表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第四章◆ 無情の竜人少女
64/126

16 竜戦士

お待たせしました。2話連続&四章完結です。




 ザックウォート商。



 ナヴィス殿が1代で気づきあげた国内でも五指に入る商家。


 有力な商家は国から姓を与えられており、その姓を世襲することが許されている。

 ライラ殿もバジル商という世襲を許された商家の当主だ。地位的には騎士家の下ではあるが、資産や影響力で見れば諸侯と肩を並べる。

 ナヴィス殿の影響範囲は一ノ島南部の全域におよび、その取引量は膨大で周辺諸侯への影響力も持っている。

 だが王都では、ザックウォート商は単なる成り上がり者という風潮だそうだ。伝統、形式、血統を重んじる中央の貴族には、ナヴィス殿とは取引すらしていない者が多く、ナヴィス殿にとっては、今後の商圏開拓地の有力候補だった。王都に流れるイメージを払しょくして取引相手を増やす。その足がかりをつけるために、今回王都に向かう予定だ。


 そのために、食糧、野営具、資金など準備を進めており、護衛として、俺とその一行を指名していた。

 指名の理由は、俺の臨機応変度合が気に入ってるからだそうだが…。




 サラ達が帰ってくる前に、何とかフォンを満足させ、何事もなかったかのようにお買い物から帰って来たみんなを出迎えた俺だが、ライラ殿がカルタノオに戻るということで、彼女を連れてバジル商に転移する。その足でゼルデンに置いて来たバーバリィ以下馬車たちを一人で何往復もして、何とかカルタノオまで移動させる。

 あまりの常識はずれな移動方法にライラ殿は呆れていたが、ゼルデンでの商談もうまくまとまり、ゼルデン公爵の覚えもめでたい結果だったので、報酬は金貨100枚も頂いた。


 「私の活動拠点はココなので、エルバードとはあまりお会いすることはできませんが、師匠の所が嫌になったら、絶対私のところに来て下さい。今回の旅は面白かったですし、私自身も勉強になりました。ありがとうございます。」


 ライラ殿は俺の手を握り、真剣な表情も交えながら俺にお礼を述べた。


 「ライラ殿、昨日お見せした≪空間転移陣≫をここに設置させて頂きます。さすれば、いつでもお会いできますよ。」


 俺は便利に移動できるようにしたくて、転移陣の許可を貰おうと思っただけなのだが、


 「では、私の依頼も受けて頂けるのですね!」


 俺の手をもう一度握り直し、懇願するような口調で俺に詰め寄る。


 「い、いや、それはナヴィス殿にお伺いしないと…。」


 さすがにライラ殿の依頼を勝手に受けるのはよろしくないので、お断りをするが、ライラ殿は諦めていないようだ。


 「では、師匠の許可を貰えればよいと言うことですね。」


 ライラ殿は鼻息を荒くして、何かしらの決意をしていた。

 商人という職業は、単に銭儲けをするだけだと思っていたが、ナヴィス殿は地域貢献や奴隷環境の改善事業もやってるし、ライラ殿は亜人奴隷の優先的な元種族への斡旋を行ってるし…そのためには俺みたいな異能の傭兵が欲しいのかな。

 俺は自分自身の価値をもう一つ理解できないでいた。





 王都への出発前日、俺はナヴィス殿に呼ばれ、商館を訪れた。

 商館には、私設傭兵団団長のフェンダー卿、同じく副団長のラッド卿、“区画監視”のクカが居た。噂ではこれにマグナールを加えた4名が傭兵団幹部だったそうだ。その幹部全員がいる中に俺は呼ばれた…嫌な予感。


 「ナヴィス殿が今回の王都遠征にお前を連れて行くと言われていたが。」


 ラッド卿があまり好意的でない言い方で話を始める。

 聞けば、弟子も随行せず、幹部メンバーも連れて行かずに俺が護衛という構成が納得いかないらしい。そこで、ナヴィス殿が俺を呼んで、彼らを納得させてほしいということだそうだ。


 …どう納得させようか。


 しばらく悩んで出した答えは、【黒竜の剣】だった。

 ≪異空間倉庫≫から黒い剣を取り出し、テーブルの上に置く。そして4人が見ている前で黒流(ヘイロン)を顕現させた。

 俺を包み込むように1頭の黒い竜が現れる。全員、魂を抜かれたような顔になり、その場で完全に固まった。

 おかしいな、フェンダー卿もラッド卿も、クカ殿もこの黒い剣は見ているはずなんだが…。黒い剣と黒竜との関係性は知らなったのか?

