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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第六章◆ 背信の半神少女
95/126

13 口上

できるだけアンナちゃんを格好よく書いたつもりです




 俺達がベルドの街に到着(てんい)して俺感覚で3時間。



 俺はまだ領代館の休憩室にいた。





 正確には休憩室に監禁されていると言うべきだろうか。





 ヘリヤ様は俺の胸に頬ずりして俺の肌を、俺の匂いを楽しんでいた。


 俺は全てを奪われた心境でただソファの上でぐったりとしていた。身動き一つしない俺を持て余すような仕草でヘリヤ様が覆いかぶさっている。



「…お主はいつも突然現れる…。私としては心の準備をする間が欲しい。…ならば、こんな淫らにまき散らすようなこともせんのに…。」



 ま、まき散らす…て表現はやめてほしい。







 ヘリヤ様もようやく落ち着き、衣服を正したのちは、表情が為政者のものとなった。


 既に王都からの辞令は受け取っており、極秘裏に戦の準備は進めていたそうだ。

 必要な武具、糧食は整っており、バナーシが信頼する部下のみで準備され、領兵団全員にはまだ知らされていない。

 今から訓練と称して団員全員を集め、訓練と称してヤーボの村にまで移動し、そこで全てを説明したうえで、マイラクトへと押し進む予定だった。


 この戦の為に、新たに兵士を雇い入れ、兵数も250まで増やしている。そしてその新兵の中にマグナールとエイミーもいるそうだ。

 ヘリヤ様の護衛という扱いで俺は領兵団に紛れ込み、カイトから聞いた情報を元に“この世ならざる者”を探す。



「皆の者、これより合同訓練を行う。訓練は3日の予定とし、訓練終了後にガラの街に移動して王都の騎士団と合流する。」


 ヘリヤ様が普段通りの抑揚のある声で中庭に集まる領兵たちに説明した。


「この訓練は、先の通達であるように騎士団と合同での訓練に向けた予備訓練で、最終目標は……」


 ヘリヤ様の演説は続くが、俺は自分のスキルを駆使して集まっている領兵の中に怪しい奴がいないか探し回っていた。

 俺は≪気配察知≫と≪波動検知≫と≪闘気視認≫を複雑に絡み合わせ、それを≪情報整理≫で分析すると言う超反則的なスキル並列使用で、一人一人の心の揺れ動き具合を観察した。

 明らかに怪しい心の動きをしている男が6人。その6人は全ての事情を知るバナーシと同じ波長をしていることから、何かを知っていると判断した。

 そしてそのうち2人は俺の≪気配察知≫では知り合いであることを示している。


 一人はマグナール。


 もう一人は獅子顔の獣人……。





 な、なんでここに…おられるのだ!?





 俺は頭を抱え込んだ。



 ヘリヤ様の演説が終わり、各々が馬に跨り移動の準備をし始めた。

 俺も愛馬バーバリィを引き、ヘリヤ様の護衛に戻ったところに、その獅子獣人がやってきた。


「よっ、こんなとこで会えるとは。貴様も給金目当てで来たのか?」


 軽い口調で俺の肩宛をバンバン叩き、屈託のない笑顔で俺に話しかけてきた。バナーシが警戒して剣を抜こうとしたが、咄嗟にそれを制し、俺は獅子獣人に返答する。


「ロフィ殿…でしたか?貴殿ほどの傭兵がこの田舎の領兵団に志願するとは思いませんでしたよ。…よほど金にお困りのようで。」


「がっはっは!うむ!そうなのだ。金に困って志願したのだ。真面目に訓練するので給金を上げてもらいたいな!」


「…訓練次第でござろう。ヘリヤ様には私から口添えしておきます。」


 俺は軽く会釈してこの場を立ち去るようお願いした。ロフィは俺の意図を汲んだか、チラリとヘリヤ様を見てニヤリと笑った。


「貴様の周りでは面白いことばかりが起きてるな。後で話を聞かせろよ。」


「はぁ…。わかりました。」


 俺の返事を聞いてから鼻歌混じりでこの場を去って行く獅子獣人。その後を目で追っていたバナーシが声を潜めて俺に話しかけた。


「…奴は何者なのだ?要注意人物か?」


「…別の意味で要注意人物ですよ。あの方は獣人族の……いえ、知らない方が身のためです。敵ではないことは俺が保証します。」


 俺の奇妙な言い回しで納得はできていないだろうかバナーシはヘリヤ様を顧みた。


「わかった。あの獣人はお前の部隊に組み込む故、しっかり制御するように。…ところでサラ達はどうしたのだ?」


 ヘリヤ様は俺を信用してこれ以上は詮索せずに話題を変えた。


「…先行させてます。連絡は≪遠隔念話≫で可能です。これは、敵から逆に急襲されないようにする為の予防措置とお考え頂ければ。…それから、先ほど俺が目を付けていた男が別の男と接触しました。」


