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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第六章◆ 背信の半神少女
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7 フェルエルの秘密

すみません。

仕事が忙しくなり、なかなか執筆できてませんでした。



 天馬の引く戦車を先頭にした鎮圧部隊よりもはるか先を≪超隠密行動≫で姿を消して、上空からオルフェンスの街を俺とフェルエル殿で眺めていた。


 既に先行して到着している巨神族を中心とした部隊が城門に張り付いて攻撃を繰り返している。門は頑丈に閉じており外からの攻撃を寄せ付けてはいなかったが、街の中の兵は城門に集中しており、他の三辺の城壁はおろそかになっていた。そこに鎮圧部隊の別動隊が押し寄せて城壁をよじ登り、城壁上の一角を占拠した。

 街中の兵は慌てて部隊を2つにわけ、城壁上の部隊に対抗したが、これにより城門側の兵力が不足し、城門での攻防が押され始めた。


 そこに天馬(ペガサス)の引く戦車が登場した。


 戦車は天馬からは引き離され、城門に向けて大砲の照準が合わされた。

 城門に群がっていた鎮圧部隊がサッと引き、指揮官の掛け声がこだまする。



 どごぉおおん!



 大砲は耳を劈く爆音を響かせ、黒い玉を射出した。

 玉は城門に激突し、爆発して黒い炎を吹き出した。


「魔装具か!?」


 俺は思わず唸った。何らかの魔力を帯びた玉をぶつけ、魔法を発動させる仕組みのようだ。吹き上げた黒い炎は瞬く間に城門を焼き、城壁にも燃え移った。黒い炎が飛び移った兵士が辺りにのたうち回り悲鳴を上げている。



 やはり、これは武器ではない。一方的な殺戮兵器だ。



 俺は拳を握りしめた。だが俺にしがみ付いているフェルエル殿が俺の異変に気づき、俺の手を握った。


「ダメじゃ!感情に任せてはまた同じ過ちを繰り返すぞ!」


 フェルエル殿は真剣な眼差しで俺の手を力強く握る。その力は俺が痛みを感じるほど。

 俺はその場の悲惨な光景を忘れ、フェルエル殿を見つめた。物悲しげな表情を見せ、俺の全てを見透かすように俺の動きを封じている。その力、俺をも遥かに凌ぐ……。



 どごぉおおん!



 再び轟音が鳴り、今度は城壁が破壊された。破壊された城壁から黒い炎が湧きあがり辺り一帯を焼き尽くす。

 城壁の奥から悲鳴が聞こえた。たくさんの無関係の人々の命が失われている。


「フェルエル殿!手をお放し下さい!」


「ダメじゃ!」


「何故!」


「“この世ならざる者”が人間の争いに干渉するのは禁じられておる!貴公は何度も罰を受けて理解しているであろう!」


「ですが、先の三公爵討伐の件ではそれほどの…」


「あれは囚われた魔獣が絡んでおった故、あの程度で済んだと思え!」



 いつになく真剣な眼差しで俺を見つめるフェルエル殿。

 神力を有し、白い羽を持つ種族だから半神族の一部族だと思っていたが。

 彼女の言葉から出た“この世ならざる者”という言葉。俺の事をそう呼ぶのは限られており、サラですらこの言葉は知らない。なのに、何故知っているのだ?



 …彼女は何者なのだ?



 だが今はそれを考えている場合ではなかった。


 更に砲弾が城壁に打ち込まれ、街は黒い炎を空に舞いあげ、あちこちから悲鳴が聞こえている。本能的に俺は飛び出そうとするが、フェルエル殿にそれを物凄いチカラで抑え込まれていた。


