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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第六章◆ 背信の半神少女
87/126

5 ダミー


 戦乙女族が交代で見張りを行い、何事もない夜を過ごし、朝を迎えた。


 四ノ島の朝は寒い。


 前日は宿泊施設で朝を迎えたし、ヨーコのぬくもりを微妙に感じてたので、気付かなかったが、テントの中で一人で夜を過ごすと体温を結構奪われていた。

 夜の間に温度の下がった空気が陽の光によってこれから温められようとしているのだが、肝心の陽の光は雲に覆われている。西の空は晴れているのだが、東の空は巨大な山があり、その上を雪雲が覆っている光景だ。

 俺は人数分のコートを≪異空間倉庫≫から取り出し、サラ達に配って行く。戦乙女族たちも厚手のジャケットを着こみ、寒さ対策をしていた。


「アンネローゼ殿、体を温めるモノとして、牛の乳を温めた物を出そうと思うんだが、飲めない人はいるか?」


 俺は冷えた体を温めようとホットミルクを作ろうとアンネローゼに聞いてみた。


「貴様の作った料理は頂けぬ。…毒を入れられては困るからな。」


 失礼極まりない断り方に、話を聞いていたクラーラが割って入った。


「エルバード殿!重ねてお詫び申し上げる!アンナは先ほどまで見張りを行っていたので、気が立っている。こちらで厳重注意するので、ここは…。」


「一言聞いておこう。貴公らの任務は何だ?」


 俺は釘を刺しておくために敢えて低い声で問いただした。


「エルバード殿のステイピアまでの護衛です。」


「俺は守られる側だよな。なのに危険人物扱いの言動には納得しかねる。…アンネローゼ殿。俺に思うところがあるのは構わぬが任務と公私混同されては困る。それとも私がステイピアに行くのは好ましくないとお思いか?」


 俺の言葉にアンネローゼとクラーラで表情が異なった。

 アンネローゼは俺の真意がわからず、「弟の近くをうろちょろされるのが気に食わない」と私的な感情を剥き出している。

 だがクラーラは突かれたくないところを突かれ、緊張の色を隠せないといった表情を見せ、必死に繕っていた。

 ≪情報整理≫が答えをだす。


 アンネローゼはその性格ゆえからか、ほとんど詳細を知らされていない。エルティスケースの面倒を見てやれ、くらいなのだろう。詳細な指示を受けて任務に就いているのはむしろクラーラのほうだ。

 おそらくこれまでもそうだったのだろうが、アンネローゼが直接的に、クラーラが間接的に巨神族の子供を守ってきたのだろう。今回もその予定だったが、“俺”という憎たらしい存在のお蔭でクラーラがアンネローゼを制御しきれず、おかしな状況になっているという感じだ。


 だが、アンネローゼの行動にはまだ不自然さがある…。


「ステイピアまではあと一日。せめて街に入るまではまっとうに任務を遂行することを求める。」


 俺は頭を下げてクラーラとアンネローゼにお願いをする。両者とも反応は異なるが、俺の誠意は伝わったと思う。

 俺は踵を返し、自分のテントを片付けにその場を離れた。



 テントを張った場所に戻ると、サラ達がテントを片付けていた。俺は片付け方を確認する。


 ヨーコは綺麗に折りたたまれ、骨組み用の棒も揃えられてコンパクトにされている。うん、満点。

 サラもヨーコほどではないが片付けできている。90点

 フォンはこういうのが苦手なので、頑張った感はあるが残念な状態。60点。

 エフィは片付けすらしていない。0点。

 ベラも片付けすらしていない。たぶん、エフィをまねているので、しょうがない。0点。

 カミラは意外とできている。兄と旅をして回ってるからこういうのは仕込まれてるんだろうな。80点。


 という訳で、エフィとベラはヨーコの指導を受け、フォンはサラの指導を受け、俺は自分のテントを綺麗に(・・・)片付け、朝の作業は終わった。



 全員で朝食を食べ、馬車に乗り込んでステイピアに向かって出発する。冷たい空気を掻き分けて天馬が疾走し、やがて遠くの丘の上に城壁が見えた。

 と同時に西の山の頂上に赤い大きな岩も見えた。…いや、岩というより甲羅をこちらに向けた蟹のように見える。俺がその赤い岩を眺めている様子を見て、フェルエル殿が声をかけた。


「あれが、四ノ島におわす【巨蟹獣】ですよ。」


 俺は唖然とした。


 この位置からでもあれほど大きく見えるということは、実際は100m近い巨大な蟹ということになる…。普段からあの状態で遠くからでも見えるということか?


