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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第四章◆ 無情の竜人少女
62/126

14 精神世界のウルチ



 真っ暗な何も見えない空間を進む。


 しばらく進んだところで急に視界が回復し、床一面が石に覆われた場所に到着した。

 ひんやりとして、どこか薄暗い地下室を思わせる雰囲気。見るとところどころに石造りの柱と鉄の柵が地面から生えている。


 「メルディーン!」


 俺は同化した精霊の名を呼んだ。


 ポン!と音がして、俺の顔のすぐ側に現れた。


 「はい、エルバード様!」


 「なんなんだ、この世界は?」


 メルディーンと呼ばれた木目の肌を持つ精霊は辺りを見回す。


 「…ここは、この体の宿主である“ウルチ”様の精神世界です。ウルチ様が描く世界になります。」


 俺は辺りを見回す。右手の方に石柱と鉄の柵が集まるように配置されている。


 「どうすれば、ウルチを助けられる?」


 メルディーンは後ろを向いて俺たちが抜けてきた黒い壁を指す。


 「まず、状況をご説明します。ウルチ様の精神は崩壊しつつあります。後ろの黒い壁が崩壊した記憶域を表し、この壁が徐々に内側に寄って行きます。」


 俺は後ろを見た。真っ黒い壁ともいえる空間が徐々にこちらに迫って来ていた。


 「この状況を改善するためには3つ。1つ目は宿主であるウルチ様がこの世界のどこかで眠っておられます。それを見つけ、目を覚まさせる必要があります。」


 俺は周りを見回しながら、肯く。


 「2つ目はウルチ様が精神崩壊している原因がこの世界のどこかにいます。それを見つけ、破壊してください。」


 俺は肯いた。この世界で戦闘になることを覚悟する。


 「3つ目は、ウルチ様に生きる希望を与えて下さい。」


 俺はメルディーンを見やった。精霊は肩をすぼめる。


 「…睨まないでください。どうやるかは私にもわかりません。」


 そうだな、確かにメルディーンにそこまで求めるのは酷か。


 「パミル!」


 俺は水の精霊の名を呼ぶ。ポンと音を立てて水色のボンッキュッボンの精霊が現れる。


 「2人はこの鉄の柵が集中している中心に向かって進め。恐らくその中心にはウルチがいる。いたら合図を送れ。後は俺が来るまでその場で待機。」


 「了解しました!」


 パミルはシュビッと敬礼をするとメルディーンの手を取りピューンと空を跳んで行った。あっという間に視界から消える。

 俺は鉄柵の外縁を円を描く様に跳び、精神崩壊の原因とやらを探した。




 石柱と石柱の間に鉄柵、石畳み、それが前後左右、宙に浮いて存在しているところもある。

 これは、ウルチが見る外の世界との境界なのではと思う。その境界が幾重にも張り巡らされその中心にウルチはいる。この鉄の柵は外との境界であると同時に、外からの脅威に対する防波堤とも思える。

 つまり、彼女は檻の中にいる事で外の世界から隔離されたと同時に自身を守っていたと俺は考えた。


 何から守っていた?


 俺は思考をフル回転させる。ウルチが恐れていたものはベラが避けていたもの。情を消して全てを仮面の下に隠し、日々過ごしてきたベラ。そのベラが対峙してきた相手は、奴隷商人か、(あるじ)しかいない。


