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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第六章◆ 背信の半神少女
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6 ハリボテの巨蟹獣

すいません、投稿遅れました



 漆黒の闇夜に佇む巨大な蟹。


 何百年も昔から、山の頂上に陣取り吹き荒れる北の海を睨み付け、半神族からは畏敬の対象として崇められてきた神獣。


 だが、その正体はただのハリボテ。


 本体は俺より少し背の高い見た目は普通の人。だが、魔力と神力が混ざり合わさる高密度の波動を吹き出し、鳥肌が立つほどの緊張感を感じさせるその威圧感は間違いなく神獣様。

 …だけど、全然神々しさとか、重厚さとか感じない。ただのおっさんにすら見える


(なんでやねん!……どうだ?俺はツッコミもできるぞ!)


 俺の胸を手の甲で軽く叩くしぐさで下手な関西人を匂わせるツッコミを見せる神獣。

 …この中途半端感をひしひしと感じるような前世の知識を持つおっさんは、嬉しそうに自分の知識を披露していた。





 …うざい。





(褒め言葉だよ。皆に崇められ奉られることにうんざりしてたから、お前のような奴は新鮮だ。)


 にこやかな表情で俺の白い視線を受け流し、俺の全身を隈なく観察する。


(ふ~ん?かなりの人外度だねぇ。それにそのデタラメなスキル…上位の魔獣に匹敵する力を備えてるな。一体何をしたいんだい?)


「別に好きでこの力を手に入れているのではありません。」


(ふ~ん?じゃ人外度の仕組みがまだわかってないの?)


「いえ、それはクロウ様にご教示頂きました。」


(あの船の上に立てた扇を撃ち抜くほどの鉄砲名人だったんでしょ?)


 誰だ?そんなデタラメ教えたのは?


(え!?違うの?)


 困った顔をして本当を教えて教えてとねだる神獣様。だいたい何でこんな蟹のハリボテ作ってるのかもわかんない。


(教えてあげようか。お前は俺の姿形だけを見て俺を神獣だと思うかい?【巨蟹獣】だと思うかい?)


 …そうか、神獣として威厳を出すには見た目も大事。それが、こんなチンチクリンみたいな感じじゃ。


(余計なお世話や!)


 …で、変な知識も持ってるようじゃ威厳もあったもんじゃねぇ。そこで、巨大すぎる蟹のハリボテを作ってそれを人々に見せてるってわけか。


(よくできました。だから誰にも言わないでおくれよ。じゃないと俺はお前を…。)


 急に雰囲気が変わった。俺の全身が軋み、恐怖と言う感情が込み上げてきた。


(お前を殺すことになるからな。)


 俺が青ざめてしまうほどの強烈な殺気。しかもその全身を帯びた殺気は俺にだけ向けられている。


 やはりこの方は神獣様。


 俺ごときなど、瞬殺できる力を見せつけられ、俺は恭しく頭を垂れた。

 【巨蟹獣】は満足したのか殺気を解き笑顔になる。


(わかって貰えてうれしいよ。じゃついでにお前は知ってるかい?“この世ならざる者”の末路を。)


 俺の心臓は高鳴った。そのことを神獣様も感じたのかニヤニヤした。


(気になるだろう。特別に教えてやるよ。せいぜいその死の恐怖に怯えな。)


 そう言って【巨蟹獣】様は“この世ならざる者”について説明をし出した。





 この世ならざる者


 前世を全うした日本人(限定)が神より新たな使命を与えられこの地に転移する。

 前世を全うした日本人(限定)が神より新しい命と使命を与えられこの地に転生する。その際、この地に存在する命を代償とする。

 前世の知識を引き継ぎ、この地で神の使命に応えるため、独自の力を付与される。

 神に与えられし神力を魔力に変換する能力を持つ。

 この地の神及びこの地を創造した神と交信する権限を持つ。

 この地でその名を上げる行為は神の使命に反する行為のため、名を上げた場合は罰を与えられる。

 神より与えられし力を本能の赴くままに使用した場合は、神獣によって成敗される。

 この地で生涯を閉じた者は神よって魂を浄化され、その存在を全て抹消される。





 俺は教えられた言葉を何度も復唱した。気になる点は3つ。


 1つ


 黒い魂の浄化について触れられていない。“使命”とぼかした表現に留まっている。


 2つ


 この地への転移方法は2通り。俺系とヨーコ系としておこう。何故かこの2種類が用意されている。しかも俺系は誰かの命を代償にしている。


 3つ


 死んだらこの世界から抹消される。これはどういう意味を持つのだろう。


(その前に、等価交換だ。前世の知識を教えてもらおう。)


