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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第五章◆ 禁忌の吸精少女
69/126

4 王子二人の覚悟

08/27 誤字修正 ×ラルクルス商

        ○レイドフォーン商


 「あなたのお隣で震えている子を紹介してもらえないかしら?」


 沈黙し、固まった雰囲気を和らげるかのように静御前様が言葉を発した。


 俺は我に帰り、ヨーコを引き寄せる。彼女は状況が理解できずに怯えており、俺に引きよさられて思わず抱き付いて来た。


 「俺と同じ“この世ならざる者”のヨーコです。」


 静御前は丁寧に会釈する。神様にそこまでされると気が引けてしまう。


 「あなた様の室にございますか。可愛らしい方で…」


 「静。下界の者を詮索するなど、神としてあるまじきこと。止めておけ。」


 話の途中でクロウ様が遮る。静御前は頬を膨らませる。


 「…お前様はいつもお堅いのです。」


 静御前はそっぽを向いてしまった。そもそも静御前というのは、日本で生きていた時の名前であって、神としての名前は知らない。サラからも聞いてなかった。


 「シラビョウシと呼ばれています。宴の神として奉られております。」


 いつの間にか俺の真横に静御前が移動しており、俺の心を読んで答えた。

 俺は名前も知らなかったことに恥ずかしさを感じて頭を下げた。





 「さて、質問には答えてやったが、それでも貴公は下界の営みに介入するのか?」


 クロウ様は俺を睨み付けるようにして訪ねてきた。多少凄みがある。神としては“この世ならざる者”には活躍してほしくないのであろう。


 「…助けたい子がいるので。」


 その言葉に以外にもヨーコが反応した。カッと目を見開いて俺を睨み付ける。


 「アンタまさか、またハーレムを増やす気?」


 俺はたじろいでしまったが、反論する。


 「ハーレムに入るかどうかはわからんよ。ほら、山小屋で会ったサキュバスの子がいただろう?あの子が例の奴隷商に捕まっているんだ。ほっとけないだろう?」


 ヨーコは返答に困っていた。これ以上奴隷が増えるのは嫌みたいだが、知っている人を見捨てるのも嫌なのだろう。複雑な表情になった。


 「フン、好きにしなさいよ。」


 ヨーコはふてくされて向こうを向いてしまった。だが一度組んだ腕は話そうとしなかった。



 …当たるべきものが当たってるんだが、ヨーコは気づいてないのかな?



 そんな俺をクロウ様は不快気に見てため息をする。


 「忠告するぞ。もし世界の均衡を崩すようなことになれば、貴公は…。」


 「わかっております。その時はおとなしく神獣にこの命を捧げます。」


 ヨーコが慌てた風で俺を覗き見た。クロウ様はわずかに目を見開く。シラビョウシ様は呆れた風に俺を見やる。


 「…恐れを知らぬとはこのことだな。だが増長しているわけでもなさそうだ。」


 クロウ様は笑みを浮かべた。得体の知れない笑み。しばらく俺に笑みを見せた後、急に背を向けた。


 「帰るぞ、(しず)!」


 言うが早いがクロウ様の体が透けていく。


 「あ!待ってくださいお前様!」


 慌ててシラビョウシ様も追いかける一瞬こっちを見てにこっと微笑んで、スーッと消えていった。同時に真っ白い世界も弾けるように消えていった。





 石造の前に俺は座っていた。隣を見ると驚いた表情のヨーコがいた。どうやらさっきの事を覚えているようだ。


 「…初めてか?」


 「これがアンタの言ってた……?」


 俺はヨーコの言葉に無言で肯き人差し指を口に当てた。エフィ達は知らないことだ。騒がないでおくれよ。


 しかし、今回は初めて何も力を渡されなかったな。


 俺はメニューを開き、『アビリティ』を見る。



 ≪全知全能≫     ←最初から

 ≪神算鬼謀≫     ←最初から

 ≪ヘゼラサートの加護≫←最初から

 ≪アマトナスの僕≫  ←弟から

 ≪暗殺術の極意≫   ←自力で

 ≪五穀豊穣≫     ←6本腕から

 ≪アルザラートの祝福≫←6本腕から

 ≪竜王の加護≫    ←竜王から

 ≪森羅万象≫     ←樹から

 ≪伝説の執事≫    ←自力で

 ≪一騎当千≫     ←戦神から

 ≪格物致知≫     ←星神から

 ≪破邪顕正≫     ←天使から

 ≪国士無双≫     ←獣王から

 ≪白拍子の加護≫   ←New!