「…あの神獣様は常にあの山の頂上から、北にある魔大陸を睨みつけ、我らをお守りくださっております。」


 クラーラ殿が補足する。



 …魔大陸?



「ご主人様、魔大陸というのは、かつてヒト族が暮らしていた土地と云われています。そこではヒト族は凄惨な暮らしを行っていましたが、大きな船を作り上げ魔大陸を脱出し、この六大群島に移住したといわれています。ですが、魔大陸でどのような暮らしを行っていたのか記録が一切見つかっておらず、また魔大陸そのものの存在を否定する学者もいて……」


 語り部サラの話はしばらく続きそうだったので、俺もクラーラ殿もフェルエル殿も聞いているふりをして山の頂上にそびえる【巨蟹獣】を眺めていた。


「エルバード様、夕方にはステイピアの街に到着します。あの街には私が苦心して建設した【巨蟹宮】がございます。旅の記念に泊まられてはいかがでしょうか?」


 フェルエル殿はさりげなく、戦乙女族と距離を取るよう提案してきた。


「ほうほう。ぜひ宿泊させて頂きたい!…ですが、奴隷用の設備はございますか?」


 俺はワザとその話に食いついたそぶりを見せた。


「ご安心ください。設備は十分に備わっております。」


 支配人は恭しく頭を下げる。その様子を見てクラーラは困惑していた。


「…エルバード殿。街では領主館の中に一室を設けております。また今宵は代表者を交えた夕食会もご用意しております。どうかこちらに…」


 クラーラはここで俺たちに断られては面目がどうのこうのという話になるのだろうか、俺たちを止めてきた。だが、俺にも事情はあるし、お互い都合がいいと思うのだが。


「クラーラ殿。我々は何者かに狙われております。それが誰なのかを知る必要もあります。…ご厚意はありがたいですが、領主館に閉じ込められては身動きが取れませぬ。ここは敢えて我々が行動しやすいよう取り計らって頂けませぬか。」


 要は囮になってやるから自由行動をさせてくれと頼んだ。クラーラは自分一人の判断では回答できないと保留にしたが、アンネローゼは、この件に関しては終始無言だった。




 この中で一番怪しいのはアンネローゼ。



 何より私的に俺を敵視している。だが、この紛争に介入されて困る理由がわからない。だからしばらく自由に行動し、不自然に接触してくる輩を調べて黒幕を探し出したいと思っている。

 これについては、サラ、フォン、ベラにだけ説明し、ヨーコ、エフィ、カミラには黙っておくことにした。

 エフィ、カミラは単にこういうのが苦手で顔に出るタイプだし、ヨーコは絶対反対するからだ。


 一行は、お日様15つ分になってようやく街に到着した。アンネローゼ殿が御者台から開門を叫び、門が開く。今まで見てきた門と大きく異なり、左右にスライドして門は開いた。馬車が中に入り天馬はそのまま突き進んで領主館へと向かう。

 領主館に到着すると、契約終了と言わんばかりに荷馬車を置き捨て、羽を広げて飛び去って行った。当然俺に≪念話≫で、


(いつでもお呼び下され。)


 と忠義信を見せる言葉を残していく。


 アンネローゼ殿は飛び去っていく天馬を口惜しそうに睨み付けており、その様子を俺が見ていることに気付くと、文句あるのかと絡んできた。他の戦乙女族がなんとか押さえつけておとなしくなったが、どうしてあそこまで俺に敵意を向けるのか謎だ。

 エルティスケースはどうしているのかというと、小さくなっていく天馬にいつまでも手を振っていた。その様子を見て周りの女性はキュンキュンしていた。




 俺たちは領主館の中に入り、クラーラ殿の案内で広間に通された。…いつの間にかアンネローゼ殿とエルティスケースは姿を消していた。≪気配察知≫で探すと、3階のほうに上がっている。彼女の部屋があるのか?いや、一介の騎士が領主館のしかも上層階に部屋を持つのはおかしい。やはりあの子供は巨神族の紛争のカギとなる族長の息子と思ってよいのではないだろうか。でもなぜクラーラ殿は「急進派の一族の子供」と紹介したのか。


