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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第五章◆ 禁忌の吸精少女
73/126

8 一度きりのリセット

途中、残酷な描写があります。ご注意ください。



 「カミラ、カミラ。」


 樹の上で器用に寝そべり、寝息を立てて寝ているカミラの頬をペチペチ叩き、カミラに声を掛ける。


 何度か叩いてようやく目を覚まし、「おはよう」と笑顔で答えるカミラさん。


 「こんな時によくこんな場所で寝られるね。感心するよ。」


 嫌味を含んで俺は言葉を返したが、カミラは悪びれた風もなく、俺に体を摺り寄せてきた。


 「ウチは淋しい時は寝て過ごすようにしてるの。だって、寝ていたら淋しい思いも悲しい思いも気にしなくて済むでしょ。」



 “淋しい時”……か。



 彼女にとって『寝る』という行為は淋しさをまぎらわす手段ということか。


 俺はカミラの頭をポンポンと叩き抱き寄せる。カミラは嬉しそうに腕にしがみ付いて来た。


 「カミラ、淋しいならそう言え、まったく……。」


 少しの間だけカミラを抱きしめ、彼女を満足させる。カミラはいつまでも嬉しそうにしていた。




 「カミラ、魔獣は見たことあるか?」


 カミラは唐突な俺の質問にきょとんとする。しばらく考え込んで何かを思い出す。


 「ある!夜の王と呼ばれるナイトメアに会ったことがあるわ。」


 ほう、ナイトメア。俺も見てみたい。


 「その魔獣は誰かに使役されていたか?」


 「うん!その時は兄上が使役していたから!…でも、憑代の“傘”を奪われて…。その後ナイトメアはどうなったかは…。」


 なん…だと?


 ベレットが魔獣を使役していた!?それはいつの話だ!?


 「ずいぶん昔だよ。ウチがまだ小さい時だったから、10年くらい前…かな?」


 10年前に、ナイトメアか…。後で調べてみよう。

 その後いくつかの質問をしたが、特に有益な情報は得られなかった。


 「カミラ。今から雷獣ヌエの所に連れて行く。だが怖くても決して声は出すなよ。」


 「りょーかい!」


 …なんか軽い返事だな。




 俺は再び、ヌエが封じられているところまで来た。今度はカミラも隣にいる。カミラには音を立てないように何度も注意し、様子を伺いながらヌエに話しかけた。


 (ヌエよ。お前の目の前にいる丸太に括りつけられた人間は何なのだ?)


 雷獣はピクピクと耳を動かした。


 (…俺ノ餌ダソウダ。手ヲツケル気ハネェガナ。)


 不正に買った奴隷をここに連れてきて、魔獣の餌として置いているのか…。もはや人間として扱われていない状態。如何に奴隷とはいえ人間としての尊厳までも奪うことは許されない。

 俺は怒りに打ち震えた。


 よく見れば、まだ丸太に括りつけられていない奴隷もいる。だが、地面に這いつくばり兵士たちに足蹴にされ泥まみれにされていた。

 更に奥の方には大きな穴が掘られており、いくつかの死体が打ち捨てられていた。


 (ヌエよ、あの死体は何なのだ?)


 ヌエはチラリと穴の方を見た。


 (ココニ耐エラレズニ命ヲ落トシタニンゲンダ。…俺デモ吐キ気ノスル扱イジャノゥ。)


 俺は自分の体温が上がるのを感じた。


 …怒りを覚えている。




 やがて手前のほうから一際豪奢な鎧をまとった男が何人かの騎士を引き連れてやってきた。王国の紋章を付けたマントを羽織っていることから身分の高い人物だと思われる。歩き方も喋り方も偉そうにしており、人望がなさそうだ。控えているのは第四師団の高官共であろうか。へこへこした雰囲気で傅いている。