 俺の新たな報告に皆表情を変えた。俺の≪気配察知≫でマークしていた男の一人が別の領兵団員ではない男と接触した。

 その男はベルドの街の外へと向かっていた。

 捕縛しますか?というバナーシの問いにヘリヤ様は首を振った。


「現時点での報告は問題ない。奴らの攪乱になる。情報を流した男にはヤーボの村で死んでもらうがな。」


 間諜の始末を俺に指示し、ヘリヤ様は出発の準備のために馬車へと向かった。その後をマリンさんがついて行く。残った俺とバナーシ殿で軍構成を見直し、俺の隊を先発、次発をマグナール隊、主力隊をバナーシ殿が率いる隊列とした。



 俺が本来乗っているはずの周回船がハーランディア島に到着するのは3日後。この日程に合わせて訓練を終え、ガラの街へ向かうように見せているので、まずは疑われないはずだ。

 俺は、バーバリィに乗り先発隊として集められた兵士達の下へ向かった。









 領兵団250名が大規模訓練を実施するためベルドの街を出発した。



 この情報は既にマイラクト側にも伝えられているはず。

 だが、マイラクトとの決戦はあくまでも王都からくる騎士団を迎えての海上戦であることを匂わせているため、ヤーボの村までは特に目立った間諜の動きは俺の≪気配察知≫には引っかからなかった。

 そして、ヤーボの村に到着するまでの間に俺の隊に組み込まれた怪しい男は連絡用の鳥を飛ばしていた為、“黒”は確定していた。≪念話≫を使ってロフィ殿に始末を依頼し、ヘリヤ様に報告を行った。他の怪しい男どもは怪しい動きもないため、一先ず捕縛だけに留めることとなった。



 夕刻になりヤーボの村に到着した。領兵たちを村の入り口に留め置き、俺は一人で村長の家へと向かった。


「ベルド領兵団、先発隊の隊長、エルバードである!デハイド!いるか!」


 俺の大声に家内の奥の窓が開き、懐かしい顔が覗かせた。

 ヤーボ村の現村長、デハイドだ。


「…な?い、いつの間にベルド傭兵団に入ったのだ!?」


 デハイドが驚くのも無理はない。俺はナヴィス殿とヤグナーンへ行ったはずだからな。俺は軽く手を振り、家の中に入る。


「説明は後だ。傭兵団の先遣隊40名この村を通過する。後続に170名の傭兵団が夜に到着する。その時にマグナールから預かっている物を供出してくれ!」


 俺はヘリヤ様から聞いている言伝をデハイドに伝えた。途端にデハイドは表情を変えた。


「そうか。とうとう来たか。あいわかった。準備しておく。」


「我々は先を急ぐ!…再会を喜ぶ暇もないことについてはご容赦!」


 俺はそのまま踵を返し、村の入り口へと戻った。入り口で待機している部下たちに真実を伝える。


「我々はこのまま村を通過し、マイラクトへの関所まで一気に向かう!目的は関所の破壊!…そして、マイラクト領主の首だ!今こそ彼の街を悪しき領主から救い出さん!」


 全員の表情が一変する。そして次の瞬間、獅子獣人の一撃で一人の男が縦に真っ二つに斬られた。

 男は悲鳴も上げず、左右に分かれて倒れた。一瞬の出来事に全員が凍りついた。


「マイラクトの間諜は片付けたぜ、隊長。空となった馬はどうする?」


 不敵な笑みを浮かべてロフィは訊ねてきた。


「捨て置く!既に俺の仲間が関所に潜伏し

、俺たちの到着を待っている!」


 俺は出来る限り威厳のある声でロフィに返答する。…が、本当はちびりそう。だって相手は一国の王なんだし。


「皆の者も良く聞け!ここからは速さのみが勝負だ!ついて来れぬものは捨て置く。本体と合流せよ。ついて来れた者だけが関所を破り悪しき領主へと牙を剥くことができる!ここから先、考えることは捨てよ!俺の命のみ従え!さすればマイラクトに辿り着かん!…行くぞ!」