 俺はもう一度辺りを見回した。さっきから視界の隅に黒い影が映りこんでいたのだ。

 俺は≪異空間倉庫≫から斧を取り出した。


 【メロペーの戦斧】


 横幅が俺の身長近くある巨大な斧を俺は構えた。


 「せい!」


 掛け声と共に石柱に向かって斧を横に走らせる。斧はブン!という風を切る音を立てて、石柱を真っ二つにした。

 石柱の陰から黒い人間の形をした影が現れる。

 影は1匹ではなかった。あちこちの石柱から人型の影が現れ、黒い棒や鞭、黒く燃える松明、バケツ、石を各々持って俺に近づいてきた。


 この姿形…やはり、かつての主人や奴隷商人なのだろう。ウルチの心の中にある“闇”の部分が具現化されたモノといった感じか。


 俺は黒い影の多さに、小回りのきかない斧を得物に選んだことを後悔した。

 案の定、黒い影は俺に向かって一斉に攻撃してきた。俺は前面にいた影の攻撃を斧で弾いたが、後ろから攻撃してきた影には何の対処もできなかった。

 斬られる覚悟で全身に力を込めた。


 「ご主人様!」


 聞き覚えのある声がして、後ろから攻撃しようとした影がバタバタと倒れた。影の後ろから、短剣を持った女の子が必至の形相で俺を見ていた。


 「ベラ!」


 「ご主人様、ここはウルチの心の中なのです!どうしてあたいがいると思わなかったのですか!」


 ちょっと怒り口調で俺に近づき、俺の背中に自分の背中を合わせ、短剣を構える。俺はその姿を横目で確認し、斧を構えたまま、話しかけた。


 「助かった、ベラ。このまま、この黒い奴を斬り倒していこう。」


 俺の声にベラは大きく肯く。


 「わかりました。ご主人様、後ろはお任せください。」


 俺とベラは、互いの背中を守りつつ、襲ってくる黒い影を次から次へと斬り倒していった。




 やがて、俺たちの周りには黒い影はいなくなった。石畳みには、怨念のように蠢きながら気化していく黒い影。


 「ベラ、ウルチの下へ急ぐぞ!」


 俺はそれを見届けることなく、ベラに先を急ぐよう促す。


 「はい、ご主人様!」


 元気の良い返事を返し、ベラは俺の横について走った。俺はそれを見て肯き、ウルチがいるであろう中心を目指した。



 鉄の柵の隙間から、メルディーンの小さな姿が見えた。


 「ご主人様!こちらです!」


 必死で手招きして、俺を急がせた。辿り着いた先にはドロドロした水に包まれた少女が横たわっていた。


 「これはパミルが生み出した≪生命の水≫という体力を維持させる水です。ウルチ様は相当弱っております。」


 メルディーンは簡潔に状況を説明した。

 俺はパミルに礼を言って、水の中に佇むウルチに近づいた。


 髪の毛が濃い紫色の他はベラとうり二つ。ベラの髪はこの世界では珍しい黒。目が紫色の為、日本人という印象ではなかったのだが。ウルチは紫の目に紫の髪。これが本来の姿なのだろう。だが、その目の焦点は遠くを見つめている。


 「…ウルチ。俺が誰かわかるか?」


 声に反応し、俺の方に首を傾ける。俺と目があった。


 (…ご…しゅじ…ん…さ…ま…?)


 苦しげな口調ではあるが、はっきりと声を響かせる。


 「そうだ、ウルチ。初めまして…だな。」


 俺はウルチに向かって笑顔を見せる。ウルチは手を動かそうとした。それに気づき、俺はドロドロの水の中に手を入れ、ウルチの手を握る。


 (…ああ……。)


 愛おしそうに俺の手を握り返し、僅かに口元を緩ませた。


 (これで…思い残すことは…ございません…。(ぼく)は最後に…幸せを感じることが……できました。)


 弱々しく話すウルチの言葉は、生きることへの希望を示していなかった。


 「…いいや、まだだ。俺は君にまだ何もしていない。」


 俺はウルチに目で語りかけた。



 “生きたいという力を俺に見せろ!”



 だが、ウルチは力なく笑っているだけだった。


 「ウルチ、俺のもとへ来い。俺がお前を全てのものから守ってやる。」


 もう一度問いかけた。ウルチはチラッとベラの方を見た。そして小さくため息をする。


 「しかし…外には既にベラがいます。そこに僕が入り込む隙間は…ありません。」


 「君が外の世界を見るのにベラの思いは関係ないよ。君が見たいかどうかだ。いつまでもベラに遠慮するような気持ちでは、君はここからでられない。ベラはそんなことを望んでいない。」


 俺の言葉にウルチはしばし考える。だが、もう一度ベラを見て首を横に振った。


 「…やっぱり僕には…」


 「ウルチ!」


 俺は声を荒げた。ベラは驚いて俺を見る。俺は、槍を取り出した。


 「…ウルチ。君の心の中に巣食う闇を取り払おう。」


 そう言って、槍を構えた。



 ドス!



