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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第三章◆ 孤独の耳長少女
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8 多情多恨

 ナヴィス殿は商人の家を辞し、宿に戻った。挨拶回りの為に体の汚れを落とし、服を着換えた時には威厳のある大商人の顔に戻っていた。

 挨拶回りにはエメルダ嬢も同行するので、ドレスに着換えるために伯爵の泊まる宿に行ってしまい、俺とエフィはすることがなくなった。

 やむなく俺とエフィは【双魚宮】に向かう。本当に行きたくない…。


 【双魚宮】は街の南東の山際にあり、宿の後方には山が連なっている。

 宿の外観は前の【金牛宮】【宝瓶宮】と似ていて、前面に太い柱が十数本並んだパルテノン神殿みたいな装いだ。受付嬢の服も似ていた。

 一抹の不安を大いに抱えながら俺は受付嬢に声を掛ける。


 「予約しているエルバードとエメルダだが。」


 名前を聞いて受付嬢はファイルを開き、宿泊予定表を確認する。俺の名前を見つけたようだが、一瞬変な顔をした。…嫌な予感がする。


 「ご予約承っております。ようこそエルバード様、【双魚宮】をご利用頂きありがとうございます。当館支配人が是非ご挨拶したいと申しておりますので、こちらに…」


 「いえ、結構です。部屋に案内してください。」


 そう言って俺は階段に向かおうとする。すると受付嬢がカウンターから体を乗り出して俺の腕にしがみ付いた。


 「何?」


 わざとらしく迷惑そうに振り向いて受付嬢を見ると、懇願するような顔で首を横に振っている。以前見たククルと同じような感じだ。


 「…俺の部屋は最上階?」


 「…最上階にさせて頂きます。」


 「ありがとう、では支配人のところに連れてって。」


 素晴らしい交渉術。またもや最上階。しかも今回はナヴィス殿持ち。だが、例の受付嬢コスプレ支配人に会わねばならんのか。俺はエフィを引き連れ、ホールを横切って、支配人室へと移動する。