 …ちゃんと頂いておりました。









 全員で一旦宿に戻り、朝食を食べてから、今度はヨーコと二人だけで出かけた。宿を出てすぐヨーコを抱き上げ≪気脈使い≫を使って空を駆けあがった。


 「ど、どこ行くの?」


 俺に抱かれ顔を赤らめながら、ヨーコが聞いて来た。表情が硬いのは怖いからか、緊張しているからかよくわからない。


 「…王宮へ行く。」


 ヨーコはびっくりしてた。「どうやって?」と聞かれるよりも早く王宮を囲む高い壁を越えて石造りの建物に降り立った。あまりにも簡単すぎる侵入にヨーコは何も言えずに呆けていた。俺はヨーコを降ろし軽く頬を叩いて彼女を現実に引き戻す。


 「着いたぞ。ここからは別行動だ。しっかりとスキルで隠ぺいしろよ。」


 「う、うん…。」


 俺は≪超隠密行動≫を使い、ヨーコは≪迷彩≫を使って姿を消し、窓から中に入った。既に俺にはヨーコは見えない。恐らくヨーコにも俺は見えていないはずだ。だが≪気配察知≫でそこにヨーコが居るのはわかっている。≪超隠密行動≫と≪迷彩≫はどちらも隠れて行動するためのスキルだが、大きく違う。俺の≪超隠密行動≫は認識を阻害するスキルなので、≪気配察知≫にも映らない。だが≪迷彩≫は視覚を阻害するスキルの為、気配は感じるのだ。このため相手が気配や魔力を感知するスキルを持っている場合は全く役に立たない。

 だが…。


 「ヨーコ、≪絶対領域≫を使え。別に戦闘をするわけではないからその方が安全だ。」

 俺の言葉に従い、ヨーコは≪絶対領域≫を発動させた。これは、ウリエル様(ホシガミノクソギンチャク)の≪破邪顕正≫のスキルリストにある“正義こそ至上!”シリーズの1つで、自分の周りを絶対領域で囲ってくれる。この領域には物理的な攻撃も魔力による攻撃も気配も全て遮断するのだ。だが重大な欠点もあり外側から内側を絶対的に遮断すると同時に内側から外側も絶対的に遮断するのだ。このため、術者本人は攻撃もできなくなる。また音波も遮断するため、音も聞こえなくなり意思疎通もできない。それどころか、発動後しばらくすると酸欠状態に陥るため、定期的に解除して空気を入れ替える必要があるのだ。


 ヨーコは≪迷彩≫を切り、≪絶対領域≫を発動した。その瞬間に俺の≪気配察知≫から赤い点が消える。全てが遮断され、そこにヨーコがいるかどうかすら判断できない。


 「…じゃ、お互い気を付けて。」


 俺はヨーコがいると思うところを見ながら手を振り、廊下の奥へを進んだ。





 王宮は広い。そして冷もたくさんある。俺は慎重にかつ大胆に部屋の扉を開けては、手がかりになる様なモノがないか調べていった。

 だが、重要な場所ほど衛兵が立っている。結局あまり重要そうでない場所しか調べることができなかった。

 そこで、王宮で働く人間達の会話を聞きまわることにした。まず最初に向かったのは給仕室。ここには100人近くの給仕服を着た女性が働いており、様々な部屋に呼ばれ給仕をしている。当然その仕事の中で様々なものを見ているはずだ。なにかしらの情報は得られるのではないだろうか。

 俺は給仕室に入って女性たちの会話に聞き入った。


 「ベイダール殿下は、また例の獣人女と一晩中ヤッてたのよ!シーツを替える私たちの身にもなってほしいわ…。汚いし臭いし…。」

 「その獣人女、私も見たけど、虚ろだったわ…。あれはもう廃人ね。」

 「10日前も獣人が死んでしまったのよ!私死体を見ちゃったわ…。」

 「第一師団の方達もあそこの警備は嫌だって言ってたわ。」

 「私、昨日殿下の命令で手紙を奴隷商に届けたんだけど…あれ絶対新しい奴隷を要求する内容だわ。」


 いきなりすごい会話を拾ってしまったな。ベイダール殿下…第四王子か。獣人好きで毎晩楽しんでて、飽きたら新しいのを奴隷商に持ってこさせ…恐らくそれの繰り返しであの奴隷商は大きくなっていったのでは?

