表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第四章◆ 無情の竜人少女
54/126

6 この世ならざる者の生き方

すいません、まだ二ノ島に到着しません。

これもみんなエフィが悪いんです


 獣人族が統べる島、二ノ島。



 1000年前の大移動の時に人族と一緒にこの地に移り住んできたが、人族とは袂を分かち長年敵対していた。だが150年前の“滅竜戦争”の時に、人族と獣人族は国交を開き、ようやく交流を始めた。歴史的にはまだ浅く、世代が変わることによってわだかまりがなくなり、良好な関係を気づいている部族と、世代が変わっても人族を憎む心が消えない部族が混在している。

 獣人族は最も強い部族が獣人族の王として君臨し部族間の調整や諸外国との外交を行う。王は代表者であり、部族の利益を得られない王は“長老院”によって罷免される。

 現在の王は、獅子族から選ばれた壮年の戦士で既に歴代の王の中でも特に名声が高く、『王の中の王』とか『獣王』と呼ばれている。




 語り部サラは得意げに俺に説明してくれた。


 「サラは本当に歴史が好きだね。」


 俺の感心とも取れる言動にサラは飛びついて来た。


 「はい!歴史は単に出来事の積み重ねだけではありません。そこには必然偶然があり、その中を覗けば、権力闘争、子孫繁栄、利益供与などの様々な感情が様々な角度で加わっております。つまり人の感情なしに歴史は積み上がりません。その感情を紐解いていくのが面白いのです。例えば今の獣人族の王は何もなしに王になったわけではありません。そもそも150年前の“滅竜戦争”時の獣人族の英雄『ロフト』の血を引き……」


 「わ、わ、わかったわかった!後でゆっくり聞いてあげるから!それで俺たちが行く『ゼルデン』という街は?」


 「はい、ゼルデン公爵領の領都になり、二ノ島の中では王都ウィウィアムに次いで2番目に大きい街になります。ゼルデン公爵は代々親人族派の部族で、グランマスターも何度か公爵様と謁見されております。」


 ふむ、治安は良いとみていいか。


 「今回の目的は?」


 俺はライラ殿に質問を向ける。


 「ゼルデン公爵領は今、大規模な開拓を進めております。二ノ島南部はこれまで森林の部族“金猿族”が統治しておりましたが、人口減少が最たる要因で領地経営が困難になり、領地の半分を国に返還して援助を受ける事となりました。」


 「…その返還された領地を開拓しているわけか。」


 「はい、その開拓地に我々バジル商会は食料、建築資材、人材の提供を行っております。今回はそのうち“人材”として20名の奴隷を連れていきます。」


 俺はちょっと考えた。この仕事で俺たちが必要な理由はどこにある?


 「護衛が必要な理由は?」


 ライラ殿はやや引きつった笑顔を見せた。これは何かあるな。


 「…えと…。正式な手続きでもって割譲された土地と言えど、元は金猿族の土地です。それを快く思っていない輩はいます。また、開拓要員として奴隷を送り込んでいますが、それを餌にする輩もいて、多少…治安が悪くもなっておりまして…。」


 説明の仕方が、なんか『多少』ではない気がする。


 「今回はゼルデンで奴隷契約を行い、その奴隷を開拓地へ運搬するのが仕事です。ゼルデンまでが約2日、ゼルデンで2日、開拓地までの往復が1日の道程です。」


 ライラ殿は指を折りながら日程の説明をした。


 「…だそうだ。少々長旅だな、エフィ。」


 俺は話を聞いている間ずっとワナワナ震えていたエフィに声を掛けた。


 「じょ、冗談じゃないわよ!聞けば治安悪いんじゃない!なんで妾がそんなとこに行かなきゃいけないのよ!」


 エフィは獣人が嫌いだった。フォンはそんなことないのだが、獣人の中には独特の体臭を持つ部族も多く、その匂いが大嫌いらしい。更に彼女がいた妖精族は、今の王が『獣人劣等生物』という教育を施している為、基本的に自分より下に見ている。このため時々フォンを見下す行為に結びつき、それによってフォンの≪エルフへの多情多恨≫を発動させてしまっている。

