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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第六章◆ 背信の半神少女
98/126

16 決意

六章…完結です!

サブタイトルもすべて変更します。




 白い地面に白い空。




 どこまでも白で覆われていて、平衡感覚を狂わせるこの空間。



 また来てしまったという後悔の念と、弟との会話を楽しみたいという気持ちが複雑に絡み、俺は微妙な表情で遠くを眺めていた。



 なぜ、俺がここにいるか。



 それは、マイラクトの街で行われた戦勝式典のお蔭だ。


 俺はその式典の中で、ヘリヤ様から勲功第一者として“ハーランディアの勇者”という称号を頂いたからだ。



「兄ちゃんはすっかり有名人だね。」


「…“アマトナスの僕”としての責務を果たしていないと思うが…」


「そうだね。他の僕たちの中には、ひたすら忠実にその使命を全うすべく各地を飛び回っていた者もいたんだけどね。にいちゃんは…ヨーコっていう女の子よりもキル数は少ないもんね。」


 屈託のない笑顔で兄を働いていないという弟。…神様だもんな。だからペナルティも今回は特別だそうだ。


「今回は特別に六柱神に干渉して、この方をお連れしました!」


 そう言って楽しそうな表情で後ろに立っている男を紹介した。




 力を司る神ドヴァン。




 語り部サラから聞いた話では既に信仰が絶えてしまっており、六柱神としての力を失った神だと…。


「…確かに、六大群島での信仰は絶えておるな。しかし、世界各地には我を信仰する数多の生物がおる。小さな島国如きで力を失う我ではないわ。」


 俺の心を読んで勝手に回答する身勝手神。…もナンバリングすらわからないよ。


「我の“加護”を与える。…これで六柱神のうち三柱の加護を手に入れることになるが…貴様はその破壊的なチカラに耐えられるかのぉ。」


 俺はチラリと弟の方を見た。

 弟は苦笑している。


 俺は目を閉じ、チカラを受け入れる準備をした。

 何か俺の体内に入ってくる感覚を受け、全身の血管を熱い何かが駆け巡った。確実に何かを受け取った感覚を受けた。


 俺は、また人外度が上昇したようだ。


 暫く自分の手足を見つめていたが、外見上は何も変わっていなかったため、ほっと溜息をつき、創造神に顔を向ける。


「にいちゃん、そのうち六柱神全ての加護を手に入れちゃいそうだね。」


「そういう、フラグ立てる発言は止してくれ。」


「ははっ。兄ちゃんも随分こっちよりの人間になったんだね。」


「そうだな…お前の本を全部読んだからな。」


「それで餓死するってどうなのよ?」


「あの時の俺は生きる希望がなかったからな。…今はいろいろと守るモンができたんで、そう簡単には死ぬわけにはいかないんだが。」


「兄ちゃんを殺せる人間はいないと思うよ。最上位の魔獣か、神獣か、あとは真性魔族くらい……あ、意外と近くにいたね。」


 弟の言葉に、着物美人さんを思い浮かべる。


「あの着物美人さんは本当に九尾?」


「あの魔獣はかなりのひねくれモノなんで。一応、最上位の火属性の魔獣として創造したんだけど…生まれて2000年、一度もその力を示したことはないんだ。」


 俺はちょっと考え込んだ。支配人殿の話を鑑みてもあの美人さんは厄介者。彼女の扱いをどうするか早めに決める必要があるようだ。


 それから暫く弟の会話を楽しんだ俺。


 当然、創造神様にタメ口をきく俺を隣で呆然として見ていたドヴァン様は無視し続けた。



 元の世界に戻って来ると、着物美人さんが俺の目の前でしゃがみ込んでじっと俺の顔を見ていた。


「…また、何か貰ってきたのか?」


 俺は冷や汗を流した。ヨーコや黒竜たちは全く俺の変化に気づかないが、美人さんだけは俺の人外度アップに気づき、俺を覗き込んできた。


 やはり侮れない。


 俺は軽く頷いてそれ以上は会話をせず、アユムのもとへと向かった。

 アユムはサラ、フォン、カミラ、ヨーコに囲まれて顔を真っ赤にしていた。彼にはこのハーレム状態の中でどうしていいのかわからず、ただ赤面し続けているようだった。


 俺は彼女たちを押しのけ、アユムと散歩に出かけた。

 外は、まだ騒がしい状態ではあったが、破壊された城門や家の修復も始まっていた。

 既にヘリヤ様によって、マイラクト領主が討伐されたことは伝えられており、住民には安堵の表情も見えている。

 ヘリヤ様は、この後、王都騎士団と共に一度王都へ向かい、子爵位を叙爵することになっていた。ヴァルドナ子爵のアホ息子も一緒に王都へ向かい、領地を返上して法衣貴族として王都に移住することも決まっている。

