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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第三章◆ 孤独の耳長少女
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11 ハウグスポーリ



 ヴァルムントの市が始まった。



 早朝から、あちこちの露店が活気に満ちた掛け声を上げており、通り沿いには行き交う人で溢れかえっていた。

 ナヴィス殿も朝から、様々な要人と商談を行う予定で、たくさんの弟子があちこちと走り回っていた。今日だけで大きな取引が4件も予定されている。

 俺は、ナヴィス殿の隣で商品の受渡しや受取りの補佐を行い、商談の合間にはナヴィス殿の弟子が買った商品を運搬役として受け取りにあちこちの店を回らなければいけない。


 昼間は俺の護衛役としてエメルダ嬢がずっとそばにいた。夜になるとエメルダ嬢は伯爵に呼ばれて、様々な晩餐会に出席するので、宿に戻るのは夜遅くなると言われる。


 「夕飯は要らないから。」


 そう言ってエメルダ嬢は伯爵の待つ宿へ行ってしまった。



 …なんか俺、家庭を守る“主夫”でエメルダ嬢がバリバリのキャリアウーマン見たいな感じがした。


 ホントは俺の方が働いてんだけどな。




 【双魚宮】に戻ってきた俺は全員でヤグナーンの俺の家に転移してから、食事を準備する。今日の食事当番はサラとベスタさんで、ワニの肉を煮込んだシチューを作っていた。鰐肉は、この世界ではそこそこポピュラーな食材のようで、街で普通に入手することができる。味も鶏肉のような歯触りで淡泊なので、シチューのようなしっかりと味のついた調理を行って肉の感触を楽しむのが一般的な調理方法だった。


 俺は食事が出来上がるまでの間、きょう一日で≪異空間倉庫≫から出し入れした商品の帳簿を確認する。今日だけで100以上の商品を≪異空間倉庫≫に詰め込んでいる。だが俺の倉庫は悲鳴を上げず、俺自身に変調はない。

 普通の≪異空間倉庫≫の保持者は、自身の魔力が尽きると意識を失って、溜め込んだものをぶちまけてしまうらしい。そのため、魔力が尽きる前に一旦全て出して魔力回復を行い、回復すればまた仕舞う、これを繰り返すらしいが。


 俺は入れっぱなし。


 普通に考えれば『脅威』だそうだ。


 といっても、俺は『魔力』を感じたことがないため、どうしてもピンとこないのだ。


 だが、意外なことが分かった。

 エフィは通常の3倍の魔力を有するのだ。本来ならば、魔法に関する教育を受けてすぐれた魔術師として成長させるらしいが、≪3拍子の~≫のスキルで教育を全て断ったため、完全に宝の持ち腐れ状態だったのだ。


 恐るべし≪3拍子の~≫!






 …そして食事が終わり、また全員でヴァルムントに戻って来る。


 俺とエフィは宿の裏山で魔法の練習だ。ベスタさんはお風呂の準備。サラは簀巻きの準備である。

 明日も日中は奴隷たちを引きこもらせて俺はあちこちを這いずり回り、夜はこんな感じ。なんて単調な生活なんだろう。そして全然ヴァルムントを堪能できない。






 と、言う訳で翌日ナヴィス殿に直談判してみた。結果、1日だけ休日を貰えた。この日はみんなで市場を回れたらいいな。






 ヴァルムントでの1日が始まった。


 俺はナヴィス殿の商談で商品を預かった後、市場に散らばった弟子たちを一人一人回って購入した商品を回収していく。回収は別に問題ないのだが、店から店への移動が辛い。露店が街の中心から東西南北に伸びている為、街の端から端までを何往復もするようなものなのだ。今日はエメルダ嬢も護衛としていない為、一人である。


 …普通、代役の護衛とかつけるんじゃないの?ひょっとして、エメルダ嬢はいてもいなくても仕事ができる様になっている?

