表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第五章◆ 禁忌の吸精少女
75/126

10 凱旋



 「賽は投げられた!……何の功績もなくただ過去の栄光に縋り、権力にしがみ付いている害虫はこの私が駆除せん!」


 装飾の煌びやかな鎧をまとい、マントを翻して剣を掲げるサラヴィス殿下と、それを広場から熱狂的に指示する民衆。

 中世騎士の世界を目の当たりにして俺も少々興奮してきた。

 王宮のバルコニーからは、地下室から≪空間転移≫で地上に現れた八岐大蛇が8つの首をもたげて咆哮する。地面が揺れるほどの大音量に民衆も騎士も貴族も恐れひれ伏す。



 今、強固な王家が復活した。



 この様を見るだけで、王家を侮る輩はいなくなるのだろう。



 残るは…。




 「“この世ならざる者”よ。ヒト族の王子の要請でな、公爵家の居館は徹底的に破壊してほしいそうだ。何故そこまでするのだ?」


 大蛇さんの質問は俺の表情を曇らせた。やはりカイト殿下は手を緩めない人だ。千載一遇のチャンスを最大限に利用し、一ノ島全土の引き締めと対外へのけん制、特に妖精族へ見せつけにするつもりだ。


 「…見せしめだよ。」


 俺の答えに今度は八岐大蛇が怪訝な目をした。


 「儂のチカラで跪かせても意味ないじゃろう。儂はこの先チカラを貸す気はないのじゃが…。」


 「魔獣は恐ろしい。その事実が今日再認識される。そしてその魔獣を1度でも率いた王家は、より恐ろしいと植えつけられる。」


 「けっ…。ニンゲンの心とは弱いもんだな。たった1回の恐怖でそうなっちまうものなのか。くだらねぇ種族だ。」


 八岐大蛇はつまらなさそうな目で空を見上げた。


 「だけど、そのニンゲンから魔力を得なければ顕現できないお前達からすれば、切りたくても切れない縁なんだろ?これからはお前を信俸する者が増えるぞ。拝みに来る連中も増えるだろう。魔力を吸いたい放題だぜ。」


 大蛇さんの口の端がゆがむ。笑っているようだ。


 「そうだな。貴様には感謝するぞ。これで悠々自適な生活が送れる。」


 魔獣は基本的に人間同士の争いや営みに興味はない。しかし、この世に顕現するためには自分で生成できない魔力を人間から奪う必要があった。この為人間に近いところで生活する必要があり、そのために憑代も必要だった。黒竜は“黒い剣”に、氷狼は“青い腕輪”に、雷獣は“爪の杖”に。そして大蛇さんも俺が大蛇の角を削って作った剣を憑代にしてもらっていた。もちろん“十握の剣”と名付けたけどね。



 その“十握の剣”を掲げ、サラヴィス殿下は8つの首のうちの1つに乗った。俺はこっそり羽根のところに乗り込んでいる。八岐大蛇は羽根を羽ばたかせ、空へと舞いあがった。広場に集まった民衆はどよめき、恐れ慄き、災厄のような魔獣が飛び去る姿を目に焼き付けたようだった。


 「八岐大蛇よ、此度はかたじけない。しかしながら、これで憂いを断つことができるのだ。そのチカラ、我らヒト族に示してくれ。」


 サラヴィス殿下は剣を握りしめてありったけの声をあげた。八岐大蛇は殿下の声には反応せず、無言で空を飛び続けた。


 俺感覚で5分ほどで大きな街が見えた。既に街を囲う城壁には弓やら槍やらを構えた大勢の兵士が並んでいた。

 だが、大蛇の姿を見たとたん、城壁のあちこちで大騒ぎが始まった。一部の部隊が大蛇めがけて矢を放ったが、全て硬い鱗で弾かれた。大蛇は矢を放った兵士たちを睨み付けた。兵士たちは余りの恐怖に体を硬直させていた。

 八岐大蛇は巨大な羽を城壁に向けて一つ羽ばたいた。竜巻のような風が巻き起こり何人かが城壁の上から吹き飛ばされた。既に兵士たちに戦意はなく、狭い城壁の上を逃げ回っていた。


