表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第六章◆ 背信の半神少女
86/126

4 陰謀の影


 グーパの街の北の門に1台の馬車。


 馬車の荷台の部分はこれまで見たものよりも大きく、10人くらいが入れそうだ。

 外観は木造りに白色で塗装されており、銀色に輝く金属で装飾されている。見た感じは身分の高い人が使用するものではないだろうか。

 それよりも、この馬車を引く動物。白い毛並で美しい。そして俺のバーバリィよりも二回りほど大きい。なによりも羽が生えていた。


「…ぺ、天馬(ペガサス)…。」


 俺はこの巨大で美しい伝説の動物をもっとよく見ようと天馬(ペガサス)に近寄った。


「我に用か、人間よ。」


 天馬は首を俺に向け問いかけてきた。


 しゃ、しゃべるのか!?…と言うことは魔獣?あ、≪気配察知≫で視たら紫色だった。


「む!我と似た魔力をお前から感じる…。誰がおる?」


 天馬は俺の中から染み出る魔力を感じて威嚇するように首をブルルッと震わせた。


「驚かせてしまい、申し訳ない。実は俺は複数の魔獣を使役していてな。」


 俺は軽い口調で答えると、黒竜、氷狼、雷獣の顔だけ顕現させた。そして誰にも見られないようにすぐに引込める。天馬は己が見た光景が信じられず、ただ俺を見つめていた。が、我に返ったのか更に質問してくる。


「貴様は…いや、貴方様は一体何者です?よくよく見ると神力も感じられます。」


 明らかに天馬の態度が変わった。どうも畏敬の念が込められた雰囲気を感じる。


「別に畏まる必要はないから。それにできれば、余り目立ちたくないんで。普通に接してもらえれば。」


 そう言って俺は少し浮かれた気分で馬車に乗り込んだ。次の瞬間浮かれた気分はどこかに飛び去ってしまったが。

 馬車に入るなり、ご機嫌ナナメのアンネローゼが俺を睨み付けていた。


「おはようございます。君が道中の護衛なのかな?」


 俺のとぼけた質問は癇に障ったらしい。俺の質問には答えず、一瞥して御者台の方へ行ってしまった。室内にはもう一人同じ鎧を着た戦乙女族(ヴァルキリー)が残っていた。俺は軽く会釈をする。


「本日より宜しくお願いします。クラーラと申します。」


 女性騎士は礼儀正しく名乗った。


「同僚、アンネローゼの非礼については私より詫びさせて頂きます。」


 クラーラは俺に頭を下げる。


「構わない。それよりもこの後のよ…てい……?」


 話の途中でクラーラの足元から小さな男の子が顔を出した。男の子は俺の顔を見て、ニッと笑う。…非常に愛くるしい。

 俺の視線に気づいたクラーラは慌ててその子と窘めた。


「エルティスケース!おとなしくして居なさいと言ったでしょう!?」


「だって退屈だし。」


 つまらなさそうな顔をして不満さを主張する。かと思いきや、俺に愛想よく笑う。…男の俺ですら可愛いと思えるのに、あいつらでは……。




「キャー!何コレ!?すっごいかわいい男の子!!!」


 やはりヨーコは一発で撃沈か。


「初めまして!サラと申します。よろしくお願いします!」


 サラもアウト。


「…ご主人。コレ、欲しい…。」


 フォンちゃん、それはダメ。


「ん!?妾より小さい子じゃな。よし!今日から妾の弟じゃ!」


 エフィ…弟が欲しかったのか?


「は…はじめ…まして…。えと…あたいは…あの…。」


 ベラは子供が苦手なのか?何で触りたそうにしてるんだ。


「あら~坊や…おねーさんと…楽しいことしない?」


 カ、カミラは危険だ。


 エルティスケースと呼ばれた男の子を見た俺の奴隷たちは口々に思い思いの事を言って目を輝かせた。



「…貴様ら!私のエル(・・)に触れるな!」


 御者台から鬼の形相でアンネローゼが俺たちを睨み付けた。

 …ちょっと紛らわしいな。エルティスケースだから略して“エル”。俺も略して“エル”。エフィは俺をエルと呼ぶ。アンネローゼはこの子供のことをエルと呼ぶ。

 こりゃあ最初に説明したほうがいいな。



「アンネローゼ殿。この子供も一緒に行くのか?できれば事情を説明してもらいたいのだが。」


 俺は平静を装い、怒り狂っているアンネローゼに質問する。


「貴様に答える義務はない!」


「アンナ!…申し訳ない。私から説明しよう。」


 クラーラがアンナを窘め、俺たちに事情を説明してくれた。




 子供の名前はエルティスケース。巨神族(ティターン)の子供だそうだ。


 現在巨神族の中で内紛が起こっており、これまでの共同生活を主張する保守派と、独立して諸外国からの脅威と立ち向かうべきだと主張する急進派とで争っている。半神族の4代表はこの保守派に対して支援しており、そもそも今ステイピアの街で4代表が集まっているのもこの内紛の件でだそうだ。


