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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第三章◆ 孤独の耳長少女
41/126

9 制御


 結局、夜は全員ヤグナーンの俺の家で寝た。俺だってソファで寝るのは嫌だったもん。自分のベッドがあるんだから。

 エメルダ様は前回と同じく客用の部屋で、奴隷たちは奴隷用の部屋で寝た。だが夜遅くになってフォンが寝室にやってきた。


 「どうしたフォン?」


 フォンは寝室に一歩だけ入って立ち尽くしていた。


 「…ご主人。衝動が…抑えられないかも…しれません。」


 見ると肩で息をしている。目はやや釣り上がってしまっている。俺はベッドから起き上がり、フォンを抱き寄せる。


 「ご主人…。私を…縛ってください。」






 “私を縛ってください。”






 何と背徳的な言葉なのか。



 い、いや、フォンは真剣なのだ。


 「フォン、気分転換にヴァルムントに行ってみるか?」


 俺の提案にフォンは嬉しそうに尻尾を振った。

 俺はフォンを抱いたまま、えい!と力を込めて、≪空間転移陣≫を発動させる。一瞬にして二人はヴァルムントの宿に移動した。


 「ここは俺が泊まっている【双魚宮】の部屋。屋上に行ってみようか。」


 二人で部屋を出て、屋上に上がる。この地域も風はあまりなく、ここちよいそよ風程度だ。周りは山に囲まれている。唯一南側だけが、『雨』によって視界が遮られているが、雄大な景色だ。


 「落ち着いたかフォン?」


 フォンは無言で俺に体を寄せる。フォンの必殺技『体重預け』だ。気持ちの良い重みが全身に掛かる。


 「ご主人…。一緒に寝たい。」







 “一緒に寝たい”






 俺は完全にノックアウト。


 フォンは二人きりの時はかなり積極的だ。そして“大玉”という強大な武器も携えている。俺はその場でフォンを抱き上げ「お持ち帰りです」的な感じで部屋に戻った。



 そりゃぁもう制御できませんでした。






 翌早朝、気持ちよく寝ているフォンを起して、俺は自宅に転移する。寝室にはまだ誰もいなかった。よし。

 奴隷たちを起しに行くとちょうどベスタさんが目を覚ましたところらしく、暖かい挨拶を受ける。サラとエフィも起して着換えさせる。


 「今日はみんなでヴァルムントに行くから。」


 そう伝えて、エメルダ嬢の寝室へ向かう。扉を叩く。返事がないことを確認して、扉を開ける。まだベッドの中で寝ていることを確認して、ベスタさんにごにょごにょ耳打ちして俺は部屋に入りそうっと扉を閉める。

 少ししてベスタさんが扉をノックし、エメルダ嬢に声を掛ける。


 「エメルダ様、朝でございます。」


 何度かベスタさんに扉をノックされてようやく目を覚ますエメルダ嬢。のそのそとベッドから這い出し、寝間着を脱ぎだす。全裸になったところで部屋の中に俺がいることに気が付いた。

