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帝国の剣  作者: 0343
414/461

その娘、肉食につき……


 陽が暮れるとシンは、皆のいる天幕を後にした。

 シンはガンフーとの試しの儀で認められた、エルザの正統なる婿である。

 族長の義理の息子になる者を、一介の冒険者と同じ扱いは出来ぬと、シンのために拵えた天幕を宛がわれていた。

 ガンフーは更に使用人を宛がおうとしたが、流石にシンはこれには遠慮した。

 晩飯には、再びガンフーの元へと呼び出され、そこで改めて花嫁となるエルザを紹介される。

 美的感覚というものは人それぞれではあるが、種族、人種、国柄などでも大体の方向性が定まって来がちなもの。

 どうやら獅子族に限っては、なよなよとした貴公子然とした容姿よりも、力強さが滲み出る強面の方がモテるようである。

 シンは勿論、強面の悪人面。右頬に残る古傷が、若い身空ながらも歴戦の古豪を髣髴とさせる。

 さらには昼間の父との戦いを見ていたエルザは、その強さを知り、既にベタ惚れ状態であった。

 夕食の間、終始顔を赤らめながらモジモジと身をくねらせ、酒の酌をした際にもワザとらしくシンの体にしなだれかかる。

 シンとしては、美少女から美女へとまさに開花する瞬間のような年頃の娘に、こうもあからさまな好意を寄せられて嬉しくはあるものの、目の前にその娘の父親が居るというのは、どうあっても居心地の良いものではない。

 シンは昼の疲れが残っているからと、早々に食事を済ませ、宛がわれた天幕へと引き揚げたのであった。

 実際、シンは疲れ切っていた。昼間のガンフーとの戦いは、シンにとっては真っ向からの真剣勝負であったし、天長地久と呼ばれる棒の一撃は、互いに命を奪うに値する一撃の応酬であった。

 その激闘の最中にすり減った神経は、戦いの後で倦怠感を与え、短時間の間に目まぐるしく思考を重ねた脳は、回復のために深い睡眠を欲していた。

 シンは天幕に戻ると、敷物の上に毛布を敷き、その上に大の字になって転がる。

 そして愛刀である天国丸を鞘ごと手に持ったまま、目を瞑ると、ものの十秒も経たぬ内に、シンは大きな口を開け放ち、盛大な鼾を掻き始めた。




ーーー



 草木も眠る丑三つ時、エルザはこっそりと自分の天幕を抜け出した。

 晩餐の時に僅かに触れたシンの鍛えこまれた身体。尊敬する父に勝るとも劣らない鍛えこまれ、硬くなった大きな手。

 そして自分に対して時折向ける、少し困ったような照れ笑い。

 ああ、なんと強く愛おしい方! 実兄たちや義兄たち、誰一人として試しの儀で父に勝つことは出来なかったというのに、シン様はお勝ちになられた! そのような強者の元へ嫁ぐことが出来る日が来るなんて、先に嫁いでいった姉たちや、部族の女たち全てに対して鼻が高いというもの。

 ただ一つ残念なのは、シン様には既に婚約者がおり、このままだと自分は第三夫人になるということ。

 ならば、その婚約者たちを差し置いて自分が正妻となるために、既成事実を作ってしまえば良いのだと、目を細めてほくそ笑む。

 抜き足差し足忍び足。音を立てぬよう、誰かに気取られぬよう慎重に、慎重に、一歩、また一歩とシンの居る天幕へと近付いて行く。

 これから自分が起こす情事と、その先にある薔薇色の未来を思い浮かべると、頬は勝手に上気し、鼻息は自然と荒くなる。

 そのまま、クックッと含み笑いを漏らす寸前、ハッと我に返ったエルザは、慌てて口許に手をやって喉まで出かかった声を押し込めた。

 誰にも見つからずに、シンの天幕へと忍び込むことに成功したエルザは、鼾を掻いて寝入っているシンの顔を、そっと人差し指で愛おしそうに撫でる。

 そしてそのまま指を、顎から喉へ、さらに胸板から臍へと撫で下ろし、遂にはシンのズボンの紐へと辿り着く。

 明かりひとつ無い真っ暗闇の中、蝶々結びされた紐を難なく解くことが出来たのは、亜人たるゆえんであろう。

 亜人種は普人種と違い、暗闇でも難なく物を見る事が出来るのである。

 勿論、シンやカイルなどを例とする、魔法を使える者たちの中には例外的な者もいるのだが……ともあれ、エルザは暗闇の中、紐を解いてスルスルとズボンを脱がすことに成功する。

