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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第五章◆ 禁忌の吸精少女
66/126

1 疑心の王都

すいません、お待たせいたしました。

生みの親の苦しみを存分に味わっておりました



 ヒト族が治める島、一ノ島。


 島の形は南北に縦長で、王都シャナオウは北西部の大湿地帯にある。

 島の西部にそびえるシズカ山脈から湿地帯を北へ縦断して流れるシズカゴゼン川の河口に大規模な盛り土をして乾いた大地をつくり、その上に巨大な壁で囲って外壁を作り更に盛り土で丘を作って内壁も作ったその内側に王城がそびえている。外壁の一辺は俺感覚で1kmはあるだろうか。ゼルデンの街よりも更に巨大であった。

 外壁への道は東と南の2本。西と北は海に覆われ、西側には大きな港が作られており、見る限り10隻以上の大型船が停泊している。俺たちは今、王都の南側にいるが、港の方からはずっと喧騒な音が響いており、夜でも絶えず明かりが見えていた。常に人の往来があるからなのだろう。


 …それにしても、『シャナオウ』に『シズカゴゼン』て…。どんだけ戦神クロウをリスペクトしてんだよ。



 俺は隊長に視線を送る。


 この商隊の隊長はヤグナーン伯爵令嬢エメルダ。服装は令嬢というより女流剣士なのだが。今回は王都にいる弟に会うために商隊を率いてやってきたという体にしている。

 実際に弟にも会う予定にしているので、目立つ行動さえしなければ問題ないはずだ。


 「わかっているよ、エル。王都内ではナヴィス殿に意見を聞くようにするから。」


 俺の視線に気づき、手を振ってエメルダ嬢は答えた。その横で、自分の名前が会話に入っていることに気づき、俺の方を見る。


 「エメルダ様は別に心配してませんよ。心配なのはあっちです。」


 そう言って“ヤグナーンの大商人”ナヴィス・ザックウォート殿は俺の後ろを見る。

 その動きに合わせてナヴィス殿の隣にいた奴隷のベスタさんも心配そうな顔で後ろを見る。

 俺も後ろからついて来ている奴隷たちを見た。




 後ろからついてくる奴隷は、男性1に女性

4.5。


 男性はエメルダ嬢の奴隷でヒョウ獣人のアル。


 女性は…。



 俺と出会って、俺に全てを捧げて、何故かド天然になってしまったヒト族の少女、サラ。彼女は今片足を湿地の泥に突っ込んでしまい、どうしていいかわからず半泣きになっていた。俺と目が合って泣きそうな顔をして助けを求める目くばせをしてきたが、目線を逸らして無視した。



 “海銀狼族”の唯一の生き残りで、これでもかと言わんばかりの大玉を持つ狼人の少女、フォン。彼女は自ら湿地に入り込み、全身泥まみれになって楽しんでいた。普段ならこんなこと絶対にしないはずなのに、よっぽどこの泥が気になってたんだろうな…なんか我慢しきれずと言う雰囲気がする。



 “はぐれエルフ”という称号に近い呪いを兄から受け、公爵令嬢から奴隷落ちした少女、エフィ。うん、彼女はアルに背負われて寝ていた。これはお仕置きが必要だ。王都内でこんなことやってたら大問題になるはず。



 1つの体に2つの人格を持つ竜人の少女、ベラ。今は本体であるウルチが表に出ているようだが…。どうしたんだろう?歩き方がおかしい…!

 ベラの奴!漏らした状態でウルチと入れ替わりやがったか!



 俺はため息をついた。

 さすがにこのままではまずい。


 俺はアルに近づき、気持ちよさそうに寝ているエフィを叩き起した。


 「起きろ。ベラの世話!」


 エフィはベラを一瞥して、ため息をしながらリュックを開け着換えを取り出しベラの下へ向かった。

 次に、身動きできなくなったサラを抱き上げて泥から出す。その足でフォンの下へ向かい、手を引っ張って地面が固められている道路まで連れて来た。泥だらけの2人に≪水魔法≫で上から水を掛けて泥を落とす。当然服がびしょ濡れになるが、俺はお構いなしに水をぶっかけタオルを渡した。


 「次やったらお仕置きだから。」


 シュンとする2人を横目に隊列の最後尾まで行った。


 俺と同じ“この世ならざる者”のヨーコ。彼女は奴隷ではなく、俺の部下として商隊に参加している。3年以上もずっと1人でアマトナスと(しもべ)として“黒い魂”を持つ人間を狩っていた。俺と出会った時は精神的にもけっこう参っていたようだが、今は元気になっている。