 俺の口上に兵士たちは高揚したのか表情を改め次々と馬に跨った。口々に「待ってました!」とか「親戚を救える!」などと声を上げている。

 やはり、皆それぞれに不満があったようだ。そしてロフィがその様子を見てニヤニヤしている。獅子獣人は鬣をなびかせて俺の隣に馬を寄せた。


「…マイラクトの領主はよほどの悪人だなぁ。近隣領民からも嫌われるようじゃ上に立つ者としては失格じゃ。」


「…だから上に立つ者としてこの戦に加わったのですか、陛下?」


「いや、マイラクト領主の評判は近隣国である獣人族にも伝わっておった。海賊紛いの事をしているだの、領民に重税を課しているせいで、農業、商業が発展していないだの、奴隷の扱いが悲惨だの…。王としてどのような状態か見ておきたかったのだ。…恐らく街中は酷い状況じゃろう。」


 俺は唇を噛みしめた。


 俺は見たことはない。だが容易に想像ができる。ナヴィス殿が「商売などできない街」と言われていたのだ。

 俺は正面を向き、馬の速度を速めた。


「私に力をお貸しください。あの領主は国を相手に宣戦布告しています。その理由が気になります。何かとんでもない兵器を隠しているのではないかと考えざるを得ません。…なればこそ我々が急襲してそれを抑えないと…。」


 ロフィは速度を合わせ、馬上から俺の肩を叩いた。


「見返りを要求する!」


 俺はロフィを見つめ、その意図を考える。≪情報整理≫はすぐに俺に答えを出してきたが、躊躇した。…が、仕方がない。



「私と決闘する権利…はいかが…」


「乗った!その約定、違えるなよ!!」


 そう言うと、ロフィは馬を勢いよく嘶かせ全速力で走り出した。



 俺は先が思いやられる気分で、それでもバーバリィを叱咤しロフィ殿に続け!と激励して村を駆け抜けた。






 ベルド領兵団は部隊を3つに分けた。


 1つ。 俺が率いる強襲隊。


 1つ。 マグナール率いる別動隊。


 1つ。 バナーシ率いる騎兵隊。




 俺たち強襲隊は、関所の破壊。マイラクトの街の門破壊…所謂、露払いの役目。


 別動隊はマイラクト領内にあるバッグ駐屯所の守備隊に対する牽制。


 そして本体である騎兵隊は、『領民解放』を旗印として掲げ、城内突入をする。



 領主を倒し、領民を解放するのはあくまでもヘリヤ様の役目。バナーシも領主がいるところまでは戦うが、領主の命を奪うのは彼女がやらねばならない。


 討伐とはそういうものらしい。


 そう言えば、サラヴィス陛下も自ら3公爵の討伐に向かったな。そういうものか。


 俺たちは俺たちの役目をこなして行けばよい。


 俺は遠目に小さく見えた関所に集中した。ヨーコに奴隷達を預けて、先行してあの関所に向かわせたのだ。彼女の≪空間転移≫を使えばもうそろそろ片付けているはずだが…。

 俺は目を凝らして様子を伺いながらも速度を落とすことなく近づいた。


「エル!」


 小さな櫓の上からヨーコとサラが手を振った。

 俺はヨーコを確認すると大声で叫んだ。


「このまま領内を突き進む!全員馬に乗れ!」


 そしてサラと目が合う。


「…来い!」


 サラは俺の声に反応して櫓から乗りだし、俺に向かって飛び降りた。俺はしっかりとサラを受け止め、背中に彼女の体を回す。


「お前達の中で馬に乗れないのはサラとエフィだけだもんな。」


「じゃ、エフィはどうなさるのですか?」


「…あいつは何も言わんでもきっと来る。あいつの定位置はここ(・・)だろ?」


 俺は頭の上を指して笑う。サラも笑った。そして、予想通りエフィがやって来て馬の足をよじ登り、俺の身体をよじ登り、定位置に座る。


「準備万端よ!」


 見ると顔全体を覆う鉄仮面を被っていた。

「どうした?」


「ん?そこで見つけたの。顔は乙女の命!戦で傷をつけられてはかなわないんで、被っとくことにしたの。」


 うん、エフィらしい。


 いつの間にか、フォン、ウルチ、カミラ、アンナも馬上で得物を構えており、後ろから部下たちも追いついて来た。


「よう、色男。急がねえと敵に気づかれるぞ。」


 先頭に立つロフィが不敵な笑みで俺に声を掛ける。俺は意を決してロフィに命令した。


「ロフィ殿…いや、急襲部隊副隊長ロフィ!貴公に一番槍の手柄をくれてやる。俺の手足となり、思う存分暴れるがよい!!」


 うぉおおおおお!!!!