 受付嬢が扉を叩き、俺が到着したことを報告する。


 「…どうぞ。」


 中から聞いたことのある声が聞こえ受付嬢が扉を開ける。中には同じ受付嬢の恰好をした女性が立っており俺を見るなり深々とお辞儀をした。


 俺を部屋の中に案内し、本物の受付嬢は外から扉を閉める。支配人は閉まる音と同時に顔を上げ、一瞬だけエフィを見てから、俺にソファを勧める。


 俺は無言で勧められたソファに座る。エフィがその隣に座ろうとしたのでお尻をひっぱたき俺の後ろに立たせる。


 「すまない。まだ奴隷教育が済んでなくて。」


 俺は抑揚を抑えて支配人に謝る。


 「…そのようですね。首輪もされていないようですので最近購入されたのですか。」


 「…なぜこの街に?」


 俺は支配人の質問を敢えて無視して別の質問をする。


 「…私は定期的に管轄の宿を回ってお客様をお迎えしております。たまたま、ここ【双魚宮】でエルバード様にお会い出来ましてうれしく思います。」


 儀礼的なお辞儀をする支配人。…エフィのこと気づかれている。ここは敢えてこちらから話をしたうえで歯止めをかけておく必要があるか。


 「…ところでサラ様は?」


 「ヤグナーンに置いて来た。」


 「ヴァルドナで獣人を奴隷にされたとか…。」


 「そいつも今ヤグナーンにいる。」


 「後ろの方は何とお呼びすれば?」


 「エフィ、で良い。それと、この子に関して誰かに喋ろうもんなら命がないと思ってくれ。これは脅しではないから。」


 俺はあくまでも抑揚のない声で、機先を制する。支配人は俺の言葉を神妙な面持ちで聞いていたが、やがてニッと笑う。


 「では、その方は奴隷扱い(・・・・)でよろしいですね。」


 「当然だ。この子は俺の奴隷になることを了承しているからな。」


 俺もニッと笑い返す。


 「ずいぶんと成長されていますね。初めてお会いしたときは右も左もわからない記憶喪失の方でしたのに。」


 俺が記憶喪失だという話は、エフィは初めて聞いたのであろう。俺の後ろでカタッと小さな音を出した。俺は振り向いてエフィを睨む。エフィはバツの悪い笑顔を向けている。


 「後で説明してやるから。」


 なんかそれでエフィは納得したようだ。俺は正面に向き直り話を続ける。


 「いろいろと経験したよ。神獣にも会ったし。」


 「この地域にもいますよ。南にある『雨の湖』に…」


 「【双魚獣】が済んでいるのか?」


 「はい。私は神獣の住む地域にその宮の名を冠した宿を建てて経営しています。」


 そうか。ならば神獣を探す手間が省けるな。


 「こちらからも質問よろしいですか?」


 「…答えられるものならば。」


 「私はあなた様にすごく興味があります。とても普通の人とは思えぬほどの膂力と未知とも思える知識をお持ちになり、ハーランディア島でも暗躍されていることを知っています。」


 この女、どこから情報を得ているんだ?


 「本土に来てからも水面下で活躍されたようで。」


 一瞬だけエフィを見やる。俺は背中の槍に手を掛けた。それでも支配人は言葉を続ける。


 「私の宿は今、10館になりました。」


 俺の動きが止まる。


 「【双児獣】と【天秤獣】の居場所がわかりません。」



 …くそ、俺の負けだ。完全に今の話に興味をそそられた。【天秤(・・)獣】だぞ。俺の中の3大気になる神獣ナンバー1だぞ!これは無視できない。

 俺は大きく息を吐き、両手を上げた。


 「フフ。俺の興味をそそる話だ。どうすればいい?見返りは?」


 そこまで言うと支配人もニコッと微笑んだ。


 「私の宿には常に無料で宿泊できるようにします。それから≪遠隔念話≫を私とできる様にさせて頂きます。」


 「了承した。…だが、1つだけ言っておく。俺の秘密は洩らさないでくれよ。」


 支配人はにこやかな表情で了承した。だけど俺の秘密を知ったらそんな顔でいられるかな。この先が楽しみだよ。


 「では、部屋にご案内します。」


 そう言って支配人は立ち上がり、扉のほうへ進んで行く。俺も立ち上がってエフィを手招きして支配人についていく。

 階段で最上階まで上がり、一番奥の部屋に案内される。


 「エルバード様のお部屋はこちらになります。」


 そう言って鍵を渡した。俺は中に入って部屋を見渡す。

 広いリビングに4人掛けのテーブルが置かれたダイニング。その奥にはキッチンも見える。左手前には奴隷用の寝室があり、右手前は俺の寝室か。さらに左奥には風呂?


 「風呂があるのか?」


 「この地域は水が豊富です。このため、屋上に溜め込んだ大量の水を各階に流し、湯を自由に沸かせるようにしております。」


 俺は風呂の様子を確認し、寝室へ向かう。寝室にはベッドが2つあった。



 …2つ?



 俺の様子に気づいた支配人が組み上げる笑いを堪えるような顔でその理由を説明してきた。


 「ご予約はエルバード様、エメルダ様の2名で伺っております。そのため、ベッドは2つご用意させて頂きましたが。」





 ……おのれ、支配人!




 こんなオチを用意していたか!これでは俺に死ねと言わんばかりではないか!