 そしてヘリヤ様が新たな領主としてこのハーランディア島を治めるそうだ。


 彼女は元奴隷。


 それが、領地を持つ貴族に。


 彼女は全国にいる奴隷達に希望の光を示したのだ。


 これから奴隷制度とともにどんどん変わって行けば、いずれは、サラ達も解放できる世の中になるかもしれないと俺は思う。


「さて、アユム君。君のこれからのことなんだけど。」


 アユムは俺の言葉に全身を震わせ、おどおどした表情で俺を見た。


「怯える必要なない。先日正式にアユム君の身分は算術士見習いとして俺の配下に所属することになった。…なので、君の面倒は俺がちゃんと見る。安心していいよ。」


 俺の言葉に少し笑顔を見せて小さな声でお礼を言った。俺はアユムの頭を軽く撫で、暫く歩いていく。そしてある小屋に辿り着いた。

 俺は軽くノックしてから小屋に入る。中には巨大なベッドに横たわるオーガ族がいた。



 アンナと戦ったあの奴隷達だった。2つのベッドの間でアンナが2人の世話をしていた。アンナは俺の姿を見つけると、すぐさま片膝をついて一礼した。


「様子はどうだ?」


「…御館様のお蔭で一命は取り留めておりますが、やはり傷が深く2人とも回復しきってはおりませぬ。…出来ますれば、もう少し治癒を掛けて頂けると…。」


「そうだな。体力もそこそこ回復しただろうから、もう少し≪傷治療≫を掛けれるかな。」


 俺はアンナの言葉に答えると1人ずつ手を当てて≪傷治療≫を行った。一瞬苦しい表情を見せたが、治療の後は顔色も大分よくなった。

 2人はマイラクト領主の奴隷だったが、主が死んだことにより、主なしの奴隷となっていた。主なしの奴隷は拾った者に所有権が与えられる。この場合は、アンナであり、その主人である俺である。

 元々彼らは不正に奴隷にされていたようで、すぐにでも解放することができた。だが、ここで解放してしまうと考えた俺は、ヘリヤ様に仕えるように勧めていた。そしてその返事を聞きに来たのだ。


 アユムは俺にしがみ付いて体を震わせている…。彼には、この世界の現状を見せようと思って連れて来た。

 これまで、高い塔の一室に閉じ込められ、この世界がどういう世界で、どんな国があって何が起こっているのか全く知らない。目の前に横たわるオーガ族を見ても“化け物”としか目に映らないだろう。


 それでは、生きていくのに不便だ。


 だから、事実を知り、受け入れてもらう必要があった。


「返事を聞きに来た。」


 俺の言葉に反応し、2人が俺を見る。アユムがヒッと悲鳴を上げて俺の後ろに隠れた。

「何故、俺達を生かした?俺たちは戦士としての死を持って、この苦しみから解放されることを望んだ。…何故だ?」


俺の(・・)アンナがお前達を戦士と認めたからだ。」


 俺は即答する。


 顔を赤らめるアンナ。


 顔を見合わせるオーガ族。


 静寂が流れる。


「…真実を話そう。新しき領主は、元奴隷。だが、その身分に屈することもなく、心を歪ませることもなく、己と戦い、必死に戦い、皆の信頼、皆の尊敬、皆の忠誠を得て、新しき領主となった。」


 オーガ族を黙って聞いていた。


「彼女は戦士が仕えるに値するお方だ。貴公らにはヘリヤ様に忠誠を誓ってもらいたい。奴隷としてではなく…戦士として。」


 オーガ達は回答を保留した。


 彼らは魔人族。ヒト族に仕えるには多少の葛藤もあろう。俺は後をアンナに任せ、小屋を出た。

 そしてアユムに問いかけた。


「…怖かったか?」


 アユムは素直に肯いた。彼の頭の中にオーガはイメージとしてあっただろうが、共存する種族の1つとしてこの世界に存在する事実を受け入れるにはまだ時間が掛かるだろう。それまでは俺が保護してやらねば。