「放して下され!俺には…俺には我慢が出来ぬ!」


 俺は本気の力でフェルエル殿を振り払おうとするが、ピクリとも動かない。俺のスキルが発動を停止し、俺たちは徐々に地上へと近づいていった。

 地面に足が付き、俺は地を蹴って跳びあがろうとしたが、それもできない。魔力の波動を全く感じなくなっていた。


「エルバードよ!これ以上我を本気にさせるでない!また【金牛】や【人馬】が来ることになるぞ!頭を冷やせ!貴公のすべきことは別にあるのだ!」


 フェルエル殿は俺に顔を近づけた。そしていきり立つ俺の頬に両手を添えて唇を重ねた。






 柔らかな感触が俺を包む。心が落ち着いていく。俺は動きを止めその感触に身をゆだね自分の心が静まっていくのを待った。


 やがて支配人殿の唇は俺から離れ、軽く息を吐き、俺の目を見た。


「…落ち着いたか?」


 彼女の言葉を聞き、俺はゆっくりと息を吐いて全身の力を抜いた。


「…申し訳ありません。取り乱してしまいました。」


 俺は素直に頭を下げた。だがすぐに頭を上げて戦車を睨み付ける。


「ですが、あの戦車はこの世界には危険すぎます。あの戦車の秘密だけは知っておく必要があります。」


 フェルエル殿は黒い火を吹く二本の砲身を持った箱をチラリと見た。その後、俺の目を見て小さくため息を吐き、掴んでいた俺の腕を放した。


「気を付けるのじゃぞ。感情に任せて動くでないぞ。」


 彼女はいつもの受付嬢のように綺麗なお辞儀で俺を送り出した。


 俺に魔力が戻った。


 さっきのはフェルエル殿の何らかのスキルなのか。いろいろと疑問はあるのだが、まずは目の前の光景だ。

 俺は感情を堪え、≪超隠密行動≫で戦車に近づいた。



 戦車の周りには数名の黒い頭巾をかぶる女が忙しく動き回っており、砲弾を撃つたびに戦車の側面についた機器を弄っていた。

 俺はさらに戦車に近づき、その表面をじっくりと観察した。


 鉄の塊。


 魔力でコーティングされ、内部からは強い闇魔法の波動を感じる。


 見た目は前世で見た兵器そのもの。だが中身は強い魔力の波動を持つ“魔装具”。


 俺は戦車を睨み付け、≪鑑定≫を発動させた。



 【二連装黒炎魔導球発射台】

 闇魔法「黒炎」を纏った魔導球を狙った位置に打ち出す発射台。発射された魔導球は着弾地点で爆発し、「黒炎」が発動される仕組み。

 魔導球の発射には大量の魔力を要するため、発射台に人間から魔力を吸収する魔装具を組み込み、吸収した魔力は増幅器を通して砲身へと集められる。



 俺は戦車の反対側に回った。そこには何人もの恐怖に引きつる表情を見せた男女がおり、足元には虚ろな目で虚空を見つめる人間が横たわっていた。

 首に太い首輪がされており、奴隷であることがわかる。いずれも半神族の人間であるが、俺が見た連中とは違い、薄汚れた着物にススだらけの体。酷い扱いを受けていることが瞭然である。



“四ノ島にいる奴隷は全て犯罪奴隷です。”


 この島に来る前にライラ殿から聞かされた言葉がこだまする。



 彼らは犯罪奴隷。罪を償うために奴隷となった者たち……のはずだ。



 どごぉおおん!


 轟音が鳴り響き、目の前で黒い煙が吹き上がる。同時に鉄の塊から感じる魔力が一気に弱まり、奴隷達が並んだ辺りの扉が開いて、中から女が出て来たかと思うとその場に倒れ込んだ。


「次!」


 奴隷達を睨み付け、槍を持った女性騎士が叫ぶと、先頭の奴隷がフラフラと何かに取り憑かれた表情で黒い鉄の塊の中に入った。

 倒れた女性は息も絶え絶えで顔色は悪く、ビッショリと汗を掻いている。明らかに魔力枯渇の状態だ。放っておけば死んでしまうのだろう。


 俺は自分の感情を抑え込むのに苦労した。必死に気持ちを押し殺し、ゆっくりとその場を立ち去る。気持ちが高ぶらないようゆっくりと歩き、フェルエル殿が待つ場所まで戻ってきた。


「…納得したか?」


 戻ってきた俺に全てを見透かしたような表情で支配人は語りかけた。


「…納得はできないが、理解はした。…あんなものはあってはならない。」


「それを決めるのは貴公ではない。」


 支配人の声に俺は睨み付けた。だが支配人は動じない。


「貴公の使命は魂の浄化だ。それを努々忘れるでない。」


 彼女の言葉は俺の気持ちを複雑にした。


 確かにここ最近、黒い魂も見かけておらず、浄化を行っていない。それが(おとうと)の意志に反しているのかも分からず、サラ達とのうのうと過ごしている…。





 暴動はほぼ鎮圧され、戦車の砲撃によって荒らされた街のあちこちから残党狩りによる悲鳴が聞こえている。

 街を占拠したのは巨神族ではあったが、族長代理アレクトーの派閥とは別のグループだったようで、部隊長らしき巨神族の男がしきりにアレクトーの名を連呼しながら住民の安全を確保しようとしていた。…あの砲撃を見た後では逆効果だと思うのだが。