 これはもう一度あの奴隷商を調査してみるか。なんとなくあの奴隷商を中心にして何人かが繋がっていそうだな。




 「それはそうと王太子殿下のご病状は?あなたさっき食事を届けたのでしょう?」

 「…相変わらず、不眠状態が続いてるらしいです。目の周りが真っ黒で目もすごい充血してました。」

 「いったいどういうご病気なのかしら…。一番頼りになるお方なのに。」


 なんと!王太子殿下、つまり第一王子は病気だった!不眠症か?


 (ソイツノ症状、気ニナルナ。ヒョットシタラ魔獣ニ憑リツカレテルカモ…。)


 俺の脳に直接声を掛けてきやがった。びっくりしたじゃないか!?

 どっちだ?(フェンリル)(ヘイロン)か?……ああ、この禍々しい雰囲気はヘイロンのほうね。でもどういうことだ?


 (…禍々シイトイウ言イ方ガ釈然トセンガ、マアヨイ。儂ノ前ノ宿主ト症状ガ似テル。)


 宿主かどうかの判断はできるのか?


 (魔獣ガミレバ瞭然ダ。)


 よし、何とかして探し出そう。



 俺は暫く給仕室での会話に聞き耳を立て、有益な情報を収集していった。しかし、どの世界でも女の子と言うのは、お喋りなんですね。







 俺はヨーコと何とか合流した。お互いが見えない為、かなり苦労したのだが、人気(ひとけ)のない中庭の一角でようやく互いの姿を確認できた。

 別れた場所とは異なる場所で合流できるなんて奇跡に近い。ヨーコならこの辺に居そうと思ってウロウロしていたら偶然見つけたのだから、会えた喜びも倍増である。チョイチョイと無言で手招きをして、ヨーコを近くまで引き寄せ、ギュッと抱きしめる。


 無事でよかった……。


 ヨーコは慌てふためくが音も立てられない場所なので、やがてされるがままになる。俺は強く抱きしめたり、背中や頭をを撫でたり、じっくりとヨーコの存在を肌で感じた。そして彼女を抱き上げそのまま空中へと蹴り上がる。城壁を難なく乗り越え、街へと戻ってきた俺たちだが、ヨーコはご機嫌ナナメだった。


 「…ごめんよ。ヨーコの無事な姿を見てつい…。」


 おれがそう言って謝ると、ヨーコは何も言わなくなった。顔を赤らめ俯いたままになった。


 「ヨーコ、宿に戻ったら、俺はもう一度王宮に行くから。ナヴィス殿への報告はお前からやっといてくれ。」


 「へ?何しに行くのよ?」


 「んー王太子殿下の様子が気になってな…。どうしても直接見ておきたくって。」


 ヨーコは俺の頬を撫でた。少し目を潤ませている。


 「…気を付けなさいよ。いくら人外のアンタでも、見つかればただじゃ…!」


 俺は唇を塞いだ。うるさいからじゃない。そうしたかったから。手ではなく唇で。プルンとした柔らかい感触が伝わる。ヨーコはそのまま何も言わなくなった。





 ヨーコを宿に残し夕食の材料をサラに渡して俺はまた王宮へと向かった。

 今度こそ要人を見つける。目標は王太子サラヴィス殿下。俺は王宮全体を≪気配察知≫で視ていく。いたるところに赤い点が見える。俺はその一つ一つを注意深く観察していった。そして不自然な場所を見つけた。俺は≪魔力感知≫で調べてみた。案の定、その不自然な場所からは、全く魔力が感知されなかった。何らかの方法で魔力を遮断していると思っていいだろう。そんな場所が何か所もあった。たぶんヨーコと来た時は言ってない場所だ。

 俺はその場所までのルートを検索する。≪気配察知≫と≪魔力感知≫≪仰俯角監視≫と≪情報整理≫の四重奏で頭の中に立体地図を描き出す。魔力が感知されない場所はいずれも複雑な廊下の奥にあり、その途中には何人もの警備兵が居た。


