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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第四章◆ 無情の竜人少女
53/126

5 温もりに邪魔されて

先に説明しておきます。


この物語はファンタジー小説のつもりです。

恋愛物語ではないはずです。


俺はこれまで、自分の過去の記憶については、敢えて触れないようにしてきた。それは、俺がこの世界の人間ではないことを暴露することに繋がると思っていたからだ。

 だが、過去を隠してこの先うまくやっていけるか自信がない。

 奴隷たちには、あれやこれやと言う割には自分のことは隠そうとしている状態なのだ。今は俺の事を信じてくれてはいるが、いつか信じられなくなる日が来るかもしれない。その時に今のままの俺では、説得力がない。

 できれば早めに『俺』が何者なのかを知りたかった。



 『俺』が『エルバード』となる前の真実を…。



 占い師は真剣な眼差しで俺の言ったことを反芻した。チラッと机に置かれた紫の剣を見やる。


 「では、まず≪鑑定≫を行います。」


 そう言って、占い師は黙り込んだ。彼女は≪偽りの仮面≫を外した俺を見てどういう反応をするか…。楽しみだ。



 占い師は、ぽかんと口を開けて空中を見つめながら首を前後に動かしている。その様子は周りの人たちには不思議な光景だ。


 「≪鑑定≫を持っている人は使ってみてください。今は俺の本当のスキルが見えるようにしていますので。」


 そう言うと、ナヴィス殿、サラ、エフィが俺を≪鑑定≫する。


 そして…。


 ぽかんと口を開けて空中を見つめながら首を前後に動かしていた。


 何の共通性のない4人が同じ動作を繰り返している様は意外と滑稽だ。

 鑑定を持ってないライラ殿、エメルダ嬢、フォン、ベスタさんは彼らの挙動の意味が全く分からず引いていた。


 「エ、エルバード殿、以前に視た時はこんなにもなかったではありませんか!これは一体…?」


 「あれから増えました。申し訳ありませんが、増えた理由はご説明できません。」


 「増える?増えるってスキルのことですか?スキルってそんなに短期間で増えるものなのですか?」


 ライラ殿が俺とナヴィス殿の会話を聞いて首を突っ込んできた。自分が見れないから状況を知りたいみたい。


 「ライラ殿にも後で見せてあげますよ。今は占い中なので。」


 俺は口に指を当ててみんなもしゃべらないように促す。これにより、みんなの注目は占い師に集まるようになった。

 占い師は顔を赤くし言いにくそうにもじもじし出した。


 「あ、あの…。私も、これほどのスキルを保有する人を、見たことが…ありません。まず、≪鑑定≫で視えたスキルの大半が…知らないものばかり…すいません、視ておいて言うのもなんですが、ちょっと占いの結果とどう絡めてよいかもわからなくて…。」


 占い師は、言いながらドンドン顔を赤くしていった。


 「…そうでしょうね。かまいませんよ、誰にも喋らなければ。」


 俺はニヤニヤしながらフォローしておく。俺自身はみんなが予想通りの反応だったので満足だった。


 「で、では気を取り直して…。」


 占い師は目を閉じる。彼女の額に光が浮き上がった。


 「これは、相手の周辺に残存する魔力を視るための“魔眼”です。これでエルバード様がこれまでされてきたことから、過去を知り、未来を予想します。」


 そう言って、黙り込んで額の光に集中し出した。

 彼女の表情が変わる。ときに険しくなり、ときに考え込み、ときに嫌そうにする。いったい、何が視えているのだろう?


 「エルバード様、質問させてください。30日ほど前に突然魔力の質が変わっています。何か、別の人と入れ替わったような…。何か該当することはありましたか?」


 ナヴィス殿とサラが俺を見る。そのころを知っているのはこの2人だけで、しかも直接見たわけではない。


 「…あります。細かいとこまではここでは言えませんが、その日以前の記憶を俺は失いました。…できればそれより以前を視て頂ければ。」


 占い師は眉間に皺を寄せ、何やら力を込めた。額の輝きが増す。


 「残存した魔力から感じたものをそのまま言います。」


 占い師が目を閉じたまま言葉を発した。全員が黙り込んで占い師の声に集中した。


 「…力任せに木々を振り払っています。その前は塩分を感じる水に浸かっています。その前は…木、土、火に触れることを繰り返しているようです。土に含まれる魔力の質から…六ノ島だと思われますが…。」