 手を差し出す仕草で【巨蟹獣】様は俺に軽い威圧を掛けてきた。俺は暫く考え、恐らくこの世界にはないだろうと思う知識を説明した。


 音階。


 この世界にも音楽はある。だが、音の鳴る木を叩いたり、音の出る弓を引いたりして音を組み合わせて生み出されたもの。街で何度か見かけている、当然楽譜はなく、フィーリングで音を鳴らして曲を奏でている。

 音階は音をそのキーの高さで段階別に表して表現した言わば音楽の言語。バラバラだった音の表現に規律を持たせ、楽譜に表せるようにした、前世における画期的な発明。

 それを俺は知っている限り説明した。


 【巨蟹獣】様は必死になって考え始めた。ド~シまでの7音階。間に半音が混ざって全部で12通りの音。それが無限に繰り返されて音の高さを表現している。

 【巨蟹獣】様は叩いたり引いたりして音を出して、その音階を確認している。

 俺には絶対音感なんてないから聞こえた音の音階なんてわからないが、神獣様はどうやらわかるらしく、音を出してはその音階を確認して喜んでいた。もう夢中になっている。



 何なんだこの神獣は?



 俺はこれまでの神獣様と比べて、かなりランクの低さを感じてすっかり気が抜けてしまった。その場に座り、音を出して喜んでいる神獣様をぼーっと眺めていた。




 この地で生涯を閉じた者は神よって魂を浄化され、その存在を全て抹消される。




 結局この意味は教えてもらえないまま時間だけが過ぎていった。





 突然【ターユゲテーの双剣】が消えた。


 それはサラが呼んでいる合図。


 俺は≪念話≫でサラに呼びかけた。


(ご主人様、お客様が来られました。)


(誰だ?)


(カーテリーナ様にございます。)


 いきなり大物が来たな。俺は音階に夢中になっている神獣様に一礼し、≪空間転移陣≫を発動する。次の瞬間には部屋に戻っていた。

 突然現れた俺に、腰を抜かすアリア殿に目を丸くしたままのファティナ様。だがいちいち説明している暇はない。

 コートを脱ぐとサラがそれを受け取り、エフィがススや砂を叩き落として衣服を整える。


「どうぞ。」


 俺の声に合わせてヨーコが扉を開けた。


 扉の前には、羽のついた髪飾りを付けた女性が立っていた。


「失礼する。」


 威厳のある声で一礼すると中に入り、支配人も含めて全員がいる事を確認する。やはり俺たちのことを警戒している。

 俺は奥にあるソファに案内した。ソファでは、ファティナ様とアリア殿が太陽神式でカーテリーナ様に挨拶した。戦乙女族の族長は軽く肯きソファに座った。


「さて、ご用件をお伺いしてもよろしいですか。」


 俺は族長の向かいに座り、話を始めた。

カーテリーナ様はもう一度俺達をぐるりと見回し、小さなため息をついてから聞き覚えのある言葉を口にした。


「……ハウグスポーリ…。」


 全員がその言葉に息を飲む。まさかその言葉をこの島に来て耳にするとは思わなかった。


「その様子からすると何なのか説明する必要はないようだな。…1年ほど前からドワーフを見かけたという情報があってな。調べて行くとどうやらそのドワーフどもは、ハウグスポーリという組織に属する者だと言うことが分かった。」