 俺の命令に部下たちが興奮した声を上げた。その様子を眺めてからロフィは怖いくらいに破顔した顔を俺に向けた。


「この俺に命令するか…。面白い!この俺の力、得と見るがいい!!」





 ベルド領兵団急襲部隊は日の沈みかけた夕暮れに関所を越え、マイラクト領内に侵入した。

 後はただひたすら走ってマイラクトの街へ行くだけだ。

 城門は……うん、陛下に任せよう。たぶん陛下の膂力なら何とかなるはず。

 城門を突破した後は俺たちは攪乱任務に徹しよう。

 そして、俺とヨーコは…。



 “この世ならざる者”との接触だ。



 俺たちの視界にマイラクトの城壁が見えた。城壁はヴァルダナの街以上の高い壁になっており、俺はともかく部下たちがこれを昇るのは難しいと判断した。


 城門を壊す!


 そう決めて俺は、周りに手振りで城門を目指すよう指示した。ロフィが任せろとばかりに城門前に向かった。

 だが、城門付近にはそれを守る常備兵と近隣の茂みに隠れている伏兵がいた。その場所と人数は≪気配察知≫により赤い点として確認済である。

 俺はウルチとフォンに≪念話≫で城壁上の兵を射落とすよう指示した。

 フォンは【ステロペーの楽弓】を構え、ウルチは≪竜化≫して対応する。


 サラとカミラには伏兵を蹴散らすよう指示した。二人は馬から飛び降り、走って森の中へと消えていった。


 俺とエフィはロフィのサポートに回った。獣人のロフィが鉄の城門をこじ開けようと強烈な体当たりをするが、大きな音がするだけで頑丈な城門はびくともしなかった。こんな僻地の街にこれほどの城壁、城門。一体何から守るための施設なんだと思ってしまう。




 どごぉおおん!



 再び大きな音がして、地面が揺れる感覚を受けるが、城門は全くびくともしていなかった。


「隊長!ちょっと本気を出す!離れろ!」


 ロフィはそう言うと目を閉じて腰を落とし、魔力を溜め込み始めた。


「エフィ!獅子獣人の周りに土の壁を!」


 エフィが【雷爪の杖】をかざして魔法を唱え、ロフィを囲むように土の壁を作り出した。その土壁に何本もの矢が突き刺さる。


 城壁を見れば、何十人もの弓兵が俺達を狙って弓を番えていた。


「ヨーコ!城壁は任せる!」


 俺の声に肯いて、ヨーコは≪空間転移≫で城壁上に瞬間移動し、ウルチと息を合わせて弓兵を蹴散らしにかかった。だが、間に合わず矢が俺たちに向かって飛んできた。

 俺は≪ブレス≫で矢を焼き落とすが、エフィに向かった矢は間に合わない!