 そこまで言って、彼女の額の光が消えた。彼女はかなりの魔力を消費したのか、肩で息をしている。


 「どうですか?思い当たる節はありましたか?」


 「…まったくありません。…ですが、非常に興味深い内容です。」


 「…もう一つ、ここ最近になって、とてつもなく強大な魔力を持つ者と接触されているようですが…それも1人ではなく、何人もの…。」


 「申し訳ありません、今はお答えできません。」


 俺は占い師の言葉を遮った。


 「…大きな秘密を抱えておられるようですね。これ以上の詮索は私の命にもかかわるでしょうか。…もう一つのほうにいきましょうか。」


 俺は頭を下げる。


 「そうして頂けると助かります。」


 彼女の能力は恐ろしい。占いなんて代物じゃない。わずかに残る痕跡を見つけ分析する能力。前世のテレビで、僅かな痕跡と推論で証拠を集め、事件を解決しているドラマを見た記憶があるが、それと同じだ。

 彼女はそうして収集した過去の情報と現状から未来を予測し、回避する方法やより確実にする方法を導き出して相手に教えるということをしているのだ。…と≪思考並列化≫と≪情報整理≫が言っている。


 「では、この紫の剣、ですが。」


 占い師は剣を取った。目を閉じ、額を輝かせる。こちらはすぐに終わった。


 「これは、何かの封印を解くための鍵のようですね。それとこの柄の封印は初めて見ます。」


 占い師の鑑定は終わった。

 誰も何も言わない。俺が何かを言うのを待っているという感じだ。


 「ありがとうございます。かなり消化不良だとは思いますが、貴女の能力は本物であると確信は出来ました。できれば今ここで見たモノは他言無用でお願いします。」


 「…私は信用が一番の商売です。ご安心ください。」


 占い師のこの一礼でもって全てが終了した。






 教会を出た全員が、俺以外微妙な表情をしていた。サラまでがチラチラと俺を視て何かを言いたそうにしている。非情に居心地が悪い。なんだよ、今日はマグナールが『自由を奪われた日』だろう?もっと盛り上がっていこうじゃないの?


 「え…と、今日は勘弁してください。俺自身も混乱しているんです。それに全部理解しているわけでもないですし…。とにかく、今日見た“エルバードの体の秘密”のことは一旦忘れて頂ければ…。」


 マグナールが俺の肩に手を置いた。


 「なあ。お前無理はしてないよな?」


 心配そうに俺の顔を覗き込む。


 「…マグナール。俺はエイミーに心配してもらいた…ぐはっ!!」


 マグナールの鉄拳が飛んできた。さ、最後まで言わせてくれよ。



 バジル商館に戻り、今後について確認する。


 まず、マグナールとエイミーは今日でもって私設傭兵団を退団。ハーランディア島のヤーボ村に移住する。

 理由は2つ。1つはその村ならエイミーのことを誰も知らない。もう1つは開拓支援。2人はベルド領兵団の一員となり、島の中央を開拓し人口増加、食糧増加事業に従事する。傭兵として最前線からは遠ざかることになるが、≪念話≫を持つエイミーと島の地理に精通しているマグナールにしてはやりがいのある仕事に違いない。

 そして俺は、自己主張の激しい混成軍団を率いて二ノ島への護衛任務に就く。帰ってきたらナヴィス殿と王都へ行く。その後は三ノ島、と予定が組まれた。もちろん任務の合間は“鎧の算術士”としての仕事をしなければならない。休みはありません。

