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帝国の剣  作者: 0343
196/461

黒い死神、ルーアルト王国へ


 一方その頃、シンたちはと言うと……

 ここから先は恐らく一歩でも踏み出せばルーアルト王国。

 そんなあやふやな国境線で待ち受けるのは、完全武装のルーアルト王国騎士たち。

 一人の偉丈夫が下馬して前に進み出ると、レーベンハルト伯爵も馬車から降りて、互いに声が届く位置まで歩み寄る。

 レーベンハルト伯爵のすぐ後ろには、護衛としてシンが寄り添う。

 恐らくこの騎士団の頭であろう偉丈夫は、そのシンをチラリと一瞥したのみで、再び視線を伯爵へと戻した。


「星導教巡礼のレーベンハルト伯爵と御見受けいた致します。私は星導教総本山までの道案内と護衛をさせて頂くこととなりました、金鷹きんよう騎士団団長のローレンス・スタークと申します」


「貴国の配慮に感謝致す……金鷹騎士団と言えばルーアルト王国の精鋭中の精鋭と聞き及んでおる。道中よろしくお願い申す」


 レーベンハルト伯爵と金鷹騎士団団長のローレンス・スタークの間で社交辞令的な挨拶が交わされる。

 合意を得られたと判断した金鷹騎士団団長のローレンスが、振り向かずにそのまま片手を高々と上げると、それに呼応して金鷹騎士団の騎士たちは馬車やシンたちをぐるりと包み込むようにして、早速護衛の任に就いた。

 一糸乱れぬ統制のとれた動きに、シンは心の内で称賛の声を上げるとともに、将来の障害となるであろうこの騎士たちに対し、警戒の念を抱く。

 伯爵が馬車へと戻るのを見届けたローレンスは、踵を返して自身も馬上の人となる。

 号令手の良く通る声が辺りに響き渡ると、一行はゆるゆるとルーアルト領内に入り、星導教総本山へと歩を進めだした。



---


「団長、あれが噂の黒い死神、竜殺しのシンですか?」


「……ああ、恐らくな……」


 団長のローレンスに馬を寄せて来たのは、金鷹騎士団の指揮官の一人。その顔にはまだ幾分かのあどけなさの面影が残っている。

 その若い指揮官が苦々しげにシンを一瞥するのを見たローレンスは、事前に言い含めていたことであったが、念のために釘を刺した。


「銀獅子の仇とて、絶対に手を出すんじゃないぞ。我らは騎士、騎士なれば戦場での借りは戦場で返すのが習い、騎士の誇りと魂を努々忘れるでないぞ。銀獅子は清廉なお人柄であった……卑劣な手を使っての敵討ちなど望まれはしないであろう……それに……」


 ――――それにお前のような若輩者では、逆立ちしたとて勝ち目は無いであろう……

 

 武人は武人を知り、戦士は戦士を知る。

 シンを一目見ただけで只者では無いと知ったローレンスは、部下が間違いを犯さぬよう今一度規律を引き締め直す必要性を感じていた。



---



 金鷹騎士団の騎士たちは必要以上の接触を避け、接する際にも完璧な礼節を以って接してきた。

 これに対し、シンたちや伯爵たちも礼節を以って答えた。

 最初の異変は、ルーアルト王国の国境に一番近い城塞都市であるスレッドミオで起きた。

 シンたちはその城塞都市スレッドミオで、補給と一夜を過ごすべく街へと足を踏み入れたが、待ち受けていたのは人の山であった。

 道沿いに、建物の窓から、ありとあらゆる場所から人々が、金鷹騎士団に守られたシンたちを見つめている。

 より正確に言えば、シンただ一人を集まった人々は見ていた。

 良く訓練された見栄えの良い龍馬に跨るシンの姿を見た人々は、その異様な姿に生唾を飲み込む。

 纏った黒いバルチャーベアの外套、頭に被るは黒竜兜、そこから覗く黒髪、そして胴には黒竜の黒い鱗によって作られた魔法の鎧である黒竜の幻影。

 腰に履くは誰もが見た事すら無い刀、そしてその背に背負うは常人なら振る事すら困難であろう大剣、死の旋風。

 それらがもたらす威風堂々の風貌と、銀獅子を倒したと言う実績が、人々の視線を捉えて離さない。

 声も上げずに固唾を飲んで行列を見守る人々の間を、騎士団とシンたちはただ粛々と進んで行く。

 騎士団の騎士たちは、おかしな真似をする者が居ないか、目を皿のようにして見廻り、警戒する。

 ここでシンや巡礼団が襲われて、毛ほどの傷でも付けようものならば、聖剣ホーリー・イーグレットのみならず、領土とそして何より金鷹騎士団の威信までもが失われてしまう。

 シンの異様な風貌と、それを守る騎士たちの身から発する殺気にも似た緊張感が、人々の口から言葉を奪い去っていた。

 