 で、この子供は急進派の一族の子供らしい。対立相手と言えど、子に罪はなく、内紛が終われば、保守派の一族も彼を引き取るそうだが、それまでは戦乙女族が預かることになった。

 だが、対立相手の子供なので、いつでも対処できるようアンネローゼの側に常に置いている、というわけだ。


 だがアンネローゼはこの巨神族の子供を弟の様に溺愛してるそうだ。戦乙女族は女性一族で、男はいない。子をなす場合は他の半神族から子種だけを貰い増やしていく。逆に巨神族は男性一族で子は別の種族の女性に代理出産をさせて増やすそうだが。子供とはいえ異性に対し頑ななまでの愛情に同僚の間では少し煙たがられているようだ。確かに彼女は直情的な部分が多く、他人から良く思われにくいのだろう。


 で、アンネローゼが護衛としてステイピアに向かうので、一緒にエルティスケースも同乗するわけだ。

 理由は分かったが、馬車の中で彼は一同の人気者になっていた。サラ達だけでなく、男爵様もアリア殿も支配人までもが母性本能に目覚めたかの様な顔をしてエルと遊んでいる。御者台の上でアンネローゼが怒りにプルプルと震えていた。


 さすがにこのままではまずいな。馬車も一向に発進しないし。


 俺は、女性たちの間をすり抜けて御者台に上がり、アンネローゼの隣に座った。

 アンネローゼは一番嫌いな俺が隣に来たことで今にも爆発しそうな表情に変わった。


「…申し訳ない。君の弟があまりにも可愛らしいので、ウチの奴隷達がはしゃいでしまってる。だが、許して欲しい。」


 俺は素直に頭を下げて謝った。


 アンネローゼは面喰った様子で固まっていた。俺に謝られるのがそんなに以外か。


「……貴様の奴隷たちは、人を傷つけるようなことはしないだろうな?」


「彼女たちは、犯罪を犯して奴隷になっているわけではない。まず、それを理解してほしい。」


 俺は簡潔に大事なところは隠して彼女たちの奴隷への経緯を説明した。アンネローゼは俺を睨みつつも黙って聞いていた。


「…彼女たちはこれ以外の選択肢を選ぶことができずに奴隷になっている。罪を償うためではない。奴隷の中には食べるものに困り、生きるために奴隷になって、主の命令をひたすら聞くだけの“考えることを止めた”人間もいるが、彼女たちは違う。己で考え、己で導き、己で悩む。それは奴隷としてではなく、一人の人間として。俺は彼女たちを解放する道を模索している。だが君もそうだったように奴隷に対する偏見は強く、“元奴隷”という肩書を持つ者が生きるには非常に苦しい世界だ。…それでも彼女たちの希望を失わせず、前を向いて歩けるよう俺は主として彼女たちを導いている。」


 俺は一気に自分の思いを説明した。アンネローゼはずっと俺を睨み付けていた。


「この島には犯罪以外での奴隷はいないということは知っている。君も奴隷を見ればそれは犯罪者だと思うのもわかる。…だが、この世にはそれ以外で奴隷になっている者もたくさんいるのだ。そしてそれゆえに奴隷という身分以上に理不尽な待遇を受け苦しんでいる者もいるのだ。」


 俺は真剣に訴えた。アンネローゼは俺を睨み付けていた視線を外し前を向く。


「出発だ!天馬様、お願いします。」


 俺の言葉には何も答えず、馬車を進めようとした。



 だが、天馬は彼女の言葉を無視した。



「ど、どうされた?出発して下され!」


 アンネローゼはもう一度依頼する。だが、天馬は歩き出そうとしなかった。


「…女よ。まずエルバード()の訴えに答えるのが筋であろう。」


 天馬の言葉は思いがけないものであった。


 恐らくこの魔獣を使役しているのはアンネローゼ。だが、命令ではなく依頼をしていることから、対等の関係での契約なのだろう。それ故、命令は出来ず依頼をするので、気に食わなければ断ることもできる。当に今断っている。では何故か。それは天馬が俺との主従を求めているに他ならない。俺を“様”付けで呼んだことではっきりとわかる。アンネローゼでもわかるだろう。

