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帝国の剣  作者: 0343
367/461

ジュリア

新しく作品を一つ連載開始しました。

題名は、自分が三人揃えば文殊の知恵、必ず成り上がって見せます! です。


異世界転移した同じ前世の記憶を持つ三つ子の三兄弟による、サクセスストーリーです。

帝国の剣が連載終了するまでは、ぼちぼちと言った感じで、更新は最低でも週一くらいはしたいと思っております。



 二人続けて負け……それも全く手も足も出ない状況での敗北に、闘技場で見学する貴族たちは憮然とする。

 特に第一試合の相手、グイードのコンザーガ子爵家と第二試合の相手であったユリオのボルゼー伯爵家の者たちは、その不甲斐なさを詰った。

 それとは対照的に、王の機嫌はすこぶる良い。貴族出身の者たちが連続して敗北しているにも関わらずである。

 それはなぜか? 実は今回選ばれた魔法剣を伝授される予定であった三名は、王の意向で選ばれた者たちでは無い。

 先に帝国との通婚を、重臣たちや貴族たちの意向に背いて推し進めた王は、これ以上重臣たちや貴族たちとの溝を作ることを好まず、貴族たちからの圧力もあって譲歩したのであった。

 その当時は魔法剣とやらの正確な威力などはわかっていなかったが、王が帝国から王太子の嫁を迎えるまでして欲しがった技であれば、それは相当重要なものに違いないと貴族たちは考えた。

 であれば、その魔法剣とやらを自家の者が学び、使えるようになればどうなるだろうか?

 今以上に発言権は増し、更なる栄達が望めるかも知れない。

 この機会を逃すわけにはいかないと、貴族たちは表面上は結託して王に圧を掛けた。

 王は内心で苦々しく思いながらも、候補者選びの件について譲歩せざるを得ない。

 どうせ候補者を立てても、その魔法剣とやらを使えるようになるかはわからんのだ……それに、魔法剣とやらの実態もまだよくわからぬ以上、一々このことで目くじらを立てることもあるまい。

 そう王であるホダイン三世は考えていたのだ。だが、目の前で魔法剣の威力をまざまざと見せつけられた時に、恐怖を感じた。

 この力を貴族たちが手に入れたのならば、我が身が危ういのではないかと……恐怖に煽られた王は咄嗟にシンの暗殺を目論むが、それは下策中の下であると宰相のミロスラフによって諭され断念した。

 

 あの者たちは、数ある貴族家の中から選ばれし儁秀たち。貴族たちもこの機を逃すまいと、出し惜しみせずに有望な若手の中から、一等秀でた者たちを送り込んで来たことは間違いない。

 ここでもし、もしもだ……三名とも無様に敗北するようなことがあれば、その時は……その時は、上手く話を運んであの三人を排除し、余の息子であるパットルに魔法剣を伝授させれば良い。

 パットルは剣技、魔法とも才は中途半端ではあるが、取り敢えずは魔法剣が形なりとも使えるようになれば良いのだ。

 つまりはやり方さえ学んでしまえば、後はどうとでもなるであろう。


「わが娘よ、次の相手は女子ではあるが、シン殿は手加減なされるかのぅ?」


 王は王太子の頭を飛び越えて、その横に座る近い将来娘になるヘンリエッテ皇女に声を掛ける。


「いえ……我が師は女子供であろうと、こと剣に関しては情けなど掛ける御方ではありませぬ。そのような情けは、かえってその者のためにならないと考える御方で御座います」


 凛とした口調でヘンリエッテが答えると、王はそうか、そうかと頷いた。

 すぐ脇に控える宰相のミロスラフは、その王の声色の変化を感じ取っていた。


「では、続けて第三試合を開始する。では、ジュリア……前へ……」


 三人目の相手は女騎士、その顔にシンは見覚えがある。それもそのはず、彼女は皇女の護衛として馬車に同乗していたエックハルト王国の女騎士のひとりであった。

 その女騎士である彼女の名はジュリア……ファルネーゼ男爵家の長女であったが、彼女が十四歳の時に当主であった父がザギル・ゴジンによって討たれ、今は父の弟……つまり叔父がファルネーゼ男爵家の当主となっており、長女ではあったが女でもあるジュリアは後継者から外され、家は完全に叔父に乗っ取られてしまっていた。

 ジュリアは、どうせ家を継げないのならばと女の身ではあるが、父の仇を取るために剣の道を選んだ。

 剣の道を選んで四年、来年には成人して騎士になり、そこから武功と研鑽を積み父の仇を討たんと思っていた矢先に、無名の若者がエックハルト王国最大の宿敵であり父の仇であるザギル・ゴジンを討ったとの話が伝わって来たのであった。