 「八岐大蛇よ!中央の大きな建物に向かって≪ブレス≫を!!」


 サラヴィス殿下は街の中央にある一際豪奢な建物を剣で指し示した。

 8つの首が横一線に並び、一斉に青く輝く炎を吐き出した。余りの閃光に思わず目を閉じる。空気を震わせるほどの轟音に耳を塞ぐ。音が止み、恐る恐る目を開けると先ほどまで存在していた豪奢な建物の上半分は完全に失われていた。

 八岐大蛇が居る場所から、街の反対側の城壁まで一直線に伸びた8本のスジ。石が焼け、蒸発するほどの高温に、周りにある木の家が燃え上がっていた。


 あちこちから悲鳴が聞こえ、瓦礫が転がる道を住民が走り回る。全身火傷で覆われながらも無我夢中で逃げ回る光景が俺にも見えた。



 これは戦争ですらない……。



 俺は手で口を押え、胃から逆流するものを無理やり抑え込んだ。


 「大蛇さん!城壁の一部を破壊できるか!?中にいる人間の逃げ道を作ってやりたい!」


 俺は八岐大蛇に頼み込んだ。大蛇は俺の意を汲んで、尻尾を使って城壁を上から叩き潰した。派手な音と共に城壁が崩れ、中から外へ出られるほどの隙間を作り出した。大蛇は羽根を羽ばたかせて崩れた城壁の反対側へ移動し耳を劈く咆哮をあげた。


 崩れた城壁に向かって人々は一斉になだれ込んだ。




 たった1匹の魔獣によって、1つの街が滅ぶ。



 人々はなす術もなく、自分の命欲しさにわれ先にと逃げまわる。



 俺もサラヴィス殿下もその光景を目にし、青ざめるしかできなかった。




 「…ヒト族よ。魔獣の恐ろしさ、身に染みたか。これを機に儂のチカラを欲しようとは思うな。自らも滅ぶと思え。」



 八岐大蛇の言葉は俺にも響いた。



 黒竜(ヘイロン)氷狼(フェンリル)雷獣(ヌエ)は中位の魔獣。ここまでのチカラはない。しかし、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は最上位の魔獣。絶対手にしてはいけないチカラだったのだ。


 では何の為に二千年も王宮の地下で報じられていたのだろう?

 いやそもそも魔獣は何のために存在しているのだろう?


 俺は答えの出せない疑問に考え込んでしまった。






 三公爵家のうち、残りの2家は降伏した。


 兵士たちが命欲しさに一族全員を捕え、大蛇に乗ってやってきたサラヴィス殿下に差し出した。第一師団の到着を待って城門を開けて武装解除し、公爵家の一族全員は王都へと連れて行かれた。


 「…ヒト族よ。約束は果たしたぞ。儂はこのままシズカ山脈へ向かう。落ち着いたら儂を崇める祠を建てに来るがよい。」


 そういうと八岐大蛇は俺とサラヴィス殿下を地上に降ろして飛び去った。


 俺たちは第一師団が用意した馬で王都まで戻ることとなった。

 サラヴィス殿下は無言のまま馬を進めた。俺も何をしゃべっていいのかわからず、同じく無言のまま馬を進めた。



 サラヴィス殿下は明らかに思いつめていた。正直放っておけないくらいだ。あまり関わりたくなかったが、仕方がない。でも殿下に回復系のスキルを使う気はないぞ。

 俺は≪空間転移陣≫は使わずにサラヴィス殿下と一緒にいることにした。



 俺は≪念話≫でサラに呼びかけた。


 (サラ、俺だ。)


 (ご主人様!大丈夫でございますか!?)


 (心配ない。だが、帰りは徒歩になったので、そっちに戻るのは早くても明日になりそうだ。)


 (え!?…は、はい、わかりました。)


 (ん?どうした?)


 俺は歯切れの悪いサラの返事に違和感を感じて聞き返した。


 (い、いえ、問題ありません。…お待ちしています。)


 なんか気になるが、サラが問題ないと言っているのなら、まあいいか。


 俺はみんなをよろしく頼むと言って≪念話≫を切り、サラヴィス殿下に付き従った。



 「…殿下、大丈夫ですか?」


 俺はサラヴィス殿下の隣に馬を進め、声を掛けた。目の下の隈がよりきつくなった顔で俺を見たが、すぐに正面を向いた。


 「…これでよかったのか?」


 殿下の質問は俺の予想通りだった。この方はあの一方的な虐殺を後悔しているのだ。


 「殿下は戦争(・・)を行ったのです。人が死ぬのは当然です。」


 「だが、武器も持たぬ人まで死んだんだぞ。」


 「それが戦争(・・)なのです。戦闘(・・)とは違い、人対人、軍対軍ではなく、地域対地域、国対国の戦いなのです。戦う相手を武器の有無で区別することなどできません。」