 その事実を彼女は受け入れることができるだろうか。…彼女の性格からして絶対に…無理だ。


「…天馬殿。お気持ちはありがたいが、今は契約者であるアンネローゼ殿の指示に従ってもらえぬだろうか。」


「む、貴殿がそういうのであれば、この女の指示を受けよう。では出発する。」


天馬は重い荷馬車を引いて歩き始めた。馬車はゆっくりと進みだし、グーパの門を抜けていく。

 徐々に速度を上げて馬車は進んで行くが、その間ずっとアンネローゼは俺を睨み付けていた。


「…なぜ…何故貴様ごときが天馬様に命令できるのだ!?」


「さ、さあ…?メ、メスだからじゃないすか?…違うか。アハハハ……。」


 ダメだ。冗談も通じない。しかも荷台の方に降りるタイミングも失った。俺はどこまでこの御者台で彼女の隣に座っていればいいだろう…。





 天馬の引く馬車は乗り心地がよい。天馬の放つ魔力で馬車全体を包み、衝撃を和らげているようで、余り揺れない。速度も一定を保って走っているので、内臓が揺らされることもなく、気持ちがいい。…隣に逆鱗だらけの戦乙女さえいなければ。


 アンネローゼは無言で手綱を持って前を見据えている。俺は時折彼女の顔を覗き込むが、彼女は俺を無視していた。

 どうしよう?会話もないし、かといって黙って荷馬車に移るのも失礼だし。どうしていいのかわからないままお日様2つ分ほど過ごしていた。


「…貴様に1つ聞きたい。」


 不意にアンネローゼから声を掛けられた。彼女を見たが、顔は正面を向いており、会話をするような姿勢ではない。


「今荷馬車の方で笑い声が聞こえる。クラーラの声、エルの声、奴隷たちの声。」


 確かに荷馬車の方からは楽しそうな声が聞こえていた。俺もその輪に入りたいと思ってたんだ。


「…彼女たちの笑顔は…本物か?」


 恐らく彼女なりにサラ達を推し量ろうとしているのだろう。だが四ノ島という閉鎖された空間から外に出たことのない彼女には外の島からやってきたサラ達の心を見ることは難しいだろう。


「…本物だ。俺自身が何度も癒されてきたやさしさ溢れる笑顔だ。」


 アンネローゼはまた黙ってしまった。暫く黙ったまま前を見ている。


 心に声が響いた。それは天馬の声だった。


(彼女は戸惑っております。己の常識にはなかった光景に。)


 俺は天馬の方に顔を向けず返事をした。


(そうか。彼女に変化が現れたら教えてくれ。俺は荷馬車の方に移動するよ。)



(御意…。)


 俺は御者台から荷馬車に移動した。思いがけず天馬が従順になっているのが、この先不安なのだが。


(天馬ハ基本的ニ誰カの僕ニナルコトヲ好ムカラナ…。)


 その声は雷獣(ヌエ)か。と言うことは、天馬は俺の僕になりたいと思ってるってことか。


 俺は天馬の事が気になりながらも荷馬車の笑いの輪に加わった。


「わあい!やっとお兄ちゃんが来てくれた!」


 エルティスケースは俺の肩に飛び乗り肩車の状態になる。


「ぬぅ!やい!そこは妾の特等席だ!座るなら金を…ぶべっ!」


「俺は椅子か!」


「へぇ…ここはお姉さんの席か。じゃあ僕、このお姉さんに座る。」


 エルティスケースは俺の肩から降りるとフォンの膝の上に座る。そして後ろにもたれ掛って、


「わあい、ここフカフカだぁ!」


 と大喜びした。


「小僧!その大玉のクッションは俺の…ぐぼぉお!」


 今度は俺がヨーコに腹パンチを食らった。


 この子には人を笑顔にさせる力がある。



 サラ達がこんなに嬉しそうにするのは初めてかもしれない。ベラも笑っている。一体この子はどうやって人を笑顔にさせているのだろう?


