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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第四章◆ 無情の竜人少女
61/126

13 精霊同化


 真っ白い世界。


 そこは大地と空の境界が認識できず。どっちが上でどっちが下かの感覚を失う。

 足元は大地を踏みしめている感覚には程遠く、空を見上げても太陽も雲もなく、距離感を失う“白”が広がっているだけ。


 この世界には何度かやって来ているが、今回初めて俺以外の人間が一緒にやってきた。

 お姫様抱っこして空を跳んでいた時にここに飛ばされたので、今も俺の腕の中でしがみついている。

 彼女は俺と同じ“この世ならざる者”のヨーコ。前世では日本人だった少女だ。


 「…こ、ここは……?」


 目が痛くなるような真っ白い世界に不安を感じたのか、俺の服を握りしめしがみ付く。


 「神様にお会いするときに来たことないか?」


 俺は不安そうにしているヨーコにやさしく話しかける。


 「…そか。たしかこんな感じだったわ。3年も前だったから忘れかけてた…。」


 異世界人歴けっこう長いな。


 「さて、この移動の仕方だと、今回会えるのは…創造神様なんだが…。」


 俺の言葉にヨーコは体を強張らせた。


 「え?そ、そうなの?てか、アンタ、そんなに頻繁に神様にお会いしてるの?」


 俺はヨーコを見つめた。


 「……もう、『エル』って呼んでくれないの?」


 ヨーコは顔を真っ赤にした。視線を逸らして体を震わせる。


 「わ、忘れてよぉ…。」


 なんか、急に可愛くなった。俺と一緒に過ごし始めてからだろうか。角が取れて丸くなったというか…。うん、俺好みになってる。


 恥ずかしがるヨーコを抱えたまま、俺は辺りを見回す。何もない。…と思ったら巨大な岩が現れた。元々そこにあったのが、白い霧が晴れて見えるようになったという風な現れ方。相変わらず、この世界はわからない。


 岩の上には見知った黒紫色の影があった。

 巨大な羽を動かして音を出し、その存在を俺に知らしめる。長い首の先にぎょろりとこちらを見つめる瞳孔が縦に割れた眼。ぎっしりとギザギザ状の歯が並んだ口。




 竜王バハムート。(別名:アホムラサキ)