 エメルダ嬢が知ったら怒り狂うだろうなぁ。


 俺は店から店への移動の合間に気になる店を物色していた。店頭にガラクタが並べられている。

 俺はこのガラクタが並べられた露店に足を踏み入れた。当然俺のお目当ては掘り出し物である。弟の本では、こういうところで伝説の武器が見つかる、とかいった物語もあった。でもこの世界ではなかなか掘り出し物は見つからない。なぜなら≪鑑定≫で大抵はわかってしまうのだ。

 それでも俺は浪漫を求めてこのガラクタ屋で物色する。片っ端から≪鑑定≫していき、気に入るものがないか探していった。

 手前に並べられた古臭い武具から、奥に立てかけられている正体不明のものまで全て≪鑑定≫で視ていく。



 そして、見つけた。


 奥の通用口の側に無造作に置かれた巨大な斧。


 【メロペーの戦斧】


 名前の隣に制作方法がない。俺の槍と同じだ。


 「店主、あの奥の大きな斧は売り物か?」


 俺の質問に振り返ってチラッと見て、


 「売りもんだ。でかすぎて実用的でないが飾り物としてはなかなかだと思うが。」


 表面は俺の長槍と同じく金色に輝いており、長い柄の部分には美しい文様が彫られている。


 「飾りものとしては、なかなかいいな。いくらだ?」


 「金貨1枚だ!」


 その言い方からして、結構値を上げたようだが、俺からすれば想定以上に安い。だって【ステロペーの楽弓】は1000枚で買わされたんだもん。


 重そうに持ち上げる店主から斧を受け取り≪異空間倉庫≫にしまう。確かに重いが、振り回せないことはない。俺の好みではないので、使うことはないかもしれんが。


 【アルキュオネーの長槍】

 【ステロペーの楽弓】

 【メロペーの戦斧】


 似たような武器が3つ。実際に長槍を使ってわかったが、戦闘向きの武具で扱いやすかった。伝説の武具に値するかどうかは俺が槍の名人ではないため何とも言えんが、相当のものでないだろうか。


 よし、この弓はフォンにあげよう。




 だが、【ステロペーの楽弓】をフォンに渡す間もなく、事件は発生した。




 その夜、いつもの様に食後に魔法の訓練をしようとしたが≪気配察知≫に奇妙な赤い点があることに気付いた。その点は、食事のためにヤグナーンに行く前から全く位置を変えていなかった。


 「エフィ、今日の訓練は中止する。」


 俺は、まじめな顔をして小さな声で返事する。エフィは俺の顔を見てただ事ではないことを察知したようだ。


 「フォン、≪気配察知≫を。俺の部屋を監視している奴がいる。」


 「ベスタさん、今からエフィを連れてヤグナーンに行くんで、俺の自宅でエフィと一緒に隠れててください。エフィ、命令だ。ベスタさんの言うことを絶対聞くこと。」


 「フォン、見えたか?」


 「…ドワーフ。」


 「やはり。なかなか嗅覚の鋭い(ヤロー)だな。」


 俺は窓から何気なく外を見るふりをしながら、壁の隙間を利用して遠くから観察している小男を確認する。


 「フォンは奴を尾行!正体を突き止めろ。サラはエフィの外套(ローブ)を羽織ってここにいろ。」


 フォンは部屋から出て行き、俺はベスタさんとエフィを連れて一旦ヤグナーンへ移動。その間にサラは一人でエフィを演じていた。

 ヤグナーンから戻ってきた俺は、寝室で寝転んだまま動かないサラを見つけた。サラは一所懸命に白目を作って、すんごい形相を作ってベッドの上で横たわっている。




 …。サラ?ひょっとしてエフィの真似をしてるのかな?