 俺は部屋の変更を言おうとしたが、


 「お部屋を変更される場合は変更手続き料を頂きますので。」


 と先に制されてしまった。





 部屋に入ってから俺感覚で約2時間。この間に生き残る手段を模索して必死に考えた。足音がして、扉が開き、


 「エメルダ様のお部屋はこちらです。」


 という支配人の声が聞こえた。




 来た。




 俺の心臓は高鳴る。


 部屋に入ってすぐに俺とエフィを見つけ、


 「なんで私の部屋に貴様がいる?」


 と聞いてきた。まっとうな質問だ。


 「俺の部屋でもあるからです。」


 俺は、用意していた回答をする。


 「な…?」


 意味が分からず、エメルダ嬢は振り返るが既に支配人の姿はそこにはない。直ぐにこっちに向きなおってドンドンと足音を立てて近寄ってくる。


 「出て行け。」


 「後生です。」


 「エフィル…エフィは許してやる。だが貴様は出て行け。」


 「…じゃ俺はヤグナーンに戻って美味しいご飯を食べ…」


 「待て。」


 よし釣れたぞ。彼女の中で勝手に二者択一になった。ここからが勝負だ。


 「俺はこの部屋にいていいのですか?ダメなのですか?」


 エメルダ嬢の頬がプルプル震えている。エフィは必死に笑いを堪えている。


 「……全員で向こうに行けば」


 「ダメですよ。食事くらいはいいですけど、寝るときは誰かひとりはこっちにいないと怪しまれますよ。」


 「じゃ、私はこっちで寝る。お前は自分の家で寝ろ!朝になったらこっちに来て…いやダメだ!待て!私が向こうで寝る…待て!向こうにはお前の奴隷しかいないのか。待て!考えるから!」


 さっきから何回“待て”を言ってるんだ?俺の手料理に釣られた時点で詰んでるんですよ。


 「じゃあこうしましょう。エメルダ様はこっちの寝室をお使いください。私とエフィはこっちの奴隷用の部屋で寝ます。」


 ぶはっ!


 今度はエフィがあたふたする。





 あー楽しい!





 バキッ!ドガッ!




 「貴様の寝床はこのソファじゃ。」


 フンと鼻息を鳴らしたエメルダ嬢によって俺は床に倒された。危うく気を失いかけた。



 夜になり、一旦部屋で落ち着いて、顔の腫れも引いた俺は、エフィとエメルダ嬢を連れてヤグナーンの自宅に戻ってきた。

 エフィは前回のエメルダ嬢と全く同じ反応で辺りを見回している。そこへサラがパタパタと足音を立てて寝室の扉を開ける。


 「お帰りなさいませご主人様、エメルダ様いらっしゃいませ!……と?」


 「わ、妾はエフィじゃ。」


 ここがどこだかわからず混乱しながらも自己主張は欠かさないエフィ。


 「威張るな!ここじゃあの子が(あね)さんだ!」


 胸をそらすエフィの横腹を手刀で突いて態度を改めさせる。


 「サラ、全員ここに呼んで。エフィを紹介するから。」


 寝室に俺、エメルダ嬢、エフィ、サラ、フォン、ベスタさんが集まり、新しい奴隷を紹介する。と言っても首輪はまだなのだが。


 「エフィだ。いろいろあって俺の奴隷にする。」


 俺はエフィにフードを取るよう指示する。エフィがフードを取るとエルフの特徴である長い耳がポンと出てきた。


 「エフィじゃ。エルの奴隷になって…」


 エフィを見たとたん、フォンがエフィめがけて突っ込んだ。


 「フォン!待て!」


 俺はフォンに命令するが、耳に入っておらずエフィに掴みかかった。エフィは何が何だかわからず体を硬直させている。


 まずい!


 「フォン!だめ-----!」



 二人の間にサラが割って入った。エフィを掴んでいた手を強引に離し、フォンに倒れ込んで押さえつける。フォンは目を血走らせ荒い鼻息を立ててもがき、サラを引き離そうとした。