 「う、うむ…。」


 肯いたものの、サラヴィス殿下は納得できていないようだった。何度も震える自分の手を見つめては、深呼吸を繰り返していた。


 「…エルバードよ。戦争とは恐ろしいモノだな。人の上に立つ者として身に染みたわ。」


 「殿下…。王として目指すべき道が見つかったのではありませんか?」


 「王…として?」


 俺の言葉に疑問を持ったのかサラヴィス殿下はこちらを見た。


 「はい、殿下。“戦争をしない、させない王”を目指されませ。諸侯と渡り合うにしても、諸外国と渡り合うにしても、争いをしないように、させないようになされませ。カイト殿下もおられるのですから、可能でしょう。」


 将来の国王はじっと俺を見た。相変わらず酷い隈が残っているが、八岐大蛇との(えにし)も切れたのだ。2~3日すれば健康的な顔に戻るだろう。だが、その目はまだ精気を取り戻していない。1国を背負う者として、あの凄惨な光景は忘れられないのだろう。…いや忘れないで欲しい。そうすればいずれ名君としてその名を残すことになる。

 俺はサラヴィス殿下に向かって一礼した。


 「…羨ましいものよ。私にも貴公のような人外のチカラを持っていたら、別の選択肢をもってこの国の問題を解決できたであろうに。」


 サラヴィス殿下は呟くように言うと前を向き馬を進めた。既に“十握の剣”はなく、王家の紋が刻まれた剣を背負い王都への道を進む。その後ろを完全武装の第一師団数十名が付き従う。


 俺は思う。


 殿下には、俺にはないものをもっているのだ。でなければ騎士たちが忠誠を誓わない。民衆が声援しない。商人が資金を提供しない。


 俺は思う。


 人外の力ほど、苦労するものはないんだよ。





 一行は途中まで出迎えに来たラルクルス商の勧めで王都手前でもう1泊野営をした。

 といっても、ラルクルス商が用意した大きなテント、豪華な食事、簡易ベッドなど至れり尽くせりの状況ではあったが。


 「王都では、殿下の凱旋を待つ民衆で溢れかえり、お祭り騒ぎとなっております。」


 ラルクルス商は王都の様子を伝え、殿下の偉業をしきりに称えるが、本人も周りを警護する騎士たちも微妙な表情をしていた。

 素直に喜べないのが本音なんだろう。だが、ラルクルス商は滑らかな舌をさらに動かす。


 「殿下。そのようなお顔をされてはいけません。また諸侯どもが舐めて掛かってきますぞ。多少の苦しみや悲しみなどものともせず、不動の精神で……」



 この日ラルクルス商の熱のこもったありがたいお話はは深夜まで続いたそうだ。俺は早々に退散してほとんど聞いていなかったけどね。




 翌日、野営地出発を前に全ての装備が改められた。


 美しい馬鎧で着飾り、騎士たちはヒト族の国旗がはためく長槍を持ち、王子は一際豪華な鎧を纏って出発する。従う兵士も100名を超え、見栄えもよくなった。

 ラルクルス商配下の荷物持ちは更に時間を置いて出発。俺も後衛組だ。

 要するに、民衆たちに最も格好よくサラヴィス殿下が凱旋する姿を見れるようにしたのだ。主役はあくまで王太子殿下。俺は太った商人と目立たないように帰る方がありがたい。

 その商人と並んで進む途中、何度も話しかけられた。自分の商家の自慢や、お抱えの施設傭兵団の武功話や、娘の自慢話やら。どれも俺には興味ない話だったので適当な相槌しか打たなかったのだが…。


 「あまり興味が無いようですね。それではとっておきの話をいたしましょう。これは、一部の関係者しか知らないのですが…。」


 そう言って、王太子殿下ととある奴隷の話を始めた。





 15年ほど前、殿下がまだ王太子となる前の話…。



 サラヴィス殿下には身の回りの世話をする為に何人かの奴隷を使役していた。身の回り、とは当然性的なものも含まれた。奴隷に付けられた首輪には魔力が込められておりその魔力で身籠ることはできない。身分の高い者ほどそれを利用して“安全な性処理”を行っており、当時王家も利用していた。