 エメルダ嬢は、二ノ島までは俺に同行するが、その後は要検討になった。流石に王都では顔が知れているので問題になるかもしれないので、伯爵と相談するそうだ。


 仕事先がバラバラになるので、今日は全員で飲みましょうとライラ殿の提案で食事会が開かれた。場所はライラ殿の経営する宿の会議室を借り切って行うことになった。


 出席者は、ライラ殿、ナヴィス殿、マグナール、エイミー、ベスタさん、エメルダ嬢、サラ、フォン、エフィ、ベラ。酒はまた俺とマグナールでお金を出して持ち込んだ。


 「サラ、今日は飲ませないからな。フォン、エメルダのことは任せた。エフィ、ベラに作法を教えろ、ベラ!漏らす前にエフィに言えよ!」


 俺は前回の事があるので、事前にみんなに注意しておく。今回は俺、みんなの事が気になって楽しめないかもしれない。

 それでもライラ殿の挨拶で食事会は始まった。





 そして……。





 サラはナヴィス殿とマグナールの挟撃に遭い撃沈。


 エメルダとフォンは何故か飲み比べを2人で始めてしまい両者相撃ち。


 エフィは早々に眠気に負け撤退。


 ベラは最後に飲ませたコップ一杯の葡萄酒で轟沈してしまった。





 …前回より、酷い。




 見ると、ナヴィス殿とマグナールがこの状況をどうするのか期待込めてニヤニヤしてる。その横でベスタさんとエイミーがぺこぺこ頭を下げている。

 俺はしぶしぶ一人ずつ部屋に運んだ。


 サラを抱きかかえ、ご主人様スキスキビームをかわしつつ、俺の部屋へ。

 エフィが俺のベッドに寝ていたので鼻に豆を詰め込んで奴隷用の寝室へ。

 エメルダ嬢を背負い、何故かガンガン頭を叩かれるのを我慢しながら彼女の部屋へ。

 フォンを抱え上げ、艶めかしく絡んでくる舌を抑え込み、エメルダ嬢の部屋へ。

 最後に服を脱ぎ始めていたベラを抑え込んで俺の部屋へ連れて行った。


 戻ってきたら、ライラ殿だけになっていた。残っていた葡萄酒を飲んでいた。


 「ナヴィス殿もマグナールも帰られましたか。」


 俺はライラ殿の正面に座り直し、適当にコップを取って酒を注ぐ。


 「…楽しそうに帰っていきましたよ。それにしても…あんなに奴隷らしくない奴隷は…初めて見ました。」


 「逆に普通の奴隷がどういうものかがわかりません。」


 「…エイミーも最初は自分の境遇に悲観していたのですがね。マグナール殿にも感謝します。師匠が言っておられました。“ようやく、奴隷たちの未来を託せる人物に出会うた”と…。」