 「だれが、アホムラサキじゃ!」


 脳を揺さぶる様な大声が響き渡る。ヨーコがびっくりしてまた俺にしがみついた。

 忘れてた。この方たちは心の中が読めるんだった。


 「な、名付け親はウリエル様なのですがね。」


 「あのクソ女め!」


 バハムーとは牙をむき出し、吸い込むとヤバそうな息を吐いて怒りを表す。


 「ハハハ、バハムート。怒るのは構わないが、あんまり頭を震わせないでくれ。落っこちてしまう。」


 聞き覚えのある声。そして聞きたかった声。声の主はバハムートの頭の上に立っていた。


 「ア、アマトナス様…。」


 ヨーコもその姿を見つけ、竜の頭の上を凝視している。

 俺はバハムートが鎮座する岩に向かって歩き出した。ヨーコが不安を隠せないのか俺にしがみ付いたまま降りようともしない。


 アマトナスが竜の頭から飛び降り、俺のほうに近づいてきた。そして、その後ろにもう一人…。



 新しい神様か…。



 俺は別の意味で警戒する。既に使い尽くせないほどのスキルを抱えているのに、これ以上は…。


 「警戒されてますな。」


 アマトナスの後ろにいた男が言葉を発する。


 「そりゃあそうでしょう。これだけ力を抱え込まされれば、誰でもああなるよ。」


 男が鋭い目を突き付けて来たのに対し、アマトナスのほうは俺の知っているやさしい弟の表情。

 俺は二人に一礼をする。


 「…またここに来ちゃったね。」


 口調も態度も兄を慕う昔の弟。


 「俺の意思ではないんだが…。」


 俺も弟に対する口調で返事をする。


 「兄ちゃん(・・・・)の行動の結果、ここに来てるんだけどね。」


 『兄ちゃん』という言葉に後ろに控えていた男と、俺に抱きかかえられていたヨーコが驚愕の表情を見せる。


 「創造神様は“この世ならざる地”から顕現されたとお聞きしておりましたが…。」


 「アンタ…エ、エルのおとうと…!?」


 俺と弟はそんな二人には関せず、会話を進める。


 「ふうん?創造神様とお会いできる空間は、ある条件を満たすと自動で転移されるってことか?」


 「僕からは何も言えないけどね。」


 「まあいいや。後ろの方は?」


 「そうだね。その子は?」


 俺と弟はしばらく見つめ合う。兄弟だったからこそできる目だけの会話。そして俺が根負けして口を開く。


 「ヨーコ。俺の彼女。」


 ヨーコは顔を真っ赤にした。慌てふためき何をしゃべっていいのかアワアワしてる。


 「……の一人。」


 プーッと弟は吹き出す。


 「そうだね、兄ちゃんは何故かハーレム作っちゃってるもんね。」


 俺は照れくさそうにヨーコを見たが、ヨーコは頬を膨らましている。彼女の一人という紹介の仕方が気に入らなかったらしい。


 「彼は、【ロフト】。名前だけでわかるよね。」


 はい、ついこの間ご子孫にお会いしたばかりだし。



 初代ワル・グインド王国国王。獅子獣人ロフト。死して神となられていた、ということか。


 「うむ。獣人族に崇められ、神となった。ある意味バハムートと同じ手順で昇格したと言ってよい。」


 しまった、また心を読まれた。ここでは余計なことは考えられないんだよな。


 「で、貴方様も私にお力を?」


 「獣人の神が人族に加護を与えるのはどうかと思ったがな、バハムートの奴が面白がっているのを見れば、ワシもやってみたくなっての。…構わぬか?」


 「今更お一人増えても変わりはございません。それだけ注目されていると思っておきます。」


 次の瞬間、獣人の神の腕が光ったかと思うと俺の体を神の腕が貫いた。


 一瞬だけ感じた痛み。そしてそれは俺だけでなく、抱えていたヨーコにも伝わっていたようで、ヨーコは顔を顰めていた。


 ヨーコにも力を…?


 「ヨーコ!大丈夫か!」


 俺はその場に屈んでヨーコに話しかける。


 「あ!」


 ロフトは思わず声を上げた。


 ヨーコはロフトから受けた力を受け切れていないのか苦しんでいる。


 「貴様!」


 俺は激昂しロフトに掴みかかろうとした。だが、ヨーコが俺の腕を掴んだ。


 「ダメ…。神様に弓引く行為は…。大丈夫…。じきに楽に…なる。」


 肩で息をしながらもヨーコは俺に笑顔を見せる。


 「創造神様、此の者も意外と脆いですぞ。それでもよろしいのですか?」


 ロフトは主神に確認を取っている。一体なんの確認だ?


 「このままで良いでしょう。貴方の失敗ではありますが、彼女ももちこたえようとしています。」


 ロフトは俺の視線は知らん顔をしてその場を離れる。

 アマトナスは俺の方を見た。


 「悪いね、兄ちゃん。あいつは神としては一番若いからね。ミスをよくしてくれるんだよ。」


 「…上司には責任を取ってもらいたいんだがな。」


 俺は弟であろうと遠慮せずに言い返す。


 「うん、わかってる。責任というか、情報を。あの竜人の女の子、早く治療をした方がいいよ。」


 「ど、どういうこと!?」


 「う~ん、彼女の精神はもう限界なんだよ。おそらくそれは本人もわかっているんだけど…何も聞いてないか。」


 聞いてない、聞いてない!あいつは俺が助ける方法を見つけるまで頑張るって!

 俺は我を忘れて弟に掴みかかった。


 「良聖!どうしたらいい?どうしたら助けられる?」


 無我夢中で弟の肩をゆする。


 「ちょ、ちょっと慌てないで!大丈夫!助ける方法は教えるから!一旦離して!」


 両肩を掴まれブンブン揺らされ、気持ち悪くなったようで、神様の癖に青い顔になった。俺から少し離れてゲホゲホ咳をする。


 「…ちょっとは手加減してよ、僕、神様のなかでも一番カラダが弱いんだから。」


 そう言いながら、右手を掲げて何やら唱えた。


 ポン!