 だが、サラヴィス殿下が使役していた奴隷の一人が妊娠してしまった。


 奴隷が子を孕むなんてありえない。


 事実を知った当時の大臣が秘密裏に御用達の商家にその奴隷を売渡し、多額の金を握らせて処分するよう命令した。だが、そのその商人はその奴隷の命を奪うことができず、密かに匿い、王宮の手から逃れられるよう南部の信用できる商家に預けた。

 やがてその商家から、女の子が生まれたが母子共に死んでしまったという連絡を受けた。結局のところ本当に死んでしまったのか、処分されたのか、実はひっそりと生きているのかわからない。だが、奴隷でも妊娠できてしまうという事実だけが残り、王家では性奴隷は忌避されている。

 近年それを破り大量の性奴隷を抱え込んでいた第四王子はそういう意味で禁忌を犯した罪でも罰せられたそうだ。



 話を終えたラルクルス商は一言も発せず焦点の定まらない視線を送る俺を見て嬉しそうにした。


 「ようやく興味のそそる話ができましたな。貴方様も奴隷を囲う身。聞けば使役範囲は“全て”だとか…。気を付けなされ。ある日突然、『父親』になるやもしれませんぞ。」


 真実を知らないラルクルス商は無邪気な笑いを見せる。だが、俺は父親になる恐怖に駆られているんではない。



 サラの出生に触れた気がしたから、驚いているんだ。



 「ラルクルス商、この件についてサラヴィス殿下はなんと?」


 ラルクルス商は首を振った。


 「そんなこと、口が裂けても聞けませんよ。それにこのことを知るものは最早、私と国王陛下だけ。くれぐれも…」


 「奴隷が…奴隷が生んだ子にはどのような『呪い』が掛けられるかご存知か?」


 突飛な質問に首を傾げながらもラルクルス商は答えた。


 「確か、≪忌み子≫という呪いになるそうです。元々は、妊娠した状態で奴隷になった子供をそう呼んでいたそうですが、この事件をきっかけに奴隷が妊娠して生まれた子供をそう呼んで呪うと聞いています。」


 「そ、その話以外で、奴隷が赤子を産んだと言う記録は?」


 更に食いつく俺に少々訝しげな表情を見せながらもラルクルス商は知っている限りを話した。


 「…まあ、奴隷販売法にも記載されているくらいですから、何例かあるのでしょうね。私はこの話くらいしか知りませんが…。」


 俺は目を閉じて考え込んだ。


 ≪情報整理≫は答えを出して来ない。つまりまだ情報が不足している為、確定ではないという意味をあらわしているが…。


 サラは、王家の血を引いている可能性がある。


 …あくまで可能性。


 だが、これ以上この話を掘り下げてよいのだろうか?これ以上聞けばラルクルス商にも怪しまれるし、サラの命を狙われる危険も出てくる。


 「…怖いモノですね。俺も気を付けておきますよ。」


 ラルクルス商は俺の答えに対して下品な笑いをして見せた。


 「せいぜい、回数は減らした方がよろしいですよ。げへへへへ…。」


 俺の乾いた笑いで、この話は終わった。今はこれ以上掘り下げて話を聞くのをやめておこう。


 俺は王都への道を急いだ。




 王都の城壁が見え、それに伴って歓声の響きも大きくなっていく。その様子を見てラルクルス商は嬉しそうな顔を見せた。


 「大歓声がここからでも聞こえますね。やはり民衆は今回の討伐を受け入れてくれたようです。」


 既に王太子殿下一行は王都に到着しており、今は街中を凱旋しているのであろう。城壁を乗り越えて殿下を称える声が聞こえてきている。


 俺たちは城門から離れた場所にある小さな扉から王都に入った。

 かつては第四師団が管理していた詰所だが、今は第二師団が管理している。ラルクルス商は商人特有の愛想のいい会釈をして通り過ぎ、俺や他の荷物持ちも続いて中に入った。全員入室したところで簡単な荷物チェックを受けて詰所をでた。


 既に王都内は歓喜に包まれていた。中央の広場にはたくさんの旗が掲げられ、昼間にも関わらず、あちこちで酒を飲んで騒いでいる人もいる。そして王宮前に集まろうと北へ向かう人の行列もできていた。