 「サラ?エフィのつもりか、それは?」


 俺の質問に恥ずかしそうにしている。


 「い、いえ、ちょっと時間を持て余していたところにエフィのあの顔を思い出したもので…どんな感じかなってやってたら…。」


 「俺が帰って来たと。」


 コクン。


 俺はサラのローブをめくり、ズボンをずらしてお尻を丸出しにさせた。そして紫の剣を取り出して思いっきりサラのお尻を叩いた。


 「ヒンッ!」


 きれいな赤い痣が出来上がる。


 「サラ、今はふざけちゃダメ。わかった?」


 「ばい…ずびばぜん…。」






 ≪異空間倉庫≫から弓が消えた。


 フォンが俺を呼んでいる合図だ。

 俺は予めフォンの大玉に転移陣をつけておいたので、大玉に向かって≪空間転移陣≫を発動する。


 …決してふざけてない。


 移動先にいたフォンは少しびっくりしていたが、言葉は発せず、遠くにある地下へと降りる階段を指示した。

 ≪気配察知≫ではその先は全く反応がない。


 …不自然だな。


 かつて、マグナール配下の斥候部隊に尾行された時も≪気配察知≫には反応がなかった。おそらく何らかのスキルが掛かっている。そして俺やフォンが行けば探知される可能性がある。


 俺はフォンを両手で抱き上げた。可愛く悲鳴をあげるフォン。


 「いいか。今から≪超隠密行動≫を発動させて、このままあの階段へ向かっていく。もし中にいる奴らに見つかったら、その場でイチャイチャ恋人を演じるから。」


 俺の言葉に真顔で「イチャイチャ?」って反芻しながらも言ってる意味を理解したのかおもわず尻尾をブンブン振り回すフォン。



 …な、何を期待してるんだ、フォン?



 …け、決して俺はふざけてない…はずだ。



 スキルを発動させて、フォンを抱き上げたままゆっくりと階段に近づく。

 正直、半分見つかってしまうことを期待している。地下へと続く階段は小さな小屋に覆われているが入り口には扉も見張りもいない。見た目は無防備な入り口なのだ。何か罠があると思う。だが何事もなく階段に近づき、そのまま一歩、また一歩と階段を降りていけた。

 そして階段を降りきって、いくつかの間仕切りのある広間に辿り着いてしまった。広間の真ん中に何人かのドワーフと思われる人影が見えている。


 俺とフォンは顔を見合わせた。


 お、俺、どんな顔をフォンに見せてるのだろう?気持ちン中では、見つからずにここまで来たことに残念だったのだが、フォンの顔からも何故かそれが読み取れる…。

 これは…俺とフォンの間に微妙な空気が流れてた。これほど緊張感のない潜入はどうしたものだろう。

 俺はフォンに背中に移動するように合図する。フォンはするすると俺の腕から肩に跨りそのまま背中に移動してぴったりと張り付く。



 ぴったりと……。




 い、いや真剣になれ!、煩悩よ、出て行け!


 俺は何度も首を左右に振って気持ちを切り替え、奥に進む。

 歩くたびになぜか弾むフォン。≪思考並列化≫≪情報整理≫はフル稼働。

 それでもなんとか足を前に進めて広間の中央に集まったドワーフ達の声が聞こえるくらいの位置まで近づいた。

 やはり気づかれていない。≪超隠密行動≫のスキルはこれほどのものなのか?



 「…陛下へのご報告は?」


 「まだ、確たる証拠がない。これではこちらが行動すればすぐに証拠を消されてしまう。」


 「では、最初の計画通りに誘拐するしかないか。」


 「だが【双魚宮】の中には入れん。」


 「屋上からの侵入は?」


 「可能だが、≪気配拡散≫で近づかねば直ぐに見つかる。」


 「そっちに≪気配拡散≫を使うとなるとここの隠密化が切れてしまうな…。」


 ドワーフ達は作戦検討を行っているようだが、内容が俺たちのことだった。問題は誰を(・・)誘拐するつもりなのか。相手がドワーフなだけにエフィが濃厚…。


 「だが、本当にエフィルディスだったのか?これでただのはぐれエルフであれば陛下にこの遠征費用どう説明するのだ?」


 …よし、こいつらのターゲットはエフィだということが分かったぞ。後はこいつらが何者なのか…だが。


 「イーヴァルディ隊長、私の目は衰えておりません。あれは間違いなくエウレーンの姫でした。」


 「…だがエウレーン公爵が陛下に差し出した首も姫だったぞ、アルバングル。」


 二人の会話の途中で≪魂の真贋≫が自動起動した。二人の胸の位置に丸い玉が現れる。そしてアルバンクルと呼ばれた方の玉が真っ黒だった。


 俺はこのスキルが自動起動する仕組みが良くわからない。黒い玉の人物を最初に見た時は反応無いのだが、なにかしらのタイミングで起動される。そしてこういうスキルの仕組みに関しては≪情報整理≫は何も反応してくれない。背中の大玉には過剰に反応する癖に。