 「魔獣はまだ動かせんのか!?決行はもうすぐなんだぞ!」


 「ですが、団長代理(・・・・)殿、我々が用意した人間に一切手をつけようとしません。このままでは、この森から連れ出すこともできませぬ!」


 返答した男を団長代理と呼ばれた男が睨んだ。


 「…奴隷が足らんのなら、増やせばよいだろう。金なら公爵家から出させればいい!」


 典型的な選民主義の人間だな。自分は選ばれた人間であり、自分以外はどうなろうが関係ない、そんな感覚なのだろうか。

 団長代理と呼ばれた騎士は剣を抜き、丸太に括りつけられた奴隷に斬り付けた。轡をはめられた奴隷は声にならない叫び声を上げ、切り口から血を吹き出す。


 「役にたたん奴隷共め…。」


 剣を振り血を吹き飛ばして鞘に納めると苛立ちを隠そうともせず、あちこちに当たり散らす。


 「そもそもドワーフ!本当にこれで魔獣を手なずけられるのか!?」


 近くにいたドワーフは怒りの矛先を向けられ、露骨に嫌そうな顔を見せた。


 「ワシらは魔獣を縛る剣と鎖を貸し出しただけ。それを扱えていない貴公らの無能をワシらのせいにされても困る。」


 「なにぃ!」


 団長代理は再び剣を抜き構える。ドワーフはさっと2~3歩後ろに下がって身構える。


 「そもそもこの計画は王宮内の誰かに知られている可能性があると忠告したであろう。それを、事が発覚することを恐れて無理やり計画を早めおって…。ワシらが苦労して提供した奴隷達も台無しにしているのだぞ。」


 「一部の奴隷が逃げたのは部下の無能のせいだ!魔獣が言うこと聞かなねぇのは貴様のせいだ!」


 「…無茶苦茶な論理だな。それに奴隷が逃げたことによってどうなるかを考えているのか?」


 見たところ、ドワーフの方は冷静だ。その上であの騎士を煽っている。だが会話を聞いている俺が一緒になって煽られていた。ふつふつと怒りが湧きあがってくる。

 俺は、カミラに絶対に動かないよう命令して監視していた木の上から降りて、近づいた。最初に団長代理につき従っていた男が俺に気づく。


 「何者だ!」


 団長代理の前に躍り出て剣を構えたが、俺は構えた盾を蹴って吹き飛ばす。周りの騎士はざわめき、1歩引いた位置で身構えた。


 「…誰でもいい。奴隷達を解放してもらおうか。貴様らに奴隷を扱う資格などない。」


 俺の低い声に騎士たちは更に1歩後ろに下がった。だが、団長代理は俺を一瞥すると、まだ丸太に繋がれていない奴隷を引きずりだし、喉元に剣を突き付けた。


 「…誰だか知らんが、俺に刃向うとはいい度胸だ。だが、これでも貴様は立ち向かえるかな?」


 団長代理は剣に力を込める。首筋に赤い線が浮かぶ。奴隷が痛みに叫び声を上げた。

 俺は冷めた目でこの男を見た。どうしようもない最低のクズ男。そんな奴に命を奪われるこの奴隷たちは一体…。


 俺の怒りはとっくに沸点を超えていた。


 ≪異空間倉庫≫から【メロペーの戦斧】を取り出し、一閃した。疾風と共に俺の視界の左半分が吹き飛び、そこに居た騎士たちは悲鳴を上げる間もなく上半身を吹き飛ばされた。残った下半身が数瞬の間をおいて膝を折り曲げて倒れた。


 余りにもありえない出来事に何が起きたのかわからず、残った騎士やドワーフ達が吹き飛んで視界が開けた左側を見る。ありえない光景に右半分にいた人間全員が緩慢すぎる動きで状況を把握しきれずにいた。奴隷に剣を向けていた団長代理は恐怖に顔を引きつらせ、剣先は小刻みに震えている。


 俺は一歩だけ前に進んだ。それだけで俺の周りに風が吹き起こり、背の低いドワーフでさえその風に体をのけぞらせた。


 「貴様らは骨1つ、塵1つこの世には残さん…。」


 俺は再び斧を構える。


 こんな奴らは、消し飛んでしまえばいい。


 俺は怒りに任せた一撃を放った。




 ガキィインン!!!!……。




 金属がぶつかる音がして、俺の視界全てが灰色に変わる。



 目の前に居た団長代理やドワーフどもは俺の一撃に怯えた表情を見せたまま、停止していた。視るものすべてが灰色で停止している。



 …いや、色の付いたものがあった。



 俺の両脇には【金牛獣】と【人馬獣】が俺の斧の一撃を抑え込んだ体制で立っていた。

 (そこまでだ“この世ならざる者”よ。)


 弓矢で俺の胸に狙いを定めた状態で俺に声を掛けてきた。俺は状況が飲み込めず呆然と人馬獣を眺めている。

 金牛獣は俺の斧に角を押し当て、動きを止めている。


 (小僧、これ以上やればどうなるかわかっているだろう?)