 「俺はそんなにできた人間じゃありませんよ。」


 ライラ殿は残った酒を一気に煽りコップを置いた。


 「ふぅ。二ノ島では頼りにしてますよ。あの島に暮らす獣人たちは気性が荒い者もたくさんいますからね。」


 「ご期待に沿えるよう努力いたします。…そうだ、二ノ島には【十二宮の宿】はございますか?」


 俺の唐突の質問にライラ殿は小首をかしげた。


 「?ありますが、それがどうかしたのですか?」


 「二ノ島での滞在場所をそこにすることはできますか?実は、十二宮の支配人とは懇意にしておりまして…。」


 「へぇ。確かに【十二宮の宿】は設備がいいと弟子たちも評判でしたが少々お高いですよ。いくらか工面して頂けるのなら手配しますが。」


 「ありがとうございます。この理由は旅の途中にでもご説明しますので。」


 わかりました、と会釈しライラ殿は館のほうへ帰って行った。

 よし、これで新たな転移陣を用意できる。支配人との連絡も取りやすくなるだろう。でも俺も眠い。あとは明日になってから準備しよう。

 俺は自分の部屋に戻りベッドにもぐりこんだ。






 真夜中…。


 寝室の扉が開く音がした。≪気配察知≫で誰なのかはわかっていたが、気づかないふりで様子を伺う。


 「…エル。」


 ベッドの前までやって来て俺を呼んだ。


 「なんだ?」


 俺が返事したことに驚き、全身をビクつかせた。


 「な、なんだ起きてたのか。」


 「なんだはないだろう。勝手に寝室に入ってきて…。夜這いなら間に合ってるぞ。」


 「バ!…。」


 大声を出そうとして慌てて口をふさぐ。俺はニヤニヤして椅子を勧めた。彼女は俺を睨みながらも椅子に座った。


 「それで、なんの用なんですかエメルダ様。」


 深夜に俺の寝室に来たのはエメルダ嬢。フォンと一緒に酔いつぶれてベッドに寝かしつけたのに、何かを思い詰めてここへ来たようだ。


 「私は…お前に謝らなければならないことがある。」


 恐る恐る、という口調でエメルダ嬢は話し始めた。


 「親の手前、ああは言ったものの…本当は、もっと…。もっと、エルの側に居たかったのだ。」




 突然の告白。俺は何て返事していいかわからない。


 「お前といると、私は貴族であることを忘れられる。それどころか心が……心がすごく高まっていく。逆にエルが側にいない時はすごく寂しく…感じてしまう。」


 俺は無言で真剣に聞いている。だが心の中ではテンパっていた。


 ちょっとこのままなし崩し的にコトが起こるのはまずいんだ。


 そんな俺の内情には気づかずエメルダ嬢は話を続ける。


 「だから、この宿に来てからこの気持ちが一体なんなのか、フォンに…聞いてみたのだ。」


 そうか、初日にフォンを受け持つことを喜んでいたのはこれが理由だったのか。


 「フォンはなんて言った?」


 「…奴隷の私が言えることはないと。ただ…。自分の気持ちには正直になるほうがいいと言われた。私はあの子らしいと思い、そう思えるのが羨ましかった。」


 おれもそう思う。いかにもフォンらしいアドバイスだ。


 「それから毎晩フォンと楽しく会話し、一緒に寝た。」


 ぶはっ!



 え!?百合?そっちの告白?カミングアウト!?



 「か、勘違いするなよ!フォンはお前の奴隷なのに、勝手にベッドで寝かせたこと、それをご主人様には黙っているように言ったことが後ろめたくなって…。」


 …そっちか。よ、よかった。


 「フォンのことは怒らないでやってほしい。」


 「なにをだ?俺に黙っていたことをか?それはエメルダを慮ってなんだから俺は何も言わないぞ。」


 「そ、そうか…。すまぬ。」


 エメルダ嬢は肩をすぼめて小さくなった。

 「エメルダ。俺は生きる目的を見つけて欲しいと言っただけだ。どうやって見つけるかは君次第だ。フォンが言った“自分に正直に”でもかまわない。自分で決断することが重要なんだから。」


 エメルダは俺をチラチラと見ながらも考え込んだ。


 「私が一緒にいても…いいのか?」


 「俺はエメルダが邪魔だと思ったことは一度もない。」


 少し嬉しそうな顔で肯いている。何度も何度も肯いている。


 エメルダはたぶん俺に恋をしている。でも今まで恋をしたことがないから、自分の中にあるもやもやっとした感情が何なのかわからないのだろう。そういう時は自分に正直になって行動すればいいと思う。


 エメルダ嬢が俺に顔を近づけてきた。


 これは…あれだ。勢いで口づけしようしてると思う。相手が普通の女の子であればドンと来い!なんだが。



 伯爵の顔がちらつく。



 「エメルダ。俺もお前に謝らなければならないことがある。」


 顔を近づけるエメルダ嬢に声を掛ける。エメルダ嬢は真っ赤な顔をしてまま、動きを止めた。


 「ん?どうしたのだ?」


 「実は…ここにベラがいる。」


 俺は掛け布団を少し剥がした。そこには裸で俺を抱き枕のようにして幸せそうに寝息をたてるベラがいた。


 エメルダ嬢の顔がゆがんだ。目には怒りの炎もちらついている。


 「怒らないでくれ。彼女は何年もの間冷たい鉄の檻の中で寝起きしていたのだ。この温もりは本当に心地よいものだったのだろう。この寝顔を見たら…起こせなくなってしまった。」


 エメルダ嬢の顔は歪んだままだ。怒りはまだ収まっていないが、この怒りをどこにぶつけていいのかわからず、目が泳いでいる。

 ベラが寝息を大きく立てて自分の体制を整えた。俺の体にぴったりとくっつけた。


 エメルダ嬢の顔からふっと力が抜けた。


 「…確かに、この寝顔では起こせないな…。」


 エメルダは手を伸ばし、布団をそっとかける。そしてそのまま体を俺の方に倒して…俺に口づけした。






 してやられた。



 油断したよ。




 伯爵様には黙っておかないと。



主人公の奴隷たちはお酒に弱いのか、これを機にご主人様といちゃつこうとかんがえているのか、食事会をするとこんな結果になります。

たぶん、この先もあるでしょう。

あと、エフィの鼻は大丈夫なんでしょうか。

エメルダ嬢も自分の気持ちを持て余し始めました。

主人公は本当に大変です。まさに『自己主張の激しい混成部隊』なのですから。


次話はようやく二ノ島に行きます。…本当に行きます。


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