 俺は、黒竜を従えていることを説明し、ナヴィス殿は彼がいれば道中の安全性は確保できると主張して、3人を説得した。


 結局、フェンダー卿以下3人の幹部は、俺が同行することに関して何とか納得してくれた。


 というか、ちょっと避けられた…。


 クカ殿なんか、完全に俺に作り笑いしてるし…。

 フェンダー卿は、警戒のオーラみたいなのを出してる気がする。




 “この世ならざる者”は、並大抵の精神力ではやっていけないわ。

 俺はまだ、サラ達が居てくれているからいいけど、ヨーコは3年もずっと一人だったって考えると、胸が苦しくなる。ヨーコにはやさしくしよう。




 なんとか、王都までの遠征のメンバーは決まった。


 隊長はエメルダ。これは何かあった時にヤグナーン伯爵の名前を出すためにそうした。

 副隊長に俺。実質は俺が隊長。

 護衛対象は、ナヴィス殿、ベスタさん、ヒョウ獣人のアル(一時的にエメルダ嬢の奴隷に名義変更した)の3人。

 護衛役に、ヨーコ、サラ、フォン、エフィ、ベラ(ウルチ)の5人。

 総勢10名の商隊となった。


 王都までの距離は6日。ヴァルムントまでは俺の≪空間転移陣≫で一瞬なので、これはヴァルムントからの距離になる。途中、山岳地帯の険しい山道を通るため、馬車は使わず徒歩での距離になる。


 ちなみにヒョウ獣人のアルが加わったのは、本当にエメルダの護衛が目的だ。伯爵は先日一時帰宅したエメルダからいろいろ聞いて真剣に俺に対して危険を感じてアルを遣わしたそうだ。


 そんなに心配なら俺とエメルダを引き離したらいいのに…。いまさら嫌だけど。



 翌日、一行の旅は始まった。

 まあ、ヴァルムントまではあっという間だ。

 ≪空間転移陣≫のお蔭で【双魚宮】まで一瞬で到着する。俺一人が何往復もしないといけないんだけど、みんなその労力に関しては全く気付いていない。

 何とかヴァルムントまで移動し、一行は北へ向けて出発した。

 ここから先は俺は知らない。治安はいいらしいが、一ノ島北部の諸侯は選民意識が強いらしく、成り上がり者のナヴィス殿一行は下手をすれば捕まえられる可能性がある。常に広範囲の≪気配察知≫を行い危機を事前に察知できるようにしなければ。


 道中は複雑な心情だった。


 徒歩での移動なので、一番歩くのが遅いナヴィス殿の速度に合わせての移動。ゆっくりなのだ。俺はなんとなく水戸○門を連想して、それをヨーコに言ってみたら、ヨーコは爆笑していた。


 夕方過ぎに一行は最初の野営地に到着した。そこは飲料用の水を売る店もある小さな村で、北へ向かう旅人はここで必ず1泊するそうで、これより先は山越えの難所になっていた。

 俺たちは野営用に開けた場所でテントを張って1泊し、翌日の早朝に山に向けて出発した。

 今日は、山の中腹にある野営地まで登る予定だ。



 だが、一行の行く先に危険の香りがする赤い点が待っていた。


 夕方までは特に問題なかったが、今日の野営地に着いてから変化が発生した。

 野営の準備中に複数の赤い点が俺の索敵範囲に入った。


 距離は俺感覚で、2~3キロ先。


 俺とフォンの≪気配察知≫にかかった赤い点は、明日上る予定の山の中腹の薪木を貯蔵する小屋のところにあった。

 明らかに、日の当たる場所を避け、こそこそと隠れているようだ。そして、そういう集団は盗賊である可能性が高い。

 俺はエメルダ隊長(・・)に報告をして、調査する許可を求めた。


 野営地はエメルダ隊長以下、アルとエフィ、ベラが護衛し、調査隊にヨーコとサラとフォンを連れて行くこととなった。



 山小屋に着いて付近の様子を伺う。小屋の中に何人か、小屋の外の木陰に何人かが固まっていた。


 俺たちは異様な光景を見た。



 頭に布を被せられ、その上から赤く光る妙な器具を付けられ、両手両足は斧で切断された状態で太い樹に体を括りつけられていた。

 体型から男性であることはわかるのだが肌の色が青く、ヒト族ではないようだ。全身が小刻みに震えており、時折ビクンビクンと波打つように体が跳ね、それと合わせて赤い器具が怪しく光っていた。




 …この光景は一体、何なのだ?