 「これはさすがに隠ぺいスキルでも辿り着けんわぁ…。」


 俺は思わず独り言を言ってしまった。他に方法はないものかと、いろいろ探した。部屋は全部で6つで、4階と5階にある。いずれも大広間の奥にある部屋から伸びる廊下と3階の別室から伸びる廊下に続いている。そして部屋の奥には変な空洞があった。空洞は1階まで続いており、入り口らしきものが見当たらない。


 「ひょっとすると緊急脱出用の隠し通路かもしれん。」


 俺は、王宮の裏側に回り込み妙な空洞のある1階の石壁の所まで来た。石壁のすぐ北側は王都の城壁がそびえ立っている。そして奥の方に4名の兵士が立っているのが見え、そこには城壁の外に出るための小さな門があった。

 ますます、怪しい。

 俺は姿を消した状態で石壁を調べた。余計な音を立てれば、兵士に気づかれる恐れがあるので、慎重に石壁を調べていく。

 そして、排水溝の側に巧妙に隠された小さな木の扉を見つけた。しかもその扉は魔力を帯びている。何かしらの罠を魔法で仕掛けているようだ。俺は≪魔力操作≫を発動させ、扉を覆う魔力の状態を維持するようにしてから扉を開いた。こうすると罠は発動しない。扉の裏には銅鑼が付けられていた。恐らく開くと大きな音が鳴る仕掛けのようだ。慎重に扉を閉める。

 …よし、誰にも見つかっていない。

 王宮の一番奥の空洞は、重要人物の緊急脱出用の空洞のようだ。上を見上げると最上階まで吹き抜けになっている。縄梯子が垂れ下がっており、それぞれが6つの穴に続いている。


 俺はちょっとわくわくしていた。俺が会いたいのは王太子殿下。でも王宮内には国王陛下、王妃殿下、第二王子、三、四といる。

 どの穴に入れば王太子殿下に会えるか…まさにくじ引きだ。

 5階の2つはおそらく王と王妃だろう。4階の4つの内のどれかだと思うが…左から順に行くか。

 俺は縄梯子を昇って行く。落ちないように気を付けてゆっくりと登って行き、4階の穴まで登った。横穴に手を掛け、上りきったところで、ニコニコ顔をしながら、俺のことを見ている青年が居た。

 俺はどうしていいかわからなかった。青年はずっとニコニコして俺を見ている。俺は根負けした感じでニコッと微笑み返した。


 「…おにいさん、何してるの?」


 青年は一歩だけ近づきニコニコしながら聞いて来た。


 無防備。


 この青年は全くの無防備で俺に近づいていた。魔力の感知もない。武器も携帯していない。殺気もまるでない。


 だからこそ、俺はどうしていいかわからず、微笑み返しているだけだった。


 「…い、いやぁ…梯子があったので何があるのかなぁ…て登ってみたんだけど…。」


 苦しい説明をした。でも青年は疑う風もなく、


 「ふうん…で、昇ったら何があった?」


 純真な質問を返してきた。


 「えっと…横穴があって…どこまで続いてるのかなぁ?」


 青年をチラチラ見ながら横穴の奥を見る。青年も振り返って奥を見る。


 「行ってみる?」


 青年はずっとニコニコ顔で俺に聞いて来た。




 この青年、何か怖い。




 俺は釣られたように笑い、肯く。すると青年は俺の手を握って俺を立ち上がらせ、奥へと歩き出した。俺は青年のするがままに手を引っ張られて奥へと進んで行く。

 やがて重々しい石の扉が目の前に現れた。青年はそこで俺の手を放し、両手を使って石の扉を引いた。ゆっくりと扉が開かれ、隙間から光が漏れ差した。


 扉の向こうに部屋があった。≪光彩≫の光で中は明るく、それまで暗い横穴を歩いて来た俺には眩しいくらいの光で思わず顔の前に手をかざした。


 「兄さん、お客さん(・・・・)がいたよ。」


 青年は中にいるらしい人に声を掛けながら扉の向こうに進んで行く。


 「さあ、入ってよ。」


 青年に導かれ恐る恐る部屋の中に俺は足を踏み入れた。


 豪華な調度品。


 高い天井。


 そして天蓋付きの大きなベッド。


 見るからに金を持っている人間の部屋だった。それも生半可な金持ちではない。俺はココが王宮であることを完全に失念していた。元々、王族に会うことを目的に侵入しているのに、いざ豪華な支度品を見てそちらに目を奪われ、目的もここがどこであったかも忘れ「一体誰が住んでいるんだ?」などと見当違いのことを気にかけてしまっていた。