 「こんな状態だと、王都では目立ってしょうがないんだけど。」


 頬を膨らませる仕草でご立腹感を表現していた。本気で怒っているわけではないが、ぐずぐず言いだすと面倒だ。

 …たしかヨーコは王都で活動もしていたんだったっけ。


 「ヨーコ、王都内のことはお前のほうが良く知ってるだろうから、宜しく頼むよ。」


 俺は右手をヨーコの前に差し出す。ヨーコは照れくさそうにして俯いたまま俺の右手に答えて握手をした。


 ヨーコはチョロい。おだてればすぐご機嫌になる。


 ヨーコは日本人としては可愛いと思う。黒髪で癖の全くないストレートヘア。胸のあたりまである長い髪を後ろで無造作にまとめているだけだが、それが彼女を余計に可愛らしく見せている。

 だが、黒目黒髪はこの世界では忌避されているようで、このままの姿で王都に入るのはいろいろと面倒事になるかもしれない。


 そしてそれはヨーコに限ってのことではない。奴隷たちの持つ『呪い』も見られればいろいろと面倒だ。


 「ナヴィス殿、問題になりそうなものに“蓋”をしようかと思うのですが。」


 「“蓋”?」


 ナヴィス殿は思わず俺に聞き返してきた。俺はうんと肯く。そしてメニューを開いて必要なスキルをスキルリストに移動させる。


 ≪身代わりの表皮≫≪偽りの仮面≫


 この2つでみんなの特徴に“蓋”をしてしまいましょう。


 王都の手前で小休止を取り、俺は一人ずつスキルを掛けていく。


 ヨーコは髪の色を赤みがかった茶色に変え、スキルは、

 『属スキル』

  ≪硬化≫

  ≪瞬身≫

  ≪破魔≫

  ≪一刀両断の刃≫

  ≪迷彩≫

 『固有スキル』


 『呪い』


 に変更。


 サラはスキルのみ、

 『属スキル』

  ≪鑑定≫

  ≪風見の構え≫

 『固有スキル』


 『呪い』

  ≪契約奴隷≫(エルバード)

 に変更。


 フォンは、髪と尻尾の色を茶色に変えてスキルを、

 『属スキル』

  ≪気配察知≫

  ≪気配同化≫

 『固有スキル』

  ≪撥水毛≫

  ≪感情表現の尾≫

 『呪い』

  ≪契約奴隷≫(エルバード)

 に変更。


 エフィは、耳を帽子で隠し、スキルを、

 『属スキル』

  ≪鑑定≫

  ≪ドレス脱がし≫

  ≪裁縫≫

 『固有スキル』


 『呪い』

  ≪契約奴隷≫(エルバード)

 に変更。


 ベラは、

 『属スキル』

  ≪竜爪斬≫

 『固有スキル』

  ≪竜の羽根≫

 『呪い』

  ≪契約奴隷≫(エルバード)

 に。ウルチは、

 『属スキル』


 『固有スキル』

  ≪竜の羽根≫


 『呪い』


 にした。


 改めて見たが、ウルチは俺の奴隷ではないようだ。確かに、契約は“ベラ”で行ったからな。ウルチとしてもやった方がいいのかな。後でナヴィス殿に確認しとこ。


 俺は、

 『属スキル』

  ≪投擲≫

  ≪気配察知≫

  ≪鑑定≫

  ≪光彩≫

  ≪反復≫

  ≪筋力増量≫

 『固有スキル』

  ≪異空間倉庫≫

  ≪闇使い≫

 『呪い』


 に変更する。


 「これならば、問題ないでしょう。」


 俺はナヴィス殿に笑顔を見せるが、ナヴィス殿のほうは引きつった笑いになっていた。


 「相変わらず、“人外”すぎる能力ですな。王都に入るためには≪鑑定≫を受けなければならないので、どうしようかと思っていましたが、エルバード殿にかかれば、問題ありませんね。」