 それでも俺感覚で1時間くらいで黒い炎も消化され、残党も全て捕えられて暴動は完全に鎮圧された。

 捕えられた巨神族は一族の名を汚すものとして住民たちの前で公開処刑された。



「…これでは恐怖支配ではないか?」


 一部始終を見ていた俺は隣に佇むフェルエル殿に問いかける。


「そうですね。アレクトー様の派閥はこの支配力で今の地位を確保されているのでしょう。…長続きしないとは思いますが。」


 フェルエル殿の口調はもとに戻り、その回答は俺の抱いている思いと同じだった。

 アレクトーの派閥は一応最大派閥でもあるようで、数の力で他の派閥を抑え、恐怖によって街を支配しているというのか。


 俺なら、こんな奴らに実権は握らせない。より安定した(まつりごと)行える派閥に実権を握らせるべきと考える。

 それは誰なのか。もう少し情報収集が必要だ。


「…戻ろう。」


 俺の呟きにフェルエル殿は肯き、首に両手を回して抱き付いた。俺は無言で支配人を抱き上げ、≪気脈使い≫で空を跳び、ステイピアの街に戻った。





 だが、街ではもっと大変なことが起きていた。





 領主館が襲撃され、俺がチェックしていた要人が数名殺されるという事件になっていた。

 戦乙女族の騎士が宿に迎えに来て、俺は強引に領主館まで連行された。そこで鎧を脱ぎ包帯を体中に巻いて床に座り込んでいるカーテリーナ殿と面会した。

 そして俺は彼女から襲撃事件の概要を聞かされた。

 討伐軍が街を出た後、守備兵が少なくなったところを見計らって突然襲撃されたそうだ。領主館内では朝食後の談話があちこちで行われていたところで、館内のあちこちでほぼ同時に襲われていた。

 カーテリーナ殿も襲われた一人で怪我を負ったそうだ。アレクトーも襲われたらしく、腕に包帯を巻いていた。

 命を落とした要人は5名。うち4人が巨神族。そして何故かそれらはアレクトーと距離を置いていた派閥…。どうも怪しい。

 だが領主館を襲った奴らは全員逃げられている。奴らを見た騎士の話では、体格的に巨神族ではなかったそうだ。もっと小柄で黒づくめの服を着ていたという。

 それと、何人かの要人が連れ去られていることもわかった。そしてその中にエルティスケースも含まれている。



 一通り話を聞き、カーテリーナ殿から意見を求められた。

 この早朝の暴動から領主館襲撃は連携されていると考えた。そしてこの一連の目的はエルティスケースの誘拐。あの男の子が人格を封印されていることは一部の人間しか知らない。そこでエルティスケースだけ誘拐すると周りの人間もエルティスケースを怪しむ。だが、無差別的に殺害、誘拐を行うことでカムフラージュになる。そうして一部の要人に対して脅迫を行うことでができる。

 俺はその脅迫の相手はカーテリーナ殿だと考え、≪念話≫で質問した。だが俺の答えは予想と異なっていた。


(まだ私に接触はないのだ。)


 エルティスケースを匿っているのはカーテリーナ殿。その彼女に脅迫が行われていないとは?

 いやまて。討伐部隊を指揮していたのは巨神族だが、あの“戦車”を運用していたのは戦乙女族だ。どういうことだ?カーテリーナ殿とアレクトーが組んでいるということか?…クソ!情報が足りない。


 俺が考え込んでいる様子を見て、カーテリーナ殿が声を掛けた。


「まだ何もわからない様じゃな。」


「…情報が足りません。アンネローゼ殿から何か聞き出せないのでしょうか。」


 エルティスケースの保護者としてアンネローゼが側にいたはずだ。彼女から何か得られるものはないのかと考えたが、半神族の長は首を横に振った。


「放心している。何も聞き出せん。」


 …まあ、彼女は≪魅了≫されてるからな。そうなるか。…となると、どこから調べるか。


 何かわかったら知らせるように言われ、俺は退室し、【巨蟹宮】に戻った。

 外は慌ただしく兵士が行き交っているが、部屋の中は静かだ。時折エフィの馬鹿笑いが聞こえる程度で、会話も少なかった。

 男爵様も俺にどう話しかけるべきか迷っているようでソファに座ってチラチラと俺を見ている。

 アリア殿は何か吹っ切れたのかファティナ様の隣でどんと構えていた。


「…ご主人様。私たちはどうなるのでしょうか?」


 サラが不安そうな顔を俺に向けて問いかけてきた。彼女は聡い子だ。この状況を理解し、俺たちはこのまま抑留される可能性があることに思い至っているようだ。

 サラの言う通り、このままではずっとここに軟禁されることになる。何とかしたいと思っているのだが、糸口が見つからない。マークしている要人に目立った動きがなく、手詰まりなんだ。

