1 濃霧の海域
やと六章始まりです!
がんばります!
シャナオウの港から出航した一隻の船。
船が向かう先は四ノ島の玄関口グーパの街。
グーパの街には半神族の外交を担当する人物が居を構えている。
俺たちはその人物に会うため、ヒト族の使節団として船に乗り込んでいた。…と言っても使節団のメンバーは2人だけ。俺とフェルエル殿。後は従者と奴隷と船の乗組員。とてもじゃないが正規の使節団とは思えないような面々。
だが俺は新国王陛下より、“クロウの自由騎士”というありがたい称号を賜り、王国からその身分を保証されている。俺の隣で憎たらしく微笑んでいるフェルエル殿もアルタイルという商号を賜り、俺と同じ立場でこの船に乗船していた。
四ノ島行が決定してから、実際に島に向けて出港するまで30日かかった。その間に両国間で事前調整が行われており、寄港に関しては内諾を得ており、ほぼ目的は達成している状況らしく、後は俺とフェルエル殿で最終確認を行うだけのようだった。
それでも緊張はする。
この間、俺たちは無為に過ごしていたわけではなく、奴隷達に教育、訓練を行っていた。それぞれ適正に応じた能力アップを図ってみたのだ。
その結果、サラは≪見切り≫を会得し、≪二刀流≫の技術が飛躍的に向上した。フォンは≪狼連~≫の上位スキルと思われる≪狼連円撃≫、≪狼連円脚≫を獲得、エフィは俺が貸した“爪の杖”を使い続けて≪雷魔法.1≫を獲得し、精霊ミスラの補助で≪水魔法.3≫に上がった。ウルチは俺が貸した【アルキュオネーの長槍】のおかげで≪竜爆槍≫を会得した。カミラはなんと≪闇魔法.3≫にあがった。通常魔法系の熟練度?の数字は2以上上がらないらしいが、カミラはどうやったのかわからんが3に上げることができた。俺は精霊の補助を得ている系統しか3以上になってないのに…。
そしてヨーコは≪倍化≫という補助魔法みたいなスキルを手に入れた。これは自分を含む触れた相手の筋力や精神力などの任意の力を一時的に底上げできるスキルで≪国士無双≫アビリティのスキルがヨーコにも会得できるようになった。…確実にヨーコも“人外道”を歩んでしまっている。
こうして、俺たちは出港までに能力向上を図ることができたが、正直この力を使うことが無いことを祈っている。
船は港を出港して3日掛けて四ノ島に向かう。途中でアリグト島という小島に寄って1泊し、残りの1泊は船上の予定だった。
船はまもなくそのアリグト島に到着する。この島は元三公爵家の所有する島だったが、公爵家解体後、マリネール男爵という若い貴族の領地となっていた。
王宮では会ったことはないが、恐らく新しく爵位を得た人物であろうと思っている。今日はその貴族の接待を受ける予定で、俺としては気が重かった。
やがて小島が見え、船は小さな港に近づき、接岸する。港では10名ほどの騎士服を着た一団が待ち構えており、俺が船から降りてくるのを待ちわびていた。
「エルバード様、貴方様が正使ですので、一番手で降りて下さい。」
支配人は躊躇っている俺に早く降りろと丁寧語で急かした。俺は彼女に完全に苦手意識を持っているからだろうか。そうとしか聞こえなくて、少し気分を害した表情で返事をして船を降りた。すぐさま礼服を着た若い女性が近寄り、太陽神式の礼をする。
「…ようこそおいで下さりました。私がマリネール男爵家の執事を務めるアリアと申します。」
丁寧な言葉使いで自己紹介をする。俺は威厳を保つような姿勢で肯いて名乗り返した。次いでフェルエル殿と従者、奴隷を紹介する。奴隷を見て何か言われるかと思っていたが、特に気にした風もなく、迎えの馬車に案内された。俺と支配人と従者のヨーコが馬車に乗り、残りの5人は徒歩である。可哀そうであるが、奴隷という身分なので致し方ない。俺は何も言わずそのまま馬車に乗ってマリネール男爵の待つ館へと向かった。
