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帝国の剣  作者: 0343
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アリュー村はお祭り騒ぎ


 村を救った英雄が、世界に名を轟かす竜殺しのシンだとわかり、村中が大騒ぎになった。

 男も女も老いも若きも、村人は皆一様にシンの元へと集まり、その武功話をせがむ。

 

「竜を倒したってのは本当か?」


「馬鹿! 倒したからこそ、竜殺しっていう二つ名なんだろうが」


「ほ、他にはどんな魔物と戦ったんだ?」


「ルーアルトの軍勢を一人でぶっ潰したって聞いたぞ」


 村人たちの矢継ぎ早の質問攻めにも、シンは笑顔で答える。

 自分が倒したのは地竜の幼体であることや、弟子であるカイルとともに一角虎と戦ったこと、頬に残る傷はルーアルト王国と戦った際に出来たものであること、遥か西方にあるゴブリン族の国へ行ったことなどを、時折冗談を交えて面白おかしく語った。

 村人たちは話をするシンに対して真剣な眼差しを向け、その口から紡ぎだされる言葉一言も逃すまいとして耳を澄ませる。

 時折混じる諧謔に村人たちは皆笑顔を浮かべ、シンが怪我をした話の時には顔を顰めた。


「そうだ、みんなにお土産を持って来たんだ。馬車にワインの大樽がいくつか積んであるから、一杯やってくれ。子供たちには干し葡萄が沢山あるから、遠慮なく食べてくれ」


 わっ、と歓声が上がり、村長が今夜は村中総出でシンの歓迎の宴を開くことを宣言する。

 そうと決まると村人たちは一旦解散し、解放されたシンは村にただ一軒しかない、酒場兼宿屋に向かい空いている部屋を全部借りた。

 小さな宿であるため、宿に収容できぬ者たちが多数出たが村長を始め、村人たちが自宅の空き部屋などを提供してくれたため、野宿をせずに済んだ。

 

「ところでシン、いつまでこの村にいられるんだ?」


「それが残念だが、長居は出来ないんだ……御役目の途中なもんでなぁ、すまんな」


 そうか、とダンは残念そうに微笑む。そして、せめて村に居る間はゆっくりして行ってくれと肩を叩いた。

  

「しかし、お前が帝国に仕えていたなんてなぁ……エドガーさんに聞いたら、あいつは旅に出ちまったよって言ってたからな」


「ああ、そうだ。エドガーさんやマイルズさんは元気か?」


「先月この村を訪れたときには、ピンピンしてたぜ。それにしてもその背中の剣、馬鹿でかい剣だなぁ」


 背の低いダンは、見上げるようにしてシンの背の剣を仰ぎ見る。


「振ってみるか?」


 いいのか? とダンは目をキラキラと輝かせて聞き返す。

 シンは、いいよと大剣を背から降ろしてダンに渡す。

 ダンは大剣、死の旋風を構えて二、三振って見るが、すぐにその重さで足がもつれて尻もちを着いてしまう。

 その姿を見た村人たちの口々から笑い声が起こる。


「こんな物、どうやって振るんだよ!」


 照れ隠しに口をすぼめるダンの手を引っ張って起こし、どれ、見てろよとシンはダンから剣を受け取ると、両手で、時折片手でブンブンと振り回して見せる。

 

「お前、化け物だな! そりゃそうだよな、そうじゃなきゃ竜なんて倒せっこないもんな」


「いや、大人の竜にはこれでも全く歯が立たなかったよ。相手が見逃してくれなきゃ、はっきり言って死んでた。その竜と戦った時に、あの時の禿鷲熊バルチャーベアの毛皮で作った外套を燃やされちまったんだ」


 巨剣を軽々と振り回すシンでさえ、成竜に歯が立たなかったと聞き、ダンと村人は目玉が飛び出すほどに驚いた。


「そんな凄いのか、大人の竜ってのは! お前、そんな相手と戦って良く死なずに済んだなぁ」


 優秀な仲間が居てくれたからな、そうじゃなきゃとっくに死んでるとシンは笑った。

 この言葉により、村人たちはシンのみならず仲間たちにも敬意を示すようになった。

 シンが剣を振りまわしている所を見たを村の子供たちが、剣を教えて欲しいとせがむ。


「カイル、子供たちに軽く剣の稽古をつけてやってくれ。こいつは俺の一番弟子で、隻腕のカイルってちっとは名の知られた剣士だ。こいつは強ええぞ……抜刀術なら俺をも凌ぐ、神速の剣士だ」