 その次に俺は、小屋の方に近づいた。小屋の中には3人の男が柱に括りつけられた女性を襲おうとしていた。

 ヨーコが慌てて中に入ろうとしたが、俺はヨーコの腕を握って止める。


 「エル!早くしないと!」


 ヨーコは俺の手を振りほどこうとしたが、逆に両手でヨーコを押さえつけ、しゃがませた。


 「落ち着け。よく見るんだ。周りの男どもあの女の子を傷つける気はないようだぞ。恐らく奴隷として高く売るためなんだろ?小屋の中のほうは、もう少し様子見だ。」


 俺はサラとフォンに男が括りつけられている木の反対側へ回り込んで待機するよう指示した。2人は音を立てないように歩いて俺から離れていく。


 外にいる4名のうち、大柄で筋肉隆々の男が頭だと思われる。恐らく、こいつを叩けば後は逃げ惑うだけになるだろう。

 俺はヨーコに小屋の中の3名を任せ、木に括られた男に群がる集団に近づいた。


 「だ、誰だ!」


 一人が振り向いて大声で叫ぶ。

 サラとフォンは俺とは反対の方向から木に近づき、様子を伺っている。


 筋肉隆々の男が俺に近づいた。


 「お頭!」


 一人が叫ぶが頭と呼ばれた男が手で制した。この男がやはり頭目か。さしずめ山賊頭か。


 「…お前らは向こうの2人だ。」


 そう言って、反対側の方角を指さす。




 しまった!気づかれていた!




 3人の山賊が得物を持って走った。俺も追いかけようとしたが、山賊頭に割って入られた。頭は斧を構え臨戦態勢をとった。


 これではサラ達を助けに行けない…。



 サラとフォンは互いを庇いながら相手の短剣から身を守りつつ反撃のチャンスを窺っていた。だが、その機会が到来する前に更に2人の山賊が襲い掛かった。

 まだ仲間が居たのか!