 慌ててそこにあるもので体を隠すが既に遅いような気がするが。でも俺の目的はそうじゃないんだ。


 今日もちゃんと見た。


 彼女のお腹には傷があった。


 「…い、いつからそこに居たんだ?」


 「…ベスタさんが起こす前から。」


 「み、見たのか?ハ、ハ、ハダカを…」


 俺は無言でエメルダ嬢に近づく。エメルダ嬢は服で体を隠し、狼狽える。


 「エメルダ様。」


 俺はエメルダ嬢の両腕を掴み、横に広げた。覆っていた服がはらりと落ちて、エメルダ嬢のカラダが露わになった。


 「き、貴様!」


 エメルダ嬢が怒りをぶつけようとしたが、俺は力でねじ伏せる。そしてじっと一点を見つめた。


 「…この傷は、いつからあるのです?」


 エメルダ嬢は表情を硬くする。俺はエメルダ嬢の顔をじっと見つめた。


 「前にエメルダ様の肌を見た時にこの傷が見えました。ずっと気になっておりましたので…確認させて頂きました。」


 エメルダ嬢の力が緩まる


 「…これが、お父上が求婚を断っている理由ですか。エメルダ様が冒険者になりたいと言っている理由ですか。」


 エメルダ嬢は何も言わない。言わないが態度が全てを物語っている。

 まったく、俺の≪思考並列化≫≪情報整理≫は厄介なスキルだ。普通なら傷があるくらいで気づくようなことじゃないのに…。


 「申し訳ありません。殴って頂いて結構です。」


 俺は両腕を離した。瞬間にグーパンチが飛んできた。クリーンヒットだが俺は倒れない。続いて左のグーパンチが飛んできてこれもきれいに入る。


 「エル!私の幸せとはなんなんだ!」


 今度は胸に一発。


 「子の産めぬ女は結婚してはならぬのか!」


 横腹に一発。


 「結婚できぬ女は不幸せなのか!」


 足まで飛んできた。


 「貴様の奴隷を見てて思ったわ!幸せそうじゃないか!嫉妬したわ!!」


 もうむちゃくちゃに俺を叩く。


 「…くそっ!」


 ようやく俺を殴るのを止める。


 「…あーすっきりした。」


 エメルダ嬢は顔を上げる。でもって俺の顔を見て吹き出す。

 そりゃそうだ。パンパンに腫れてんだもん。


 「着替える。出て行ってくれ。」


 「はい。」


 俺は≪刹那の治癒≫で一瞬にして腫れた顔を元に戻し部屋を出て行こうとした。

 ぐわしっ!とエメルダ嬢に腕を掴まれ、強引に止められる。


 「なんだ?今のは!?」


 顔を引き寄せて鬼の形相で俺に迫る。




 …顔近すぎるんだけどなぁ。




 「…秘密です。」


 「言え。」


 「キスしてくれるなら。」


 顔が真っ赤になった。可愛い。



 バキッ!



 今度は本当に吹っ飛んだ。ものの見事に扉から外に吹っ飛ばされる。


 「貴様がこの部屋に入ることを禁止する!」


 そう言い放って扉を閉められる。





 …ここ俺んちだってばよ!







 ようやく全員出発の準備が整い、俺たちはリビングで丸く集まって隣通しで手を繋ぐ。俺の掛け声で、一気に移動し、【双魚宮】の部屋に到着する。

 フォンがエフィを見つけて襲い掛かろうとしたが、俺がフォンを羽交い絞めにして事なきを得る。しばらくこんな生活になりそうだな。


 全員で部屋を出て、1階のホールに降りた。全員分の朝食を注文する。

 支配人がこめかみをぴくぴくさせながらやってきた。


 「…エルバード様。なんですかこの大人数は?」


 「何か問題がありますか?」


 「新たな面々の方は昨日の時点ではヤグナーンにおられるとおっしゃっていたはずでは?」


 支配人はサラとフォンとベスタさんを見て言う。


 「いや、ついさっきまでヤグナーンに居ましたよ。」


 「はい?」



 初めて見る支配人の呆けた顔。



 「…だから言ったでしょ。俺の秘密。」


 「ひ、秘密の中身までは聞いていませんが…。」


 「言ったら秘密じゃなくなるでしょ。言っときますが、今更契約はなしよ、なんてダメですから。」


 支配人の顔がいろいろと変化してる。かなりいろんなことを考えたみたい。


 「わかりました。ますますあなた様に興味が湧きました。これからは毎晩囁かせて頂きます。」


 それだけ言ってテーブルから去って行く。サラは驚愕、フォンは無表情、ベスタさんは変な笑み、エフィは真っ赤な顔でジト目、エメルダ嬢は拳骨だった。


 ち、ちがう!契約上の話だ!やらしいことは起きないはず!…起きてもいいけど。









 州の長官の事をこの世界では『令』と呼んでいる。ここは南部州になるので、職名は『南部州令』になるそうだ。その長官の館は街の中心に構えている。この州令館より東西南北に大きな通りが伸びており、市の開催中はこの通りにたくさんの露店が立ち並ぶそうだ。既に各商人の露店の割振りは決まっていて、いくつかは店を出す準備も始めている。ナヴィス殿も毎年出店しているのだが、今年は“海賊討伐”の為に準備不足だったため、出店はしない。だが、貴族や要人とは個別に取引を行う分は用意しているらしい。


