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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第四章◆ 無情の竜人少女
51/126

3 前途多難


 「あなた様は、いったい……。」



 全てをやり終えて、汗を拭ってへたり込んでいる俺にベラは問いかけてきた。

 俺は笑顔を返したが質問には答えず、彼女の様子を確認した。


 「指は動かせるか?」


 俺に言われてベラは自分の手のひらに視線を落とす。かすかに指がぴくぴく動いている。だがそれ以上の動きはない。


 「そりゃまぁそうか。何年も動かせない状態だったんだ。リハビリしないと。」


 ベラは小首を傾げた。


 「りは…びり?」


 そうか、こっちの世界にはない言葉か。


 「ああ。元通りに動かせるよう訓練することだよ。」


 ベラの手を取り、指先をつつく。


 「俺が触っているのがわかる?」


 ベラはじっと触られている指を見つめている。


 「…はい、感じます。」


 うん、これならリハビリすれば何とかなるかも。後はライラ殿と交渉して俺の奴隷にしよう。


 「ライラ殿、彼女を譲ってください。お金は…ちゃんと用意します。」


 俺は頭を下げて頼み込んだ。ライラ殿は何やら考え込んでいる。


 「…お金は要りません。そのかわり、私に…」


 「費用は金貨65枚です。手続き料込みです。エルバード殿なら払える額ですよね。」


 途中からナヴィス殿が横やりを入れて金額を提示した。


 「ライラさん、彼は私の部下です。勝手に貸しを作らないでください。」


 その言葉を聞いたライラ殿はキッと師匠を睨んだ。


 「師匠ずるいです!こんな素晴らしい人材を独り占めするなんて!」


 「独り占めしてませんよ。昨日までは散々ヤグナーン伯爵に取られていたのですから、まだ全然働いてもらってません。これ以上私以外の仕事はさせませんよ。」


 なんか、言い合いを始めてしまった。しかもだんだんと白熱してる。

 俺はベラを抱き上げ、≪超隠密行動≫を使ってこの場を去って自分の部屋に戻る。戻ってきては、サラ、フォン、エフィ、ベスタさん、エメルダ嬢を順に連れ出して言い争う2人を残して自分の部屋に戻った。


 決着が着くまでゆっくり待っていよう。どうせ俺は雇われた側だ。どういう結果になろうが働く時間は変わらない。


 俺はサラとフォンに裸のベラを何とかするように指示して、エフィを呼んだ。


 「…お菓子は?」


 「食べた。」


 「3枚とも?」


 「うん。……いでぃでぃでぃでぃ!!」


 俺は両手で頬を摘んでエフィを持ち上げた。エフィは慌てて俺の腕を掴みちょっとでも痛みを和らげようともがく。


 「あれは、3人で食べるようにお前に渡したんだ!なんで1人で全部食べるんだ!」


 「ごへんらさい!うぉたうぇわせんがら、おろじでぐだらい!」


 通称“ぶわわ目”をして足をばたつかせる。やっぱ、こいつはある意味期待を裏切らない。

 エメルダ嬢もエフィを見て腹を抱えて笑っていた。




 「そういや、エメルダはマグナールと面識あるのか?」


 「あるぞ。何度かあ奴の護衛で狩りに行ったことがあるからな。」


 「…あいつへの説明、任せていいか?」


 「…エルに任せたら中途半端にしか言わんじゃろ?自分で説明する。」


 「…じゃあ、頼む。あいつ今奴隷商のほうに到着したとこだ。迎えに行ってくれ。」


 俺は常に≪気配察知≫を発動させている。こんなことできるのは俺だけだろうが、そのおかげで、俺の周囲の動向は常に把握できていた。今、商館の入り口にマグナールとエイミーの2つの赤い点が到着したところだ。俺はエメルダ嬢を迎えに行かせた。マグナールがエメルダ嬢を見てどう思うか楽しみだよ。