 俺は、サラとフォンの位置からは遠く、更に山賊頭と対峙していたため、迂闊に動けない。


 「サラ!フォン!逃げろ!」


 山賊頭の斬撃を躱しながら思いっきり叫ぶ。俺の声は聞こえただろうが、彼女らは3人に囲まれ、逃げ場も失った。そしてそこに4人目が加わった。


 …俺のせいだ。俺が不用意に山賊頭に挑んだからこうなったんだ!俺の判断ミスを悔やむがもはやどうにもできなかった。



 だが、4人目はサラ達と山賊の間に入り、山賊の攻撃を受け止めていた。


 「誰だ!貴様!」


 山賊の攻撃を受け止めたのは女性。しかも馬車において来たはずのベラだった。手にはエメルダ嬢に預けたはずの【メロペーの戦斧】を持っている。



 髪が紫色…。今はウルチが表に出ていた。



 「…サラ姉、フォン姉。腰を屈めて。」


 言われた通り、2人が腰を屈め、地面に座り込むと、ウルチは全身に力を込めた。彼女の内側から膨大な魔力があふれ出る。


 「≪竜戦士化≫!」


 ウルチの体がまぶしく輝き、次の瞬間には剣を構えていた山賊2人が腰から真っ二つになった。更に斧を振り回し残りの1人もぶった切った。


 一瞬の出来事。


 竜人族がそもそも強いのか、ウルチが特別強いのか。彼女は、手練れと思われる山賊3人をあっという間に斬り伏せた。

 その光景に呆気にとられ隙を見せた山賊頭の胸を俺は槍で貫く。

 慌てて小屋から飛び出した3人の首をヨーコが跳ねる。


 周辺からは俺たち以外の赤い点はなくなった。

 俺は山賊頭から槍を引き抜き、折りたたんで≪異空間倉庫≫に仕舞う。

 サラとフォンがウルチを伴って俺の所に戻ってきた。申し訳なさそうにしているが、優しく頭を撫でる。

 そしてウルチのほうに顔を向けた。ウルチは恥ずかしそうに下を向いている。


 「ご主人様には、この姿はあまりお見せしたくなかったのですが…。僕の姿が、より竜に近づくんで、じろじろ見ないで頂ければ…。」


 ウルチの体は淡く黄金色に輝いている。


 彼女の腕、腿、頬と部分的に鱗が浮かび上がっており、これが輝いていた。

 そして、背中には鉤爪のある巨大な羽があり、大きくバタつかせてウルチの体を宙に浮かせている。

 ≪竜戦士化≫。彼女の固有スキル。戦闘力を爆発的に上昇させる能力、のようだ。

 俺はメロペーの戦斧を抱える彼女の両手を掴み、引き寄せる。彼女の手から斧を取り≪異空間倉庫≫に仕舞うと、抱き寄せて、頭をポンポンと叩いた。


 「…よくやった。その姿は俺にとっては恥ずかしがるものではない。…仲間を救った、美しい戦士の姿だ。」


 ウルチは、俺の言葉を繰り返した。


 「美しい…戦士…。」


 目を閉じ、羽をたたんで俺に体を預ける。彼女の黄金色の輝きが徐々に薄れ、浮かび上がった鱗も元の綺麗な肌に戻った。


 「ウルチ…。感謝。」


 フォンがウルチの手を握る。ウルチはふるふると全身を震わせた。顔を俺の胸に押し付けて隠しているが多分泣いてると思う。


 「よかったな、ウルチ。フォンはお前の事を仲間だと思っているよ。」


 「サ、サラもウルチの事は仲間だと思ってます!」


 慌てるようにサラもウルチの反対の手を握りしめて主張する。


 「うんうん、そうだな。」


 そう言ってサラの頭も撫でる。


 「ちょっと、エル!こっちはどうすんのよ!」


 小屋の方からヨーコが叫んだ。そうだった。木に括りつけられた男も何とかしなくては。


 「サラをそっちに行かせる!女を保護してくれ!」


 そう言い返してサラに目くばせする。サラは小屋へと走った。

 俺とウルチとフォンは木の幹に括りつけられた男の方へと急ぐ。



 男は光る器具を頭に乗せたまま、荒い息遣いをしていた。両手両足からは出血が今も続いている。

 俺は赤い器具を取り外した。何の器具かわからないがとりあえず≪異空間倉庫≫に仕舞う。そしてかぶせられた布を取り去る。


 「うう……。」


 うめき声とともに、熟れも思わず見入ってしまうほどのイケメン顔が現れた。一瞬俺のなかでも時間が止まってしまったが、慌てて我に返り男の様子を伺う。


 「大丈夫か!?」


 声を掛けるが、うめき声しか返って来ない。出血もひどく、先に治療をすべきと判断した。


 「ウルチ!フォン!この男の両手両足が付近にあるはずだ。探してくれ!」


 少々グロテスクな指示なんだが、2人は何も言わず周辺の暗闇を探し始める。俺はその様子を少しだけ眺めた後男に向き直り、声を掛けた。


 「俺の声が聞こえるか!今からお前を助ける!気をしっかり持つんだ!」


 俺は男の肩を叩きながら叫んだ。男は俺の声が聞こえたのか、何度も小さく肯いた。


 「ご主人…見つけた…。」


 フォンが恐々と腕を持ってきた。震える手で俺に差し出す。俺は腕を受け取り、結合部分に添えてスキルを発動させる。男の吠えるような叫び声が響き渡った。


 「あ、兄上に何をする!!」


 女が治療をする俺に襲い掛かり、爪で俺の背を切り裂いた。激痛が走り鮮血が飛ぶ。だが俺は振り向かず、ひたすら治療を続ける。


 「彼は治療中よ!勘違いしないで!」


 ヨーコが慌てて飛び込み女性を押さえつける。サラとフォンも彼女に跳びついた。


 「兄上!兄上!」


 女は必死に叫ぶが治療を受けている兄上は苦痛に顔を歪めたままだ。


 「ご主人様!ありました!」


 そこへウルチが足を持ってきた。俺の側に置いて次を探しに行く。ヨーコ達に押さえつけられている女は兄の足を見て恐怖に打ち震えた。


 「…ヒッ!!」


 「ヨーコ!彼女を落ち着かせろ!俺の傷は後回しでいい。」


 俺はこれ以上切り裂かれないよう指示をだし、≪傷治療≫に集中する。男の右腕は何とか繋がった。続いて右足に取り掛かる。男の顔がゆがむ。


 「うぐぅう!」


 暗闇の山腹に男の悲鳴が響き渡った。






 …なんとか四肢は繋がった。


 女のほうもあれから更に2回ほど引っかかれたが、今は落ち着いている。

 俺の背中の傷は、≪刹那の治癒≫のお蔭で既に塞がっている。

 男の方は息も絶え絶えながらなんとか意識を保った状態で俺を見て、僅かに笑みを見せた。


 「まだおとなしくしてた方がいい。今から≪心身回復≫をかけるから。」


 俺はそう言って、男の胸に手を当ててスキルを発動した。これで彼の全身に暖かい何かが駆け巡りかなりリフレッシュされたはずだ。男は大きく深呼吸をして、ゆっくり体を起こすと、俺を見て頭を下げた。