元三公爵家が所有していただけあって小さな小島に豪奢な館がそびえ立っていた。男爵家にはあまり似つかわしくない大きすぎる館。俺たちは大きな門を潜って中へと入り、謁見室へと案内された。
玉座のような椅子を前に俺は立ち、右となりにフェルエル殿。左隣一歩下がってにヨーコ。さらに5歩ほど下がってサラ達が土下座をする恰好で当主を待った。奴隷達が謁見する場合はこうするものらしい。
やがて扉が開きアリア殿が姿を現した。その後ろから一人の女性がやって来てしずしずと歩いて椅子の前で立ち止まってこちらに体を向けた。
「ようこそおいで下さりました。私がマリネール家当主、ファティナ・マリネールです。…とは言っても最近までは貴族ではありませんでしたから、あまり堅苦しい場はまだ慣れておりませんので。」
そう言って柔らかな温かみのある笑顔を向けた。やっぱり新興貴族なのか。となるとサラヴィス陛下のもとにいた武官もしくは文官だったということか。
「“クロウの自由騎士”、エルバードと申します。本日はお世話になります。」
俺は軽く会釈した。
≪情報整理≫が働き出す。新興といえど貴族。なのにこの部屋には執事のアリア殿以外は誰もいない。普通は衛兵なり給仕係なりがいる者だが…。広すぎる部屋に俺達だけ。違和感があり過ぎて≪思考並列化≫の俺たちがワイワイ騒いでる。
「まだ貴族社会というものに慣れておりませんので、身の回りの世話をする者も雇ってはいないのです。」
俺の表情で察したのかクスッと微笑みながら説明した。
「御館様。また覗きましたね!」
アリア殿が少々きつい口調で男爵に言葉を掛けた。見ると男爵がテヘペロ的表情をしている。…どういうこと?
「申し訳ありません。御館様は≪心眼≫という特殊なスキルを持っておりまして…相手の心の中を覗くことができるのです。失礼なだけでは済まされない故、日ごろから注意をしているのですが…。」
俺の前に歩み寄り頭を下げて謝罪する執事。この時点で、この二人の関係は優秀な従者とダメ主人というイメージがついてしまった。だがこの状況…俺的にはすごくいい。
「構いませんよ。どうせなら心を除くだけでなく私の心を奪って…ぎゃん!」
ヨーコが俺の脇腹を思いっきり抓った。厨二病心をくすぐるシチュエーションに水をさすなよ!
見ろよ!従者に抓られる俺を見てアリア殿もファティナ殿も唖然としてるじゃないか!
「フフフ…面白い方ですね。傭兵でありながら多くの奴隷を抱えている変人と陛下より伺っておりましたが。」
またクスクス笑って男爵は後ろに控える5人に目を向けた。
「そこの5人も顔を上げなさい。この場ではもはや堅苦しいものは一切不要と致します。」
だがそんな言葉で姿勢を崩す俺の奴隷ではなかった。そこで俺が促す。
「男爵のご厚意だ。顔を上げたちなさい。」
そう言うとサラ達はゆっくりと顔を上げる。まあ、それでも直接男爵の顔を見ることはしないのだが、男爵と執事のアリアはじっと五人を見つめていた。
「…いずれも可愛い子達ですね。種族はバラバラのようですが…ああ、≪心眼≫は使いませんのでご安心ください。」
ファティナ殿はそう言いながらも、五人を食い入るように見ていた。呆れたようにアリア殿が男爵を窘めた。
「御館様、あまりジロジロ見ては失礼ですよ。」
アリア殿の説教は聞き飽きているのか、男爵はため息をついた。
「はいはい…。それではエルバード殿、四ノ島では奴隷というと一般的に…」
「はい、存じております。ですが、奴隷には様々な形があると言うことは半神族の方にもご認識頂くことも必要と判断し、今回使節団の護衛として連れて行くことにいたしました。」
俺の返答に男爵はしばし考えていた。
若い…。25はいってないだろう。しかも女性。よほどのものがないと男爵という地位は得られないと思うが…彼女は一体何者だろうか?