 「ガッ!!」



 悲鳴をあげ、胸を貫かれ、ベラが俺の槍で宙に持ち上げられた。


 「な…何故…?」


 ベラは口から血を吐きながらも、俺を見る。

 俺は槍でベラを持ち上げたまま、言葉を返した。


 「お前は“ベラ”ではない。俺の知っているベラは、奴隷として檻の中にいた状態しか知らず、得物を持って戦うことなどできん。まして、俺と背中合わせになって戦うような戦術知識など皆無。そのような知識があるとすれば、それは…ウルチ。君の幼いころの記憶からのみだろう。」


 俺はウルチを見た。ウルチは槍に貫かれたベラをみて、震えている。


 「ウ…ウルチ…。」


 ベラは手を伸ばし、助けを求めた。


 「い…い、嫌っ!!」


 だがウルチは、ベラの形相に怯えその手を拒否した。


 「そうだ、ウルチ。拒否しろ。これはベラではない。お前が作り出したベラの幻影だ。ベラに、こんな風に思われてるのではないかと、自らが作り出した偽物だ。本当のベラは違う。お前の姉妹であり、母であり、親友であり、お前の分身なのだ。これっぽっちも怨んでもいない、嘆いてもいない。ただただ心配しているだけだ。」


 「グォオォゥ!!!」


 槍に突き刺さったベラは全身が黒く変色していった。


 「お、おのれ…!」


 俺は槍を素早くベラの体から抜き、落ちてきたところをもう一度貫き持ち上げた。何度も抜いては貫く動作を繰り返し、やがて真っ黒になったベラの幻影は霧散した。

 俺は槍を持ちかえウルチに向き直る。


 「これで、お前の中に巣食う闇は俺が退治した。また闇が出てきたら、ここに来て打ち払おう。何度でも…。」


 ウルチを俺をじっと見つめた。唇を震わせている。


 「僕は…ベラに…愛されてますか?」


 俺は大きく肯く。


 「皆は僕を…受け入れてくれますか?」


 「当然だ。」


 俺はニヤリと笑って、ウルチを引き寄せる。ドロドロした水がウルチと一緒に俺に近づき、俺は水の中に全身を潜り込ませた。




 (俺がウルチの全てを受け入れよう。)




