6 八岐大蛇
ヨーコの髪は元々黒色。それを俺のスキルで赤みがかった茶色に変えて王都に来ている。だから、ヨーコの髪の色が元々黒だと言うことは、王都の連中は誰も知らないはず。
なのに、サラヴィス殿下、カイト殿下は知っていた。調べたのか、俺のスキルを無効にして見る力があるのか…。
「殿下、私の姉まで王太子殿下は会いたいと申されたのですか?」
俺の前に立つ3人のうちの1人がカイト殿下に言葉を掛けた。体躯はまだ小さく、青年に達していないと思われる。カイト殿下はその少年の肩に手を置いて笑顔を見せた。
「君が兄上の側近に推薦したんじゃないか?」
その言葉にエメルダ嬢が反応した。
「ライト!お前どういう理由で、その、王太子殿下に、あの、その…。」
声を上げておいて歯切れの悪い言葉。無理もないか。今のは有力貴族が自分の娘を王族に献上するみたいな…いやいやそれよりも、この目の前の少年は、エメルダ嬢の弟だと!?確かに、エメルダ嬢は弟の屋敷に行かせていたが…。カイト殿下と繋がっていたのか。
カイト殿下という人は、どれだけ水面下で暗躍しているのだ?これでは俺たちが今まで集めた情報について、全部カイト殿下から話を聞かないと気になってしょうがない。
俺の今の知識は穴ぼこだらけで繋がってない為≪情報整理≫も働かないし。
…ここはおとなしく従っておくか。
「王太子殿下がご所望であれば、お断りなどできません。」
少し緊張の色を見せた顔つきで俺はカイト殿下に返事をした。
「そう警戒しなくてもいいよ。そうだね、時間はあとでライト君に伝えておくよ。」
そう言うとまだ狼狽えている少年貴族の肩をもう一度叩いた。
「それからザックウォート商、連れて来た奴隷達は君に預けるよ。どうするかの委細は陛下への謁見時に報告してくれ。問題なければそこで全員を引き渡すようにしておくから。それまでは王家で預かっておくけどね。いいかい?」
相変わらず馴れ馴れしい口調で、ナヴィス殿に言葉を掛けた。ナヴィス殿は恭しく一礼する。カイト殿下の合図で慌ただしく兵士が現れ、助かった奴隷たちに縄を掛けていく。もちろんカミラにも縄を掛けられた。
カミラは泣き叫び俺に助けを求めたが、俺でもどうすることはできない。ただ、安心しろとだけ言い、おとなしくするよう言い聞かせた。
慌ただしく奴隷たちが連れて行かれ、カイト殿下とイェンダ殿、ライトどのが密談をしながら出て行き、俺たちだけが取り残された。静まり返った館内に沈黙が続く。
「…ご主人様……。」
サラがいたたまれなくなったのか俺に声を掛けた。
俺もどう言葉を切り出すべきか迷っていたが、黙っていれば余計にみんなを不安にさせる。
「せっかくカミラを助けることができたんだがなぁ…。問題はまだまだたくさんあるようだなぁ。ナヴィス殿にもご迷惑をかけることになってしまい、申し訳ないです。」
俺はできるだけ明るい口調で話をした。言ってる内容は暗いんだが。
「あれだけ、目立たないようにと念を押したのですがね。」
ナヴィス殿は、笑顔で嫌味な言葉を返してきた。
「世間的には全く目立っていないのですがね。こうも大物が出てくるとは思ってもみませんでした。反省しております。」
「実は私も王族が関係しているとは思っていませんでしたよ。」
ナヴィス殿は少し乾いた笑いを見せた。俺はナヴィス殿に近づき頭を下げる。
「カミラは俺の奴隷にしたいです。なんとかして頂けないでしょうか。」
ナヴィス殿は頭を掻き、大きく息を吐いた。
「あなたならそう言うと思っていましたよ。私も彼女だけでなく、不正に囚われた全員をなんとかしたいと思っています。顔を上げて下さい。」
ナヴィス殿は笑って俺を受け入れてくれた。そう、人間だれしも受け入れてくれる人が必要なのだ。だからこそ、俺は、サラを受け入れ、フォンを受け入れ、エフィもベラもエメルダもヨーコも受け入れた。そうすれば彼女たちが笑顔を手にすることができる。そう信じたからだ。
今回も全員で笑顔を手に入れよう。
そう思ってみんなの方を見た。
サラは純粋に喜んでくれている。
フォンは無表情だが尻尾でわかる。
エフィは我関せず。
ベラは我が道をゆく。
エメルダはオロオロしてる。
ヨーコは明らかに機嫌が悪い。
はは…なんでみんなこんなにバラバラなんだろ?