 「こっちに来て。兄さんにご挨拶してよ。」


 青年は俺の手を引っ張って、ベッドの横に連れて来た。ベッドは上半分が斜めに起き上がっており、入ってきた方からは寝ている人の姿は見えなかったのだが…。

 俺はベッドに横たわる男の顔を見て当初の目的を思い出した。


 「…カイト。お前いつも唐突に連れてくるな。」


 擦れたこれが俺の耳に届く。


 「今日はホントに偶然なんだ。僕しか知らない秘密の空洞に居たんだ。罠にかからずにここに入れるなんてありえないし。だから興味が湧いちゃって。」


 男性であるにも関わらず、可愛らしく舌をだす。だがそんな仕草なんかどうでもいい。『カイト』だと……!それにベッドに寝ている男…どう考えてもサラヴィス殿下しかありえない。


 俺は姿勢を正し、騎士の礼の構えをした。


 「お初にお目にかかります。このような行為でご拝謁など万死に能う所業なれど、どうかご容赦を。どうしてもお伺いしたき議ございますれば…このまま…」


 俺の口上の途中で、ベッドの上の男は手を上げて制した。


 「そのような物言いは不要だ。今は公式の場でもない。貴公が道に迷ってウロウロしていたらたまたま辿り着いた…程度で考えておけ。して、議とは?」


 俺は青年の方をみた。俺の予想では第三王子も王太子の命を狙う者の一人だと思っていたのだが…。今感じるのは、噂通りの純真無垢の青年。珍しいモノ美しいモノを愛し商人たちを呼んでは高額な買い物を無意味に続け、それを諌める忠臣にも恵まれず、俗世とかけ離れた世界にいる無害な少年。だがそんな少年がなぜ王太子殿下と?人目に付かないよう秘密の通路を使って?

 このまま言いたいことを言ってしまってもいいのだろうか?自問するが答えが出るわけもない。


 俺は大きく息を吐き出した。こんな状況で取り繕うような素振りをするほうがかえって疑心を植え付けてしまう。


 「…王太子殿下がご病気であると言うことを聞きました。そしてその原因に心当たりがあり、一度ご尊顔を拝して確かめてみようと思いました。」


 殿下は疲れた顔で俺を見ていた。


 「私の病気の事をどうやって知った?」


 俺は実践して見せた。


 「こうやって。」


 ≪気配察知≫を発動させる。俺自身は変わらないが、サラヴィス殿下、カイト殿下には何かしらの変化があったはずだ。


 「…消えた。」


 カイト殿下が呟き、俺が居た場所に手を伸ばした。カイト殿下の手は俺の肩に触れ、途端にスキルの効果が切れた。


 「あ!」


 カイト殿下はびっくりして手を引っ込めた。


 「まあ、このように実体を消しているわけではないので、触れられたり、物音を立ててしまうとスキルがきれるのですが…。」


 「…なるほど。触れられなければ、誰にも気づかれないというわけか。」


 「はい。このスキルで、給仕室の会話を耳に入れておりました。」


 俺の答えにサラヴィス殿下は笑顔を見せた。


 「さすがに、給仕嬢のおしゃべりにまでは蓋はできんか。…で、私を見た結果はどうであった?」


 俺はヘイロンを呼び出した。黒い剣からその恐竜のような顔を顕現させる。

 普通ならヘイロンを見ただけで、恐怖に怯える者だが二人の殿下は目を大きく見開いた程度で、ひるんだ様子も見せなかった。


 「これは…。貴公がエルバードか?」


 サラヴィス殿下は俺の事を知っていて俺の特徴についても調べていたようだった。これは近いうちに弟に呼ばれ、ペナルティをくらう予感がする。


 (宿主ヨ。症状ガ前ノ宿主ト同ジダ。ワシノ予想通リダロ?)


 「ああ、そうだな。でも“ヌエ”ではないんだろ?」


 (アア、モット上位ノ魔獣ダロウ。ダガ本人ニ聞クノガ一番ハヤイダロウ?)