 俺はサラを安心させるために抱き寄せて頭を撫でた。


 次の瞬間、我も我もとフォンとカミラが寄って来たのは俺の予想通りだった。







 夕方すぎて、ようやく慌ただしさも収まり、≪気配察知≫の動きも落ち着きを取り戻した。相変わらず要人としてマークしている18人の動きは特にない。一番注視しているアレクトーとカーテリーナ殿も特に怪しい動きはなかった。


「…長丁場になるかもしれんな。」


 俺の独り言に呼応したわけではないが、フォンがこそこそっと俺の側にやってきた。


「ご主人…アンネローゼ様が街の外にいます。」


 その言葉に俺は驚きの表情を浮かべ、慌てて≪気配察知≫でアンネローゼを追った。彼女は街の外へ出て、物凄いスピードで北にある雪山に向かっている。恐らく馬に乗っているのだろう。



「しまった!!アンネローゼに接触していたのか!迂闊!」


 突然俺が大声を張り上げたため、中にいた全員が肩を震わせてビクッと驚いた。俺はそんなことには構わずに周りを見渡し、我関せずのベラを見つける。


「ウルチ!」


 俺の声に反応し、ベラの髪が紫色に変化しこっちを見た。


「お前の“耳”が必要だ!俺と来い!」


 その声に反応し、「はい!」という元気な返事とともに俺に飛び乗るように抱き付いた。サラが「あ!」っと小さく叫ぶが、いつものことだから無視する。


「ヨーコ!ちょっと出かけてくる。何かあったら≪念話≫で連絡する!」


 そう言って、俺はウルチを抱きかかえたまま窓から外に飛び出した。ヨーコが何やら叫んでいるがそれも無視して空へと跳びあがった。

 既にアンネローゼの赤い点は雪山の中腹に差し掛かっている。そして彼女に近づく別の赤い点が見えていた。


「ウルチ!ちょっと飛ばす!しっかり掴まっていろ!」


 俺は左手でウルチの体をしっかりと押さえ、最高速の≪気脈使い≫で赤い点が示す場所へ跳んだ。




 アンネローゼが向かった場所はステイピアの街から北へ半日ほどの距離にある四ノ島最大の山【アスプロヴノ】。

 一年中雪に覆われており、気温も低い。山頂は雪を降らせる雲に覆われ、下からは見ることはできない。聞くところによれば、氷を司る神が鎮座されているとか…。

 俺からすれば神気を感じないので、伝承でしかないとわかるが、それでもこの山は壮大で人間には厳しい環境を抱えている。

 そんなところにアンネローゼが向かっており、その先には彼女を待つ赤い点もある。

 しかもその赤い点は俺が過去に一度会ったことのある波動だった。


 イーヴァルディ。


 エフィルディスを狙うハウグスポーリの部隊で“隊長”と呼ばれていたドワーフだ。

 あの時は、実行部隊の中心だったドワーフを俺が“浄化”させ撤退したが、今度は四ノ島で何の目的でアンネローゼに接触しているのか。


 いや、今はどうでもいい。一刻も早く二人がいる場所に近づき、何をしようとしているのかを調べねば。

 俺は二人がギリギリ視認できる場所まで近づきウルチを降ろした。


「ウルチ。ここからなら二人の会話が聞こえるか?」


 俺の質問にウルチは黙って肯き、目を閉じて耳に集中した。俺の耳には頬にあたる冷たい風の音しか聞こえない。だがウルチのスキルに現れない異常な聴力はしっかりと会話が聞こえているようだ。


「…えっと、『子供を返してほしければ、一ノ島から来た男の行動を妨害しろ。』『何故あんなヒト族の…』『我々が望む紛争解決にはあの男は邪魔なのだ。』『…どうすればいい?』『街の外に出ないようにすればいい。…二人きりで部屋に篭ってもらうのが一番いいが。』『な!そ、そんなこと!』『できなければお前が慕うあの子供は返って来んぞ!』『それでは約束が違う!どれだけ貴様らに協力したと思って…』」