 そうシンに紹介されたカイルの顔は真っ赤である。子供たちは、シンの一番弟子で二つ名を持つカイルを、英雄でも見るようにキラキラとした目で見詰めている。

 カイルはその照れ顔を隠すように、いそいそと子供たちを率いて村はずれの空地へと向かった。


「そういやぁ、俺……エルフってのを初めて見たよ。噂通り、本当に耳が長いんだなぁ……」


 そう言うダンの視線は、ハーフエルフであるレオナと生粋のエルフ族であるロラに注がれている。

 少し離れたところに、ワインをラッパ飲みしているゾルターンがいるのだが、ダンの目は麗しい二人しか入れたくないようであった。


「あの二人は精霊魔法の使い手であり、背の高い方……名前はロラって言うんだが、弓術に優れていて狙った的を外したところを見たことが無い程の達人なんだ」


「あんな綺麗なのにすっげぇなぁ……」


 シンとダンが歓談していると、村長と一人の女性が近付いてきた。

 その女性にはシンも見覚えがある。確か、村長の孫娘だったはずである。


「夫がお世話になっております」


 そう言ってその女性が頭を下げる。


「夫? ダン、お前結婚したのか」


「ん、ああ……お前が村を出た次の年にな……今は俺と妻と娘の三人家族だ」


 そうか、おめでとうとシンはダンの肩を力強く叩いた。ダンは少しだけ気恥ずかしそうにはにかみながら、ありがとうと返事を返す。


「シン、お前はどうなんだ? 結婚してるんだろ?」


 そう聞かれてシンは笑って首を横に振った。


「もう少し、あと何年かしたら御役目も一段落する。それからだな……」


「そうか……大変なんだな……でも、血は残さなきゃいかんぞ。お前のような男は特にな……」


 アリュー村は僻地の寒村である。そのために子孫を残すということは、何よりも大事なことなのだろう。

 村長が今宵、村の中央の広場で宴を催すので、是非に来て欲しいと念を押して去って行く。

 その後も、ダンや村人たちと語り合い、やがて日が暮れてそのまま村の中央広場に連れて行かれる。

 その日に催された宴は、即席なものとはいえ異様な熱気に包まれていた。

 村人たちは、丹精込めて育てていたであろう家畜を潰して饗してくれた。

 出される料理も素朴な味付けの田舎料理であったが、シンは美味い、美味いと連呼して次々と平らげていく。

 村人たちもシンの土産の一級品のワインの味に舌鼓を打ち、子供たちも甘みのある高級な干し葡萄を口いっぱい頬張っている。

 いい村だとシンはつくづく思うのであった。寒村であり、生活も決して楽ではないはずだが、村人の顔には活気と希望に満ち溢れている。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、深夜になり宴はお開きになるが、まだ村の中にはその余韻が色濃く残っている。

 その漂う余韻の影を、惜しみつつ振り払いながらシンは宿で一夜を過ごす。

 翌朝、シンは来たばかりではあるが、アリュー村を去り王都へと戻ることにした。


「もういいのか?」


「ああ……あんまり長く居ると、このままここに骨を埋めたくなっちまうからな……」


 そうだな、ここは良い村だとスタルフォンも頷いた。

 村人たちは総出で、シンの見送りをする。

 

「また来てくれよな。シン、お前だったら何時でも大歓迎だ」


「ああ、また近くに来たら寄らせて貰うよ。それまで元気でな……未来の村長さんよ」


 シンにそう言われたダンは、気恥ずかしそうに頭を掻いた。村長の孫娘を妻としたということは、ダンはそれだけ見込まれているに違いないのだ。

 シンはこの背の低い勇敢な親友の幸せを心から願いつつ、村を後にした。

 村を去って少し行ってから、シンは南の彼方を見つめた。そのシンの見つめる先には、惑星管理AIであるハルが居る中央大陸管理施設がある。

 だがシンは、そこへ足を向けようとは思わなかった。プレイヤーであるシンは兎も角として、仲間や護衛の騎士たちをハルが受け入れるとは限らないからである。

 

「まっ、触らぬ神に祟りなしってとこだな……今が順調なら余計な事はしないに限る」


 思い出の場所であり、後ろ髪を引かれる思いが皆無であるとは言い難いが、感謝の意だけを捧げてシンはこの地を後にした。

 後日、アリュー村には国王から賓客を遇してくれたことに対する褒美として、一年間税と賦役が免除された。

ブックマークありがとうございます! 感謝です!


更新滞らせて申し訳ありません。風邪だと思っていたのですが、あれから物凄い熱が出て病院に行ったところ、インフルエンザでした。

噂のタミフル、初めて飲みましたよ! 幸い、私はこれといった副作用もなく、熱も一気に下がってくれたので大分楽にはなりました。

来年からは、予防接種を真剣に考えようかと思います。

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