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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第四章◆ 無情の竜人少女
65/126

17 王都を前にして

2話連続投稿の2話目です





 「ナヴィス殿、小屋の中に残っている山賊どもの持ち物を全部彼に譲ってもよろしいですか?」


 「ダメです。」



 ナヴィス殿の返事は、俺には予想外だった。呆気にとられていると、杖で叩かれた。


 「あ痛!」


 突然叩かれ、俺はびっくりするがそれ以上に俺に相対していた夢魔族の男女もびっくりした。

 二人は兄妹で“ハウグスポーリ”に追われてここまで来たが、山賊に襲われ命を奪われそうだったところを俺に助けられた。

 だが、襲われたときに金目のものを全て奪われているのか無一文らしく俺が幾らか供出しようとしていたのだが…。


 「何を呆けてるのですか。このお二人に貴方の持つ財産から適当なものを分けてあげなさい。」


 「へ?」


 叩かれた頭を押さえながら、俺はナヴィス殿の言っている意味を理解できていなかった。


 「小屋に残っているモノは街で報告をすることで、エルバード殿のモノとなりますが、それまでは、無断では使用できません。」



 あ、あれ?ハーランディアで俺が手に入れたお宝は、直ぐに使わせてくれたじゃん?あれはダメなの?


 俺が状況を今一つ理解できずに頭の上にはてなマークを出していると、もう一度杖が振り落とされた。


 「彼らは早々にここから立ち去らなければ危険ですよ。早く!」


 ナヴィス殿に急かされて俺は金貨を10枚ほど取り出しベレットに渡した。


 「!こ、こんなにも!」


 ベレットはあまりの大金に驚き、手が震えだした。


 「早くここを立ち去って。何者かが近づいている。」


 俺はベレットの手を無理やり握りしめ、肩を掴んで体を回転させて、妹のカミラの方にベレットを向かせた。

 ≪気配察知≫には6つの赤い点が山頂からこっちに向かって降りてきていた。


 「…エルバード、この礼は必ず。」


 ベレットは妹の手を取り、背中に生えた蝙蝠の羽を広げた。

 カミラは振り向いて俺を見た。


 「…ありがと。」


 それだけ言うと、2人は空に舞った。俺は手を振ってそれを見送った。


 「何をしているのです、エルバード殿。私たちもここから退散するのです。鼻の下を伸ばしている余裕はありませんよ。」


 そう言って山を下り始めた。サラにニヤニヤされ、ヨーコはぷりぷり怒っていた。



 俺は、女の子と会話するだけで鼻の下伸び男なのかよ!




 結局山頂から降りてきた赤い点とはニアミスで直接の接触はなく、翌日の移動も問題なく山岳地帯を越えることができた。

 途中、ヒョウ獣人のアルがナヴィス殿を背負って進むことで、ナヴィス殿にも怪我はなく、後は山を下りるだけとなった。

 問題と言えば、俺もベスタさんを背負って山を登ったのだが、ヨーコとサラが、ギャーギャーうるさく喚いたので、エメルダ嬢に怒られてしょげているくらいだった。


 山を下りれば、一ノ島の北部。王国建国当初からの譜代の諸侯が治める地域になる。永代貴族の資格を持つ者や、王族と姻戚関係を持つ者が治めている地域だ。



 俺は気を引き締めた。


 サラもフンフンと鼻息を鳴らしてる。


 フォンは大玉の形を整えてた。


 エフィはアルに背負われて寝てる!?


 ベラは…いや髪が紫だから今はウルチか…ややこしい。



 俺は気を引き締め直した。王都まであと3日。何も起こらないようにしなければ。




 山を下りてからは、野営の必要性はない。徒歩で1日歩く距離に街があるため、宿に泊まることができる。

 だが街に行くと言うことは人と接すると言うこと。特に南部からの旅人はどういう扱いを受けるのかとか、奴隷はどういう扱いを受けるのかとか、しっかり注意しなければならない。


 俺は何度も気を引き締める。


 だが、サラ達を見るたびに気が抜ける。こんなのでいいのか。俺はなんとなくナヴィス殿に聞いてみた。


 「はははっ。エルバード殿。王都までは大丈夫ですよ。でも王都では、私の言うことは絶対守ってもらいますからね。」


 髭を整えながら、疲れた様子も見せず歩き続ける老人。ベスタさんのほうがへばってしまい、俺とアルで即席の担架を作って運んでるくらいだ。エフィも一緒に乗っているが無視だ無視。