 市の開催期間中はナヴィス殿は各要人との取引交渉で忙しくなるため、市場での買い物は何名かの弟子にさせるそうだ。俺の役目はその弟子から受け取った商品を≪異空間倉庫≫に片っ端から仕舞うことだった。

 さらに、伯爵とナヴィス殿の下も行き来し、取引で得た商品を受け取り≪異空間倉庫≫に仕舞って行かなければならない。

 俺も市場を見て回る暇はないみたいだ。だが市が始まるまではやることはないので、東西南北に伸びる大通りを散歩していた。奴隷たちは宿に軟禁している。可哀そうだが今はまだ目立つような行動は控えるべき。


 一人で南の大通りを歩いていると、伯爵とエメルダ嬢を見つけた。二人とも、普段着の姿で、幾人かの貴族や商人たちと何事かに興じているようだった。だが、二人とも渋い顔をしている。


 「…エルバード様。」


 「うわぁ!」


 不意に死角から声を掛けられ思わず声を上げてしまう。

 見ると伯爵様のところのヒョウ獣人だった。


 「な、なんだ脅かすなよ。」


 「申し訳ありません。(あるじ)よりエルバード様にお願いがございまして、お声を掛けさせて頂きました。」


 丁寧な口調で頭を下げて俺に話をするヒョウ獣人。そんなことされると断りにくいんだが。


 「主の部下として、パッコに参加頂けないでしょうか。」


 「パッコ?」




 パッコとは、貴族の間で流行っている格闘競技で、向かいあった状態でお互いの両手を握り、足技だけで相手を倒すものらしい。手を放したら仕切り直しで、膝を着いた方が負けという競技だ。

 伯爵は、他の貴族と時間つぶし目的でそれぞれの部下を出してパッコを始めたのだが、相手の出した男に既に3人倒され、しかも怪我をしにくい競技にも関わらず、骨折までさせられており、面子丸つぶれの状態だそうだ。見るともうひとりのヒョウ獣人も伯爵の側でうずくまっていた。


 「あんたの片割れもやられたのか?」


 「…はい弟もあの男に。」


 見ると対戦相手の男は俺よりも腕が太く足の長いライオン獣人で今戦っている相手をボコボコにしていた。だが…


 「…何故だ?お前たちのほうが強いだろ?」


 「我々奴隷では競技においては本気は出せません。戦闘ではありませんので。」


 ヒョウ獣人は悔しそうに唇を噛みしめる。なるほど。奴隷が人を傷つけていいのは戦闘の時だけか。


 「…仇を取ってやる。」


 ヒョウ獣人に案内され、俺は人の輪を掻き分けて伯爵に近づいた。


 「ご主人様、お連れ致しました。」


 伯爵は苦虫を噛み潰した表情だったが俺を見て目を輝かせる。


 「おお、エルバード。パッコに出てくれるか?」


 なんかいろんなことを目で語っている気がするが、どう解釈しよう?


 「相手は獣人ですか?」


 「そうだ。ボンベック伯爵イェンダ殿の護衛官でな。恐ろしく力が強い。既に私の部下が4人もやられてしもうた。」


 「…わかりました。次は俺が出ます。」


 「お、おい、エル!お前パッコは知っているのか?」


 エメルダ嬢が椅子から立ち上がり心配そうに声を掛ける。


 「…さっき聞きました。」


 俺の返事に二人とも顔色を変えた。俺はそんな二人は無視して人の輪の中央に進む。獅子獣人が俺を獲物を見る様に睨み付ける。


 「次の犠牲者は貴様か。ククク、これでイェンダ様の5勝だな!」


 獅子獣人が笑うとそれに合わせて顔の周りにある(たてがみ)が揺れる。品がないな。俺は無言で獅子獣人に対峙し、両手を出す。獅子獣人も応える様に手をだして、組わせる。獅子獣人がいい形で手を組みたいのか両手ともがさがさと小刻みに動かす。気持ち悪いなぁ。好きなように握れよ。


 審判役の男が俺たちを交互に見て、開始の合図を出すべく握った手の上に手をかける。

 獅子獣人は俺の顔を見てニンマリ笑う。勝つ気満々だな。


 「はじめ!」


 審判役が声を出して手を引っ込めた。それを合図に獅子獣人は全身に力を込めて俺を押し出そうとした。



 バキッ!