 俺はウルチを抱き寄せ、静かに口づけした。





 ウルチの全身が強く光り輝いた。目を開けていられないほどの強い光。同時に俺の意識は混濁した。








 気が付くと俺はウルチの眠るベッドの横にもたれ掛っていた。


 な、なんか肩が重い…。


 見上げるとエフィが肩車で俺によじ登っていた。目が合ってニッと笑う。


 「ご主人様、お疲れ様です。」


 すぐ隣でサラの声がして横を見るとサラが、俺の手を握ったままいつものニコニコ顔をしていた。


 背中に何とも言えない柔らかな感触を感じて、脇から伸びた腕を見るとフォンの腕だった。後ろから抱き付かれている。


 「ご主人…やっと起きた。」



 エフィはちょっと微妙だが、皆俺のコトを心配してくれていたようだ。


 「…ご主人様。」


 ベッドから声が聞こえて俺は顔を上げる。



 そこには俺をみて微笑む紫色の髪の少女がいた。


 「ウルチ……。」


 「ようやく…外の世界に出てこられました。」


 ウルチは軽く頭を下げた。


 「なんの。まだまだだ。これからどんどん外の世界を見ていくんだよ。」


 俺の言葉にクスッと笑う。


 「ですが、僕はまだ完全ではありません。ベラと交代で体を管理しますが、構いませんか。」


 「そうだな。ベラも俺の大切な奴隷だ。半々くらいで顔を出してくれるとうれしいな。」


 俺の答えにまたも笑う。


 「…ご主人様はよくばりです。僕の事もベラの事も大事だなんて…。」


 「違うぞ。2人だけじゃない。サラの事も、フォンの事も、エフィ…の事も大事だから。あ痛!」


 頭にエフィの拳骨が落ちた。


 「なんで妾の時に間があったのじゃ!」


 「エフィ、降りろ!お前には奴隷としての心得を叩き込まねば俺の気が済まん!」


 俺は立ち上がり、エフィの腰を掴んで無理やり肩車から引きずりおろした。床に押し倒して脇腹を思いっきり擽る。エフィは唾液や鼻水をふんだんに飛ばして悶絶した。


 「あ~あ…。なんか、変に元気なアンタを見たら、疲れちゃった。先に部屋に戻るわ。」


 そう言ってつまらなさそうにヨーコは部屋を出て行った。それを目で追いかけた後でサラが俺に話しかける。


 「ご主人様、後でちゃんとヨーコ様にもお礼を言ってくださいね。心配されておりましたから。」


 …わかってるよ。


 言葉には出さずにサラの頭を撫でる。


 「…あの方も、ご主人様の事を想ってらっしゃるのですか?」


 ウルチはヨーコが出て行った扉を見つつ口に出すが、その最後にはチラッとエメルダ嬢を見ていた。


 「わ、私は違うぞ!し、仕事上の…その!」


 俺は慌てふためくエメルダ嬢をみてニヤニヤ笑いながら近づく。


 「おや~?ではなんだったんですか?あの夜のキ…プギャッ!」


 エメルダ嬢は思いっきりぐーで殴ってきた。肩で息をして顔を真っ赤にして言い返す。


 「誰が貴様なんかと!」


 その様子を同じベッドの側で見ていたライラ殿は羨ましそうに見ていた。


 「いいですねぇ。私もバジル商という肩書がなければこの仲間に混ざりたいですわ。」


 そんな独り言のような言葉を聞いてウルチは微笑む。


 「ライラ様。貴女様も十分この仲間の一員だと思います。ベラならきっとそう言います。」


 「そうだな。」


 いつの間にかライラ殿の後ろにいた俺が相槌を打つ。


 「ご主人様、お顔を。」


 ウルチは両手を差し出した。


 「どうした?」


 俺はウルチに顔を近づけた。ウルチは俺の頬に両手を添えて、軽く口づけをする。


 「ご主人様のお仲間、という証です。」


 そう言ってライラ殿に視線を移した。


 「な、なに!?私に同じことをしろって言ってるの?」


 えらいぞウルチ!


 俺はニヤケ顔をライラ殿に向ける。が、結果は誰もが想像する通りだ。


 ばっちぃぃん!


 「ウルチちゃんの世話は今日は私とエメルダ様で見ます!アナタはさっさとご自分の部屋にお戻りなさい!」


 ビンタを喰らって倒れた俺を、エメルダ嬢が首根っこを掴んで引きずって隣の部屋まで移動させ、放り投げた。

 床に全身を打ちつける音を聞きつけ、寝室からヨーコが顔を出したので、助けを乞うたら首をひっこめられてしまった。




 …俺、間違ったことしたかなぁ?




 暫く床にうずくまって誰か来るのを待っていたが、誰も来てくれなかったので仕方なく自分で起きて寝室に向かった。


 「…おかえり。」


 寝室に入るなり寝間着でうつ伏せに寝転んで本を読んでるヨーコが、抑揚のない言葉を掛ける。膝をテンポよく曲げ伸ばしを繰り返していた。

 俺は隣のベッドに倒れ込み、ため息をつく。ヨーコがチラッとだけ俺を見たが、また本に視線を戻し、鼻歌混じりで膝を曲げ伸ばしした。


 「…ヨーコ。」


 「んー?何?」


 ヨーコは俺の方を見ずに返事する。


 「体の方は…何ともないのか?」


 一瞬だけ動きが止まったが、直ぐにリズミカルな動きを再開し、


 「うん、今は何ともない。あれってなんだったんだろうね?」


 と問い返した。

 俺は知っている。獣王から力を与えられたのだ。恐らく≪鑑定≫で視れば新しい能力があるはずだ。


 「ヨーコ。」


 「なに?」


 ちょっと苛立つような返事。俺はうつ伏せになり顔をヨーコと反対の方向に向けて言葉を続けた。


 「…ヨーコにキュッてされたい…。」


 ヨーコの返事はない。そのかわりにガサガサとベッドから移動する音が聞こえた。ギシギシと音を立てて俺のベッドに上がり込み、うつ伏せになっている俺の上に乗る。両腕を俺の胸の下に潜り込ませ少しきつめに抱きしめてくれた。


 「…これでいい?」


 俺は首だけ動かして返事する。



 暫く静寂の時が流れる。



 俺は知っている。



 この状態を、寝室の扉の隙間から、サラとフォンとエフィが覗いていることを。



 だから、ヨーコにはこれ以上何もできない……。



 こうやってベラとウルチは何とかできた。まだ安心できる体調ではないにしろ、ちゃんと面倒見れる状態にまではできた。ヨーコもなんだかんだと言ってサラ達とうまくできてるしサラもヨーコの事は認めてるようだ。

 明日は、みんなでゆっくり景色を見ながら帰ろう。


 俺は背中にヨーコを感じたまま、そのまま眠りについた。







 翌朝、目が覚めるまで、ある人の事を忘れていた。


 支配人殿は朝まで出発の準備をしたまま、一睡もせず俺を待っていたそうだ。



支配人殿は完全に忘れられております。

主人公は支配人殿の怒りを躱すことはできるのでしょうか。


次話では一気にヤグナーンまで移動します。

そして王都散策編に突入します。

そしてヘリヤ様再登場の予定です。

あ、でも四章はもうちょっとだけ続きます。


ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

あと、外伝のネタ下さい。

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