 聞き覚えのある音と共に茶色い樹木に顔が付いた物体が現れる。


 「【ウンディーネ】と契約できたんだよね。この子は【エント】。森を司る精霊なんだけど、分類は精神の精霊なんだ。」


 弟の手のひらで【エント】と呼ばれた小人(こびと)がお辞儀をする。


 「彼と契約してほしい。君にとっても有益になると思うんだけど。」


 弟は小人にやさしく話しかけた。


 「畏まりました。確かにすごい神力を感じます。問題ございません。」


 【エント】は弟の手のひらを飛び出し、俺の肩に飛び乗る。


 「初めまして、メルディーンと言います。契約をするために私に姿をお与えください。」


 俺は肩の上に乗った精霊をチラッとだけ見た。こいつと契約してどうするのか。それを聞かなければ契約できない。


 「うん、そうだね。この子と同化(・・)して、竜人の子の精神世界に入ってもらうんだよ。」


 いちいち心を読まないで欲しいんだが、突っ込んでいる暇はない。この子と契約しよう。

 俺は彼女(・・)をイメージする…。


 ポン!


 さっきと同じ音がして、俺の肩に乗った精霊は姿を変えた。


 全身木目調で金色に輝く羽を持ったボンッキュッボンの女の子。

 ヨーコがちょっと呆れた顔をしてる。


 「素晴らしい姿ですね。気に入りました。よろしくお願いいたします。」


 メルディーンはぺこりとお辞儀をした。


 それを見届けてから俺は、まだ倒れ込んだままのヨーコを抱きかかえる。具合は幾分よくなっているようだが、まだ汗を掻いている。


 「悪いな、へんなことに巻き込んじまって。」


 ヨーコは笑顔を見せる。


 「…ちゃんと説明してくれたら…許してアゲル。」


 俺はヨーコの額にキスをする。嬉しそうに笑顔でヨーコは答える。


 「創造神アマトナス様。数々のご無礼ご容赦を。」


 俺は弟に向かって深く頭を下げた。


 「“この世ならざる者”らよ。これからも精進するがよい。」


 弟はそう答えてくるりと向きを変え、バハムートが鎮座する岩に向かっていく。俺はその様子を見ながら視界が薄れていくのをじっと待った。




 俺たちは元の世界に戻った。


 宙を跳んでいるときに飛ばされたので戻ってきた場所も空中だったが、素早く体制を立て直し、そのまま領主館へ向かった。

 無言のまま、≪気配察知≫が示すバルム老の赤い点を目指す。屋上から侵入し、衛兵たちの横を平然とすり抜け、バルム老が休む部屋の前まで来た。そこでヨーコを下ろす。


 「すぐ済むから。」


 ゆっくりと扉を開け、バルム老が眠るベッドに近づく。

 ≪魂の真贋≫でもう一度確認したが、このしわくちゃ犬獣人の胸には黒い玉が浮いていた。


 “黒い玉を持ってる奴は嫌われているのが多いのよね。”


 ヨーコの言葉を思い出す。確かにこいつの言動を見る限りじゃ嫌われてそうだが…。

 俺は手をバルム老の口に突っ込んだ。そしてありったけの水を≪水魔法≫で生み出す。全身を押さえつけられた状態で突如口の中で発生する水。バルム老は目を見開き、水を吐き出そうとするが俺が突っ込んだ手のお蔭でそれもできず、体を震わせた。