 俺たちはマイラクトの港より五ノ島に向かって出立する。


 俺が正使。フェルエル支配人殿が副使。

 護衛用奴隷としてサラ、フォン、エフィ、ウルチ、カミラ、アンナ。

 護衛隊長としてヨーコ。

 商取引交渉役としてライラ・バジル殿。

 滞在中の船員、その他人員の世話役としてアリア。

 そして特別枠としてアユム。


 五ノ島はこれまでヒト族がまともに外交を行って来なかった国。過去に大きな戦争も行っており、国同士の関係もよくなかった。この為、竜人族は一ノ島に住んではいないし、五ノ島にヒト族も済んでいない。唯一例外として、十二宮の宿をフェルエル殿が竜人族相手に運営しているそうだ。

 俺達はそんな土地勘も、伝手もない国に向かうのだ。一歩間違えば竜人たちに捕えられる可能性もある。一応、案内役としてウルチを先頭にたてるが、滅ぼされた部族の娘がどこまで通用するか。

 俺は想定しうるバッドエンディングの回避方法を考えながら出港までの日々を過ごしていた。



「御主人様。」


 ベッドに寝転び、物思いにふけっているとウルチが物悲しげな表情で部屋に入って来た。…髪の色からするとベラだ。


「顔色は大分よくなったな。どうした、ベラ?」


「はい、おかげさまで精神的に随分と安定して来ました。メルディーン様にもお助け頂き感謝しております。」


 そう言った後、少し躊躇いの表情を見せたが、言葉を続けた。


「今度の五ノ島行ですが、やはりウルチには負担になるとアタイは考え…」


 言いかけているところに髪の色が変わり、ウルチが慌てた風で喋り出した。


「御主人様!僕は大丈夫です!いつかは通らねばならぬ道です!先導役はちゃんと努めますので!なのでベラは休ませましょう。だからベラの言ったことは…」


 まだ喋っている途中なのに、今度はベラが割って入った。


「御主人様、このようにウルチが無理をしています。先導役の儀…ご再考頂けないかと。」


 俺は少し考えてベラを手招きし、横に座らせた。ベラは表情変えることなく俺の隣に座り、じっと俺を見つめた。


「…先導役はウルチに任せる。」


 俺の言葉にベラの表情が一瞬変わる。


「理由を伺ってもよろしいでしょうか。」


「うん、ウルチ一人だと張り切り過ぎて暴走するかもしれないって思ってたんだが、ベラがしっかりウルチの感情をコントロールしてくれれば、危険な場面をうまく回避できると思った。静のベラ、動のウルチ、とお互いを助け合うように入れ替われば問題ないと思うが…どうだろう?」


 俺の回答にベラは暫く黙りこんだ。なんとなく心の中でベラとウルチが相談しているように感じる。


「…わかりました。アタイと…」


「僕とでうまく切り替えることで、この大役を務めさせて頂きます。」


 喋りながら切り替わるという上級技を見せながら、ベラとウルチは俺に頭を下げた。




 五ノ島出発の前日、俺はヘリヤ様に呼ばれた。

 ヘリヤ様も明日には王都に向けて出発するため、別れの挨拶をという名目で呼び出されたが、俺は貪り食われる覚悟で滞在先の宿に向かった。


 うん、案の定、これでもかと言わんばかりに食われた。


 体に余韻を残しながらヘリヤ様は自分の今後を俺に語った。


「次に貴様と会うときには、私は子爵になっている…。婚儀も済ませ、名実ともにヴァルダナの名を継ぐ。」


 え!?け、結婚?


「当然じゃ。何のつてもなく爵位など得られぬわ。私はあのバカ息子の妻となり、バカ息子から爵位を譲られる形で貴族になる。」


 そ、そうか。あくまで形式上か。


「それから、跡継ぎを作らねばならぬ故、バカ息子とも契りを交わす。」


 はい!?ち、ち、契りって…要はアレするってこと?


「ん?そんな顔をしてくれるのか。嬉しいな。じゃが心配はいらん。…バカ息子の血は残さん。…そのために、貴様の子種をたくさん溜め込んだのじゃ。」


 ヘリヤ様は自分の腹を見せ軽く叩いた。


「…なんじゃ、自分の子ができることが嫌なのか?…心配するな。誰にも言わん。バカ息子の子として育てる。」


 い、いやそういう問題じゃ……なくて。


「どう考えても、貴様と私は一緒になることは出来ん。じゃが、この貴様を想うこの気持ちは今更抑えられん。…許せ。こうすることでしか貴様との縁を断ち切ることができぬ弱い私を…。」


 俺はヘリヤ様を抱き寄せ、軽くお腹に口づけをした。そして彼女の頭を軽く撫でる。


「丈夫な子が生まれるよう、おまじないを致しました。…恐らく、父親として名乗ることはできないのでしょうが、宜しくお願いいたします。」


 …ここまできて産むな!なんて言えるわけないじゃん。ならば、徹底的に応援してあげないと。あと、マリンさんにも根回ししておかないと。それから、それから…。




 俺、父親になるんだ。




 そう思うと、自然に何かが込み上げてきた。






 …でも皆にはどう言ったらいいだろうか?






