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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第三章◆ 孤独の耳長少女
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16 はぐれエルフのエフィ

ついに三章、完結です。


 ヴァルムントを出発する朝。


 俺たちは『雨の地』を通ってカルタノオに戻る。


 マグナールの結婚式が待っている。





 なのに…。




 伯爵様の前で、俺は不機嫌な顔を見せている。




 「エルバードよ。」


 「…はい。」


 身分の高い者からの呼びかけにも関わらずぶっきらぼうな返事をする。


 「貴公は『自分で悩んで考えて出した答えが過ちを向いたものであっても…俺はお手伝いをするつもりでいます。』って言ったじゃないか?」


 「…言いました。だから腹を立てているのです。」


 そう、伯爵にそう約束した。まさかこんな答えを出すなんて思ってなかったもん。


 「約束はお守りします。ですがこちらからも条件がございます。」


 伯爵がやや身を乗り出した。俺が言う条件に何かしらの期待を込めた顔をしている。全くとんでもない親だ。聞けば13才の長男も王都に一人で修業に行かせているとか。


 「…1つ、俺と同行している間はエメルダ様を一介の傭兵として扱います。よって敬語も使いません。」


 伯爵はうんうんと肯く。


 「2つ、伯爵様からのご援助は全てお断りいたします。」


 伯爵はうんうんと肯く。


 「3つ、エメルダ様がヤグナーン伯爵家の娘としての目的を見つけるまでお返しいたしません。」


 その言葉で伯爵の動きがぴたりと止まる。何かしらの思案をしている。徐々に顔から怒気が現れる。


 「…貴様。…見たのか?」


 いつもとは違う低い声。怒りを押し殺している。


 「…見ました。」


 伯爵が俺に歩み寄る。俺を睨み付ける。エメルダ嬢が後ろで狼狽えている。


 「…何をした?」


 迫力のある顔を近づけ、更に睨み付け脅しをかけるように言う。内心ではかなりビビってる。


 「…何も。エメルダ様から、あの傷についてご自分の悩みや憤りや苦しみを全てぶちまけられました。…顔がパンパンに腫れましたよ。」


 俺の答えは意外だったのか、怒りの感情が一瞬にして消え失せた。振り向いて娘の顔を見る。エメルダ嬢はバツの悪い顔をしている。


 「ち、父上。彼が私の傷を見たのは事故です。ですがこの傷から……私の苦しんでいることを悟りました。エフィルディス姫のこともそうです。恐らく他の二人の奴隷の事も理解しているのでしょう。だから…だから、私はそんな彼から、何かを…学びたいと思っております。」


 そう言うことか。俺はただ目の前のことに必死なだけなんだけどな。…わかった。ひと肌ぬいでやろう。

 だが、伯爵が彼女の言葉で気にしたところは違っていた。伯爵はもう一度俺に向き直り再び睨みつけた。


 「貴公、どこまで見た?」


 「ベッドで一糸まとわぬ…」


 バシィ!


 伯爵のグーパンチが俺の頬を打った。


 「……エルバードよ、私は伯爵として貴公を高く評価している。…しているが、やはり親としては今の発言は我慢できん。今の一発は許せ。」


 俺はワザとあんな発言をした。そうして一度伯爵様に爆発して頂かないとわだかまりができてしまうかもって思ったから。結果、伯爵様は堪えきれず俺を殴った。


 「いえ、私の方こそ申し訳ありません。」

 俺は膝をついて謝る。伯爵は俺を立たせて首を振った。


 「この先、一緒に行動する以上、そういう事故はあるのだろうな。…でも勢いに任せた過ちだけは…絶対に許さんぞ。いいな。」


 俺は伯爵様から一線は越えるなよと釘を刺されたんだが……なんか、フラグを立てられた気がする。


 ともかく、エメルダ嬢の一件は一応決着となった。あとはナヴィス殿に顛末をご報告し、俺の部下ということで私設傭兵団に入ってもらう。





 次はコスプレ支配人だ。


 この街を出る前にいくつか情報交換と約束を取り付けておかねば。俺はエフィを連れて【双魚宮】に戻る。出かける直前の支配人を呼び止め、いくつかの話をする。


 まず【白羊宮】の場所。これは四ノ島にあるという。たしか半神族の島…。後でサラに聞こう。俺は【双児獣】【天秤獣】の居場所を【白羊獣】が知っていることを説明する。彼女は俺に聞き出すように言ってきた。当然俺もそのつもりだ。

 それから、各宿に俺の≪空間転移陣≫を作る許可を得る。

 そして、俺の手駒になったエメルダ嬢を通じての貴族との交流の可能性について提案してみる。彼女は前向きに検討してくれるようだ。支配人にとっても貴族との交流は利益があるようだ。

 最後に、宿のフロントを窓口とした宅配事業についての提案。要は≪異空間倉庫≫を利用するって案だが、これは要検討になった。何しろ長距離の輸送に耐えられるスキル持ちは俺しかいないからだ。これでは事業として成り立たないそうだ。だが俺の発想は評価された。当たり前だ。前世ではごく普通のサービスだもん。


 一通りの話を終えて【双魚宮】をあとにする。だが、彼女の名前を聞き出すのを忘れていた。こういうのって後になればなるほど聞きにくいことなんだよな。


 ま、どうにかなるか。





 カルタノオに向けて南門に一団が集まっている。その中で俺はエメルダ嬢と言い争っていた。


 「今からあなた様は傭兵のエメルダだ。エメルダ・ヤグナーンではない。だから敬語は使わない。」


 「それはいい。私も納得している。だが何故隊長までお前になるのだ?」


 元々この馬車護衛部隊の隊長はエメルダ嬢だった。しかし、エメルダが俺の部下扱いになった以上、隊長も上司である俺に代わるべきだと俺は主張している。それは承服しかねるとエメルダは反論する。元々任命されているのは私だ。それをお前が勝手に変更するのはおかしいと主張する。さっきからこれを繰り返していた。

