるガンフー、獅子族の戦士たち、そして碧き焔のメンバーとシン。

 そのシンの胸中は実に複雑である。この勝負は、十中八九レオナがものにするだろう。

 これは贔屓でも何でもなく、その実力を誰よりも知るシンだからこその予想である。

 このレオナという少女は、クソが付く程の真面目な性格で、改革前の腐敗していた近衛騎士団で、唯一その身を腐らせることなく、日々己を磨き上げていたほどである。

 そして何よりも、力に対する渇望が強い。真面目でハングリー精神溢れ、しかも天賦の才を持ち合わせているという、修行大好き、理想的な武芸者である。

 今回は剣術ではなく、徒手格闘。そこに父親であるガンフーは、自分の娘を有利と見ているのであろうが、残念ながらレオナもマーヤ同様、というよりも碧き焔のメンバーは皆、シンによってもたらされた近代的な格闘術の手解きを受けている。

 例えば、パンチ一つ例にとってみても違うのである。

 脇を締め、畳んだ腕から繰り出される高速のジャブなどは、大ぶりのテレフォンパンチに対して実に有効であったり、近代柔道の投げ技、関節技などは実に洗練されている。

 さらには、魅せ技としてプロレスの技までもを体得しているのである。

 

 エルザの気を纏って威力を上げた大ぶりのパンチを、風の精霊を纏ったレオナが軽々としたステップで躱し、その躱しざまに鼻面にジャブを叩き込む。


「シン、あれは? 儂との戦いでも見せた技だな?」


 こと戦いが始まると、ガンフーは実に冷静にそれを分析し始める。


「ああ、あればジャブといって、最速で拳を前に突き出す技だ。早いかわりに威力は低い。だが、ああやって鼻面に貰えば視界は一瞬ではあるが奪われるし、相手が前に出て来る力を利用すれば、カウンター効果でダメージも狙える」


 勿論この世界にも拳闘術や格闘術はある。だが、流派が乱立していたり、多くの技が秘術とされていたりとして、世間一般には広まっておらず、従って技も洗練されているとは言い難い状況であった。

 その隙間を、シンのもたらした近代格闘術の数々が突いたともいえる。


「馬鹿娘が! 己の力を過信し過ぎだ。シン、お主の言う通りだ。わが娘は負けるな……」


「ああ、素の身体能力がなまじ高いだけに、亜人種はガンフーの云う通り、自信過剰の傾向がある。レオナは上手くそこを突いているな。威力の低いジャブを小刻みに打ち、相手の頭に血を上らせて冷静さを奪っている」