 宿に戻り、皆を集めて説明した。


 できるだけ装飾をせず、事実とヘリヤ様のこれからの予定を交えて話した。


 ヨーコも含め、以外にも冷静に話を聞いてくれた。…だけど話し終えるとそれぞれの表情が変わった。


 サラは悲しそうな表情で薄っすらと涙も浮かべている。

 フォンは悔しそうな表情でうつむいている。

 エフィは青ざめた表情で唇をワナワナと震わせている。

 ウルチは目を閉じて自分に言い聞かせるように何度も肯いている。

 カミラは呆然として涙を流し続けている。

 アンナは顔を真っ赤にして俺に背中を向けた。


 ヨーコはその場にへたり込んで何かつぶやいている。


 アリアは黙って俺を見ていた。




 俺はなんて声を掛けていいかわからず、立っているしかなかった。




 この世界では、有力貴族でもない限り複数の女性と結婚することはしない。基本的に一人の異性と一生を過ごす。

 結婚前に子を為せば、事実上その二人は夫婦として扱われるらしい。


 ヘリヤ様は俺の子種を手に入れた。


 だが、その事実は秘匿される。故に俺は独身。

 しかし、彼女たちは頭で理解はしても心では納得できるものではなく。



 だから、俺は覚悟を決めた。



 俺もみんながいない日常なんてもはや考えられない。



 ならば俺の取るべき道は1つ。





「サラ、フォン、エフィ、ウルチ、カミラ、アンナ、ヨーコ。」


 俺は一人ずつ名前を呼んだ。


 みんなは俺の声に反応し、ゆっくりとではあったが俺の方を見てくれた。



「あ…あの、これは俺の我が儘なん…だけど……その、みんなと、け…」


 俺はもう一度みんなの顔を見た。サラと目が合った。その瞬間にサラは何かに気づき、急に表情を変え俺に走り寄った。

 俺の両腕を引っ張ってソファまで引き連れてそのまま押し倒す。そして俺の上に跨り両手で口を押えてしまった。


「ふがっふがっ!!」


 今までに見たことのない剣幕で、物凄いチカラで俺を抑え込み、口を封じてくる。…サラは一体どうしたんだ?


「言わせません!…御主人様!その言葉はここでは言わせません!」


 な、なぜ?


「…皆、ご主人様のことを想っております。だからその想いにご主人様がお応えするのは構いません…。ですが、サラはご主人様の一番奴隷です!」


 …あ、そうか。


「その言葉は…その言葉は!最初に私に…私だけに!…ひぐっ…。」


 サラの大粒の涙がこぼれ、俺の頬を濡らした。


 俺はやさしくサラの涙を拭き、頭を撫でまわした。サラは顔をくしゃくしゃにして泣きわめき、その様子を見て他の少女たちも俺が何を言おうとしたのか理解した。


「私は…サラ姉の次でいい。」


 フォンがさり気なく二番手を主張した。


「はい!はい!じゃウチ、フォン姉の次!」


 カミラが勢いよく手を上げる!


「何よ!こういうのはアイツと出会った順番でしょ!」


 ヨーコがカミラの挙げた手を振り下ろす。


「では、妾がフォン姉の次じゃな。」


 ドヤ顔で一歩前に進むエフィ。だが、その一歩前にヨーコが進み出た。


「残念。アタシの方が先なのよ。」


「ぼ、僕は最後でも…構いません。」


 ウルチが恥ずかしそうに俯き、チラリとアンナを見た。


「わわわ、私は御館様とけ、け、け、結婚なんて…」


「「「「わーーーーーーー!!!!」」」」


 慌ててカミラがアンナの口を塞いだが、時すでに遅し。サラが目を血走らせアンナを睨み付けた。その形相にアンナは思わず土下座する。それでも飛び掛かるサラ。フォンが体を張って止め、エフィとカミラが一緒になってサラに頭を下げる。ヨーコは頭を抱えてる。ウルチはどうしていいかわからずオロオロしてた。


 なかなか楽しい毎日になりそうだ。


 ますます、早くみんなを解放したくなった。


 でもエフィを嫁にするには、公爵にはどういえばいいのだろう?