 俺はラルクルス商と別れて宿のある南へ向かった。予定より1日遅くなり、しかも連絡もしていないからサラ達も心配しているだろうと急ぎ足で宿に戻った。



 「ただいま!!すまない!遅くなったが、無事に…帰って……来た………?あれ?」



 部屋の扉を開けて、待っていたのは、リビングのソファにへたり込んで恨めしそうに俺を見た5人の奴隷達。虚ろな目をしており、ちからなさげに手を俺にかざして助けを求めてきた。


 「ご、ご主人…様……水を…。」


 「胸……萎んで…しまう。」


 「ハラ…減った…ぞ!」


 「ウ、ウルチが…塞ぎこんで…しまいました……。」


 「水~…。」



 5人は今にも死にそうな目で俺を呼ぶ。俺はこの状況が理解できずに扉の前で固まってしまった。




 なんで?




 ≪情報整理≫が俺に解答を示す。


 この部屋には5人しかいなかった。≪気配察知≫を使ってみんなどこへ行ったのか探す。エメルダ嬢とアルは…王宮にいた。カイト殿下と一緒だ。ナヴィス殿とベスタさんは…これも王宮だ。じゃ、ヨーコは?



 「バカ----!!!!」


 ヨーコの赤い点が俺の真後ろにあることを見つけた瞬間、俺はグーで思いっきり殴られた。


 「何で、この子達の食事を用意しないで行っちゃうのよ----!!」


 後頭部を更にグーで殴られる。頭を押さえつつ振り向いたら左頬にグー、右わき腹にグーを喰らった。余りの痛みに俺はその場にしゃがみ込んでしまった。ヨーコの怒りの攻撃は収まらず、テーブルにあった丸い盆を手に取ってバンバン叩きつけた。


 「バカ!バカ!この子達は餓死寸前なのよ!奴隷の主ならちゃんとしなさいよ!」




  “奴隷は主以外からの衣食住の提供を

   受けてはいけない”




 いくら一緒に暮らしていたとしてもサラ達はヨーコから食べ物をもらってはいけないのだ。だが貰ったとしてもバレなければ罰せられることはないはずだ。それでもこの子達は法を守ったというのか。


 「わ、わかった!すまん!謝るから叩くのを止めてくれ!」


 「この子達を!」


 バシッ!


 「無視して!」


 バシッ!


 「私だけ!」


 バシッ!


 「ご飯食べれると!」


 バシッ!


 「思ってるの!!」


 バシッ!


 ヨーコのの怒りは晴れることなく何度も盆で俺を殴る。とうとうその盆が衝撃に耐えられずに割れてしまった。そして俺は頭から血を流した。







 まずサラ達に水を飲ませる。


 3日間も飲まず食わずだったので手足も思うように動かないみたいだから、口移しで水を飲ませた。


 サラはコクコクと喉を鳴らして飲む。

 フォンはついでに舌を絡めてくる。

 エフィはついでに唇に噛みついてくる。

 ベラはされるがまま。

 カミラは予想外におとなしく飲んだ。


 その後、消化の良いコーンスープを作り、順番にスプーンを使って飲ませる。何故かヨーコも加わり、6人にスープを何度も飲ませた。みんな顔を赤らめつつも嬉しそうにする。次をくれとせがむ。



 俺は思った。



 雛鳥にエサをやる親鳥の気持ち。



 こんな感じなんだろうか。




 俺は死にかけていた5人を前にして誰にも言えないような思いをめぐらした。



王太子殿下は凄惨な現場を見て、素直に勝利を喜べないようです。ですが、上に立つものはきれいごとだけで物事を進めることはできません。まして、王となる人間ともなればなおさらなのでしょう。

主人公は、そんな王太子殿下に同情はするものの、これ以上に関わりを避けるため、敢えて何もしませんでした。


ですが、ナヴィス殿やエメルダ嬢は献身的に殿下のお手伝いをしているようです。おかげで5人の奴隷は餓死寸前。ヨーコにめちゃくちゃ怒られています。


次話では、カミラの秘密に迫る回です。すいません、ちょいエロです。

まあ、相手が夢魔族なもんで・・・


ご意見、ご感想、誤字報告、評価を頂けるとすごくすごくうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