 金牛獣の眼には怒りはなく、むしろ悲しみ、憐みの色が見える。




 …そうか。俺は道を踏み外したのか。




 俺は怒りに任せ、人外の力をもって森ごと吹き飛ばした。木々はなぎ倒され、気づく間もなく命が奪われ、絶対の恐怖を植え付けていく。

 この力を王都で使えば…。この力を別の国で使えば…。

 俺はまさしく、力でもって、恐怖でもって世界を手に入れる1歩を踏み出していた。




 俺は全身の力を抜いた。


 ここまでか。


 意外と俺も感情的になっていたようだ。


 俺は金牛獣を見る。


 約束通り、この命奪って頂こう。




 俺は斧を捨て、目を閉じた。


 (“この世ならざる者”よ。その覚悟や良し。苦しまずにその死を与えてやる。)


 人馬獣の番えた矢が輝いた。















 (神獣よ…。お待ちなさい。)






 空が輝き、辺りを包み込む。直視できないほどの強烈な光が射しこみ、そこに人影が現れた。


 全身が赤黒い肌で覆われはちきれんばかりにパンプアップされた筋肉が美しく輝く。

 朝焼け、真昼、夕焼けを表すと言われた三面の顔が俺と金牛獣と人馬獣を睨み付ける。


 太陽神、アルザラート。



 6柱神の筆頭に挙げられ、ヒト族が最も信仰している神。



 俺はトンでもないお偉いさんに解雇通知を直接受けるんだ…。



 (“エルバード”…と言ったな。数多の属神が騒ぐのも無理はないか。確かに膨大な神力を持ち、アマトナス様の“人外の天罰”にも耐えられる精神を持っているようだ。)


 俺は初めて、神に名を呼ばれた。なんとも不思議な感覚だ。


 (神獣よ。此の者は寸前のところではあるが、己の過ちに気づき、道を踏み外した理由を知り、その全てを覚悟した。…本当に踏み外した者はそれすら気づかない。まだやり直せるとと思わぬか?)


 金牛獣はイラつくような目を太陽神様に向ける。人馬獣は黙したまま俺の胸に狙いをつけている。

 やがて人馬獣は弓を降ろした。


 (お、おい…。)


 金牛獣は人馬獣の行動に驚いた表情を見せる。人馬獣は表情の見えない鉄仮面で金牛獣を一瞥し左腕の弓を折りたたむ。


 (太陽神の言や良し。俺は得心した故我が領土に戻る。)


 (金牛獣よ。そなたは?)


 金牛獣は無言で太陽神様を睨み付けていたが「フン」と鼻を鳴らして視線を逸らした。


 (…エルバードよ。神獣は我が言に従うことを了承しました。今から少しだけ、時間を戻します。次は踏み外さぬようにするのです。)


 太陽神は両手を掲げる。空からもう一人の神が降りてきた。俺はその神も知っている。



 星神カルドウォート。



 星神様もこの光景を見ておられたようだった。


 (…まったく、貴様には冷や冷やさせられる。)


 ゆっくりとその体を地上に向かって硬化させながら無言で佇む俺に話しかけてきた。


 (あなたも彼を見て面白がっているのですか?フフフ…。)


 (フン…。あまり儂に干渉しないでもらいたいな。貴様とは対極の位置を示すのが儂の役目なのだから。)


 星神様はブツブツと文句を言いながらも太陽神様の動きに合わせて、何やらポーズを取った。


 二柱の神が両手両足を動かし、相対する動きで不思議な踊りを始めた。


 周りの灰色の景色が動き出した。団長代理の表情が恐怖から引きつった顔に戻り、失われた森の左半分が元に戻り、吹き飛んだ人間も元の位置に戻った。

 そして俺が隠れていた樹から飛び降りたところで逆再生が止まった。


 太陽神様と星神様は踊りを止めて俺を見下ろした。


 (人生のやり直しなど、通常ではありえません。ですが、貴方への期待も込めて、一度だけ機会を与えましょう。)


 二柱の体が輝きだした。


 (時は動き出す。貴様は過ちを繰り返すのか、新たな道を切り開くのか…。)