 周りの傭兵たちは呆れている。馬車の主である伯爵も呆れている。


 「…エルバード、伯爵の権限で貴公を隊長に任命する。エメルダ、よいか?」


 伯爵は面倒くさそうに自分の権限を使って事を収めた。


 「そんな!?父上!」


 「父上ではない!…伯爵だ。」


 ぴしゃりと言われて黙り込むエメルダ嬢。これで頼れる者がいなくなったぞ。


 「くっ……わかった。」


 反論する術を失いようやく、隊長を認めた。


 「では、隊長命令。エメルダ、自分の馬は空馬にして、御者に就いて。君に馬車の操作を覚えて欲しいんだ。」


 エメルダ嬢は前の隊長の件を引きずっているので、唇を噛みしめての「はい」という返事をする。重い足取りで馬車の御者座に着く。


 「バーバリィ、この空馬の先導を頼んでいいか?」


 バーバリィはブルンと軽く鼻をならし、エメルダ嬢の馬の手綱を咥えた。


 「あーバーバーリィは誰かさんと違って聞き分けのよい子で助かるなー」


 俺はわかりやすく嫌味を言う。御者座の上でエメルダの持つ手綱が震えている。


 「フフッ、エメルダも貴公程度の男を軽くあしらえるようになってくれたらよいのだがな。」


 「なんとなく引っ掛かりのある言い方ではございますが、同感です。」


 俺と伯爵との和やかな談笑の脇でエメルダ嬢は悔しさを噛みしめて手綱を震わせていた。





 一団はヴァルムントを出発した。南門から『雨の地』に入り丸一日かけて南下する。先頭部隊は珍しくナヴィス殿が受け持っている。二陣に伯爵の部隊が、最後尾にラッド卿の部隊が続く。俺たちは二陣の中の後ろ側に位置するところを馬車を囲んで進んでいた。


 エフィは俺と一緒にバーバリィに乗っている。奴隷用の馬車に乗っても良かったのだが、エフィの性格からして馬車の中で問題を起すかもしれないと思い伯爵の許可を得て俺の側にいさせている。

 そのエフィは朝から無口だった。ずっと何かを考えていた。だからせっかく見晴らしが良いと喜んでいた馬の背に乗ってもどこか上の空だった。


 雨は相変わらず絶え間なく降っており、防水加工の外套を着こまなければずぶぬれになる。エフィも外套を着こみ、フードを深くかぶっている。相変わらず何もしゃべらない。

 この『雨の地』は精神的にも体力的にも一番つらい道程。その途中に激しく横転し破壊された馬車が打ち捨てられている。




 俺とエフィは知っている。


 ここで彼女にまつわる激しい戦闘があったことを。




 俺とエフィは知っている。


 ここで彼女の為に命を失ったエルフがいることを。




 そして俺とエフィは知っている。


 ここが彼女にとって、“終わり”と“始まり”の場所であることを。




 既に戦闘はあの馬車に差し掛かっているだろうか。俺はそんなことを気にして遠くを見る。




 「…思い出した。」




 不意にエフィが口ずさむ。


 「どうした?」


 俺の問いかけにエフィは顔を上げ、雨に打たれるのも気にせずに答える。


 「…4人全員の名前…思い出した。」


 小声だがやや興奮気味に俺に答える。


 「ファラサール、ディニエル、アンダリエル、カレナリエンじゃ。」


 俺はにっこりとほほ笑んで雨に濡れたエフィの顔を拭った。朝から無口だったのはずっとここで命を失った者の名前を思い出していたのか。


 「よくやったエフィ。じゃあ、馬車の前を通るときにお祈りをしよう。」


 エフィは前を向き力強く肯く。



 一行は破壊され、道の脇に退けられた馬車まで来た。俺とエフィは周りに気づかれないように心中で一人ずつ名前を呼んで冥福を祈った。

 馬の足を止めることなく一行は進む。時間にして俺感覚で10秒ほどで通り過ぎていく。エフィは通り過ぎた後も目を閉じて祈っていた。


 「ここでこうやって祈るのも、単なる自己満足かもしれんな、エフィ。」


 俺はエフィに声を掛けた。


 「…それでも、妾はあの者たちの分まで生きるって決めたのじゃ。無駄ではないと思う。」


 まっとうな内容だ。それだけにエフィには似つかわしくないと俺は思う。


 「…エフィ。」


 俺の声に反応しエフィは顔を上げる。俺は何も言わずエフィの唇を塞ぐ。そして何も言わずに顔を上げ馬を進める。




 「……こんな時に…ずるいぞ。」




 騒ぐかと思ったが、出てきた言葉は胸キュン系の言葉だった。またもやエフィに似つかわしくない言葉。男はこういうギャップに弱い。

 エフィはバーバリィの背で立ち上がった。背の低いエフィでも立ち上がれば俺より顔の位置が高くなる。そして器用に腰を屈めて俺に顔を近づけ…。


 「妾は“はぐれエルフ”のエフィじゃ。エルの…エルバード様の奴隷なのじゃ。」


 今度はエフィのほうが俺の唇を塞いだ。




 『雨』が降り続け白い靄が俺たちを包んでいた。


 エフィ、お前は今はもう、孤独じゃないんだからな。





三章:完


ようやく三章を書き上げました。

GWはさぼりました。すみません。

明日から四章を書いていきます。


次話では1話目からヒロインが登場します。


ご意見、ご感想を頂ければ幸いです。

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