 シンの云う通り、レオナの軽やかなステップと次々と繰り出される高速ジャブの連打が、エルザから冷静さを奪っていた。

 一発でも当たりさえすればと、エルザのパンチは増々大振りに、そして雑になっていく。


「勝負あったな」


 ハーベイがシンに声を掛けて来る。


「ああ……って、今日はどっちが勝つか賭けてないのか?」


「勿論賭けてるぜ。レオナにな……しっかしお前も大変だな、あんな気の強い女共を嫁にするなんて……シン……お前、夫婦喧嘩だけはしない方がいいぞ」


 シンは苦虫を噛み潰したような表情で頷いた。

 この戦い、シンの目には二頭の雌の猛獣が、己の縄張りを掛けて争っているとしか見えないのである。


「本当に止めなくて良かったのでしょうか?」


 光の精霊を出して、戦いの場をサポートしているロラが、実に気まずそうに聞いて来る。


「ええじゃろ。寧ろ、戦いの結果に於いて明確な優劣が付いた方が、後々のことを考えても良いと儂は思うがの」


 ゾルターンの言葉にシンも賛成ではあるが、シンには一つだけ懸念があった。

 それはこのままレオナが勝ってしまった場合、獅子族との関係が拗れてしまうのではないかというものであった。

 だがしかし、レオナにわざと負けろとは口が裂けても言えない。

 恐る恐る横目でガンフーを窺うと、ガンフーは末娘ゆえ甘やかし過ぎた、鍛え方が足りなかったなどとブツブツと呟いている。もうすでに娘の勝利は諦めているのだろう。

 こうしている間にも二人の戦いは増々ヒートアップしていく。


「や、やるわね……長耳のくせに!」


 散々鼻を打たれ、鼻血を垂らしながらエルザは悔しそうに歯ぎしりをする。


「さっきまでの勢いはどうしたの? 遠慮なく掛かってらっしゃいな」


 レオナは余裕の笑みを浮かべるが、内心では表情ほどの余裕はない。

 エルザの拳は一撃が重く、躱しきれない拳をブロックした手が痺れる程である。

 既に数発ブロックし、腕の痺れが抜けずに力が入れづらくなっている。

 そろそろ腕も限界、決着を急がねばと覚悟を決める。

 だが決着を焦るのはエルザも同じ。このままではジリ貧で自分が負けると知り、ここで一気に勝負を付けようと試みる。

 エルザは後ろに跳んで距離を取り、再び気を練り上げていく。

 エルザが狙ったのはシンでいうブーストの魔法の限界突破リミッターカットである。

 流石にそれは、相手を死に至らしめてしまうのではないかと、心配したガンフーが止めようとするのをシンは手で制した。


「拙いぞ、わが娘は怒りに我を忘れておる。このままでは……なぜ止める? まさか、あの娘が勝つとでも?」


 シンはその言葉に頷いた。


「言ったろ? レオナが勝つと……あいつは伊達にウチの副リーダーをやってるわけじゃないのさ。まぁ見てろって……多分、骨折程度で済ませるはずだし、その程度ならばエリーが即座に治すから問題無い」


 それを聞いたエリーが、任せなさいと胸を張った。

 そんなシンの言葉がレオナの耳に届いたのだろうか? 不敵な笑みを浮かべたところを見ると、耳の良いレオナに届いたのだろう。

 レオナは既に風の精霊シルフを召喚しているが、そこにさらに別の精霊を呼び出して、その身に纏う。


「精霊の多重召喚! あの娘、いつの間に!」


 レオナに精霊魔法を教えているのはロラである。そのロラの口ぶりから見るに、精霊の多重召喚は高度な技なのがうかがえる。

 レオナが新たに呼び出した精霊は、丘の巨人スプリガン。そのスプリガンの剛力を、レオナは全身に漲らせる。

 気を練り終えたエルザが、先程までとは比べものにならない速さで飛び掛かって来る。

 縦に、横にと繰り出される拳の速度も、先程とはまるで別物。

 一撃でも貰えば、いや、掠めただけでも昏倒しかねない恐るべき拳。

 だがその脅威を直に感じつつも、レオナは冷静でいられた。レオナも歴戦練磨の古強者。

 今までも数々の強敵と戦い、場数も踏んでいる。

 風切音と共に繰り出されるエルザの必殺の拳を躱しながら、レオナは冷静にその動きを観察し続ける。

 そしてその動きが、先程まで以上に力任せであり、その力そのものにエルザが振り回されてると見るや否や、一気に攻勢へと転じた。

 エルザの渾身の右ストレートを掻い潜り、一気に踏み込むとそのがら空きのボディに拳を叩き込む。


「ぐはっ」


 くの字に折れた身体の前でレオナは反転、腕と胸倉を力いっぱい掴みそのまま背負い投げを決める。

 ボディブローの衝撃が抜けていないエルザは受け身が取れず、背かなからモロに地面へと叩きつけられる。

 叩きつけられた衝撃で肺から空気が押し出されたエルザは、そのままぐったりとして意識を失った。

 シンはそれを見てレオナを侮っていたことを、心の中で素直に詫びた。

 レオナは自分の予想よりも、よっぽど綺麗な形で勝って見せたのである。


「そこまで! 勝者、レオナ!」


「よっしゃぁあああ!」


 星空の瞬きと、精霊の光を受けながらレオナは、高々とその拳を天へと突きあげて雄叫びを上げた。

 こうしてレオナは、文字通り実力を以ってして、未来の正妻の座を守り抜いたのである。

 

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