 ああ、そうだベラは大丈夫か?ああダメだ、水たまり作ってる。


 「エフィ!ベラがまた漏らしてる!」


 慌てて担架から降りてベラの着換えを取りにサラの元へ。ヨーコとエメルダも手伝いに走った。


 「アル、すまんな。お前の常識の中にはないようなことが俺の奴隷たちといると日常的に起こるから。もはや慣れてくれ、としか言えんが。」


 アルは担架を持ったまま「ははは」ち苦笑いしかしてくれなかった。







 こうして一行は王都に一番近い村ブルベリックで最後の1泊をする。明日の夕方には王都に到着の予定だ。

 この村は、王都から南に向かって出発した旅人が最初に野営する場所だったのが、この場所で商売をするために居を構える人が増え始め、今では村の規模までになった。

 村の宿はそこそこの規模で隣立しており、ナヴィス殿の好意によって、ランクの高い宿に泊まれることとなった。


 あまり他の宿泊客と顔を合わせないように食事は外で買ったものを部屋に持ち込んで済まし、早めに就寝となった。

 部屋割りは、俺とナヴィス殿、エメルダ嬢とヨーコ。奴隷たちは、サラ、フォン、ベスタさんが俺の部屋。アル、エフィ、ベラがエメルダ嬢の部屋となった。


 さすがに疲れていたのかナヴィス殿は早々に寝てしまい、俺はすぐには眠れなかったのでベランダに出て外の景色を見ていた。


 ふと隣をみると、ベラが夜風に当たっていた。ベラもベランダに出ていた。


 この部屋…ベランダが繋がっていた。ちょっと不用心すぎるのでは?と思いながらもベラに声を掛けた。

 ベラは俺に気づいていなかったようで、びっくりしていたがゆっくりとこちらにやってきた。


 「ご、ご主人様、膝を…お借りしてもよろしいでしょうか?」


 ベラが甘えるのは初めてだ。なんか新鮮な感じがしたので、俺はベランダで胡坐を掻いて座り、膝をペンペンと叩いた。嬉しそうな表情を俺に見せて、俺の膝の上に頭を置いて寝転んだ。


 「ちょっと…硬いです。」


 「そりゃ悪かった。」


 俺は謝りながらベラの額に手を当て優しく撫でた。

 ベラは頭を撫でられたまま俺をじっと見てる。


 「…どうした?」


 「ご主人様は…どうしてあたいを奴隷にされたのですか?」


 「実は直感。」


 「チョッカン?」


 「ああ。他の奴隷もそうなんだが、俺が直感的にこいつを助けたい、って思ったからなんだ。」


 ベラは黙っていた。俺が同情で自分を奴隷にしていると思ってるのかな。そうじゃないんだけど。


 「実は、他の奴隷もまだ問題を抱えて今も苦しんでるんだよ。」


 ベラは少し目を見開いた。意外というか知らなかったと言う顔か。

 説明してやるか。


 「サラは≪忌み子≫という呪いを持っていて、このままでは奴隷から解放することすらできない。だけどそのことに悲観することなく、俺に全てを託してくれている。…よく我が儘なことで泣き付かれるがな。」


 俺の説明にベラはくすっと笑う。「だってサラ姉ですもの」と言って納得している。


 「フォンは“海銀狼族”という部族の最後の生き残りだ。過去の事件のせいで表立った活動はできない。頭のフードを取って歩くこともできないんだ。だけど、彼女は苦しみを乗り越え俺と共に歩んでいる。エフィに襲い掛かるのが玉に傷だがな。」


 ベラはうんうんと肯く。


 「エフィは元々大貴族の令嬢だ。今まで我が儘言いたい放題だったんだ。そのおかげで、訳の分からない固有スキルが自動発動して、自分への命令を回避できてしまう。おかげで一族からは捨てられたんだ。でもそんな自分を悔いて今では自分から行動するようになった。フォンを煽るのだけはやめてほしいんだが。」


 ベラは笑った。フォンを煽るエフィを見たことがあるようだ。


 「…俺の奴隷たちは一癖も二癖もある変わり者ばかりだ。ときには奴隷らしからぬ行動で俺を困らせる。…だけど俺にはそれが可愛らしく思える。」


 ベラは俺の目を見つめ、真剣に話を聞いてくれている。


 「ベラとウルチにもこれは当てはまるんだよ。」


 ベラは小首をかしげた。


 「お前は失禁の癖がまだあるし、ウルチは戦闘以外の知識はほとんどないし。」


 ベラは目を閉じた。恐らく心の中でウルチと会話しているのだろう。少しして目を開けて微笑んだ。


 「確かにウルチは戦うこと以外は全然わからないって言ってます。…字を覚えたいって。」


 俺はうんうんと肯いた。だが…。


 「ベラ、お前は何がしたい?」


 ベラは顔を赤らめた。その顔は既にやりたいことがあるのだろう。


 「あ、あたいは……。」


 ベラは言葉を詰まらせた。




 俺はベラを起して後ろからそっと抱きしめた。


 俺の腕にベラの鼓動を感じる。


 1つの体を2つの心で共有する少女。互いに反発しあうこともせず、認め合い、助け合い、支え合って過ごしてきた。

 2人の精神はボロボロで、心を失う寸前だったが、なんとか回復し、普通に生活できるようにもなった。

 彼女たちの未来はこれからなのだ。


 ベラは抱きしめた俺の腕を抱きしめる。その表情には愛おしさという感情を見いだせる。


 「ご主人様。…これからもよろしくお願いします。」


 ベラは俺に顔を向けて目を閉じた。俺はその顔に近づき、唇を重ねた。二人だけの時間。ベラはただ目を閉じてその時間に身をゆだねた。


 「ベラ、ここはお前たち2人の居場所だよ。ここで過ごし、ここで笑い、ここで泣いて、ここで怒る。全ての感情をここにいるみんなにぶつけていい場所だ。…もう、無情になる必要は…ないからな。」


 ベラは笑顔を見せた。本当に自然な笑顔。俺はやさしく頭を撫でた。


 「今、サラ姉たちが本当にご主人様をお慕いする気持ちがわかりました。…ご主人様、お慕いしてもよろしいですか?」


 俺は笑顔で肯く。


 俺たちはもう一度唇を重ねる。今度はベラから重ねた。そして二人だけの時間を過ごした。


 部屋の奥から、3人の視線を痛いほど感じるが…今だけは無視するから。



第四章:完


四章はこれで完結です。

いろいろ脱線もあって17話まで行ってしまいました。それなりの複線もあるので五章以降を期待頂ければ。


次はいよいよ五章です。新しいヒロインが登場です。


ご意見、ご感想、ご指摘、評価、いろいろお待ちしています。

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