 ビクンビクンと何度か大きな痙攣をして、バルム老の体が動かなくなった。やがて黒い玉が浮き上がり、俺の中に吸い込まれていく。

 同時に悪寒が走り全身に鳥肌が立った。しばらく身もだえするが鳥肌も収まり、俺も正常に戻る。


 ふぅぅううう……。


 大きく息を吐いて呼吸を整える。


 窒息死…いや溺死になるのか。俺は暴れてぐしゃぐしゃになったベッドを綺麗にし、バルム老の遺体を寝かせ布団を掛け、部屋を出た。


 外には心配そうな顔をしたヨーコがいた。


 「…終わったよ。」


 俺の言葉にヨーコは涙を流す。そして何も言わずに俺に抱き付き、唇を重ねる。彼女なりのねぎらいのつもりだろうか。俺はそれを受け入れ彼女の感触を味わった。



 「帰ろう。」


 そう言うと、ヨーコをまた抱き上げ、宙を跳ぶ。今度はヨーコは完全に体を俺に預けてきた。緊張した様子も強張った様子も見られない。


 「怖くないのか?」


 俺の質問にヨーコは笑顔だった。


 「怖くなくなった。」


 穏やかな表情で彼女は答えた。


 「…何も聞かないんだな。」


 「今は、ベラちゃんの事が先決だよ。だから何も聞かない。」


 「…サンキュ。」


 俺は前を睨み付け、更に速度を上げた。






 【人馬宮】のエントランスでは見覚えのある人物が待っていた。


 コスプレ支配人。


 最初にここに来た時に連絡が取りたいと言っていたのだが、このタイミングで来られるとは…。悪いが後にしてもらおう。


 「ようやく、お戻りに…」


 「支配人殿!申し訳ない!今は急ぎの件がある。」


 支配人は一瞬ポカンとしたが、直ぐに表情を改めた。


 「相当お急ぎのようですね。わかりました。1つだけお話を。カルタノオに行かれる時にお声を掛けて下さい。私もカルタノオに用事がございますので。」


 それだけ言って軽く頭を下げる。


 「わかった。出発の準備だけはしておいてくれ。」


 俺も最小限の返事をして、ヨーコの手を引いて階段を駆け上って行った。

 最上階まで上がり、ベラが寝ているライラ殿の扉を開けた。


 「ベラ!」


 既に寝静まっていたところへ俺の大声。最初にエメルダ嬢が寝室から出てきた。


 「エル!どうしたこんな夜更けに!」


 だが俺はエメルダ嬢を制す。


 「説明は後だ!」


 それだけ言って俺は奴隷用の寝室へ向かう。エフィは小さなベッドで寝ていた。無意味に腹が立って頭を叩く。

 ギャン!という叫び声でエフィは飛び起きた。だがそれすら俺は無視し、ベラを探す。

 「ベラ!」


 部屋の奥で壁に向かって座っているベラを見つけ、抱え上げた。


 彼女の体は冷たく、顔も青白くなっていた。


 「おおぉ。確かにあの方が仰られる通り、精神の崩壊が始まっていますねぇ。」


 ポンとメルディーンが飛び出し、ベラを観察しながら俺に語りかけた。


 「メルディーン!どうすればいい!」


 問いかけながら、俺は寝室へ向かいエメルダ嬢が寝ていたベッドにベラを寝かせる。


 「≪精霊同化≫のスキルをお持ちのはずです。それを使い、私と同化してください。」


 その言葉を聞いて俺は直ぐメニューを開きスキルリストを探し回った。

 ≪森羅万象≫のスキルリストの中に入っていたそれを『属スキル』にセットする。


 ベラはじっと俺の顔を見ていた。ずっとにこやかにほほ笑んでいる。


 「ベラ、どうして黙っていた?」


 ベラは小さくため息をついた。


 「どうして、ご主人様には何でもわかってしまうのでしょう。…本当に凄いお方です。」


 「約束しただろ?絶対に助けると。」


 ベラは首を振った。


 「…ですが、今回はお時間がございません。もうあたいではこの体を動かすこともできなくなっています。…これは運命だったのでしょう。これでもあたいは満足しているのです。」


 俺は首を大きく振った。


 「ダメだ!もっと運命に抗え!抗うことが罪だと言うんなら、俺が来世で償ってやる!だから気力を持て!俺がベラもウルチも助ける。」


 ベラの表情は柔らかい。全てを悟った表情で横たわっている。だが同時に涙も浮かべていた。


 「…ご主人様を今一度信じます。あたい達を…助けて下さい…」


 ベラは静かに目を閉じた。




 「エルバード様!いよいよ危ないです!早く≪精霊同化≫を!」


 メルディーンが慌てふためいた。彼女は体の半分をベラの胸のあたりで同化させて準備している。

 わかっている。メルディーンよ、ベラを助けにいこう。




 ≪精霊同化≫!!!!



ようやく、四章のクライマックスまでもってこれました。

この章は重要な登場人物が多くて大変なのに、誰もないがしろにできません。

そこへきて無理やりコスプレ支配人を混ぜ込んでいるので、ちょっと強引ない気がしてますが、ご了承ください。


次話では、ベラ(ウルチ)の精神の中のお話です。


ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

あと、外伝のご要望もあればよろしくお願いいたします。


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