 あまり褒めないでおくれ、俺は調子に乗りやすいんだ。

 みるとヨーコが説明して欲しそうにこっちを見ていた。俺が今やったことを説明すると、ため息をつかれた。


 「うん、エルならもうなんでも有りなんだから…。」


 そんなに褒めるなよ、ヨーコ。照れるじゃないの。





 俺たちは王都の南側城壁に到着した。正確には城壁までもう少しあるんだが、城壁から道沿いに行列ができており、それに並ぶと城壁から少し離れた辺りになった。


 「…この行列はなんでしょう?」


 エメルダ嬢が、先頭になって並びながら行列の先の方を見ている。


 「おそらく、王都に入る手続きで行列ができているとおもうのですが…。これほど並んでいるのは少々おかしいですねぇ。」


 ナヴィス殿も先頭の様子を伺っていた。


 「ナヴィス殿、先頭の様子を見て来ましょうか。」


 俺は興味本位もあったので、城壁の様子を確認したかった。そこで、サラを連れて城壁まで行ってみた。

 途中、適当なところで並んでいる人に声をかけ、どれくらい並んでいるのかも聞き、先頭の様子を確認した。

 城門の前では、1人1人かなり厳しいチェックを行っていた。

 かなり念入りなチェックのため、城門通過待ちの行列になっているようだった。

 先頭付近に並んでいた人に事情を聴くと意外な答えが返って来た。


 「…反乱組織が大規模な攻撃を仕掛けているらしいぜ。今は城内の連中は入ってくる俺たちの中に反乱組織がいないか目を光らせているみたいだぜ。」


 反乱組織?ヒト族は王権派と反王権派がいるってこと?


 俺は急いでナヴィス殿の所に戻り、聞いた内容を説明した。


 「…反乱組織?初めて聞きましたが…エメルダ様は何かお聞きになってませんか?」


 ナヴィス殿に聞かれてエメルダ嬢は顎に手を当てて首をかしげた。


 「申し訳ありません、私も何も聞いてはいないので…。」


 エメルダ嬢も何も知らないようで、首をすくめた仕草をする。ナヴィス殿は再び俺を見た。…もう、意図が見え見えなんですが。わかりましたよ、めんどくさそうですけど調べときますよ。


 「はい、王都に入ってからになりますが、調べてみます。ヨーコ、手伝ってくれ。」


 俺はヨーコも犠牲者枠に入れた。ヨーコは何でアタシまで!?って顔をしたが文句を言わせないように頭を撫でておいた。




 そこから、お日様3つ分も待ち並び、日もどっぷり暮れてからようやく城門までやってきた。もう、全員疲れ切っていた。


 「さあ、次!……これはこれは、エメルダ様。」


 城門入り口で取り仕切っていた兵士がエメルダ嬢の顔を見て声を掛けてきた。

 聞けば元ヤグナーンの兵士だったらしい。弟の護衛として一緒に王都に行った兵士で今は王都守護騎士団第3師団に所属しているそうだ。


 「申し訳ありません、エメルダ様。今は誰に対しても厳しく監視せよとの命令が下っておりますので…それでは1人ずつ王都入場タグをつけていきます。その際に≪鑑定≫も行います。」


 入場タグ…。≪所有者記録(ネームタグ)≫の応用で、ヒトに対してつける特別な記録だそうだ。王都に入るにはこれを付けておかないといけないらしい。

 俺たちは一人ずつ衣服や持ち物を検査され≪鑑定≫でスキルを丸裸にされてその記録を全て記載されたタグを付けられた。

 この世界には個人情報保護とか全く無縁だ。

 この作業だけでお日様1つ分費やした。


 王都へは真夜中になってようやく足を踏み入れた。流石にこれでは何の感慨もない。

今日の宿をどうするかさえ決まっていない状態なので、全ては明日からにしたい。俺はナヴィス殿を見た。ナヴィス殿はやや遠くを見つめており、雰囲気としては、今からどうしたらいいか途方に暮れているように見える。


 「ナヴィス殿、今日のところは、転移陣だけ設置しておいて、ヤグナーンに戻りません?」


 俺が話しかけた瞬間、クワッと目を見開いて俺を凝視した。


 「…普通はそんな発想などありませんよ。」


 やや虚ろな表情から嬉しそうな表情に変わり、ナヴィス殿は俺に近づく。


 「どうせなら、貴方の作る『ハンバーグ』が食べてみたいのですが。うちのベスタから絶品だと聞いているのでね。」


 俺はベスタさんを睨んだが、完全にあらぬ方向を向いて俺からの視線を躱そうとしていた。以前のベスタさんなら、申し訳なさそうに謝ってくるところだが、最近は俺に対しても砕けた接し方に変わった。それはそれでうれしいのだが、余計に俺のコトがナヴィス殿に筒抜けになってしまうような気がする。


 俺は、手ごろな建物の裏手に転移陣を設置し、二人ずつ抱えてヤグナーンの自宅まで移動する。何度も言うがこれが結構重労働なんだ。別に触れていればいいわけで抱え込む必要はないのだが、俺はどうしても抱え込みたい年頃だ。毎回全員を抱え込んで移動している為、皆は抱え込むのが普通と思っている。そのため、抱え込みたくない人も抱え込んで移動しているのだが…。