そんな考えを持ちながら、俺は彼女を観察して≪情報整理≫に仕事をさせた。
いくつかの雑談に近い質疑応答を経て、男爵との謁見は終わった。最後に、この後の晩餐に出席するよう勧められたので、俺だけ出席し、従者と奴隷の食事については、部屋に運ぶよう依頼した。
一旦謁見室を出て、俺たちは寝泊りする部屋に案内された。しばらくすると、アリア殿が部屋を訪れ、サラ達の食事を運んで来た。俺が食事を一旦受け取り、サラ達に渡し、そのままアリア殿と共に晩餐会の開かれる部屋へと向かった。
その途中、俺はアリア殿に話しかけられた。
「エルバード殿……御館様に変な色目を使うでないぞ。」
凄みのある声ではないが、低い声で俺を脅してきた。
「…ヤグナーン伯爵令嬢のようにうまくごまかせると思うなよ。」
この一言で、どうやら良からぬ噂が流れていることが俺にもわかった。早速水面下でいろんなことをしている輩がいるようだ。
「…どのような事なのかわかりませんが、噂のみ信じて発言されるのはどうかと思います。私は男爵様の接待を受ける身。変にお断りするのもできませぬぞ。アリア殿のほうで重々ご注意くだされ。」
そう答えると、アリア殿は耳を赤くして表情を変えた。
「御館様から貴公に何かすると言いたいのか!」
今にも掴みかからんという表情で俺を睨んできた。…優秀な従者と思っていたが以外に沸点が低いな。…が、俺はそれを無視して話を続ける。
「アリア殿、此度の外交使節は我が国の大きな発展の為に重要な事であることをご理解されているか?もし、アリア殿の軽率な行動でこの外交使節がダメになったとしても我々は一切の弁護を致しませぬよ。」
アリア殿はワナワナと唇を震わせる。
「私を脅すつもりか!」
「先に仕掛けたのはそちらですよ。」
アリア殿との仲は最悪の状態に陥った。別に今日限りのことなので、どうでもいいが、少し面倒だ。
そのあと、互いに一言もしゃべらずに晩餐会の会場に到着した。テーブルには既にいくつかの料理が並べられており、数名の騎士、文官が席についている。給仕係が俺を見つけて走り寄り挨拶をした。
「エルバード様、ようこそいらっしゃいました。席にご案内します。」
そう言って女性は俺を席に案内した。
幸か不幸か俺の席はアリア殿の正面だった。アリア殿も正面が俺であることに不満を抱いているようであからさまに俺を無視するような素振りで席に座る。
…気分悪いなぁ。
暫くして当主ファティナ様が綺麗なドレス姿で登場し、晩餐会は出席者の自己紹介から始まった。
暫く雑談が続いたが、四ノ島の話に及んだ時に想定外の会話が飛び出した。
「アリア、私もあの船に乗って四ノ島に行こうと思うのだけど。」
俺とアリア殿が同時に吹き出した。給仕係が走り寄り吹き出した料理を片付け、布巾を渡す。俺はその付近を受け取りながら聞き返した。
「ど、どういうご用件で?あの船はそれほど大きくはありませんので、多人数は乗れませんよ。それに四ノ島に滞在の間、領地運営はどうされるおつもりで?できればご再考を。」
俺はやんわりと来ないでと言った。アリアが俺に同調してうんうん肯いている。だがファティナ殿は意見を変えなかった。
「運営はアリアに任せていれば問題ありません。それにこの四ノ島から近い領地を預かる身として、半神族と言うものを正しく理解しておきたい。」
アリアは慌てて口添えする。
「お、お待ちください。当主が行くと言うのに執事の私が行かねば恰好がつきませぬ!」
俺はすかさず言葉をはさんだ。
「いやいや、執事ともなれば当主に変わり運営を取り仕切るべき…ここはファティナ様の言に従い残られては?」
「貴公は黙っておれ!」
「…アリア。言葉がはしたないです。」
すぐさま男爵に注意を受け、アリア殿は小さくなった。騎士や文官たちは若い執事の態度がおかしく笑い声をあげている。
「しかし、エルバード殿、何やらアリアと親しくなられたようで。彼女、なかなかの美人だと思いますが。」
当主からそんな言葉を言われるとは思ってなかったらしく、途端に顔を真っ赤にして慌て始めた。…これは面白い。