 「フォン!」


 俺が大声をあげ、ようやくその声がフォンの耳に届く。一瞬焦点を失った目をして、俺の存在に気づき、顔色を変える。


 「ご…主人…!」


 「大丈夫。俺は怒ってない。お前のその行動は『呪い』のせいなのはわかってる。」


 荒い息をしていたフォンの力が少しずつ弱まり、やがてぐったりとする。どうやら元に戻ったようだ。




 ≪エルフへの多情多恨≫




 どんな『呪い』なのかと思っていたが、どうやらエルフを無差別に襲うもののようだ。

 エフィはフォンの行動に完全に怯えてしまい、その場にへたり込んでいる。エメルダ嬢は状況がわからず呆然としている。これはちゃんと説明するのが先だな。


 俺は2階に全員を集め、フォンの『呪い』について説明をした。当然フォンについては何時エフィに襲い掛かるかわからんから、サラにしがみ付いてもらっていた。



 10年前の“海銀狼族”の一族皆殺し事件、その渦中での唯一の生き残りであり、目の前で両親を殺されるところを目撃していること、これにより2つの呪いを受けたこと、顔を焼いたこと海賊に囚われたこと、俺が知っていることを全て話した。


 話を聞いてエフィはため息をする。


 「“海銀狼族”の事件は妾も知っている…。あれがきっかけで我らエルフの一族の地位も落ちてしまった…。」


 エフィは唇を噛みしめ、拳を握りしめている。


 「…フォンの一族を皆殺しにしたエルフはナウナタレ族という盗みを生業としていた一族で、エフィの一族ではない。だが幼いフォンには耳の長い種族が親の仇だという記憶がこの呪いに繋がっていると思う。」


 俺はフォンにエフィのことを理解してもらうために説明をした。フォンはなんとか理解はしたようで自分で衝動を抑えられている。


 エフィは沈黙していた。何かを考えていた。いつの間にか全員がエフィに注目している。それくらいエフィの沈黙は凄みをもっていた。


 そして。


 「ごめんなさい!」


 唐突にエフィは謝った。


 フォンに対して。



 フォンは面喰っている。


 「今はこれしか言えない。妾も全てを知っているわけではない。でも…でもこの事件は明らかにエルフが悪い!」


 …エフィのことだから「妾のせいではない!」とか言い出すんじゃないかと思ったのだが…。


 俺はエフィを引き寄せてぐっと抱きしめた。


 「よく言った。」


 一言だけ声を掛けて頭を撫でる。


 「……怖かった。」


 ん?


 「あの獣人…怖かったよぅ!」




 なんか観点の少しずれた涙に思わず俺は笑顔がこぼれた。ベスタさんも穏やかにほほ笑んでくれている。フォンも表情は冷たい顔をしているが、尻尾が感情を表現してくれている。


 「フォン、もう大丈夫か?」


 フォンは難しい顔をする。


 「…わかりません。ですが、少し苦しみから…解放されたと…思います。」


 「うん。ゆっくり頑張ろう。」


 思わぬところでエフィはファインプレーをしやがった。俺の中でも高感度は急上昇だよ。




 夕食は、カルタノオの街で仕入れた小麦粉と肉、野菜と数々の香辛料でナンカレーを作ってみた。ナンは強力粉とバターで甘みのある生地を作る方がよいのだが、さすがにバターはこの世界にはない。代わりに牛乳を使って甘みを出し、香辛料は自分の舌でいろいろと試してそこそこの味に調えたガラムマサラを作り出し、これをペーストにして、ルーを作った。

 結果は、ベスタさん以外は微妙だった。

 …まあ、予想はしていたのだが、4対1になるとは…。原因はやはり色だった。

 匂いや味はかなりそそられるのだが、ルーの色が受け入れられず、「おいしいんだけど…」という評価だった。ベスタさんは好みの味だったらしく、作り方を教えてほしいとまで言ってくれたんだが。

 サラは辛いのがダメみたいで論外だった。


 弟の本で読んだ限りではカレーは定番中の定番で喜ばれるシーンが結構あったのになぁ。お米があればいいんだけど、ナンが問題なのかなぁ。



 ナンだけに難あり…か。





食文化が低い地域で日本のカレーは受け入れられるのか、とよく思います。

匂いや味は食欲をそそりますが、色がなぁ…て思わないのでしょうか。


というわけでこの物語では6:4くらいで受け入れられない流れにしました。


次話では、主人公が悩みます。22:00に投稿されます。


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