 ゴクリとエフィが喉を鳴らした。複雑な心境が表情に現れている。

 フォンも緊張の色が隠せていない。


「ウチの子はその組織に多少なりとも因縁を持っておりましてね。あまり聞きたくない名前ですが、知っておりますよ。」


 俺はエフィとフォンの状況変化を補足するように説明した。


「ふむ。話を続けよう。そのハウグスポーリが巨神族の内紛に絡んでいると私は考えている。」


 やはりそうきたか。だとすれば俺は遠慮したい。エフィ、フォンの存在が知られる可能性がある。


「そして今日、貴公が会うた人物の誰かと繋がっているとみている。貴公がそれを探し出してくれるのなら、貴公らの要求を受け入れよう。」


 なるほど。第三者を使って調査をしたいのか。半神族でない俺達ならばハウグスポーリの手先ではないことは確実だから頼みやすいってことか。だが、安く請け負うつもりはないぞ。


「…割に合わないですな。」


「貴公は何か勘違いをしているようだな。この紛争が終わらない限り、貴公の要求に対して結論は出ないぞ。」




 そうなのね。やっぱりそうなのね。ウェイパー卿によってこの街に送り込まれた時点で俺たちは負け確定だったのね。

 しかも俺たちの意志に関係なくカーテリーナ殿の下僕確定の選択権なしって。


 しょうがない。ここはおとなしくカーテリーナ殿に従おう。


「…で、我々はどこまで行動の自由が得られるのですか?」


 カーテリーナ殿は憮然とした表情で即答した。


「ないぞ。」


 はい?


「私が一人でこんな時間にここを訊ねている意味を考えよ。」


 ああそうね。この話は戦乙女族の代表として来てるんじゃなくって、個人的に来てるのね。と言うことは、同族の中にもドワーフどもと通じているかもしれないと言うことなのね。

 俺はため息をついて今後の展開を考えた。

 領主館と【巨蟹宮】以外の出入りは禁止。この時点で行動可能なのは俺とヨーコだけ。

 何の人脈もなく、4部族の中から裏切り者を探し出す。どうやって探し出すか。こりゃ裏切り者を探すより、ハウグスポーリの塒を探した方が早いな。

 んでもって紛争の解決。どうなれば解決なんだ?


 いや、キーマンがいる。それはアンネローゼを慕う男の子、エルティスケース。


 あの子には【呪い】がある。あの子に触れて≪状態管理(メニュー)≫で視たのだ。




 ≪人格封印≫




 想像からすると、あの子には別の人格が眠っている。そしてそれが本来の人格。ウルチの【呪い】は≪人格分裂≫という自分が作り出した別人格と共存している状態だが、≪人格封印≫は本来の人格を封印して別の人格を植え付けていると思われる。

 そしてフェルエル殿の話から得た、巨神族の族長の息子である可能性。


 巨神族(ティターン)は保守派、急進派の部族の方針の違いで争っているのではない。単純に次の族長の地位を得るために有力者同士が争っていると推測できる。

 そうなると、今の族長の血を引く者は邪魔者だ。


 そこまで推測すると、あの子が人格を封印されて戦乙女族に預けられているのも説明がつく。今日あった族長代理のアレクトーが俺を敵視しているのも納得がいく。半神族の有力者の思いがバラバラなのも、次の巨神族の長として誰を推すか統制できていないからだ。


 まてよ。4部族で決議できない場合はウェイパー卿が関与できるのではなかったか?……む、部族間の決議事項ではなく巨神族内の問題だから関与できないってことか。更に部族間の問題にならないように、一応アレクトーという代表代理を置くことで他部族からの関与を抑えてるということか。


 …この状況におけるハウグスポーリの役割とは何なのだ?

 …いや一ノ島でのハウグスポーリの役割とは何だったのだ?

 これだけその名が知られているにも関わらず、ドワーフ王との関係性についてははっきりとした証拠がない。ドワーフ王個人に忠誠を誓う部隊だと言われているが確たる証拠がない。

 俺は以前に隊長と呼ばれていたドワーフが「陛下」と言っていたのを聞いた事はあるが、これは証拠にならんからなぁ。

 それに≪情報整理≫からは何も答えを出してきてないからな。恐らく不確定要素がまだあって、絞り込みができないんだろう。


 ふと周りを見ると、カーテリーナ殿も含めて全員が俺に注目していた。


「…御主人様、大丈夫ですか?随分と険しいお顔をされておりましたが…。」


 そうか、そんなに険しい顔になっていたか。考えることに夢中になって気がつかなかった。

 俺はなだめる様にサラの頭を撫でて安心させる。


「…で、まだ回答を貰っておらぬが。」


 せっかくのいい雰囲気に水を差すようにカーテリーナ殿が声を掛けてきた。俺は一呼吸おいてから族長殿に向き直る。


「お願いがございます。貴方様への≪遠隔念話≫の使用をご許可下さい。」


 俺は≪念話≫について、メリットデメリットを説明し、許可を求めた。カーテリーナ殿はこのスキルは知らないようで、言葉だけでは今一つ伝わらなかったため、実際に使用した。