 星神の声がこだまして、灰色の景色は元に戻り、次の瞬間には、太陽神も星神も神獣もいなくなっていた。



 団長代理につき従っていた男が俺に気づく。


 「何者だ!」


 男は団長代理の前に躍り出て剣を構えた。


 俺は我に返った。


 そうか。ここからやり直せるのか。あん時は怒りで考えるより先に足が出てしまったからな。

 今はもう冷静だ。やるべきことも理解している。


 俺は身構える騎士を横目にドワーフに話しかけた。


 「ドワーフさんよ。こいつらはもう駄目だぜ。いろいろと足掴まれてる。それよりも俺と手を組まねえか?金払いだけはいいぜぇ。」


 ドワーフは俺の怪しい匂いをプンプンさせた誘いに侮蔑を込めた表情で言い返した。


 「貴様が誰だか知らんが、そう易々と契約相手を変えていては我々の信用にもかかわる。」


 「素性のわからない相手を信用する度量も見せて欲しいなぁ……ハウグスポーリさんよ。」


 ドワーフの表情が一瞬変わった。だがそれ以上に団長代理の顔色が変わった。


 「貴様!こいつらの組織名を知っているとは!?一体何者だ!!」


 ドワーフは狭い額に手を当て下を向いた。こいつは予想以上にバカだった。ドワーフは暫く俯いて何事か考えていたようだが、不意に上に長く伸びた耳をピクピクと動かした。周りに居た他のドワーフの雰囲気が変わった。

 何かする気のようだ。恐らく俺を含めた皆殺しだと思うが…。


 俺は予備動作もなく、ステップを踏んでドワーフの後ろに回った。ドワーフが驚く間もなく俺は首の後ろをトンと叩く。


 いつかはやってみたいと思っていたヤツだが、意外とうまくいくもんだ。ドワーフは何も言わずその場に崩れ込んだ。続いてそこから近い位置に立っていたドワーフの側に移動し、同じようにトンと叩く。ヤバい。これ気持ちいい。順番にドワーフの首をトンと叩いていき、不穏な動きを見せたドワーフは全員その場で意識を失った。その間、第四師団の連中は唖然としてその様子を見ているだけだった。

 俺は≪異空間倉庫≫からロープを取り出し、樹の上に隠れていたカミラに向かって投げつけた。


 「カミラ、倒れた奴らを片っ端からその紐で縛り上げてくれ。」


 カミラは樹から飛び降りロープを拾うと微妙な表情を見せたまま、倒れているドワーフに近づいた。


 「貴様!」


 騎士の一人がカミラに向かって矢を放ったが、俺はその矢を槍で叩き落とした。その神技に騎士たちは慄く。


 「勝手なことをされては困るな。お前たちはこれから順番に彼女に縛られてもらうんだから。」


 俺はそう言うと、≪気配察知≫を使って森の中にいる騎士の位置を全て確認して、倒す順番を決める。


 「抵抗しないでくれよ。一気に行くから。」


 俺は緊張感なくそう言うと、文字通り森の中を蹂躙した。そして片っ端から首の後ろをトントンして回った。


 もう一生分のトントンを味わった気がする。


 次々と俺のトントンで崩れ落ちていく兵士や騎士達。その後を大量のロープを持って回るカミラ。もはやそれは流れ作業でしかなかった。


 最後に俺は団長代理の前にやってきた。豪華な鎧を着ただけの何の能力もないこの男は全身を汗まみれにして、俺を見て震えている。なんか臭うと思っていたら、失禁もしていた。…そういやベラも良く失禁するが、彼女のは臭わないな…。その違いは何なんだろう?


 どうでもいいことを考えながら、ふと気になって≪魂の真贋≫を発動させた。


 男の胸に現れた玉は白かった。


 つまり浄化すべき魂ではない。


 何となくこの男は対象かなって思ったんだがな。相変わらず見極める基準が不明だ。


 俺は最後のトントンで団長代理を地面に沈め一息ついてから雷獣の前に立った。


 「…待たせたな。今からその鎖を外してみるから。」


 雷獣は無言で俺を見ていた。…どうしたんだろう?


 「…貴様ハ一体…何者ナノダ?」


 「そのうち説明するよ。今は一刻も早くここから脱出しよう。そのうち異変に気づいて誰かが来るかもしれないし。」


 俺は紫の鎖を突いたり叩いたりしながら調べて回った。そして雷獣が言っていた白金に輝く剣が刺さった場所に来た。

 さっそく≪鑑定≫してみる。



 【マイアの大剣】



 予想を裏切らず、7姉妹の武具だった。問題はこれをどうしたらいいのか、なんだが。俺は柄に手を掛けてみた。

 抜けそうだ。

 俺は思い切って剣を抜いた。


 途端に魔獣を締め付けていた鎖がウネウネと動きだし、その動きが激しくなってきたかと思うと突然俺の前で勢いよく収縮し出した。鉄砲水が流れるような轟音と共に一か所に集まり、収縮して別の形を形成していく。そして全ての鎖が集まりきると短剣の形となって地面に落ちた。




 紫色の短剣…。




 俺は地面に落ちた短剣を拾った。短剣の表面は物凄いスピードで腐食していき、ボロボロと崩れていく。既に色はドス黒い紫色に変色しており、やがて全て崩れて俺の手からなくなってしまった。



 一体、どういうことなのだ?