 結局その日は、俺の家で全員寝た。



 もちろん、俺も一人で寝たさ。



翌日、王都まで移動し、本来の活動を再開する。

 俺はメンバーを3つにわけた。

 ナヴィス殿、ベスタさん、ヨーコ、フォンの家探し組。しばらく滞在するので、長期滞在できる宿もしくは借家を探してもらう。

 次に俺、サラ、エフィの市場調査組。王都の商店をいくつか回り、モノの値段を確認して、南部諸地域との差を確認しておく。

 最後にエメルダ嬢、アル、ベラのご挨拶組。エメルダ嬢の弟含め、ヤグナーン伯爵と面識のあるいくつかの貴族と接触を試みる予定だ。

 俺は常に全員の動向を≪気配察知≫で監視し、何か問題あれば救出行動に出る予定だった。けれどナヴィス殿からは真っ先に問題を起すのは絶対エルバード殿、に賭けられていた。案外、賭け事が好きなんだよなこのご老人は。


 俺とサラとエフィは市場調査の為、南通りにある市場をうろうろとしていた。俺は食料品を中心に値段を見て回る。調べていくと肉類はカルタノオでの値段と差はないようだが、野菜類は非常に高い。逆に穀類は安くなっている。恐らくこれは、王都周辺の地形的な問題かと思われる。湿地帯では野菜類は育ちにくいのだろう、逆に穀類は湿地の方が育てやすいと俺は考えた。


 それにしても…この二人は全く役に立たない。一応ナヴィス殿の忠告を受け、二人の首輪に縄を通して手に持って通りを歩いていたのだが、サラは、紐に繋がれている事を忘れて動き回るし、エフィはよっぽどこの状態が嫌なのか、ずっと下を向いて俺に付いて来ているだけだし、後でこの二人はお仕置き決定だな。


 「サラ、次の通りに行くぞ。」


 俺はサラの紐を引っ張り催促をする。


 「ご主人様、もう次ですか。まだ食べ物の値段しか見てませんよ。」


 以外に俺が何をやっているか把握してたのでちょっとびっくりした顔をしていると、


 「それにしても、この通りには、食べ物を売ってる店はありますが、道具を打っている店はありませんね。先ほど1件見つけましたが、少ないのでしょうか。気になりませんか?」


 …サラは、俺以上に周りを見ていた。役に立たないと言ってすいません。

 俺は急いでサラが見つけた1件に足を運んだ。

 店は生活用具を売っている店だった。カルタノオでも売られているような家具や光彩棒発火器具などの生活用魔装具も並べられている。

 俺が商品をじっくり観察していると店員と思われる男が近寄ってきた。


 「お客様、ご入り用ですか?許可証をお見せ頂ければこちらで調達いたしますが。」


 「許可証?」


 俺は店員の言った意味が分からず、聞き返してしまった。

 店員は顔色を変えず丁寧に説明をしてくれた。


 「お客様は外から来られたのですね。王都では、食べ物以外を購入する際は許可証が必要になります。街の中央に発行所がございますので、ご入り用であればそこで許可証を頂いてください。」


 なるほど、王都内はそういうシステムで食料品以外を購入するようになっているのか。だが、何のためにだろう。俺はいろいろ考えた。だが、情報が不足しているのか≪情報整理≫は何も答えてくれなかった。