俺たちは宿に戻ってきた。みんな全身砂埃やスス、返り血で汚れており、臭いにもうんざりしていたので、風呂に入ることにした。
この宿の風呂は2~3人で入る小浴場が幾つも用意されている。俺たちは小浴場を5つ借りた。
1.ナヴィス殿
2.サラ、ベスタさん
3.エメルダ嬢、フォン
4.ヨーコ、ベラ(ウルチ)
そして…。
「嫌じゃぁあ!!!!」
「ご褒美だって言っただろうが!」
逃げ惑うエフィに追いかける俺。
抵抗するエフィを捕まえ、脱衣場に連れて行く。扉を閉めて、逃げられないようにしてススで汚れた深緑の給仕服に手を掛けた。
「な、何じゃこのブラブラしたモノは------!!!!!!」
この日浴場からエフィの魂の叫びが何度もこだました。
翌日、早朝にライト様が訪ねて来られた。俺は騎士の礼で挨拶をする。ライト様は俺の顔を睨み付けていた。
「…姉上に手を出してないだろうな?」
「手を出していません。手を出されました…ぐほぉ!」
渾身のグーパンチが俺の腹にめり込んだ。
「姉上がそんなことする訳ないだろう!」
「夜中に私の寝室に忍び込んで無理やり…ぐはぁ!!」
更に強いパンチが腹に突き刺さった。
「デタラメを言うな!」
…手が早いのはさすがは兄妹だ。エメルダ嬢に負けず劣らず鋭いツッコミだし。だが、立ち直りが早いのが俺の取り柄。
「で、ご用件を伺います。」
全くのノーダメージ顔の俺にライト様はびっくりしていた。
正確にはノーダメージではなく、一瞬でダメージを回復しているんだけどね。
「ナヴィス殿に伝言だ。本日、お日様14つ分に王宮に参内せよ。それからお前と姉上と奴隷たちは夜のお日様4つ分に来い。」
夕方にナヴィス殿は陛下に謁見。その時に奴隷商の火事の件について報告をもらい、生き残った奴隷達の処遇について意見を求められるから、報告する。その内容を聞いて、処遇を決め、ナヴィス殿に低価格で売り渡す、という手順だ。当に出来レースなわけだ。
で俺たちの方は夜が更けてから秘密の脱出経路から王太子殿下の部屋まで行って、非公式の謁見。何を聞かれるかわからんけど、こっちも聞けるだけ聞いておこう。
「おい、聞いているのか!」
考え事をしていたら、目の前の少年に怒鳴られた。
「はい、承りました。」
俺は少年に向かって一礼する。ライト殿は腕を組んでから、小声で俺に話しかけた。
「…慎重に行動しろよ。これまで殿下の影すら見せぬように行動していたんだからな。ここで、計画が露見してしまっては貴族どもの報復は計り知れないものと心得てくれ。」
そう言われても、全容がわかってない俺には何が良くて何がダメなのかが判断できないんだが…。
暫く適当な会話をライト殿と行い、少年貴族の役割を探ってみた。
ライト殿は王家と貴族との間で戦争が始まった時の打倒3大公爵家を掲げて立ち上がる改革派の様だ。
つまり、王家と有力貴族との間で戦争を始める気だった。既に王家側に付く兵力は想定できており、最終的に相討ちにして、生き残った青年貴族で新王家を立ち上げる計画らしい。
それでは、一ノ島全域で諸侯が独立してしまう。それに諸外国がここぞとばかりに干渉してくるはずだ。特にあのドワーフ王ならなおさらだ。
「ライト様、明日お時間を頂けませんでしょうか。周りの目が気になるようであれば、私のエメルダ様に対する態度に関する詰問などで呼び出せば、恰好はつくかと思いますが…。」
ライト殿はその内容で承知して、明日ライト殿の家に伺う約束を取り付けた。
さて、全ての謎を解き、方向修正をしていこう。
夕方、謁見に向かったナヴィス殿が6人の奴隷を連れて戻ってきた。連れて来た奴隷の中にはカミラも含まれていた。カミラは俺の姿を見つけるなり背中の羽で飛んで俺に飛び込んできた。
「主~!」
猫なで声で俺に抱き付き頬ずりする。は、恥ずかしいんだけど。それに、周りの視線がかなり痛く、一気に険悪ムードになってるし。