 俺はエルティスケースの腕をさりげなく捕まえ、≪メニュー≫を開いた。








 お日様9つ分過ぎ。


 俺たちは昼食の為馬車を手ごろな場所に止めた。

 昼食はパンと野菜スープと俺が提供した干し肉。そして二ノ島の果物を出した。

 俺たちの護衛に付いている戦乙女族は5人

。その5人とも干し肉を絶賛した。やはりこれは売れると確信する。支配人もそう思ったようで俺に肯く様子を見せた。そして果物も好評だ。島の住民も鎖国的だと聞いていたが、比較的島の外の食べ物にも興味を示している。…ただ一人を除いて。


 アンネローゼは干し肉も果物も食べなかった。食べ物そのものよりも、俺に対する拒絶なのかもしれない。クラーラの話では幼い頃から一途で感情的で頑固で排他的で保守的で…。彼女が心を許したのは、あのエルティスケースだけだという。


 うん。彼なら心を許せてしまうだろう。


 とにかく、アンネローゼはエルティスケース以外とは極力会話をしようとしなかった。昼食も終わってスカイピアに向かって出発した後も黙々と御者台で手綱を引いていた。

 俺も何とか打ち解けることはできないかと御者台へ行く。食べ物を持っていくのだが、


「貴様からの施しは受けぬ。」


 と言って断られていた。


 …全く隙がないな。しばらく様子を見るとしようか。


 やむを得ずまた荷馬車に戻り、アリア殿の隣に座って談笑する。ふとアリア殿を見ると顔が真っ赤になっていた。…何で顔が赤いんだ?と俺が考えているとヨーコが俺を睨んでいた。…ああ、そういうことか。それなら場所を…。


 俺はアリア殿から離れようと席を立ちあがろうとしたが、アリア殿が俺にもたれ掛ってきた。ヨーコが「あ!」と言ってアリア殿を睨み付けたが、すぐに表情を変えた。俺もすぐに分かった。


 アリア殿の体が非常に熱かった。


 俺はアリア殿を膝の上に寝かせ、声を掛けた。


「聞こえるか?アリア殿、一体どうした?」


 俺の声にかろうじて反応するが、顔色がみるみる悪くなっていく。


「アンネローゼ殿!馬車を止めてくれ!」


 俺の声に反応し、アンネローゼは振り向いたが、俺の膝に寝転ぶアリア殿を睨み付けていた。


「アンナ!」


 たまりかねてクラーラが大声を張り上げた。アンネローゼが手綱を引き、馬車が止まる。実際は俺が≪念話≫で天馬に指示して止めたのだが。

 すぐさまアリア殿を抱えて馬車を降り、草むらへと連れて行く。そして無理やり口の中に手を突っ込んだ。


 遺物を喉の奥まで突っ込まれ、その拒絶反応でアリア殿は嘔吐した。合わせて俺は≪魔力操作≫で彼女の胃を刺激する。お蔭で胃の内容物が全て逆流し、草むらに吐き出した。


 肩で息をするアリア殿に≪心身回復≫をかけて落ちかせる。


「も、申し訳ない…。昼に食べた物に当たったようで…。」


 苦しそうな声で俺に謝るが、俺は首を振った。


「…いや、違う。お前の吐いたものから、僅かだが魔力を感じる…。恐らく昨晩食べた物に何かを仕込まれていたと思われる。」


 昨日食べた食事も出て来ており、その中から魔力の波動を感じた。


 恐らく目的があって俺達の食事の中に入れたのだろうか。アリア殿以外は問題なさそうなので、料理全体に混ぜられたものではないようだ。だがアリア殿狙った行為なのだろうか。俺は昨日の夕食を思い返してみたがアリア殿と言うより、不特定に狙われたと考えたほうがいいと思われる。


「アリア殿。このこと暫く伏せておいてくれないか?」


 俺の言葉にきょとんとしたアリア殿だが、とりあえずは肯く。


「考えあってのことと判断いたす。貴公の言に従おう。」


 アリア殿は俺を信用して乗りなれぬ物に酔ってしまったということにした。

 そして俺にお姫様抱っこされて、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして馬車に戻ってきた。


「男爵様、彼女の着換えはありますか?嘔吐して服が汚れてしまったので。」


 荷台に積まれた荷物からアリア殿の服を取り出し、物陰で着換える。その間一時休憩となった。

 俺は現状を整理する。≪情報整理≫からの回答を待つが、情報が不足しているようだった。


 俺もしくは俺の仲間が狙われた。昨日の夕食に魔力を込めた何かを混入し、アリア殿の体調を崩させた。恐らく放っておけば死んでいたかも知れない。敵意を持ってと思っていいだろう。

 だが何のために?