 俺とフォンは一旦外に出た。宿に戻り、ヤグナーンへ移動し、エフィを連れ出し、また奴らのアジトへと向かう。エフィには事前に説明した。所謂『面通し』である。

 ≪超隠密行動≫を使って至近距離でエフィに奴らの顔を見てもらうのだ。


 そして…。


 相手の正体がわかった。






 ドワーフ王アゼット。50年前に即位してからは、周辺の部族、種族との争いが絶えないが、その指導力によりドワーフ一族の地位を著しく向上させ、今や妖精族の代表として君臨している。だが、黒い噂も多くあり、国内外問わず『最も危険な人物』に挙げられていた。

その黒い噂をいろんな意味で支えているドワーフ族影の部隊、『ハウグスポーリ』。それがエフィを狙っている集団の正体だった。

 エフィはその集団の隊長であるイーヴァルディに一度だけ会ったことがあるそうだ。


 俺とエフィは相手の正体を確認して、宿に戻ってきた。エフィはあのイーヴァルディという男を見てから黙り込んでいた。

 宿に戻ってきてから、俺にあの男について語ってくれた。


 「…父上が連れて行かれる時にあの男を見たのじゃ。あの薄汚い顔は今でも忘れん。」


 エフィは拳を握りぷるぷると震わせ怒りを露わにする。


 「エフィ。どうしたい?」


 「…父上を取り戻したい。…じゃが、今はムリなのはわかっておる。」


 「確かに今徒党を組んで立ち上がれば単なる反逆者だ。取り戻すためにはドワーフ王の悪事の証拠を掴み、奴を失脚させるように仕向けることが必要だろう。今はムリだな。」


 「…そうか。」


 エフィは悔しそうに下を向く。だが意を決して顔を上げ、俺に言葉を返す。


 「じゃが、いつか…いつか必ず!」


 「ああ、わかっている。いつか必ずあいつを打倒し、お前の父上様を取り戻そう。」


 俺の言葉に力強く頷く。


 「そ、それまでは、お前のど、奴隷になってやるから。」


 そこは別に強気にならなくていいんだよ。

 俺はつるぺたの胸を反って強気に見せるエフィに顔を寄せる。エフィは鼻息を荒くして、自身の意思の硬さを主張する。


 「約束だ…。必ず助け出そう。」


 そう言って、唇を重ね合わせた。



 荒い鼻息が止まる。一気に顔を赤くする。頭の上から煙を出す。…嫌実際は出していないがそんな雰囲気を見せ、エフィは固まった。思考回路が完全に停止しているようだ。


 俺はくるりと向きを変え部屋を出る。外ではフォンが俺の槍を持って待っていた。


 「ご主人。私も…行きます。」


 俺はフォンから槍を受け取り、軽くしごく。


 「フォンはここで待ってておくれ。これはエフィの件とは別で、俺の仕事なんでね。あ、俺の言ってる意味は今はわからなくてもいいから。」


 小首をかしげるフォンを無理やり部屋に押し戻し、俺は≪超隠密行動≫を掛け≪気脈使い≫で空を駆ける。







 その夜、アルバンクルというドワーフが行方不明になった。



 『ハウグスポーリ』は今回の活動提案者であったアルバンクルが失踪したため、作戦を中断し、アジトを引き払って行った。



 俺はアルバンクルというドワーフといくつか会話をしていた。



 彼の『ハウグスポーリ』での経歴を順番に聞いていった。

 聞いていたが、特に魂が黒くなるような理由みたいなものが見つけられなかった。


 やむを得ず心臓を一突きして、黒い玉を浄化させ、遺体は丁重に葬った。






 この仕事は、……本当に嫌だ…。


主人公はとうとうエフィにも手を出しました。

エフィもまんざらではないようです。


次話はエフィの試練の回です。この章のクライマックスのつもりです。


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