 「“魔”ヲ縛ル金属ハ物質トシテ不安定ナ金属ダ。“聖”ヲ縛ル金属デ安定サセルコトデ鎖ノ状態ヲ保ッテイタノダロウ…。我々魔獣ハ“聖”ヲ縛ル金属ニ触レルコトハデキナイ。故ニココカラ動クコトガデキナカッタノダ。」


 雷獣が鎖から解き放たれた体を震わせ、体を解しながらボロボロに崩れた短剣を見つめる俺に理由を説明してくれた。


 “魔”を縛る金属は八岐大蛇でさえも押さえつける力を持つ。しかし、安定した物質ではないため、安定させるために“聖”を縛る金属を使う。理屈は理解した。

 だが、俺の持つ紫の剣はいったい何なのだ?金属として安定した状態で今も俺の≪異空間倉庫≫の中に眠っている。謎は深まるばかりのようだ。


 俺は木でできた杖を取り出し、地面に突き刺した。そして雷獣に話しかけた。


 「ヌエよ。お前の爪をもらえぬか。お前の憑代を用意したい。」


 ヌエは巨大な猿顔を俺の方に向けた。


 「貴様…魔装具モ作レルノカ!?」


 猿顔はあまり豊かな表情をしない為よくわからなかったが、かなり驚いているようだ。俺は黙ってじっとヌエを見つめていると、前足を差出し、鋭い爪を見せた。


 「…ヨカロウ。貴様ニ仕エテヤル。」


 そう言って前足に力を込め、爪をボトボトと切り離した。俺は地面に落ちた6本の爪を拾い集め魔力を込める。両手の周りに薄い霧がかかり、爪はなくなった。そしてその両手で地面に刺した杖を覆っていく。ヌエはその様子をじっと見つめていた。


 「……こんなもんかな?どうだ?外見もなかなか良いだろう?」


 杖の上部から下に向かって4本の爪が生え、真ん中少し上の辺りから上に向かって2本の爪が生えたデザイン。ヌエは暫くその杖を眺めていたがやがてニヤリと笑った。


 「ヨカロウ。コノ杖ニ宿ッテヤロウ。」


 そう言うと雷獣ヌエは杖に吸い込まれて言った。尻尾の先まで吸い込まれると杖から生えた爪をギチギチと鳴らした。俺は杖を地面から引っこ抜く。


 その一部始終を後ろからカミラはずっと見ていた。


 「あ…あの、主~…。い。今のは…?」


 全身をカタカタと震わせ、青い顔で俺のほうを見ている。こんな時どう説明すればいいだろうか?


 「うん…。今は雷獣が俺に従ってくれたと言う風に理解してもらえるか?」


 「う、うん……。」


 カミラの表情からすると無理やり納得したように見える。


 「それよりも、全員縛ったのか?」


 俺は辺りを見回して状況を確認する。


 「ま、まだ半分くらい…。」


 「え!?随分時間かかってるじゃん?」


 「だ、だって、なかなか難しくて…。」


 申し訳なさそうに顔を下に向けたカミラ。縛るだけなのに何をそんなに手こずっているのか?


 俺は縛り終えて転がされている兵士に近寄り縛り方を確認した。

 両手両足が背中の部分で一つに括られ身動きが取れないようにされている。そして胸の部分には綺麗な六角形の形になるように紐が交錯されていた。



 この形、前世で見たことがある…。





 …亀甲縛りじゃねぇか。





 何でわざわざこの縛り方なんだ?





主人公は神獣に殺されかけました、しかし、太陽神、星神のはからいで一度だけやり直す機会を与えられ、何とかしのぐことができました。

本当に道を踏み外した途端に神獣が飛んでくるんですね。


次回はまた八岐大蛇の回です。そして蹂躙します。


ご意見、ご感想、誤字指摘、評価をお願いいたします。

この間、厳しいご意見を頂いてちょっとへこんでます。

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