 相当に昼の激闘が堪えたのだろう。シンはエルザの侵入にも、そして自分のズボンが脱がされたことにも気が付かず、相も変わらずに大鼾を掻いている。

 ズボンを脱がすと、エルザの鼻腔に強い雄を感じさせる匂いが、ここぞとばかりに勢いよく飛び込んで来る。

 シンは昼間の戦いの後、井戸を借りて軽く汗を流してはいたが、亜人種特有の鋭い嗅覚は、僅かに残っていた汗の匂いを見事に嗅ぎ付けたのであった。

 その汗の匂いに興奮したエルザは、フーフーと息を荒げ、もう辛抱堪らんと下着に手を掛けると一気にそれを剥ぎ取った。

 人間、極度に疲労したり、命の危機に陥った後に、種を残そうとして自然と身体が働くという。

 シンは極度に疲労していた。また、命の危機を感じた後でもあった。

 下着を剥ぎ取られ、ボロンと飛び出したシンの陰茎は、見事に天へとそそり返っていた。

 これは俗に云う、疲れマラという状態であろう。

 その見事にそそり返った、大きく逞しい陰茎を目にしたエルザの目には、最早一欠けらの正気も残されてはいない。

 雌としての本能が、肉食獣としての本能が、エルザの僅かに残されていた理性の欠片を、木っ端みじんに吹き飛ばしたのである。

 フーフーと口で呼吸しながら、舌なめずりする様は、百獣の王であるライオンの雌そのものと言っても過言では無かった。

 そんなエルザが、激しい情交の末、己の身にシンの子種を宿さんとして、未だ何も気づかずに寝たままのシンの体に、勢いよく覆いかぶさらんとした、その時である。


「ギャン!」


 エルザは不意に首根っこを掴まれ、そのまま勢いよく力任せに天幕の外へと放り投げだされた。

 エルザはネコ科の亜人らしく、空中で軽々と身を翻して受け身を取ると、自分を投げ飛ばしたであろう敵を睨み付けた。

 エルザを投げ飛ばしたのは、マーヤであった。そしてそのマーヤの横には、怒りで肩をワナワナと震わせているレオナの姿がある。

 マーヤは狼の亜人。その鼻はの利きは、普人種は勿論のこと、他の亜人種を遥かに凌駕する。

 レオナ、エリー、ロラ、ジュリアと共に、碧き焔の女性陣に宛がわれた天幕で横になり眠っていたマーヤは、耳と鼻を利かせながら眠りに就いた。

 これは亜人種として、さらには冒険者として身についてしまった習性のようなものである。

 少し離れた場所から、微かに漂って来るシンの匂いを嗅ぎながら、良い夢が見れますようにとマーヤは目を瞑り、睡眠に入っていたところ、そのシンの匂いのするところから、強い女の香りが漂って来たのだ。

 マーヤは、ハッと目を覚して飛び起き、一目散にシンの居る天幕へと駈け出した。

 そんなマーヤの発した音に、マーヤと同じように冒険者生活で、用心のために耳を立てて眠るようになってしまっていたレオナと、ロラが、すわ、敵襲かと慌てて起き上がる。

 レオナは、剣を手繰り寄せるとロラに、未だ眠っているエリーとジュリアを起こして用心するように伝えると、単身天幕を飛び出して行ったマーヤの後を急いで追いかけた。

 マーヤは亜人種、レオナはハーフとはいえエルフ。暗闇の中でも目は効く。

 一直線にシンの天幕へと駆けて行くマーヤの背中を見て、レオナの心臓が凍りつく。

 まさかシン様の身に何かあったのではと、駆ける足に力を込めて一気にマーヤと並び、共にシンの天幕へと向かう。

 そしてシンの居る天幕へと到着した二人が目にしたのは、発情してシンを襲っている一匹の雌猫の姿。

 マーヤは躊躇なく後ろからその首根っこを掴むと、そのまま天幕の外へと力任せに放り投げたのであった。

 

ブックマークありがとうございます!


更新ちょっとだけ遅れてしまいました。決して、ランス10とか信長の野望 大志とかやってたわけじゃないよ、ホントウだよ、信じて!

皆さんは花粉症とかどうですか? 自分は花粉症で、この時期は鼻は詰まるし、鼻水は凄いし、目も痒く地獄ですが……


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