 2人の商人が戻って来るのを待っている間にベラの衣服を取りあえず整えた。黒い貞操帯は脱がせて普通の下着に替え、フォンの予備の服を着せた。まだ自分では何もできない為サラとフォンが行い、着換えが終わると俺が抱き上げて椅子に座らせた。エフィがベラの髪を梳いてあげている。


 「…まるで人形のようですね。」


 彼女の様子を見たサラが呟いた。サラを見ると悲しそうな、悔しそうな目をベラに向けている。


 「サラ、彼女は生きているんだよ。」


 「…わかっています。…ご主人様、なんとかできないものでしょうか。」


 そう言われてもな。見る限り彼女は『完全に』心を閉ざしている。俺もどう接していいかまだ分かっていないんだ。


 「サラ、彼女には時間が必要かも知れん。いろいろと面倒を見てやってくれ。」


 サラは俺の顔を見て表情を確認すると、ニコリとほほ笑んで、「畏まりました」と答えた。




 エメルダ嬢がマグナールとエイミーを伴って戻ってきた。マグナールは開口一番に俺を部屋の隅に連れてって小声で話す。


 「…お前、貴族になるつもりか?」


 マグナールは俺の事をエメルダ・ヤグナーンの婿候補だと思っているようだ。エメルダ嬢はどういう説明をしたんだ?


 「どう解釈したのか知らんが、俺は伯爵様からお預かりしているだけだからな。」


 俺の意思を示して注意しておく。


 それから右手を差し出した。マグナールが俺と右手を交互にみて、右手を差し出した。瞬間に俺は左手に置き換える。一瞬だけマグナールは固まったが、手を入れ替えて左手を差し出す。その瞬間に俺は右手に置き換えた。

 マグナールは差し出した左手を握りこんでそのまま俺の腹に思いっきり打ち込んだ。


 「ぐほぉ!」


 「二度目はマジで腹が立つ!」


 そう言いながらも、俺たちが初めて出会った時と同じ挨拶だったのがうれしいようだ。エイミーもマグナールの後ろから顔を出し、丁寧なお辞儀をした。



 しばし和やかな談笑。



 互いに情報交換をしたり、初対面なので自己紹介をしたり。サラが一所懸命エフィとベラの世話をしている。フォンの時もそうだったが面倒見がいいよな。今まで自分が常に一番年下だったから、妹ができるのがうれしいのかもしれんな。

 穏やかな表情で俺は自分たちの奴隷を眺めていた。



 しばらくしてようやくナヴィス殿とライラ殿が戻ってきた。なんかギスギスしている感じがするが。


 「エルバード殿。エイミーの結婚式が終わったら“二ノ島”に行ってもらいます。」


 突然の話で、俺には分からなかった。


 「ライラ殿との交渉でベラの契約金額は金貨25枚となりました。そのかわり、ライラ殿の出張に護衛として行ってもらいます。私も二ノ島には用事がいくつかありますので、全部代行して来て下さい。」