 何事も無く街の中央付近にある貴族専用の宿に着いたシンたちは、独特の緊張感による疲れを癒す暇も無く、周囲の警戒へと当たった。

 シンを見るために集まった民衆たちは、あの場では威に呑まれていて目立った動きを見せはしなかったもの、正気を取り戻してからどう動くか判断が付かない。

 警戒に警戒を重ねた者のみが生き残るこの世界では、例え高級宿の中であろうとも迂闊に気を緩める事は出来ないのだ。

 増してやここはルーアルト王国、帝国に属するシンたちにとっては敵地。

 伯爵の護衛らと事前に協議したとおりに、交代で見張りに立つ。

 建物の外は金鷹騎士団が守っているので、要らぬ誤解や衝突を避けるべく、シンたちは建物の内側の守りに全ての力を注ぐ事にした。

 そんなシンの元に、金鷹騎士団の団長のローレンスが面会を申し込んで来た。

 警戒するカイルやレオナを制して、シンはローレンスと会う事に決める。

 今までのローレンスの行動、言動からシンを害しようとする気配は微塵も感じられなかったのもあるが、ローレンス自身が国家であろうか、それとも王にであろうか定かではないが、何かに忠誠を誓った騎士特有の雰囲気をその身に宿しており、その事がシンを返って安心させていたのであった。


「特別剣術指南役兼相談役のシン殿、こうしてお会いして頂く機会をくださり、感謝致します」


 堂々たる偉丈夫が、慇懃無礼に謝辞を述べる。

 それにシンも答えて、丁寧に返礼する。


「金鷹騎士団団長ローレンス殿、貴官らの護衛、誠に感謝致す。して、何用でありましょうか?」


 ローレンスは真っ直ぐにシンを見つめる。

 碧い瞳と青い瞳が刹那にぶつかった後、ローレンスは再び頭を下げた。

 


「金鷹騎士団団長としてではなく、ただの騎士ローレンス・スタークとして、シン殿にお願いしたき儀がありまかり越した次第です」


 ただの騎士として……詰まりは個人的なお願いと言う事か……

 シンは眼前で頭を下げる武人が、卑劣なことをするとは到底思えず、警戒しつつも話を聞くことに決めた。


「ローレンス殿、頭をお上げ下さい。先ずはお話をお聞かせ願いたい」


 シンはローレンスを部屋へ招き入れ、椅子へと招くと自身もテーブルを挟んでローレンスの対面に座った。

 ローレンスはもう一度深々と頭を下げた後、面を上げ、淡々と語りだした。


「某、銀獅子……いえ、ジョージ・ブラハムとは親交がありまして、今回の巡礼団護衛の任を受けた某に、その巡礼団の中にシン殿の姿があることを知った、ブラハムの娘であるアレクシア嬢より頼みごとを一つ引き受け申した次第で……」


 ローレンスの口から、銀獅子ジョージ・ブラハムの名を聞いたシンは、その身を僅かに固くする。

 

 ――――仇討か? 正々堂々と正面から来るのならば、その意気に応じなければならないだろう……だが、俺はまた女を殺さねばならぬのか……


 何ともやるせない気持ちが、シンの胸中を支配する。

 

「で、その頼みごととは?」


「このような不躾の願い、本来ならば聞き入れて貰えぬのは承知なれど、どうか某に免じてお聞き入れ願いたい!」


 そう言ってローレンスは立ち上がると、片膝を付いて跪き首を垂れた。

 シンはその手を取り立たせ、その内容を話すよう促した。


ブックマークありがとうございます!


ゴールデンウイークの初日に、関東の不落の名城として名高い忍城の城址へ行って参りました。

忍城の城址にある行田市郷土博物館では、六月の八日まで収蔵品展、館蔵刀剣展が催されており、忍藩士たちが身に佩びていたであろう刀を拝見する事が出来ます。

国宝やそれに準ずる刀剣とは、また一風変わった実用的な刀剣が持つ独特の雰囲気は、それはそれで味があり、目を楽しませて頂きました。


展示されていた刀剣は多くが無銘でありますが、中には備前長船や備州長船などもありました。

また、鎌倉時代や南北朝時代、室町時代、江戸時代の刀が展示されており、その拵え方の変異を見る事が出来て、個人的には大変面白かったです。

本丸とかも残っておらず、三層櫓が復元されているのみで、地味と言ってしまえば地味なのですが、ちょっと歩けば……いや、結構歩くかも……埼玉古墳もありますし、もし興味がおありの方は足を運んで見てはいかがでしょうか?

子供たちも、甲冑を着る体験コーナーがありますし良い思い出になるかと思います。

ただ、食事処が殆ど無いのでその点だけは注意です。


展示されていた十文字槍と長刀の刃を見て、どちらを主人公の長柄武器にしようか現在悩んでおります。

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