「ま、待てカミラ!一旦俺の奴隷になるんだから、最低限の事を済ませてからだ!」
俺はべたべたと抱き付くカミラを強引に引き剥がし、注意する。
「ん~最低限のコトって、お情け?」
「な、な、な、何言ってんだ!?契約の儀式だろ!それから先輩奴隷にも挨拶しろ!」
カミラは面倒くさそうに周りを一瞥する。その態度がまた一段と険悪ムードを盛り上げた。フォンの尻尾がいつもの倍くらいに膨れ上がっている。ベラはいつの間にかウルチに入れ替わっていた。ヨーコとエメルダ嬢は身構えている。
「ご主人様。契約の儀式の後、カミラさんの事はサラにお任せ頂けないでしょうか。」
サラが一歩前に進み出て俺に提案をしてきた。真剣な眼差しで姿勢も正しており、いつものサラとは全然違う。
俺が初めてサラを見た時の姿だ。
あの時、俺はサラの発した言葉、態度を見てこの子は単なる奴隷ではないと思ったんだ。ここはサラを信用しよう。
「…わかった。サラ、任せる。」
「はい、ご主人様。」
にっこりとほほ笑んだサラは久しぶりに見た頼りがいのあるサラだった。
カミラの契約の儀式を済ませ、首輪を付けた後、サラにカミラを預け、夜の4つ分まで時間を過ごした。その間にフォン、エフィ、ベラ、ヨーコに様々な指示を出して情報収集する。エメルダ嬢とアルは、ライト様に呼ばれて出て行った。約束の時間までには戻るようには言ってあるけど、大丈夫だろうか?あの弟はサラヴィス殿下に会わせたくないよう様子だったし。…バックれる気かも。
…夜。
指定された時間に近づいた。
俺は1人ずつ、王宮の裏側にある秘密の扉を通して全員(サラ、フォン、エフィ、ベラ、カミラ、ヨーコ、エメルダ、ライト、アル)で難なく罠を回避して王宮内に侵入させた。ライト様は俺の手際の良すぎる侵入に驚きすぎて声も出ないようだった。
フッフッフ。どうだ、俺を見直したか。
…何を俺はライト様に対抗意識だしてんだよ。
気を取り直して縄梯子を昇る。梯子の上では前回と同様に梯子の上でカイト殿下がニコニコ顔で待っていた。
「時間通りだね。…しかしよくもまあこれだけの人数が簡単にここまで侵入できるもんだ。君の能力についてはいろいろと聞きたいんだけどね。」
屈託のない笑顔。つい気を許してしまいそうになる。俺は愛想笑いで心の中に防波堤を築きつつ、会話を進める。
「能力については私もうまく説明できないですがね。それよりも本当にこの人数で殿下にお会いしてよいのですか?」
適当にはぐらかして別の質問をぶつける。カイト殿下は少しだけ間を開けて穴の奥を見やってから答えを返した。
「構わないよ。兄上が会いたがっているのだから。」
俺は下から昇ってくる奴隷達の引き上げの手伝いをしながらカイト殿下の回答に違和感を覚えた。
普通、これだけの人数を護衛なしで王族に引き合わせるなんてしない。王太子殿下ならなおさらだ。如何に極秘の会談とはいえ、ありえないのだ。
全員が昇りきったところで、カイト殿下は案内を始めた。
「今日は大人数なのでね。兄上の部屋では手狭になると思うから、特別室に来てもらうよ。」
そう言って穴の左手に向かって歩き出した。壁に手を掛け、なにやら手探りで探しだし、両手で力いっぱい岩壁を押した。音もなく岩壁が動き新たな岩穴が姿を現した。
こんな仕掛けがあるなんて…。
正直気づかなかった…。
カイト殿下は自分から穴の中に入り手招きする。俺たちは恐る恐るその穴の中に入って行く。穴は階段状に道が連なっており、下へ下へと進んで行く。カイト殿下はその真っ暗な穴を手探りで進んで行った。俺は≪異空間倉庫≫から光彩棒を取り出し、サラとベラに持たせ、カイト殿下の後をついて行った。
ずいぶんと階段を下って行き、やがて広間に出た。俺は≪気配察知≫≪仰俯角監視≫≪遠視≫の組合せで作った立体地図を頭の中で確認する。
王宮の真下、地下階の更に下にあたる。