 ナヴィス殿が簡単に説明する。ライラはこれを補足した。


 「エルバード殿、エイミーの件が終われば、私と一緒に奴隷運搬の護衛をお願いします。10日ほどかかると思います。」


 お互いに手持ちの仕事で行先が重複している場所での仕事を同時にやらせることで落としどころをつけたという感じだな。なんか嫌な感じだが、雇われている以上仕方がないか。

 俺はナヴィス殿とライラ殿の依頼を了承した。


 ライラ殿はその足でエイミーに駆け寄った。何も言わずにエイミーを抱きしめた。


 「…姉様(あねさま)。」


 エイミーは薄っすらと涙を浮かべた。ライラ殿はエイミーの胸にしがみ付いて声を押し殺して泣いている。


 「ライラ殿は、先代がご存命のときからずっと年の若い奴隷たちの面倒を見て来てたんだ。我が子のことのようにうれしいんだろ?」


 隣にいたマグナールが光景を説明する。


 「…マグナール。ナヴィス殿もライラ殿も此度の主人公はエイミーと思っているようだな。」


 「…それでいいさ。」


 マグナールはしみじみと答える。…くそう、幸せそうだ。




 一同は全員でまた商館に戻った。

 まず、ベラの契約を済ませる。手順はナヴィス殿がフォンやエフィに行ったのと同じだった。使役範囲は観賞用から全てに変更している。特に問題もなく手続きは終わった。

 そしてエイミーの番。今日は売り元の変更手続きまで。エイミーの首輪への作業は直ぐに終わるが、手続き資料を領代館に提出しなければならない。


 どこの世界でもお役所手続きは面倒なんだなと感じる。


 今日できることは一旦終わったので解散となった。早速マグナールが誘って来た。


 「なら、俺の部屋に来いよ。あまり他人に聞かれたくない会話もあるんでな。」


 俺の返事ににマグナールは肯き、一旦別れた。


 部屋に戻ってひとまずくつろぐ。


 サラとフォンがベラを椅子に座らせ衣服の乱れを整えている。エフィは食べ物がどこかにないか室内を物色している。エメルダ嬢がソファに座って本を読み始めた。


 俺はエメルダ嬢の正面に立つ。


 「なんでこっちの部屋でくつろいでんの?あなたの部屋は隣じゃない!?」


 突然怒鳴られてエメルダ嬢はビクついた。


 「い、いや…なんかつい。」


 「…まったく。寝るときは自分の部屋を使えよ。」


 「そ、それは、当然だ!」


 エメルダ嬢はなぜか顔を赤くして答える。俺は荒い鼻息をひとつしてエメルダ嬢の向かいに座った。


 簡単に今後の事を考える。


 ベラを奴隷にしたことによって、俺が養わなければならない人間が4人になった。さらにエメルダ嬢も伯爵様からの援助は全て断っているが彼女の稼ぎだけでやっていけるものでもなく、俺がいくらか負担する必要がある。今まで通りナヴィス殿からの依頼を受けるだけの稼ぎでは赤字になる。

 俺は前世の知識を用いての副業を考えていた。

 一つは飛脚便。まだ検討の余地があるが、≪空間転移陣≫と≪異空間倉庫≫を使っての大量輸送事業の構築。完成すれば莫大な利益を生むことができるが、いろいろと問題もあるので、一旦は保留。

 次に干し肉の加工・販売事業。前世の知識で干し肉を加工せればよりおいしいものが提供絵できると考えている。

 このほかに、≪魔力修復≫を使った修理屋、≪水質判定≫≪土壌変化≫を使った開拓支援事業など、いくつかを考えている。だが干し肉加工以外は俺がいないと成り立たないものばかりなので干し肉加工を最有力候補として考えることにした。