 エフィからすれば、全力で同行を阻止したいようだった。


 「今回の任務にはベラも連れて行く。まだ一人にはできないしな。だからエフィにベラの面倒を見て欲しいんだ。」


 エフィはチラッとベラを見た。ベラは我関せずの表情。


 「ゼルデンの街には美味しい果物がたくさん売られているそうですね、ライラ殿。」


 「あ、はい。二ノ島でしか生育しない果物が多く、日持ちもしないのでこちらでは出回っていませんので。ゼルデンに行くのなら一度は食すべきだと…。」


 「…エフィ、今回はお留守番するんだっけ?」


 エフィは簡単に落ちた。


 「だ、誰が行かない、なんて言ったのよ!妾が行かないと誰がベラの面倒見るのよ!しょ、しょうがなくついて行くんだからね!」


 何故か言い訳をするエフィ。それを見たベラがエフィに遠慮をした。


 「あたいはご主人様の許可さえ頂ければここに残ってお待ち…」


 「黙ってなさい!!」


 ベラはエフィに怒られた。






 ナヴィス殿はマグナールとエイミーを伴いカルタノオの街を出発した。出発前に俺はエイミーに手紙を渡した。ベルドの街のマリン宛に書いたものだ。

 中身はサラの近況を中心に俺自身の事を少し。まあ、サラの姉貴分にあたるマリンさんに妹の様子を伝える手紙にしか見えないだろう。これをエイミーからマリン経由でヘリヤ様に見て頂こう。


 俺たちも二ノ島に向けて出発だ。

 最初の目的地はここから東にある港町クレア。街には夕方には到着するのでそのままバジル商所有の舟に乗りこみ、出発。船内で1泊し、翌日の昼には二ノ島に上陸できる。

 商隊は馬車3台に分かれて出発した。1台目は20人の奴隷を乗せた6頭引きの馬車。2台目はライラ殿が乗る4頭引きの馬車。3台目は俺が調達した6頭引きの馬車。このほかにバーバリィを含む数等の馬が護衛に就く。

 ヴァルドナへの遠征などに比べると小規模だが、それだけに直接狙われる確率が上がる。

 俺は≪遠視≫≪気配察知≫≪仰俯角監視≫で広範囲の視覚情報を収集できるようにし、できうる限りの万全の態勢を取った。


 そして……。


 検知範囲内に黄色い点があることを確認する。

 俺の≪気配察知≫は一度会話したことのある人間は識別できた。

 間違いなく【ヨーコ】だった。




 クレアの街までは特に何もなかった。ずっと≪気配察知≫の隅に黄色い点が映っているだけで。


 クレアの街では、直ぐに乗船手続きに入る。全員乗船し、船は港を離れ東へ向かった。黄色い点は船の中に映っている。よく乗りこめたな。


 太陽は西の山脈に沈みつつあった。既に東の海は暗闇に包まれており、デッキ上は≪光彩≫の光で照らし出されていた。そのデッキでベラが海を眺めて佇んでいる。俺はベラの隣に立った。


 「海を見るのは初めてか?」


 ベラは俺に気づいたが、振り向きもせずじっと海を見ている。


 「…二度目になります。最初に見たのは五ノ島から商船に乗った時。そしてそれが外の景色を見た最後でもありました。」


 言っている内容はかなり暗い話なんだが、言っている子の感情がないため、いまひとつ伝わらない。


 「この景色は壮大で綺麗だな。」


 「…綺麗というのは…よくわかりません。あたいが感じるのは『あたたかい』『冷たい』ぐらいでしょうか。」


 温度は感情ではないんだが。その区別もつかなくなってるってことか。一度ゆっくり話をしてみようか。


 「ベラ、今日も一緒に寝るか?」


 ようやくベラは俺の方を向いた。


 「なぜ…でしょう?」


 「昨日、ベラはすごく気持ちよさうに寝ていたぞ。ベラは『暖かかったので』と言っていたが、その寝顔は気持ちよさを表現していたよ。…その…すごく、かわいかったし…。」


 ベラはじっと俺を見ている。なんかまずいこと言ったか?