「…そうですね。女性でこの若さでありながら男爵家の執事を務められて、なかなかのご器量かた存じます。私もこのような出会いでなければ一目ぼれしていたやもしれませぬなぁ。」
「なぁ!!」
アリア殿は目を真ん丸に見開いて俺を見たが、目が合うと顔を更に赤くして視線を逸らした。その様子を見て男爵はクスクスと笑った。
「アリア、何を慌てているのです?」
「い、いや…その…。」
アリア殿は最早思考が滅裂になっているようだった。仕方がない、助け舟を出そう。俺は改めてファティナ様に体を向けた。
「男爵様、ついて来られるのは構いませんが、先ほども申し上げた通り、それほど人数を乗せられません。また、私が直接男爵様とやり取りするのもやはり憚ります。…ここはアリア殿を含めた数名で調整頂ければ、船内の準備を致します。」
俺の言葉に周りの騎士文官は肯き、男爵も首肯していた。アリアとしてもこれ以上の抵抗は無理と判断し、諦めの顔を見せた。そこですかさず俺はダメ押しを言い放った。
「アリア殿、良かったですな。御館様のお供ができて。」
俺はあからさまに恩を売ったことをアリア殿に強調した。これで多少はおとなしくなるだろう。アリア殿は全身をプルプルと震わして俺に頭を下げていた。
なかなか楽しい晩餐を終え、男爵と翌日の出立時刻を確認したあと、アリア殿の先導で会場を辞した。
部屋に戻る途中、アリア殿は怒りに震える声で俺に話しかけた。
「貴様…これで勝ったと思うなよ!」
俺はわざとらしくため息をついた。
「“貴公”から“貴様”扱いか…。俺は構わんが、お前の勝手な行動でこの四ノ島行がダメになったら、その責は男爵にも及ぶことを覚えておけよ。俺は、男爵にも一度はお断りを入れたからな。」
「わかっている!」
「じゃ、せいぜい俺に変な色目を使わないように見張ってくれよな」
俺は敢えて主語を男爵側において喋った。そしてとうとうアリア殿は切れた。俺の胸ぐらを掴み上げていきり立った。
「…貴殿は執事であろう?何時如何なる時にも冷静を保ち、当主をお支えするのが貴殿の使命だ。俺ごときの挑発で理性を失うな。」
俺はアリア殿に真剣な眼差しを向けて穏やかな口調で説教をした。俺の言動が意外だったのかアリア殿は一瞬呆けていた。俺は胸ぐらを掴んでいるアリア殿の手を握り、胸元からやさしく引き剥がす。アリア殿は俺に握られた手を見つめていた。
「…許可なくお手を触れたことは詫びる。貴殿がこの程度の挑発で我を忘れぬよう成長されることを望んでおる故、此度の事はなかったことにいたしましょうぞ。」
そう言って踵を返し、俺は部屋へと戻っていた。
…完璧だ。これであ奴は俺に対して余計な行動は取れないはずだ。しかも男爵様へのけん制にもなるはず。
…と言うことを部屋に戻ってヨーコに報告したら、呆れた表情を返された。
「…アンタ相当のナンパ野郎ね。…多分アリアさん…アンタに惚れたよ。」
え!?そうなの!?
翌日、マリネール男爵は4名の護衛兵とアリア殿を伴って、桟橋にやってきた。船に乗り込み、荷物を男爵用に用意した部屋に運び込み、簡単な船内の説明を行ってから、こちらも出向準備に取り掛かった。
この間、アリア殿とは一言も会話しなかった。目も合わせていない…。ヨーコは「確定!」と言って嫌な視線を俺に送り付ける。俺の中で優秀な従者というイメージが完全に崩れてしまった。
…女の子って…よくわからん……。
何はともあれ、船は無事に出向した。
相変わらず、海の上ではそよ風程度の風しか吹いておらず、船はゆっくりとした動きで遠くにある霧のかかった海の先にある四ノ島を目指していた。
この世界で俺が一番違和感を感じている事。
それは、あまりにも天候に変化がないこと。俺がこれまで訪れた地域をみても【雨の地】以外はずっと晴れていた。雲がかかることもなく、暴風になることもなく。それは海の上でも同じだった。前世の世界であればこんな穏やかな海は年に数度あるくらいじゃないだろうか。そして、その穏やかな海の向こうには霧に覆われた場所が広がっている。
一体この世界の気候はどうなっているのだろうか?