 やがて広間に何人かの半神族が入ってきた。いずれも巨神族の急進派とは敵対する勢力。急進派の子供を預かると説明するメリットがない。……いや、1つだけあった。急進派だというだけで襲ってくる不貞な輩から守るという名目を得る。そして守役にアンネローゼ殿が選ばれている。彼女は真実を知らされていない。


 ひときわ大きな体つきをした男性が俺に歩み寄ってきた。


「初めまして。私が巨神族(ティターン)の族長代理を務めるアレクトーだ。」


 族長代理と名乗ったアレクトーは右手を差し出した。だが俺は太陽神の礼をした。


「初めて御意を得ます。エルバードと申します。このような場にお呼び頂き、誠にありがとうございます。」


 この男に右手を差し出すのは危険だと感じた。何かする気だったのか出した右手で頭を掻き気まずそうな顔を見せた。


「…やはりこの程度には乗ってこぬか。…いや失礼。迂闊に手を出して来たら握りつぶしてやろうと思っていたのだがな。ヒト族にしては用心深い男だな。」


 少々失礼な物言いで笑うが、目は笑っていない。この男は警戒すべき相手だと判断した。


 続いてやってきたのが下半身が馬の男。片目を包帯で巻いている姿が、俺もヨーコも厨ニ病を連想してしまい、直視できなかった。


半身半馬族(ケンタウルス)の族長ウェイントだ。この島で商売をしたいと聞いているが?商人のようには見えぬな。」


 あまり俺たちのことがちゃんと伝わってないようで、商売をしに商人がやってくると思い込んでいたようだ。


主天使(ドミニオン)の族長クェルだ。ヒト族は他種族の奴隷を好むと聞いていたが…良からぬことに使役させているのではないのか?」


 ジロジロと俺より後ろに控えるサラ達を見ているクェルと名乗る白いローブを纏う女性。主天使族は奴隷に対して偏見を持っているようだ。


 そして最後に羽のついた髪飾りを付けた女性が俺に挨拶をした。


「初めまして。戦乙女族(ヴァルキリー)の族長、カーテリーナと言う。貴殿の話はウェイパー卿から聞いている。」


 俺は太陽神式で挨拶をした。≪情報整理≫が俺に情報をもたらす。


 巨神族(ティターン)は警戒すべき相手。

 半身半馬族(ケンタウルス)は俺の情報を全く得ていないのか舐めて掛かっている。

 主天使(ドミニオン)奴隷を使役している俺に嫌悪感を抱いている。

 そして戦乙女族(ヴァルキリー)は俺を警戒している。


 全員半神族の代表で、目的があって集まってはいるが、それぞれ思惑があり、情報公開がされておらず、統制が取れていない。ウェイパー卿のもとにいた兵士達のほうが統制取れていたように見える。