 俺は両手に力を込めて獅子獣人の両手を握り潰し、指の骨を砕いた。

 獅子獣人の顔がゆがむ。


 ゴキッ!


 俺は両腕に力を込めて獅子獣人の両腕をあらぬ方向へ曲げ、腕の骨をへし折った。

 獅子獣人の顔はさらにゆがんだ。


 既に両腕は指先から骨を砕かれまともに力を込めることはできないだろう。激痛は全身を巡り、おそらくかろうじて立っているだけの状態じゃなかろうか。

 だが俺は容赦しなかった。バキバキの両手は離さずさらに力を上方向に加える。獅子獣人は上に持ち上げられる激痛で着き掛けた膝を伸ばして痛みを和らげようとしてしまった。獅子獣人の体が上に伸びきったとこで俺は右足を下から蹴り上げた。

 俺の脳内では“ち~ん!”という音に変換された。

 獅子獣人は股間を蹴り上げられ苦悶の表情になる。だが俺は両手に力を入れ直ぐに別の激痛を与える。獅子獣人は砕けた両腕の激痛を和らげようと俺の操り人形のように動かされてしまっていた。


 「ま、まい…た!参った…!」


 獅子獣人は俺に懇願しているが、俺は聞こえないふりをして相手に苦痛を与える。周りを取り巻いている男たちは声を発することもできず無言で俺を見ているだけだった。


 獅子獣人は最後の力を振り絞って俺から逃れようとしたが、俺はもう一度両手に力を入れる。


 バキバキッ!


 「うぎゃぁあ!」


 断末魔だった。獅子獣人は痛みを堪えきれず、意識を失いってその場に倒れ込んだ。周りは静まり返っている。伯爵もエメルダ嬢もドン引きした顔だった。

 俺は獅子獣人の手を握ったままボンベック伯爵の所まで引きずって行き、


 「次の対戦者は誰ですか?」


 とわざとらしく聞いてみた。

 当然誰も手を上げない。


 「では残り4戦は俺の不戦勝でいいですか?」


 負けをあっさり認め、逃げる様に去って行くボンベック伯爵。周りの観戦者も俺とは目を合わせず、この場を立ち去って行く。




 “人外のチカラ”は扱いにくいと改めて思う。




 「礼を言うべきではあるが…興ざめじゃのぉ。」


 伯爵にまで言われる始末。


 あーあ。フェンダー卿みたいな尊敬される強者にはなれないなぁ、俺。


 適当に伯爵と会話してその場を辞する。なんかやる気をなくしてしまったので、宿に帰ろうととぼとぼ歩く。





 宿に着く。


 受付嬢たちの挨拶を受ける。


 最上階に行く。


 部屋の扉を開ける。


 フォンがエフィに馬乗りになってる。




 ……え?




 「きぇえええ!」


 フォンは奇声を発して両手に持ったフォークを振り下ろす。

 俺はエフィの上に覆いかぶさり、背中にフォークを受ける。


 ぐっさりと刺さったフォークを見て瞬間的に意識を取り戻したようで、フォンは悲鳴をあげる。 サラがフォークを抜いて遠くへ投げた。


 「エフィ!大丈夫か!」


 エフィは俺の重みで、きゅ~…てなっていた。


 「フォン!大丈夫か!」


 フォンは俺を傷つけてしまったことで怯えてしまっている。


 「大丈夫!俺は怒ってない!」


 フォンを叱咤し、しっかり抱きしめる。ようやく落ち着くフォン。

 しかし、フォンとエフィはまだ一緒にはできないなぁ。




 自分のチカラもろくに制御できず、奴隷たちの心のコントロールもままならず、エメルダ様を傷つけてしまってる気がする始末。



 俺、今バイオリズムが一番低下してんだろうな。




主人公は人前で人外のチカラを使ってしまいました。

おかげでみんなドン引きです。


それでも主人公は、さらにスキルを取得し、魔法を会得し、強力になっていきます。そして、ヒトとは違うことに大いに悩むことでしょう。


次話は、フォンとエフィの回です。


ご意見、ご感想を頂けると幸いです。

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