 俺たちは、周回船を就航させるために寄港許可と商売の許可を貰いに来ただけだ。これによって誰が損をする?四ノ島の事情が不足している為、これ以上は何も出てこない。

 だが、この先も何かしらの妨害行為を受ける可能性は十分にある。それとなく警戒が必要だが、隠し事が苦手な奴もいるからな。サラとかエフィとかカミラには黙っといたほうがいいだろう。フォンとベラには≪念話≫で説明して警戒してもらおう。


 着換えも終わり、男爵様に手を引かれて馬車に乗り込んだアリア殿は、無理やり男爵様の膝枕で横にされた。最初は困惑していたアリア殿だが、やがて嬉しそうな笑顔になり、そのままスース―と寝息を立て始めた。その間マリネール男爵はずっとアリア殿の髪を撫でていた。



 アリア殿は男爵様の事を信俸しているのだろう。男爵様もアリア殿を信頼しているようだ。二人とも幸せそうな顔をしてた。





 夕方、予定より少し手前のくぼみのある場所で、馬車を止め、野営の準備に入った。

 馬車の中はマリエール男爵、アリア殿、フェルエル殿、エルティスケースが泊り、馬車の周辺を戦乙女族が囲うようにテントを張った。

 俺たちはその外にテントを張って夕食の準備をしていた。


 俺、一応正使なんだけどね。


 昼間の件もあったので食事は肉をやら確煮込んだスープを作り、≪鑑定≫を掛けて変なモノが入っていないかチェックをし、食事中も全員の食べている者に神経を尖らせて注視していたが、特に怪しい物はなかった。…正直こんな神経すり減らすチェックを食事の度にやってたら、俺が発狂しちゃう。かと言ってノーチェックも厳しい。どうしたものか…。




 夜、酒杯を持って支配人が俺のテントを訪れた。俺が2つある酒杯の1つを支配人から受け取ると、俺の隣に座って酒を煽った。


「…昼間、アリア殿に何がありましたか?」

「んー?ちょっと酷い嘔吐だったんでね、びっくりしてしまったよ…。」


 俺は当たり障りのない会話をしながら、≪念話≫で真実を喋った。


(魔力を込められた毒を盛られた。…俺達は何者かに狙われていると考えている。…何か心当たりはあるか?)


(あるとすれば…巨神族の内紛でしょう。どちらが行っているかわかりませんが、ヒト族の三大公爵粛清に大きく貢献しているアナタ様に介入されることを快く思わない輩は大勢いると思われます。)


 支配人の答えは的を射ている。


 確かに俺が“人外”のチカラで引っ掻き回すようなことになれば、面倒事だろう。立場に反して俺は敵が多いと見た方がいいのか。


(フェルエル殿、内紛のこと、詳しく教えてくれ。)


 1年前に巨神族(ティターン)の族長が襲われた。襲った犯人は同じ巨神族の改革派のメンバー。族長は命は取り留めたが寝たきりの状態になり族長の補佐を務めていた3人の部下が合議制で一族をまとめようとした。だが、改革派の妨害により、補佐3人が仲たがいを起して分裂。

 最近になって分裂した保守派をなんとか1つにまとめることには成功したが、1つになったばかりの保守派と、団結力ある改革派では、改革派の方が有利となっていた。

 そこで半神族は保守派を支援することで改革派を追い出し、元の状態に戻そうと部族間で調整を行っているらしい。


(そして、寝たきりの族長には、行方不明の息子がいるそうよ。)


 …まさかな。


 俺は何気に荷馬車の方を見た。


 アンネローゼは彼を紛争が終わるまで預かっていると言っていた。俺たちの護衛と言いながら、守っているのは俺ではなくあの子供がいるところ。そして俺が見た彼のスキル。




 繋がり過ぎている。




(それから、私はウェイパー卿から巨蟹宮の営業許可を貰っていますよ。)



 …こりゃ完全にはめられたな。何が権限がないからスカイピアに行けだ。はなっからこの内紛に首を突っ込んで来いってことだろうが。



 いいだろう。巨蟹獣に会うついでだ。思いっきり首を突っ込んでやる!







主人公はウェイパー卿の策略?にはまり半神族の紛争に巻き込まれたようです。ですが、主人公ならば“人外”のチカラでなんとか乗り切るのでしょう。


次話では巨蟹獣が出てきます。


ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