 アンナの場合はカーテリーナ殿やナイチンゲール様に許可を貰う必要があるのだろうか。



 サラの場合は……国王陛下にも報告すべきだろうか?




 過去を振り返り、様々な思いに複雑な気持ちになりながらも、俺は決意を変えるつもりはない。



 …そう決めたんだ。




 ハーランディア島での最後の夜は更けていった。











 朝。




 目が覚めると、サラとフォンがすぐ側で俺の起床を待っていた。


「おはようございます!ご主人様!」


 元気のいいサラの声。


「おはようサラ、フォン。…他は?」


「…ヨーコ様…朝食の準備を…されています。」


 げ!だ、大丈夫か?


「ウルチ…アンナは…庭で稽古…。」


 確かに窓の外から彼女らの掛け声が聞こえる。


「…あとの二人は…寝てる。」


 …予想通りと言えばそうなんだが…。


「起こしに行かれますか?」


 サラの問いかけに肯き、奴隷部屋へ向かう。エフィとカミラが気持ちよさそうな顔で寝ていたので、鼻に豆を詰め込んだ。


 サラとフォンに朝食準備の手伝いを命じ、庭へと向かう。ウルチとアンナが俺に気づいて稽古を止めて跪く。


「おはようございます、ご主人様。」


「おはようございます、御館様。」


「うん、おはよう。ウルチ、まだあまり無理はするなよ。顔色が悪くなってる。休憩しなさい。」


 少し悲しそうな表情を見せながらも、主の命令に従いウルチは宿へと戻った。


 残ったアンナは、片膝をついたままじっと待っている。


「アンナ…俺に…俺に忠誠を誓うか?」


「は、はい?」


 突然の質問にアンナは思わず顔を上げた。


「誓うか?」


 俺がもう一度聞くと、アンナは慌てて姿勢を正して回答した。


「死ぬまで…忠誠をお誓いいたします!」


「奴隷解放をしてもなお…忠誠を誓うか?」


「当然でござります!」


「どこまでも俺と生きるか?」


「…地の果てでもついて行きます。」


 アンナの決意は固いようだ。


「ならば、アンナに命じる。この先、俺がいいと言うまで…アユムの世話をすること。」


「はあ!?」


「知っているぞ。お前、アユムからちょっと距離を置いているだろ?確かにその気持ちわからんでもないが、いつまでもその感情に振り回されていては俺が困る。」


 顔を上げたアンナは蒼白になっていた。


「荒療治かもしれんが、命令だ。アユムを世話しろ。」


「そ、そんな殺生な!私はそれなりに心の傷が癒せておりませぬ。いくら御館様のご命令とはいえ…心の準備をする時間をお与えください!」


 俺はしゃがみ込むアンナに近づき、彼女の目の前に座った。


「…ダメ。」


 そう言って彼女の顎を手で引き寄せ、静かに唇を重ねた。


「……!!」


 アンナは目を白黒させていたが、俺は構わず彼女の唇の感触を味わう。

 十分に味わってから唇を離し俺は立ち上がった。


「今のは褒美の前渡しだ。受け取った以上、しっかりとアユムの面倒を……あれ?」


 アンナは俺の言葉を聞いていなかった。白目を剥いてその場に倒れ込み、意識を失っていた。


 せっかくかっこいいセリフを言ったのに…。


 俺はアンナを抱き上げた。


 アンナの意識はまだ戻っていない。


 俺は独り言のようにアンナに語りかけた。


「アンナ。お前は俺の大事な奴隷なんだ。ちゃんと呪いも、苦手なものも克服してもらいたいんだ。」




 …アンナの頬が赤くなった。



 気絶した振りかよ。よっぽど恥ずかしかったようだな。よし、もっと恥ずかしくさせてやろう!


 俺はアンナを抱き上げたまま、彼女にもう一回キスしようとした。



 朝食の準備ができたようで、俺を呼びに来たヨーコにその場面を目撃され、タコ殴りにされ簀巻きにされて朝食抜きにまでなっちまった。



 ぐるぐる巻きにされて床に転がされたところにエフィとカミラがようやく起きて来たらしく、俺を見つけると…


「フン!」


 と鼻から豆を飛ばして俺の額に当てて去って行った。




 お~い!


 俺はお前たちのご主人様なんだぞ!



 この扱い…ひどくない?


第六章:完


これにて、第一部は終了です。

引き続き、第二部…といいたいところですが、インターミッションと外伝を投稿します。

それからちょっと間をおいて第二部を投稿する予定です。


第二部は五ノ島、六ノ島、そして三ノ島へと続いていきます。

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