 今も広間内では、種族間同士で警戒し合っているようだ。こんなところに俺を放り込んでウェイパー卿は何を企んでいるのか…。


「さっそくだが、貴殿は四ノ島でどのような商品を取り扱おうとしているのかお聞かせ願えるか。」


 クェル様が代表して俺に質問する。


「はい、まずはこれを試食頂けますか。」


 そう言って俺は例の干し肉を取り出す。それぞれの護衛兵が受け取って代表に渡し、少し口に運んだ。

 反応はそれほど悪くない。味は半神族でも問題なさそうだ。

 次に二ノ島で手に入れた果物も差し出す。これも反応はまあまあだった。


「今お出しした食べ物は産地が異なります。これら産地の異なる食べ物を一ノ島を中心とした周回船で集積し、販売しようと考えております。」


 俺は代表たちの反応を見る。


 巨神族以外はまんざらでもなさそうだ。


「…できれば、文化の交流もと考えておりましたが、四ノ島の方々はそれは望んでおられませんので、食材を中心とした商いをと思っております。」


 代表たちは手にしたジャーキーや果物を見ながら考えていた。


「貴公の要求はわかった。だが、我々も短絡的に判断はしたくない。それぞれ有識者の意見も求めて判断したいと思う故、しばらく滞在されよ。」


 カーテリーナ様が俺に一旦回答をした。まあ、想像通り。宿泊場所を用意しているとクラーラから聞いていた段階で予想はしていたんだが。


「恐れながら、此の者は十二宮を経営する支配人にございます。我々はこの街に滞在する間、【巨蟹宮】に宿泊させて頂こうと思いますが。」


 俺は恭しく頭を下げた。


「ふん…おとなしく領主館の中にいればよいではないか。」


敵意剥き出しのような言葉を返す巨神族のアレクトー。部族内の保守派と聞いているが、ガチガチの鎖国主義だな。…いや待てよ。この男の言葉に、他の3人は好意的ではない気がする…。どういうことだろう。半神族派保守派の支援をしているはずだが、関係はあまり良くない。


「あまり街中をうろうろされても困るのだが。」


 戦乙女族のカーテリーナはアレクトーの言葉にかぶせるように言う。


「逆に我々が領主館の中をウロウロすることで困ることもございましょう。我々も問題は起したくありませんので、滞在中は宿と領主館以外には立ち入らないことをお約束いたします。」


 俺はもう一度頭を下げた。


「…宿の周りに護衛を付けさせてもらうが良いか?」


「はい。」


「よかろう。フェルエル殿…と言ったな。貴公の宿周辺に兵士を配置させてもらう。」


 フェルエルこと十二宮の支配人は恭しく一礼した。




 やがて夕食会が始まり、俺と支配人と男爵様は立食形式の会食で数名の半神族の有力者と会話をした。

 男爵様はヒト族の貴族として顔と名前を売ることが目的だが、俺と支配人は、周回船で貿易を行うことによるメリットデメリットの説明会話がほとんどだった。そしてその会話の中でわかったことは、


 ヒト族に対しては非友好的だが、周回船については興味を持っている。


 ということだった。


 恐らく、現状では外貨獲得の手段もなく、国内だけで生産品を消費するには限界があるため、金を稼ぐ手段が欲しいとは考えていると思われる。

 こういうときナヴィス殿ならどうするだろう。ライラ殿ならどうするだろう。俺は性にならどうするべきかを必死に考え、半神族の有力者と会話を続けた。





 結局、相手からいい感触を得ることができないまま、夕食会は終了し、主天使族の女性の先導で【巨蟹宮】へと案内された。

 既に周辺には何人かの戦乙女族の兵士が配置されていることを≪気配察知≫で確認するが、アンネローゼやクラーラはいない。

 宿に入り、手続きは支配人に任せて最上階の特別室へ向かう。部屋に入りソファにもたれて一息ついてから、今日の出来事を回顧した。


「…エルバード殿。何をお考えですか?」


 ドレス姿のままの男爵様が俺の隣に座り、お酒で顔を赤らめた状態で声を掛けてきた。瞬間にヨーコの気配からピリピリ感が伝わった。…わかってる、大丈夫だから。


「男爵様はどうお考えですか?我々がステイピアの街まで来た意味を。」


 俺は逆に質問した。男爵様がどこまでこの状況を認識しているのか知りたかった。


「…ウェイパー卿は私たちにこの紛争に介入することを望んでいるのは確かです。しかし、どういう結果を望んでいるのわかりません。」


 男爵様は少し俯き加減の姿勢で答えた。彼女もまだどうしたらいいかわからないようだ。


「この紛争は、単に巨神族の分裂という問題ではないように思えます。これを機に各部族の各派閥が蠢動していると考えます。そして唯一どの派閥にも属していないのがウェイパー卿…。」