ここには確か…。
そして、俺たちの前には赤く塗られたポールを手に持ち、マントを翻して立つ男が居た。ポールの先にはヒト族を表す槍と弓の意匠が描かれた旗がなびいている。
エメルダ嬢とライト様が恭しく両膝をついて頭を垂れた。近くにいたアルが慌てて同じ格好をする。それを見たサラが他の奴隷たちに小声で何か言って、全員が恭しく跪いた。…王族を目の前にして取るべき態度。それがこれなのだろう。
しかもヒト族の国旗を掲げられて跪かないのは国に忠誠を誓っていない証と前世では言われていた。
そんな俺を男はじっと見つめていた。サラをはじめとするみんなは跪き頭を垂れたまま、俺の様子を伺っている。
だが俺は目の前の男ではなく、その後ろに注意を払っていた。カイト殿下がそれに気づき、にやりと笑った。
「やはり君は気が付いたようだね。」
カイト殿下の声に俺は広間の奥を凝視したまま返事した。
「…大きな魔力を感じます。しかも人間のモノではないように感じます。」
そう言うと、カイト殿下はため息一つついて目の前の男に合図を送った。男はそれに気づき、ポールを降ろし、俺に近づいてきた。
やはり、男はサラヴィス殿下であった。恐らく正装なのだろう。煌びやかな宝石のちりばめられた服を着ている。
「奥に、私に取り憑いた魔獣様が居る。私はカイトとここで待っている。貴公一人で奥へ向かい、その魔獣様にお会いするが良い。」
俺はサラヴィス殿下に質問した。
「お会いして、何をすればよいのですか?」
「私に“英雄”になれと言うのであれば、魔獣様から私を引き離さねばならぬぞ。だが、貴公ならできるような気がするのだ。」
魔獣は人間の魔力を糧にしてこの世界に生きている。その為に強制的に憑依して宿主から魔力を吸い取っているらしい。
その魔獣から宿主から引き剥がすことは死ねと言うことと同義。もしくは代りの宿主を提供する必要がある。
…そんな代りの人間なんて…俺ぐらいしかいないじゃない?殿下はそれを解って言ってるんだろうなぁ…。
「殿下、魔獣の名をお聞かせ願えますか?」
「…“八岐大蛇”。」
8つの首と太い胴体、長い1本の尾をもつ日本神話時代の竜。……だったよな。
俺は再び広間の奥を見た。そして振り返ってみんなの顔を見る。殿下が全員連れてくるように言った意味が理解できた。彼女たちは俺に魔獣を何とかさせるための“人質”であり、もしもの時の為の“生贄”であり、緊急時の“身代り”だ。別に誰でもよかったんだ、俺が決して見捨てない人間であれば。
さあて…。伝説の竜のお姿を拝見しに行きますか。
俺は奥へ向かって歩き出した。歩きはがらスキルを発動させる。
俺は≪思考並列化≫のお蔭で複数のスキルを同時に発動させることができた。既にみんなの姿を変えるために≪身代わりの表皮≫と≪偽りの仮面≫を使っている。更に、≪光彩≫で周りを照らしている状態だ。
だが、俺には余力がまだまだあった。
≪竜鱗皮≫で全身を覆い、≪魔力操作≫でその上から魔力の膜を張った。
そして一歩ずつ奥へと迫る。進むごとに暗闇に潜む何かがその姿を現していった。
天井に向かって一本の長い首が見える。残りの7本は紫色の鎖で首を床に固定してた。更に尻尾にも鎖が巻きつけられ、床に縛り付けられている。そしてそれらの鎖はグルグルと巨体の周りを囲って、一か所に集められていた。そこには杭のようなもので集められた鎖を止めている。
まさに、“封印”されているような雰囲気だった。
1本だけ残った首がこちらに向いた。瞬間に強大な魔力の波動が俺を襲った。何とか事前に張っていた魔力の膜で凌いだが、肌に焼け付くような痛みを感じた。見ると皮膚を覆っていた鱗の一部が硬く灰色に変色していた。
「…石化、…か?」
俺は変色した鱗に触れて感触を確認する。石であることを確認して、唾を飲み込んだ。
「…ほう、儂の≪石化眼≫を防ぐか。」