 後はベラの処遇だ。


 このままでは、まともに歩行ができず、お荷物奴隷になってしまう。何とか自分の足で歩けるようになってもらいたいのだが。


 俺はベラの前に椅子を移動させて座った。ベラは俺に顔を向けて会釈をする。余所余所しいのがちょっと悲しい。


 「ベラ、これからいくつか質問する。正直に答えてくれ。また、答えたくない質問の場合は、これも正直に答えられないと言ってくれ。」


 「…はい。」


 俺は質問を始めた。


 「出身はどこだ?」


 「五ノ島です。」


 五ノ島…竜人の島か。確かサラの説明では、あの島は部族ごとに村を形成して生活しているって言ってたな。


 「部族名は?」


 「小竜族です。あたい達竜人族は名前に部族名を冠しています。」


 確かにベラの名前は“ショウリュウ”だったな。小竜族についてはサラとエメルダ嬢に調べてもらおう。


 「いつ、どうして奴隷になった?」


 「…8年前に、部族同士の争いであたいの部族が負けました。」


 「相手の部族の名前は?」


 「…言えません。」


 ベラに初めて表情が見えた。それは恐怖に怯える目。彼女が抱えている闇はこのあたりにあるか。


 「…貞操帯もその時につけられたのか?」


 「……はい。」


 「8年前からずっと着けていたのか?じゃ…えっと、おおお、おしっことかは?」


 「ずっと檻の中でしたので…その場でそのまま…。」


 あの檻の中の糞尿の匂いは彼女自身のものだったのか。それにしてもこの質問に対しては恥じらいもなく答えられるのか。


 「質問を変えようか。ベラの親兄弟はいるのか?」


 「……。」


 ベラの表情が変わる。やはりこのへんの質問に対しては心がゆれるのか。


 「答えられないならそれでいい。これまでどんな食事を与えられていた?」


 「食事…。水と塩とパンを頂いておりました。」


 ひどい食事だなぁ。完全に栄養失調だな。しばらくは彼女専用の食事を用意しなければ。…あ~こんな時お米があればとつくづく思うよ。





 …ぽたぽたぽたぽたぽた………。





 …?なんの音?


 俺は辺りを見回した。ベラの座っている椅子の下に水たまりができている。


 「うわぁあああ!」


 俺は大声を出してしまった。全員が俺に注目する。


 「エメルダ!フロントでタオルを貰って来てくれ!」


 エメルダ嬢が状況を理解して部屋を飛び出す。


 「フォン!着替えだ!」


 フォンが慌てて着替えを取りに行く。


 「ベラ!何してんの!?お手洗いに行きたいなら誰かに言えばいいのに!」


 ベラはきょとんとした顔をしている。みんなが慌てている理由がわからないようだ。


 着替えを持ってきたフォンがベラを担ぎ上げて寝室に連れて行き、エフィが慌ててついていった。


 サラがその様子を見て俺に話しかける。


 「…ご主人様、ベラには文字通りの躾が必要と思います。恐らく彼女はお手洗いそのものを理解していないような…。」


 俺はサラを見た。確かに彼女の態度はそんな雰囲気だった。考えてみれば8年前からずっと檻の中で生きてきたんだ。生活習慣自体から教え込まなければいけないかもしれない。


 「サラ、彼女に何を教え込まなければいけないか考えといてくれ。」


 「はい、ご主人様。」


 サラはにこやかに答える。


 これはゆゆしき問題だ。

 俺たちには当たり前と思っている事が彼女には知識として備わっていない可能性がある。しかも、それがなんなのか今の時点では見当がつかない。

 ナヴィス殿にも相談しよう。





 …ん?


 何かが…おかしい。


 今この場には俺とサラしかいない。


 エメルダ嬢は外へ行った。フォンとエフィがベラの着替え…。



 おい!フォンとエフィ(・・・・・・・)!あの2人を一緒にしたら!






 「ぎぃゃぁああああああ!」






 寝室からエフィの叫び声が聞こえた。


 俺は条件反射的に寝室へと飛び込む!


 「フォン!待て!早まるな!」





 超至近距離で弓矢を構えるフォンと、矢が飛ばないように自分の手で押さえつけているエフィの姿がそこにあった。ベラは床に捨て置かれていた。


 俺は2人に近づき、弓矢を取り上げてフォンを抱え込む。


 「エフィ、すまない。フォン!目を覚ませ!」


 サラが追いかけてきてベラを抱き起す。


 「…い、一体何が…?」


 ベラは状況が全く分からず呆然としていた。


 「サラ、ベラに怪我は?」


 「え…と、ないようです。」


 「エル、悪かった。妾が思わずフォンについて行ったから…」


 確かにそうなんだが、エフィを責めることはできない…。







 …こんな状態で、俺は二ノ島への護衛任務が務まるのだろうか。



主人公は現状を鑑み、ため息をついています。

ちょっと無計画に奴隷を増やしてしまったと考えているようです。

でも、そこは主人公。ちゃんとしてくれるでしょう。


次話ではエイミーの結婚と獣人の島への上陸の話です。

…上陸まで書くと思います。たぶん。


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