 「助かった、礼を言う。妹も助けてくれたのだな。」


 男は妹と呼んだ女に一瞬だけ視線を送る。女はヨーコの手を振り切って男に抱き付いた。


 「兄上!兄上!」


 兄上と呼ばれた男も女の肩を抱きしめ、無事を確かめ合う。

 暫く俺たちは二人を見つめていた。


 兄弟なのだろう。仲も良い。…でも何の種族だろう?肌の色が青いって…。


 ひとしきり抱きしめあった後、兄の方が再び俺に顔を向け頭を下げた。


 「…今は何も持ち合わせがないため何もできぬが、一生をかけて借りを返したい…。名前を聞かせてもらえぬか。」


 男はかなり紳士的な態度であった。悪い男には見えない。


 「エルバードという。ヤグナーンで傭兵をしている。」


 俺は名前を言って、手を差し出した。男は差し出されて手を見て躊躇することなく握手した。


 「ベレット、という。夢魔族の出身だ。」


 夢魔。本によっては、性行為によって相手を陥れる悪魔と書かれているが、実際は人間の精気を吸って生きる種族だ。男性をインキュバス、女性をサキュバスと呼ぶそうだが、この世界では夢魔族という種族になっているのか。


 「妹のカミラだ。俺たちはある組織から追われてここに潜伏していたのだが…運悪く人族の群れと出くわして、こんな状況だったのだ。」


 妹の紹介と、ここにいる理由を簡単に説明してくれた。


 だが引っかかることがあるな。


 “運悪く”出くわした相手が、するような行為ではない。男の方は変な機器を取り付け、四肢を切断。女の方は高く売る目的で生け捕り。


 「…失礼。ある組織とは?」


 俺は気になったのでもう少し事情を聴いてみた。ベレットは少し迷った素振りを見せたが、答えてくれた。


 「奴らは“ハウグスポーリ”と呼んでいた。実は何故俺たちを狙っているのかわかっていない…。」


 “ハウグスポーリ”の名を聞き、俺とフォンが反応した。この場にエフィが居ればアイツも反応しただろう。それなりに俺たちも関わっている。

 俺たちの反応にベレットは戸惑いを見せた。


 「知っているのか?」


 俺はどこまで説明すべきか迷ったが、一応わかる範囲で教えても問題ないだろうと考えた。俺自身がそれほど知っているわけではないからだ。


 「…ドワーフ王直属の暗躍部隊だ。ドワーフ王の命令で活動しているらしいのだが、目的が多岐にわたるので、貴公が狙われる理由となるとわかりかねるが。」


 ベレットはしばらく無言だったが、何か納得をしたように何度か肯いた。


 「おそらく奴らの狙いは“魔力”だと思われる…。俺たち夢魔族派≪自己修復≫という固有スキルを持っているのだが、四肢を斬られ変なものを被せられたときは全く≪自己修復≫が機能しなかった。…おそらく魔力を横取りされていたのだろう。」


 あの変な機器か…。後で調べてみよう。


 「と言うことは奴らは魔力を集めている、ということか?何のために?」


 俺は集めた魔力をどう使うか想像ができなかった。ベレットも思い当たる節はなく、妹と顔を見合わせている。


 「…おそらく、強大な効力を発揮する魔装具を作ろうとしているのじゃろう。」


 ふいに後ろから声がして、俺は振り向いた。しまった。また≪気配察知≫を切ったままだった。


 声の主はナヴィス殿だった。


 エメルダ嬢とベスタさんに連れられ、杖をつきながらすぐ側まで来ていた。俺はナヴィス殿に向かって一礼する。ベレットはその様子をみて、俺の雇い主であることを理解したと思われる。


 「初めまして、ベレットと言う。エルバード殿に命を助けてもらい感謝している。ヒト族が嫌う魔人族ではあるが、お見知りおき頂きたい。」


 ナヴィス殿に向かい、片手を胸に当ててお辞儀をする。貴族式とはわずかに異なる礼。魔族式とかなのか?

 ナヴィス殿は手を振ってベレットに答える。


 「私は種族で差別はせんので、安心して下され。それで、これからどうするおつもりかな?」


 顔をあげるとベレットは困った仕草を見せた。


 「さて…。追われる身ですので、山の中に潜伏しようと思っているのですが…。」


 うん、山賊に襲われ、身ぐるみ剥がされたから先立つものが何もないのだな。


 「ナヴィス殿、小屋の中に残っている山賊どもの持ち物を全部彼に譲ってもよろしいですか?」


 ナヴィス殿は俺の答えを予想していたのであろう、直ぐに返事をした。


 「ダメです。」







 ……はい?


今回は後続章のための布石ストーリーだったので、後続章のシナリオも考えながらの執筆となり時間がかかりました。


ですが、次話で四章が完結です。続きをお読みください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