(このような感じで突然声が聞こえます。)


 カーテリーナ殿は突然響く俺の声にびっくりした表情を見せた。これでは周りの人間に≪念話≫がされたことが丸わかりである。


(確かに、突然声が聞こえると驚くな。だが、慣れるしかないのだろう?許可しよう。)


 俺は≪念話≫を発動させたまま、気になっている質問をぶつけた。


(アンネローゼ殿には≪魅了≫の呪いが掛かっております。カーテリーナ殿はご存知ですか?)


 カーテリーナ殿は俺を睨み付けた。俺の質問の意図を探るようにじっと見つめ、俺も負けじと見つめ返した。


(…知っていたとしたら、なんとする?)


 そして≪情報整理≫が答えを導き出した。


 エルティスケースは戦乙女族(ヴァルキリー)の族長によって守られている。

 アンネローゼは守護対象をカムフラージュするように巨神族(ティターン)の子供に魅了された愚かな半神族を役割を課せられている。


 誰から守っているのだ?


 それにはまだ答えが出されていないが、ウェイパー卿が俺達とエルティスケースを同行させたと言うことはカーテリーナ殿に力を貸せと言っているのだろう。



 腹は括った。もしかしたらこれで何等かの称号なり二つ名なりを手に入れ、ペナルティを受けるかも知れん。だが、放っておけば、あの子供もアンネローゼも命を奪われるかもしれんということだ。


「微力を尽くしましょう。」


 俺はカーテリーナ殿に頭を下げた。





 カーテリーナ殿が部屋を去った後、俺はまだ考えに耽っていた。

 何をすれば紛争解決になるかはまだわかっていない。キーマンがあの子供だってことだけしかわかっていない。あの子が死ぬことで誰が得をして誰が損をする。どうなれば次の巨神族の族長が決まる?選ばれた族長によって何が変わる?


 わからないことが多すぎて何から手をつけていいのかわからない。ならばまず、情報集めからやってみるか。


 ≪気配察知≫≪遠視≫≪情報整理≫のコンボで得られる、脳内地図。これに≪精神魔法≫を加えてより鮮明な遠隔視、遠隔聴ができる状態を作り、今日の夕食会に出席していた有力者全員をマーキングした。

 全部で22人。

 これから四六時中こいつらを見張り、紛争解決の糸口を掴もうという俺の人外技。

 …非常に気が重い。

 だって四六時中ってことは不眠不休だよ。

 こうして俺の“人外の監視”と名付けた作業は、早速始まったわけだが、早朝になり早速動きがあった。

 殆どの巨神族が街を出て行ったのだ。

 更に、同様に100人規模の軍も街を出て行った。

 22人の会話のうち、数名から「オルフェンスの街で暴動が発生した。」という内容の会話があるので、恐らくその鎮圧に巨神族の有力者や他種族の軍が動いたと思われる。


「念のために誰かに聞きに行くか。」


 俺は宿を出て、領主館へと向かった。もちろん道中は護衛付である。

 領主館に入ると、何人かの半神族が慌ただしくしていた。うん、これは緊急事態になっていると思っていいだろう。俺はカーテリーナ殿に面会を求めたが、あっさり断られ、更に宿にまで追い返されてしまった。