黒竜や氷狼とは違い、流暢なニ・ホーン語の声が聞こえた。
俺はその声に反応して立ち止まり、上を見上げた。赤く光る1対の眼が俺を睨んでいた。
「貴様、何者だ?何故、膨大な神気を待っている?」
神気を感じることのできるモノが最初に投げかける言葉。神気を纏う人間はよほど珍しいらしいな。
「初めまして。エルバードという。職業は“アマトナスの僕”だ。」
こちらもお決まりの言葉で返事を返す。巨大な頭がやや震え、俺をじろじろと見やった。
「ふん、“この世ならざる者”か…。そんな奴が儂に何の用だ?」
「…成り行きで。」
俺は正直に答えた。しばらく沈黙が続く。たぶん俺の心の中を覗いているのだろう。俺は相手が何か言うまでじっと待った。
「……そのようだな。またあの兄弟が企んでいるようだな。」
俺は後ろを見る。遠くに光彩棒が光る様子が見えるだけだ。
「そうだ。そしてその企みの全容がまだ見えないもんだから暫く言いなりになっているんだ。お前は知っているのか?」
八岐大蛇は鼻を鳴らした。笑ったようだ。
「興味がないわ。」
八岐大蛇は首をもたげ口を開いた。笑っているのか?
「だが、あの2人はお前と共に自爆的な行為を考えているみたいだぞ。」
「何の為に?」
「古い王朝を滅ぼし、新しい王朝を建てるために。」
八岐大蛇は大きく口を開けカクカクと頭を振った。明らかに笑っている。
「あ奴らではこの儂を縛る封印すら解けぬのに、儂と共に滅ぶなどできぬことだわ!」
やはりこの鎖は封印だったか。
「いつから封印されているのだ?」
「…2000年前だ。」
サラから聞いた年数とは違うが黒竜から聞いた年数とは一致する。やはりこちらが正解か。だが、何故2000年前が1000年に歴史が縮んだんだ?
「宿主はどうしてたのだ?」
「ここの王家が代々宿主を差し出してきたのさ。儂はその差し出された宿主に乗り移り生きながらえておる。」
「じゃあ、今の宿主であるサラヴィス殿下が死ねばどうなるのだ?」
「フン!適当に人間を呼び寄せ新たな宿主とするだけだ。儂は死なん。」
だろうな。俺の予想通りだ。だが、あの2人はそうは思ってない。恐らく、長年王族の誰かが宿主となってこの魔獣を受け継いできたので、宿主が死ねば魔獣も死ぬと伝えられているのだろう。
俺は黒竜、氷狼で魔獣という存在を知り、それを従えているから容易に想像できた。だがただの憑代として魔獣を受け継いでいるサラヴィス殿下には無理なのだろう。
俺はもう一度八岐大蛇の全身を見た。
全身に巻き付いた鎖。7つの首を押さえつける鎖。尻尾を封じた鎖。全て紫色の鎖。
俺は紫色の鎖に近づき、眺めてみる。傷もなく、腐食もしていない。
「この鎖は一体…。」
強大な魔力を放ち、今もなおその波動で激しい圧力を俺にかけて来ているが、臆した様子も見せず、平然と近づき鎖に触れてみる。特に何も感じない。
「その鎖は、魔族の王が作り出した“魔”を縛る金属だ。そしてその鎖を固定しているのが、ヒト族の王が作り出した“聖”を縛る金属らしい。儂はこの2つの相対する力でココに縛り付けられておる。」
俺は、鎖の先にある杭を見た。よく見ると鎖を止めていたのは杭ではなく、2本の短剣だった。
俺はその短剣に近づく。目立たない程度の装飾が施されており、白金に輝いている。
その短剣を鑑定すると、
【ターユゲテーの双剣】
とウィンドウに表示された。
俺が探している“プレイアデスの7姉妹”の武具。
その一つが八岐大蛇を鎖で縛りつけていたのだ。
主人公はエフィと一緒に風呂に入りました。
何が起きたかは想像にお任せします。
ついに王宮の地下に棲む魔獣と対面しましたが、魔獣は鎖でつながれています。
しかも鎖を止めている杭は主人公が探している武具の1つ。
次話はその武具の秘密に触れていきます。
ご意見、ご感想、誤字報告、評価をお待ちしております。