 「サラ、行こう。今は何も調達できない。後でナヴィス殿に確認しよう。」


 おれはそう言って、サラとエフィを引っ張ってその場を去ろうとした。


 「お待ちください、お客様。」


 店員が何故か俺を引きとめた。


 「今、『ナヴィス殿』と…それはナヴィス・ザックウォート商のことですか?」


 俺は相手の顔を伺う。店員は含みのある笑顔を俺に向けている。まあ、ナヴィス殿の存在はいずれ知れることだし、無理して隠す方が怪しまれるか。


 「え、はい。ご存知ですか?」


 俺はワザとらしくびっくりしたように聞き返した。


 「はい、私の師匠がナヴィス様と懇意にしておりますので。今王都に来られているのでしょうか。」


 俺は辺りを伺う素振りを見せる。すると店員は店の奥を勧めた。


 「お客様、こちらへどうぞ。」


 俺はサラとエフィを引っ張り、店員の勧められるまま店の奥へと進んだ。

 そして奥にある個室に通される。俺は部屋にあるソファに座り、サラとエフィは後ろに立った。


 「わざわざ申し訳ありません。実は今朝到着しましたので、まだ誰にもお会いしていないのですが。」


 俺の方から話を切り出した。店員は俺の対面に座りふんふんと俺の話を聞いていた。


 「なにぶん私が王都に初めてですので、ナヴィス殿からはその辺でお土産でも探してきなさいと放り出されましたので…。」


 ワザと頭を掻き照れくさそうにする。そしてさりげなく≪鑑定≫をした。


 この男、何かあやしい…。


 【ゲイダー】

 『属スキル』

  ≪遠隔念話≫

  ≪鑑定≫

  ≪光彩≫

  ≪計算知識≫

 『固有スキル』


 『呪い』



 やっぱり…。既にこいつの師匠とか言う奴には連絡済だと思われる。


 「失礼ですが、師匠のお名前を伺ってもよろしいですか?」


 こうなれば腹の探り合いだ。俺の交渉スキルで(そんなスキルないけど)情報を引き出してやる。


 「あ、これは失礼致しました。私の師匠はマイブレッド・フォールーン商になります。」


 うむ、聞いた事がある、国内五指に入る一人だ。大物を釣ってしまった。ファーストコンタクトとしては悪くないが、ナヴィス殿が元々フォールーン商と会うつもりにしていたかどうかがわからないので、何とも言えない。


 「おお、お名前は聞き及んでおります。そうですか…これからナヴィス殿のもとに戻りますが、どう伝えておきましょうか。」


 俺は相手の言い分を聞いてみた。店員は考え込んだ。おそらく≪遠隔念話≫で確認中なのだろう。

 店員は懐からメモのようなものを取り出し、ページを何度かめくって中身を確認していた。そしてメモをパタンと閉じて俺に笑顔を向けた。


 「それでは、都合が良ければ明日の朝、ここへお越しください。師匠がお日様6つ分まではおりますので。と、お伝え頂ければ。」


 「…わかりました。都合が悪ければ本日中に私がもう一度伺います。あ、私は護衛のエルバードと申します。新参の傭兵ですが、お見知りおきを。」


 俺は騎士風の礼をしてソファから立ち上がる。店員は店の外まで俺たちを案内して丁寧にお辞儀をしたが、最後まで名乗らなかった。何となく俺は負けた気がした。こういう駆け引きは俺はまだ未熟だと思う。まあ、結果よかったかどうかはナヴィス殿に報告して判断してもらおう。

 俺は二人を引っ張ってその場を後にした。サラはいたって普通なのだが、エフィはずっと俯いている。いい加減に機嫌を直してほしいものだ。


 「エフィ、いい加減に機嫌を直してくれよ。」


 俺は帽子の上からエフィの頭を撫でたが、彼女は俯いたままだった。


 「……この街、なんかおかしい。」


 「はい?」


 「…あちこちに妖精族がいる。」


 内心は驚愕しながらも平静を装って付近を見渡した。妖精と思しき人間は見当たらない。


 「…エフィ、どこにいる?」


 俺は小声でエフィに話しかけた。


 「木陰に座ってる男女…ケット・シー族よ。反対の壁にはクー・シー族もいる。奴らは≪変化≫の能力を持っているから、一目にはわからないわ。」


 俺はエフィが示した人影を見た。確かに普通のヒト族に見える。


 「どうしてわかる?」


 「…匂いじゃ。妾はエルフ以外の匂いは嫌いなのじゃ。特にドワーフは大嫌いじゃ!」

 わかったからそんなに語気を強める必要はないよ。

 俺はブツブツ言いながらも新スキルをセットした。


 ≪波動検知≫


 魔力の波動を検知するスキル。俺はエフィが示したケット・シーに照準を合わせて≪波動検知≫を行う。次にこれとよく似た魔力を持つ人間を≪気配察知≫に合わせた≪波動検知≫で特定していく。


 この南通りだけで10人ヒットした。


 ヒト族の街の中で亜人の割合は意外と低い。これまでの街ではそうであった。だが、この王都シャナオウでは、ケット・シーだけで10人。しかも亜人であることを隠している。だがこれも情報量がまだ少ないのか俺の≪情報整理≫は何も言って来なかった。


 「エフィ。お前はこのまま妖精族の数を数えろ。ナヴィス殿に合流するまでだ。いいな。」


 エフィは無言で肯いた。





 俺は何やら気味悪さを感じていた。



 来て早々、厄介事に巻き込まれたくないのだが…。




エルバードたちは王都に来ました。しかし、これまでの街とは異なることだらけで違和感と危機感を感じているようです。

ですが、こんなことで主人公のハーレム人生は止まりません。

彼を止めることができるのは、作者の心が折れ…ゲフン、ゲフン……。

第五章、始まりです!


ご意見、ご感想、外伝アイデア、誤字脱字報告、なんでも受け付けます。

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