「ウルチ、もういいよ。」


 ウルチが聞いて喋った内容で大体はわかった。アンネローゼの『呪い』を利用して、内通者として仕立てて、裏から情報収集や攪乱、潜入の手引きをやらせていたんだ。

 そして最終の仕上げとして、エルティスケースを人質にとっておいて…。


 恐らく、アンネローゼを始末するような行動に出るだろう。俺と一緒に過ごさせておいてアンネローゼを始末する方法と言うことは……一番妥当なのは家ごと爆破…かな?それで俺も一緒に始末しちゃおう、みたいな。


 アンネローゼとイーヴァルディの会話は終わり、肩を落としたアンネローゼがゆっくりと山を下りて行った。それを少しだけ見送ってから、イーヴァルディは踵を返し雪山を昇って行った。


「ウルチ、あの男の後を追うぞ。」


「え!?でも」


「なに、彼女が街に着くまでに俺たちは帰ればいいのだ。それよりもあのドワーフ達が何をしようとしているのかが気になる。」


 そう言うと俺はウルチを抱えてドワーフの後を追った。


 ドワーフはアンネローゼと会話していた場所より更に上の辺りで軽く雪を掘り出し、中へと入って行った。そこで赤い点が消える。恐らく≪気配拡散≫による効果だろう。雪のなかを掘ってくり抜いて、秘密基地みたいな感じにしているのかな。たぶん1年前からここで活動していたのだろう。根気のいる話だ。

 …で、こんな寒い場所に篭って、奴らは何をしているのか。


「ウルチ、この中にいる奴らの会話が聞こえるか?」









 俺とウルチは寒い雪山(アスプロヴノ)から戻り、【巨蟹宮】の部屋で暖炉を焚いて温まっていた。

 さすがに半日いると俺でも体も芯まで冷えてしまっている。ウルチは唇が紫色になり、髪の毛や服装の色と変にマッチしてしまって不健康少女のように見える状態だった。


 俺は暖炉の前で白湯を飲みながら、ウルチから得た情報を整理した。



 ハウグスポーリは、アレクトー一派と契約して活動していた。アレクトー一派は巨神族(ティターン)の実権を握ることを目的としてハウグスポーリを利用しようとしているが、実は逆に利用されている状況だ。

 ハウグスポーリの目的は“混乱”。この言葉によって、今までの奴らの行動も説明ができる。

 奴らは各国に“混乱”状態を作り上げ、国の成長を停滞させることが仕事だ。

 そう考えると、海銀狼族の事件から始まり、エフィの件、王都の件も暗躍の目的がわかる。もしかしたら他の事件にも絡んでいる可能性だってある。

 そして奴らの協力者にはアンネローゼ以外にも何名かいる。これが厄介で、誰なのかわかっているのは2人だけで、そいつらは既に“誘拐”という名目で街を脱出している。だが、まだ街には少なくとも1人はまだいる。

 つまり、アンネローゼは俺に対する囮で、他の協力者には別の事をさせようとしているということだ。



 何かが起ころうとしている。



 俺は、自分の考えをヨーコとサラ、そしてファティナ様に説明し、意見を求めた。


「十中八九この街でもう一度何かが起こるわね。」


 ヨーコはうんうんと肯く。


「恐らく、街ごと大混乱になるようなことをしてくると思います。」


 サラは、不安そうな表情を見せながらも確信を持って答える。


「そうねぇ。まだ要人がここに集まっている状態ですものね。そして警護にあたる兵士達の半分は外征中。そしてそれを意識して街中で防備に徹するように仕向けて…。」


 ファティナ様も同じように思っていた。


 2~3日中に、この街に何かが起こるとみていいだろう。そしてそれは、アンネローゼが俺に接触することが合図となって始まることも想像できる。

 アンネローゼは俺と2人きりになろうと何かを仕掛けてくるだろう。





 2人っきり……。





 期待する訳じゃない。



 だが、なんか期待してしまう。






ようやく六章のヒロインが主人公に絡んでいきます。

説明回が続いてたので、なかなか進みませんでしたが、次話以降ぽんぽん進めていきます。(予定)


次話では、アンネローゼの見せ場の回として最前面に出てきます。

…出てくるはずです。


ご意見、ご感想、誤字脱字報告、頂けると大変ありがたく思います。


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