 ヨーコが男爵様の反対側に座った。


「誰の味方として介入すればいいかわからないってコトなのよね。」


「それどころか、誰がどの派閥なのかすらわかっていない。」


 フォンが俺の足もとに跪く。


「…調べますか?」


「いや、こちらから動くのはやめておこう。たぶん、放っておいても俺達に接触してくるはず。」


 ヨーコもこれに肯く。俺はソファから立ち上がり、コートを羽織る。黒いコートで闇にまぎれやすい。


「御主人様、どちらへ?」


 サラが素早く駆け寄り聞いてきた。流石するどい。


「出かけてくる。誰か来たら転移陣を使って知らせるように」


 そう言って俺は≪空間転移陣≫を床にマーキングした。


「フォン、≪気配察知≫で宿の周りを注意してくれ。ウルチは≪精神感知≫でフォンの補助を。精神の精霊(メルディーン)を渡しておくから。」


 俺は手の平からメルディーンを呼び出す。


「ウルチのお手伝いを頼む。」


 メルディーンはウルチを見て丁寧にお辞儀した。


「ウルチ様、宜しくお願いいたします。」


 そう言うと、メルディーンはウルチの肩に飛び乗った。

 ここまでの光景をみて、男爵様とアリア殿は、魂が抜けたような顔で呆然としていた。俺は説明をヨーコに任せ、窓から外に出た。既に≪超隠密行動≫を掛けて、外にいる連中からは何も見えないようになっている。


「サラ、ヨーコ、頼んだぞ。」


 そう言って俺は≪気脈使い≫で一気に外に飛び出した。

 向かう先はあの巨大な蟹のおわす山。早ければ深夜に誰かが訪れてくると考えている俺は、時間があまりないことを気にして、全速力で山へと跳んだ。


 恐らく距離にして10kmはあるだろう距離を、俺は数分で移動した。…恐るべし“人外の力”と思いながら、山の頂上近くに降り、そこから歩いて頂上に向かった。

 目の前には巨大な蟹の足。だが足からは魔力を感じない。だが頂上からは巨大な魔力を感じる。不信に思いながらも頂上を目指す。【金牛獣】ならここまで近づくと怒り狂うのだが。【宝瓶獣】ならここまで近づくと毒に冒されたりする。でも今回は何も起こらない。というか頂上以外からは魔力を感じなかった。


 そうこうしているうちに俺は頂上に到着した。

 山の上に鎮座するように巨大な蟹の甲羅がたたずんでおり、8本の長い脚がそこから伸びて山の斜面に食い込んで突き刺さっている。俺はこの巨大な蟹の頂上を見上げながら、蟹の正面に周った。

 巨大な蟹の頂上に真っ黒く輝く蟹の目がある。その目は遠く北の海を睨み付けているようにも見える。




(…ている?)





 …。なんだ?





(どこを見ている?)




 俺は辺りを見回す。人影らしきものは見えない。何より≪気配察知≫には何も映っていない。



(小僧、何処を見ているかと聞いているんだ!)



 俺は声のした方向を探し、目を凝らして見た。巨大蟹の腹にある俗に前掛けと呼ばれる部位の辺りに人の顔のようなものがあった。その顔についた目がじっと俺を見つめていたのだ。


「うわっ!!」


 俺はびっくりして思わず尻餅をついてしまった。前掛けに付いた目が尻餅をついた俺を視線で追った。


 …気持ち悪い。


(何が気持ち悪い…だ!俺も好きでこんな格好しとるんじゃないわ!……ったく。)


前掛けに付いた顔がぷりぷりと怒っていた。なんだろう?最初は腰を抜かしてしまったが、落ち着いていると突っ込みどころ満載だ。

 前掛け部分に人の顔があるのに、巨大蟹の頂上にも黒い目がある。


(あれはダミーだ。)


 はあ!?


 って“ダミー”って!?


(“この世ならざる者おまえら”の言葉ではそう言うんだろ?通用するから問題ないじゃん?)


 いや、あるでしょ?何で俺達の言葉を知ってんだ?


(俺は知識を吸収するのに貪欲なんだ。言わば神獣の中で一番物知りだぜ。宝瓶のじいさんよりもな。)


 …やっぱ神獣様か。これまでの神獣の雰囲気と全然違うんだけど。蟹が物知りになってどうすんのって感じだし。


(何言ってんだ?さっきあれはダミーだって言ったろ?本体はこっち。)


 急に蟹の前掛けがパカッと開き、中から人が出てきた。

 見た目は普通の人で蟹を想像するものは何処にもない。その前掛けから出てきた男は俺の方に向いて「よっ」て感じで右手を挙げた。


(これが神獣、【巨蟹獣】の本体だ。どう?びっくりした?)





 は…はい---!?





何やら、これまでと雰囲気の違う神獣が登場しました。

しかも本体は蟹っぽくないようで。


次話では、主人公に接触してきた半神族の話になります。


ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

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