考えても情報が不足している時の≪情報整理≫はうんともすんとも言ってくれなかった。
そうこうしているうちに辺りは霧でかすみ始めた。船頭が船の先頭まで行き、目視で行先を確認している。大声でマストを動かす船員に右だの左だの怒鳴っていた。
そして俺は≪気配察知≫で複数の赤い点を見つけていた。ほぼ同時にフォンが近寄ってきて手短に報告した。
「ご主人、船がもう一つ…ある。」
フォンは、霧の奥を見つめている。俺の≪気配察知≫もその方向に赤い点を見出している…。フォンの表情からして、危険が迫っていると見ていいだろう。
「…男爵様の話では、この霧の海には海賊がいるそうよ。…恐らく、アタシ達の船、海賊に見つかったんじゃない?」
ヨーコがさり気なく俺の腕に手を絡めながらフォンと同じ方向を見やる。当然反対側の腕はフォンに絡め取られている。…大きさ、弾力、共にフォンの勝利…。いや、そんなことを考えている場合じゃない。
「では、これまでの訓練の成果を出そうか。」
俺はそう言って、サラ達を甲板に集めた。
俺は全員の体に触れた状態にし、≪気配察知≫≪遠視≫≪仰俯角監視≫で作られた立体地図を≪視界共有の眼≫で全員に見せる。
「…先手はエフィだ。水と雷の魔法で相手全体の動きを止めてくれ。魔法発動の合図は俺が出す。」
エフィは緊張した表情で肯く。
「次手はウルチだ。≪竜化≫して相手の船に乗りこめ。そしてエフィの魔法で動きの止まった相手を倒してくれ。」
ベラはウルチと交代し、紫色の髪になった。そして≪竜化≫する。背中から羽が生え、肌が鱗で覆われた。
「まだ動いている相手は、フォンが弓で応対。【ステロペーの楽弓】を使え。」
フォンは無言で肯く。
「サラは、船に乗り込んできた相手の対応だ。全体をよく観察し、乗りこんでくる相手を戦闘不能にしてくれ。」
サラは「はい!」と元気よく返事をする。
「カミラ、お前は俺と一緒に相手の船に乗り込むぞ。俺の転移陣の付いた矢を相手の船に射かけ、それめがけて転移する。その後カミラはその場で闇魔法を使って周辺魔力を封鎖してくれ。その間に俺が船内に突入し、一気に大将を捕獲する。」
カミラはうんうん肯いた。緊張しているのか、首の動きが早くなってる。
「…ヨーコ。カミラの側にいてやってくれるか?」
ヨーコは軽くため息をついてカミラの腕に絡みついた。
「了解。」
俺は大きく肯く。この中では精神的にも一番未熟なカミラが一番危険だ。だが彼女の持つ能力からすると、こういう戦い方に慣れてもらう必要もある。
俺は自分で納得させて≪異空間倉庫≫から武具を取り出し、みんなに渡していった。
その様子を、男爵と執事はじっと見つめていた。男爵は楽しそうに見ていたが、執事は恐れ慄き、口をパクパクさせていた。
…ここで≪情報整理≫が1つの可能性を示してきた。
マリネール男爵ファティナは俺の力量を測ろうとしている。
密命を帯びてなのか、個人的な興味でなのかわからないが、俺の一挙手一投足が見られていると考えて良いだろう。…かと言って手を抜いて彼女たちを危険な目にも合わせられない。力加減を考えないといけないのか。
俺は軽くため息をつくと、気持ちを切り替え、近づいてくる相手に注視した。
…さて、相手は敵か敵でないか。できるだけ早く見極め…
どっごぉおおおん!!
バリバリバリッ!!
轟音が鳴り響き、辺りの空気を震わす。
何!?
何が起きた!?
「ご主人!…くそエルフがご主人の合図を待たずに魔法を放ちました!!!」
にゃんだって-----!!
主人公の立てた作戦に、のっけから問題発生のようです。
次話では、主人公怒れる!が行われます
ご意見、ご感想をよろしくお願いいたします。