 「…確かにご主人様のお体は暖かかったです。ですが、ご主人様にご迷惑をお掛けいたしますので。それに気持ちよさそうな顔をしていたのはお酒のせいだと思ってください。」


 それだけ言ってベラはそのままサラ達のほうに行ってしまった。





 ベラよ。お前は何を隠しているんだ(・・・・・・・)





 商船の船底。


 普通は転覆を防ぐために、ある程度重量のある荷物を載せる。また、常に水面下の位置にあるため、冷蔵庫のように室温も低いので温度に弱い商品を積んだりするようだ。


 俺は今その船底を歩いている。まあこの奥に黄色い点があるんで挨拶に来たんだが、思いっきり警戒されていた。


 「どうせ逃げ場もないんだし、俺がアンタに敵対する理由もないんだし。ちょっとはお話し相手になってくれてもいいんじゃない?」


 俺は荷物の陰に隠れているヨーコに声を掛けた。

 少し間があって、ヨーコが顔を出す。警戒はまだ解いていない。


 「そっちに投げるから。ちゃんと受け取れよ。」


 そう言って俺は毛布をヨーコに向かって投げた。ヨーコは飛んできた毛布にびっくりして物陰に隠れる。毛布はバサッと床に落ちた。その後ヨーコは物陰から剣でつついて何もないことを確認して毛布を拾い上げる。


 「心外だな。俺がそんな汚いコトするか?アンタと戦うんだったら正々堂々とするし。」


 「…。何故これを?」


 ヨーコは睨んでいた。


 「…ここは寒いだろうなぁと思ったんでな。」


 ここは本当に寒い。こんなところに一晩中居たら凍え死んじまうと思ったからわざわざ毛布を持ってきた。けど、睨まれている。相変わらず俺の事を全く信用していない。


 「座っていいか?」


 俺は敢えてヨーコから距離を取って座る。ヨーコはいつでも剣が抜けるように柄に手をかけたままだ。


 「俺もアンタも同じ“この世ならざる者”のはずなんだが…どこに違いがあるのか話し合おうかと思うんだが。」


 「そんなことをして何になる?」


 「少なくとも敵なのか、味方となりえるのか判断材料を手に入れることができると思うんだ。」


 ヨーコはしばらく考え込み柄から手を放した。


 「いいわ。質問はアタシからさせてもらうよ。」


 俺は手前にを出して「どうぞ」を表現する。ヨーコは考え込んだ。どうやら質問を準備してなかったらしい。寒くて頭が回ってないみたいだな。


 「アンタは何者なの?」


 「…見ての通りスキルをたくさん抱え込んでしまった人間だよ。」


 「いつからここにいるの?」


 「今日の夕方にこの船に乗り込んだんだが。」


 「…どこへ向かってるの?」


 「二ノ島のゼルデンの街に向かってる。」

 「目的は?」


 「この船の持ち主に雇われたから仕事だよ。護衛の任務。」


 「その後は?」


 「知らねえよ!雇い主に聞いてくれ。てか何を質問してんだ?俺の行動予定を作ってどうする気なんだ?」


 「じゃあ何を聞けばいいのよ!」


 「うーん、じゃあ俺の質問に答えてよ。」

 「…答えたくないモノは答えないわよ。」


 「神様に会ったことは?」


 「…あるわ。」


 「お!誰に?いつ?」


 「…そうね、最初はこの世界に来た時、アマトナスに会ったわ。あなたも貰ったんでしょ?≪魂の真贋≫という呪いを。」


 ほう、その時点から俺と違う。だけどいきなり違うとうるさそうなので適当に相槌しよう。


 「うんうん、他の神様には?」


 「あとは…ウリエル。」


 げ!あのホシガミノクソギンチャクか!