 「…なんと、魔獣様の事まで調べておるとは…。一体どうやって…?」


 サラヴィス殿下は驚いた顔をした。魔獣は当たりなのか。


 「殿下は私をご存知のようで…。恐悦至極ではございますが、何処で私を?」


 「僕から説明するよ。たぶんそれで君が抱いている疑念も晴れると思うし。」


 そう言ってカイト殿下が話を切り出した。この青年、世間で噂されているような愚鈍な王子ではない…今の言葉で確信した。


 「最初は“ゼルデン開拓の勇者”の話を獣人から聞いたことなんだ。この間、ワル・グインド王国の使者が父上に謁見した時にその話が出てね。興味を持ったんで調べてみたんだ。そうすると、ザックウォート商の傭兵で、ハーランディアの海賊討伐で“闇使い”を倒した男だと言うのがわかってね。で、昨日ザックウォート商が父上に謁見を申し込んだことを知って、もしかしたらと思って兄上に報告したんだ。」


 いろいろと調べられているんだね。ここはおとなしくすべきなんだろうが…。


 「それはお耳汚しでございました。単に大切な仲間を守りたいが為にがむしゃらだっただけなのですが、いろいろとありがたい評価を頂いているようで…。王都へ来たのもナヴィス殿の護衛が目的だったのですが…いろいろとよくない噂を聞き、知り合いが不正に隷属されているのを見つけまして。」


 カイト殿が何かを推し量るかのような目で俺を見つめた。やはりこの人はバカではない。バカを装っている。となると、俺が予想していた『レイドフォーン商を中心に陰謀が渦巻いている』説は誤りだ。


 「あの奴隷商人ねぇ。確かにあの店は不正な奴隷が多すぎる。これ以上の犠牲者を出すのは良くないんだけど、まだ動けないなぁ。」


 カイト殿下は腕を組み、考え込んでいる。俺は恐怖を感じた。この青年はおそらく俺が調べていることのほとんどを把握している。把握して尚愚鈍王子を装い続け、機を伺っている…。何のために?王位を奪うためか?それでは王太子殿下の側にいる理由が説明できない。王太子殿下がカイト殿下の行動を容認しているのがどうもわからない。


 「殿下。恐れながら…ご認識されているのであればどうしてあの奴隷商を取り締まらないのでしょうか。私では不正の事実を暴き、捕えるためには情報が不足しております。ですが殿下であればできるのでは?」


 カイト殿下の表情が険しくなった。さっきまで見ていた気の抜けた雰囲気が感じられない。


 「今僕が動けば確かにあ奴を拘束することはできるよ。でも、それでは問題の表層部分しか解決できないんだ。もっと奴らに旨味を吸わせ、熟しきったところで刈り取らないと腐った根を残してしまうんだよ。」


 そのために犠牲は厭わない。そういうことだ。


 「今この国は傾いている。惰弱になった王族、選民意識ばかりが強い貴族、金銭欲に取り憑かれた商人、力の誇示しかできない軍人…。既に建国の理念は失われ、民はひたすら現状に耐え忍んでいる。だが、長年に渡って特権を貪っていた連中を相手に正攻法で改革なんてできやしない。痛みを伴うほどの施術が必要なんだ。君にはその手段を選択し、実行する勇気があるかい?」


 カイト殿下の言葉で俺の≪情報整理≫が答えを導き出した。


 …この二人は自分たちを犠牲にして、王国の立て直しを図っている。しかも王家断絶も厭わない覚悟で。それこそ新しい国を立ち上げるための大掃除をするために、国内に蔓延る危険分子を炙りだしているのだ。誰を炙りだしているかまでは不明確だが、少なくとも第二王子、第四王子は含まれていると見ていいだろう。




 だが……。




 例えこの二人の覚悟を知ったとしても、それを受け入れてカミラを犠牲にするのを黙って見ているなんて、今更できない。




 目立たずに、できるだけ早く、あの少女を助けるには……。





 “超人外モード”で行くか。




この国の王子は、民を憂えるあまり、犠牲もいとわず、自らの命もいとわず、強引な改革を計画しているようです。

そんな強大な計画に主人公はどうするのかというと…

必殺JINGAI!

また名を知らしめなければいいのですけど……。


次話では、ようやく、ようやく五章のヒロインが中心に話が進みます。

ここまで読んでいただいた方ならわかると思いますが、

彼女も呪われています。


ご意見、ご感想、評価、誤字脱字報告、アイデアを頂けるとすごくすごくうれしいです。


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