「がぁああああ!」


 エフィに向かった矢が叩き落とされた。


 フォンが全身の毛を逆立たせた状態で次々と手で叩き落としていた。


 フォンの身体は青白く光り、目も青く輝いている。


「ハーッハッハッハ!!…この娘、海銀狼族であったか!あの事件で絶滅してしまったと思うていたが…。隊長!貴様といると飽きぬのぉ!」


 フォンの姿を見たロフィが愉快に笑っている。俺はフォンの状態が何なのか全く知らない。


「知らなかったのか?あれは≪獣化≫の状態。獣人族でも一部の部族しか発現しない固有のスキルだ。あの色は海銀狼族の色…。そして俺は!」


 今度はロフィの身体が輝いた。金色だった。


 全身から魔力が発散し、その威力でエフィが作った土壁が吹き飛んだ。


「消し飛べ!」


 ロフィは渾身の一撃で城門を殴りつけた。門自体は壊れなかったが、門を支える支柱が根元から折れ、門ごと宙に舞った。


「突入せよぉお!」


 俺はありったけの声で叫び、部下たちが中に飛び込む。城内に入ればある程度攪乱して行動ができる。俺も突入しようと足を一歩進めた。

 だが次の瞬間に一度中に入った部下たちが押し返され放り出されてしまった。


「ぐがぁああああ!」


 城壁の内側から2人の大男が巨大な盾を持って現れた。


「あれはオーガ族です!」


 いつの間にかサラが側に控えており、小剣を構えて少し青ざめた表情で大男を見つめていた。


「オーガ族は魔人族の中でも特に頑強な一族。ああやって大盾を操って相手を叩き潰す戦法を得意としてるの。」


 反対側からカミラが声を掛けてきた。見るとカミラも忌々しそうに城門で大盾を振るう大男を見ていた。


「カミラ、≪闇魔法≫で奴の気を引きつけることはできるか?」


 突然の俺の質問にきょとんとしたが直ぐに表情を変えて大きく肯いた。


「任せて!」


 カミラは魔力を両足に溜め、発動準備に取り掛かる。


「俺の合図でオーガ二人の間に隙間を作ってくれ。」


 俺は城門に背を向けて森の方を凝視する。しばらくすると馬蹄の音が聞こえてきた。


「いまだ!」


 俺の合図でカミラは足元から黒い霧を発動させる。霧は一直線に突き進んでオーガ達を飲み込んだ。

 奇声を発しオーガ達はお互いに後ろにのけぞる。


 城門に隙間ができた。



 後方から全速力でやってきたマグナールの部隊がそこに駆け込んで行った。


「エルバード様!感謝します!」


 通り過ぎざまにエイミーが挨拶して中へと入って行った。

 これで、城内での攪乱活動ができる。



 だが、このオーガを倒さないと俺たちは中に入れない…。

 俺は獅子獣人を見た。だがロフィは自分の役目は果たしたとばかりに突っ立ったままニヤニヤしながら様子を見ているだけだった。

 …くそ、できる限り俺の力は使いたくないのだが…。




 ウルチが≪ブレス≫を仕掛けるが、聞いた様子もなく頭を掻くしぐさを下かと思うと腕を水平に薙ぎ払い、持っていた【アルキュオネーの長槍】が吹き飛んだ。

 エフィが足元を土魔法で持ち上げるが逆に盾で押しつぶして無効化した。


 オーガの1人が石を俺に向かって投げつけた。どうやって戦おうか≪思考並列化≫を全力投球したところだったため、反応が一瞬遅れた。



 ガキィィイインンン!!!



 俺の目の前で石が弾かれ、あらぬ方向へと飛んで行った。


 サラが嬉しそうに石を弾いた少女を見ていた。


 少女は左腕に白い腕輪をはめていた。腕輪の力で少女の背には銀色に輝く大きな翼がはためいていた。


「…やっと自分の意志を見せたか。」


 俺は少女の姿を見て安堵した。


 この戦い、敢えて彼女には何も命令せずにいたのだが、果たして彼女はその意味をちゃんと理解してくれただろうか。


「…御館様。命令もなく動いてしまいましたがご容赦を。ですが、このオーガ達は私に任せてもらえないでしょうか。」


 アンナは吹き飛ばされた【アルキュオネーの長槍】を手に持ちオーガを睨み付けた。


「…アンナ、オーガ族もお前と同じ奴隷だ。お前ならどうする?」


 アンナはオーガを睨み付けたまま即答した。


「抗えぬ命を受けているのなら…同じ戦士として、せめて安らかな死を与えたい!」


 俺は静かに了承する。ヒトの考え方は千差万別。アンナの答えもまた正しいと思う。


「…アンナ。でも口上は禁止だから。」


 アンナは俺の言葉に体を硬直させちらりと俺を見た。


「禁止。」


 俺はもう一度言う。


 アンナは体を震わせ俺から視線を外し、オーガを睨み付けた。オーガは2人とも吠え狂いアンナに向かって歩き出した。





「…我こそは、エルバード様の奴隷にして誇り高き戦乙女族(ヴァルキリー)のアンネローゼ!オーガ族の戦士よ!我の槍にてその理不尽なる役目に終止符を打ち、気高き種族の誇りと共に戦士としての命を全うせよ!」




 とうとうアンナは俺の命を破り、全身全霊の口上を吐き出した。

 その迷いのない彼女の姿に俺は思わず笑顔がこぼれた。



アンナは主人公の命令を無視して口上を述べました。

でも主人公はうれしそうです。

純朴に命令を守るだけの奴隷にはなってほしくなくて、アンナを試していましたが…アンナはちゃんと理解したのでしょうか。


次話ではマイラクト領討伐に決着がつきます。

そして4人目の“この世ならざる者”が登場します。・・・たぶん。


ご意見、ご感想を頂けると、大変ありがたく思います。

よろしくお願いいたします。

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