 「あいつ、傲慢すぎるのよ。会う度にイライラするのよ。」


 うんうん、そうだろうな。


 「でもあいつ、星神様の前では猫被るんだぜ。」


 「…はい?」


 ヨーコは目を真ん丸にして身を乗り出した。


 「星神様の腕に絡みついて体をくねくねして…けっこうかわいいぜ。」


 「いやいやいや、星神ってあの六柱神のひとりのこと?なんでそんな高位の神に?」


 「俺はその他にも竜王バハムート、戦神クロウ、豊穣神ハーランド、ユグドラシルにも会っている。」


 ヨーコの顔は完全に引きつっていた。


 「多分俺とアンタの違いは出会った神の数だと思う。俺は何故か会う度に神の力を強引に与えられている。まるで俺の体を使って互いの力を競い合うかのように。」


 「そ、そんなことすればアンタの体が持たないわ!精神が壊れてしまうじゃない!」


 「どうやら俺の心は相当タフらしい。」


 俺は胸を親指でとんとんとつつきながら答えた。


 「そ、それでもそんな人外なチカラなんて使ったら目立つじゃない!」


 「うん、だからいろいろと苦労してんだけどね。」


 「だったら尚更他人とは距離を取って行くべきで…」


 「そうやって人から隠れ、世界から隠れ、歴史からも隠れていくのか?そんな人間はあっという間に病んでしまうぞ。」


 俺はヨーコの言葉を遮り、結論を突き付けた。ヨーコは黙り込む。


 「…俺には弟がいた。壮絶なイジメに遭い、引きこもり…心の病気になった。人間は一人になっては生きていけない生き物だ。だがアンタはそれを実践しているぞ。」


 ヨーコは視線を落とした。どうやら自覚はしているようだ。

 俺は立ち上がった。はっとしてヨーコは身構える。


 「…そうやって他人に怯えて生きていく気か?つまらないのは目に見えている。俺のところに来ないか?ヨーコなら俺の雇い主に紹介できるぞ。」


 ヨーコは構えを崩さず俺をじっと見ている。なんか葛藤があるんだろうな。まあ今までの生き方を否定されてんだし。


 「…考えておくわ。」


 俺は片手を上げて軽い挨拶をし、後ろを向いた。


 「ちょっと!」


 呼び止められて振り向く。


 「これ…ありがと。」


 ヨーコは毛布を抱え、小さな声で礼を言った。俺は何も言わずその場をあとにした。



 船底から上に上がる梯子を上ったところにサラとフォンがいた。2人とも不安そうな顔で俺を見ていた。

 ああそうか。フォンも≪気配察知≫をもってたっけ?それにしてもヨーコの奴、不用心だな。あいつ相当病んでるわ。


 「ありがとな。大丈夫。彼女は敵じゃない。恐らくもうちょっとしたら味方になってくれるから。それまでそっとしておいてやってくれないか。」


 「ご主人の…ご友人…ですか?」


 「まあ、そんなところかな?」


 「わかり…ました。ですが…監視は?」


 「ああ、≪気配察知≫で位置を確認しておくだけで十分だよ。フォン、よろしく。」


 フォンは無言で一礼した。


 「あ、あと、ご主人様。もう一つご報告が。」


 隣にいたサラが少し慌てた風に言ってきた。


 「ベラが、ご主人様のベッドで裸になって待っています。」


 俺は梯子を踏み外した。サラとフォンが慌てて俺の腕を抱える。


 「な、なんでそんなことを?」


 と言いかけて思い当たる節があり、サラと目を合わせた。


 「それって…。」


 「はい、おそらくご主人様のご寵愛を無理やり受けようとしていると思います。」


 サラを奴隷にした時に使役範囲が全部になった奴隷の考え方を思い出した。


 転売されないようにご主人様の寵愛を受けようと必死になるそうだ。サラも泣いておねだりさせるという格好悪いことをさせてしまった。ベラも俺からの寵愛を受けようとしている。



 だが…。



 「サラやフォンとは違うんだよなぁ。二人ともちゃんと俺のコト愛してくれてるもんなぁ…。」


 俺はそう言いながら順番に2人の頭を撫でる。

 サラは顔を真っ赤にして溶けてしまうかのようなにやけ顔。フォンは飛んでってしまうかのようにブンブン尻尾を振り回した。


 「当面、ベラの世話はエフィにさせる。そのほうがお互いに刺激になるだろう。持て余すようだったらサラが教育しろ。フォンはエメルダ嬢と彼女を監視しといて。」





 その後、俺はエフィに滅茶苦茶に文句を言われた。唾をまき散らすほど喚き散らして俺の拳骨を喰らった。その後、ベラが機嫌の悪いエフィに引きずられて奴隷用の寝室へ。サラとフォンは別の奴隷用寝室へ。

 俺は久しぶりに一人でベッドに寝ることができた。






 翌朝、俺の鼻には豆が詰められていた。



 ご丁寧に片穴に2個ずつ。






 …おのれエフィめ!次は3個入れてやる!



作者の中で一番ストーリーの邪魔をするのはエフィに決定しました。

書いているうちに「ここでエフィならこうする」て“ポン”と浮かんでしまいます。サラやフォンでも浮かぶのですが、ダントツでエフィです。

そのうちベラもやってくれそうな気がします。


ほんとに≪思考並列化≫がほしいと思いました。


次話では、ヨーコの話の続きになります。


ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