 ジュリアはことの真偽を確かめ、それが本当であると知るとまるで抜け殻のように放心してしまう。

 今までの四年間の辛い修行に耐えて来たのも、ただ父の仇を討つため。その目標が、不意に消えてしまったジュリアは、これまでにない虚無感に襲われた。

 そしてその虚無感は、いつしか自分の獲物を横取りしたシンへの憎悪に変わっていく。

 父の仇であるザギル・ゴジンを討ったシンを打ち破れば、それ即ちザギル・ゴジンに勝ったと同意であると。

 こうしてジュリアは再び剣を取った。そしてその機会が、不意に訪れたのである。

 この機会を逃すものかと、ジュリアはシンを睨み付ける。

 確かにこの男は強い。前の二人との戦いを見れば明らか……だが、自分はそう簡単にはいかない。

 あの二人とは覚悟が違う。私はこの男をこの場で殺す気で戦うとジュリアは心に誓う。


 一方のシンは、メラメラと敵意剥き出しで燃え上るジュリアの瞳の影に、殺気を感じた。

 

 へぇ……少しはマシな奴もいるもんだな。いいだろう……こっちも本気で相手をしてやろう。


 殺意を向けられて、それを見逃すほどシンは甘くはない。そっちがその気ならば、それに応ずるまでの話。

 目には目を歯には歯をが、シンのこの世界でのモットーでもある。

 開始線へ着くと、礼儀として互いに礼を交わす。

 

「では……第三試合、始め!」


 両者は審判の掛け声と共に、即座に構えを取る。

 ジュリアは正の構え。エックハルト王国伝統の騎士の剣術、その基本を忠実に守っている。

 対してシンは右足を引いて体を右斜めに向ける脇構え、これはあまり剣道では使われない構え方である。

 これは木刀を自分の身体の影に隠し、その間合いを相手に悟られない反面、前に突き出した半身が無防備になる。

 これは、誘いである。だが、ジュリアはその誘いには乗らない……いや、乗れなかったのだ。

 蛇に睨まれた蛙とは正にこのことか……ジュリアは一歩を踏み出すところか、構えを解くことすら出来ずにいる。

 シンの両目から発せられる生の殺気にあてられたジュリアは、全身に粟粒のような鳥肌を立てていた。

 そのまま距離を詰めるでもなく対峙は続く……全く動かぬ二人はまるで、呼吸をする彫像であった。

 だが、わかる者が見れば両者に大きな違いがあることが窺い知れる。

 まずは顔……涼しい顔をして相手を睨め付けるシンに対し、ジュリアの顔は動いてもいないのに汗まみれである。

 顔だけではない、ジュリアの全身から驚くほどの量の冷や汗が出ている。

 そして呼吸……シンは相手に呼吸を悟らせないように静かにゆっくりと繰り返すのに対し、ジュリアは短距離走を全力で走った後のように、ハァハァと息を荒げている。


「勝負にならないですね……彼女は、まだ綺麗な身体のままなのでしょうね……」


 違った意味に捉えられかねないような言葉ではあったが、カイルの言葉に周囲に居る仲間たちは頷いた。

 つまりは、まだ人を殺したことが無いのだろうとカイルは言っているのだ。


「このまま時間切れかな?」


 ハンクがそう言うと、ハーベイがおどけながらそれに答える。


「いやいや、シンはこの事にかなり腹を立ててたからなぁ……ただでは終わらせないと思うぜ。エリーは準備しといた方がいいかもな」


 そう言われたエリーは腕の一本や二本で済ませてよねと、大きな溜息をついた。

 

 ジュリアの荒い呼吸音以外は静寂に包まれている闘技場で、先に動いたのはシン。このまま睨み合いが長々と続くかと誰もが思っていた矢先の出来事であった。

 シンは脇構えを解くと、今度は左上段の構えを取った。超が付く程に攻撃的な構えであり、そのままずいずいじわりじわりと距離を詰めていく。

 これも誘いであるが、ジュリアは正眼の構えを解かない。シンの殺気にのまれてしまい、構えを解くことが出来ないのであるが、シンはそれをジュリアが慎重であるがためと誤解した。

 ならばと、得意な正攻法で力押しをするまでとシンも正眼に構え直す。

 三度構えを直したシンに対して、ジュリアは最初から正眼の構えを崩さない。

 やがてじわりじわりと距離を詰めたシンの木刀と、ジュリアの木剣の剣先が触れ合う距離にまで近付いた。

 

ブックマークありがとうございます!


遅めに起きて、掃除洗濯買い物昼寝と充実した一日を過ごし、ゆっくりと夕方から書き始めたにも拘らず、あれやこれやに浮気して気が付いたらこんな時間になってましたとさ。もっと早くに投稿出来たのにもかかわらず……ごめんちゃい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いや、面白い! 痛快活劇、冒険者って感じが出てますねぇ(((ο(☆▽☆)ο))) [一言] 誤字、脱字ではないんですけど、今回の話で出てきた「儁秀」 と言う言葉、初めて知りました。 今は…
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