 しかも今度は、宿の入り口に護衛兵を配置されてしまった。


「どうやら俺達に見られては困ることらしいな。」


 俺がこの状況をニヤニヤしながらつぶやくと、男爵様は眉間に皺を寄せてため息をついた。


「せっかく無理してついて来たというのに、面白くないですね。」


 アリア殿がこれに肯く。


「いえ、ファティナ様。既に面白いことが起こっているのですよ。我々は閉じ込められていますが、周りに気づかれずに出る方法はいくらでもあるのです。」


 俺は念のために船に転移陣を作ってきた。いざとなれば、全員まとめて転移して逃げればいい。

 だが、この状況をどう利用するかを考え行動する余裕はある。


「エル、どうするの?」


 ヨーコが俺の返事を待ちきれずぷりぷりした表情で聞いて来た。


「どうやら巨神族の街で暴動が起きたらしい。その鎮圧にステイピアの軍が早朝から出て行ったよ。」


 それを聞いてヨーコは頬をますます膨らませ、腕を組んで怒鳴るように言った。


「どうしてそれでアタシ達が閉じ込められるのよ!」


「俺達に見せたくないものがあるのだろう?」


「何よ!」


「…多分これ。」


 俺は≪視界共有の目≫で部屋にいる全員に街の入り口付近の光景を見せた。


 そこには、天馬(ペガサス)に引かれる巨大な戦車があった。荷台に巨大な大砲が二門。恐らく暴動鎮圧のために引っ張り出してきた半神族の兵器と思われる。



 この世界には相応しくない武器。



 俺はこの世界に来てから鉄砲を見ていない。カルタノオの市場でも見なかった。恐らく存在しないだろう。


 なのに何故鉄砲より高度な武器である大砲が存在するのだろうか?


 天馬が引く戦車が何なのかヨーコ以外わかっていないようだった。

 戦車の行先は、当然暴動の起きたオルフェンスの街。巨神族の族長はこの戦車の使用について認識しているのだろうか。この世界でこの破壊兵器の威力は殺戮ショーだと思う。俺の“人外の監視”はさすがにオルフェンスの街までは届かない。


 これはあの街で何が行われるか見る必要があるか…。


「…これからあの鎮圧部隊に密かに同行し、顛末を確認してくる。みんなはここで待機していてくれ。」


 俺の言葉にサラ達は肯いた。次に俺はファティナ殿とアリア殿を見る。


「お二人もここで待機してください。何かあっても私の奴隷が守ります。」


 ファティナ殿はにこやかな表情で、アリア殿は不安げな表情で了承した。


「ヨーコ、奴隷達に対する権限をお前に預ける。」


 心配そうなヨーコの表情は、俺が頭を撫でることで和らぎ、笑顔で「うん」と答えた。そして俺はフェルエル殿に向かい話を続ける。


「フェルエル殿。案内をお願いしたい。≪超隠密行動≫で行動するので安全だと思いますので。」


「あのスキルって他人にも効果があるの?」


 ヨーコが不安そうに質問する。


「うん、密着しないといけないけど他人にも効果がつくんだ。…フェルエル殿、今の話も踏まえてご了承頂けますか。」


 俺の言葉を聞いて支配人はよく見るニヤニヤした笑顔を浮かべた。


「エルバード様。かまいませんよ。私はあなた様が“チップ”というものでお金を支払って頂ければ、何でもお世話差し上げておりますので。」



 バチン!


 その言葉に過剰に反応したヨーコは俺の頬を平手打ちし、そのままその頬をつねり下ろして自分の顔に近づけた。



「…どういう意味?」


「い、痛い、ヨーコさん!」


「どういう意味?」


 ヨーコの指の力が跳ねあがる。


「いたたた!待って!ないです!!まだ何もないですって!!」


「…まだ(・・)?」


 し、しまった。言い方がまずい!


「い、いえ!この先もないです!」


「あら、私は構いませんよ。…お支払さえして頂ければ。」


 面白がって支配人はヨーコを煽る様な言葉を吐く。


「…フェルエルさんは、こんなことを言ってますけど…何もないって言いきれる?」


 目がマジの目をしてます、ヨーコさん!



 みんなが見守る中、ヨーコを煽るフェルエル殿と、見事に煽られて感情的に俺を責め続けるヨーコ。


 頬をつねられながらも、俺はこれから起こる出来事を予想して、笑顔を見せてみんなを安心させるのは心苦しかった。





主人公は波乱の予感を感じています。

ですが、周りの女の子たちを不安にさせたくないと苦労しているようです。


次話では支配人の正体にかなり迫ります。


ご意見、ご感想、ご指摘があればお願いいたします。

全て真摯に受け止めております。あと誤字修正が滞っております。

申し訳ありません

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